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第9章 運命の選択編
第57話 お願い事
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震えが止まらない……
もしかして私は今、夢を見ているの?
だって彼が叫びながらつねちゃんに愛の告白をしたところを目撃してしまったんだから……
でも、その『夢』は覚めてくれない。
つねちゃんは笑顔で彼に近づき、そして彼の頭を優しく撫でている。
「先生、隆君を怒らせちゃったみたいね。ほんとゴメンね……先生、バカだったわ。隆君の気持ちを考えずにそんなこと言ってしまって……これからは隆君にそんなことは言わないようにするから……本当にゴメンね? そして隆君、先生の事をそこまで思ってくれてありがとね……」
つねちゃんはそう言うと、時計を見て時間が無いという事に気付いたみたいで、彼に手を振りながら『また後でね』と言い残し、駆け足で志保さん達のところへと向かう。
その時、柱の前を通り過ぎたけど私には気付いていない様子だった。
彼もまた、急いでみんなの所へ戻ろうと体育館へ向かう途中、柱の前を通り過ぎようとした時に柱の陰にいた私に気付き驚いた表情をしている。
ま、まぁそれは驚くよね?
あんな話をしていたばかりなのに近くに私がいるんだから……
「いっ、石田!? どうしたんだ? みんなと一緒に体育館に行っていたんじゃなかったのか!?」
彼の表情はとてもマズいと思っている感じだった。
ど、どうしよう……どう返事をすればいいの?
正直に二人の会話を聞いていたって言った方が良いの?
それとも……
ついさっきまで気が動転していた私だけど、彼の顔を見ると何故か落ち着きを取り戻している自分がいる。
間接的にフラれた感じの私なのに……家に帰ってから色々と考えようと思っている自分がいた。
「う、うん……体育館に向かっていたんだけど、久子が『裏方』は『演者』よりも早く行って準備をしないといけないから、もし五十鈴君が遅れちゃったら困るから私に呼び戻して欲しいって頼まれて……」
私の返答に対して彼は少し考えた感じがあったけど直ぐに笑顔になり、
「石田、わざわざ呼びに来てくれて有難う……」
「えっ? べ、別にお礼なんて言われる事なんか……そっ、それよりも早く体育館に行こうよ? みんな待っているわ!!」
「そ、そうだな……」
私と彼はこの後、何も会話をしないまま体育館まで走って行った。
本当は涙が溢れてもおかしくない心境の私なのにショックが大き過ぎて涙も出てこない。そして、おそらく彼の心の中は尋常では無いだろうと思う。
もしかしたら彼は私が二人の会話を聞いていて、あえて黙っているのではないかと内心ヒヤヒヤしているかもしれない。
『七夕祭り』が終わってから私に問い詰められるんじゃないのかとビクビクしているかもしれない。
でも未だに信じられない。
まさか彼があんな年上のつねちゃんのことが本気で大好きだっただなんて……
これまでの私の努力は一体何だったの?
私は何の為に『この世界』に来たの?
彼がつねちゃんのことを好きだということを教える為?
ダメダメダメ……今はそのことを考えていてはダメ……
無事に『七夕祭り』が終わるまでは……
体育館の中は大勢の人でひしめき合っていた。
そんな中、私達『六年一組』は舞台の上で芝居をやらなくてはいけない。
といっても今日の私は『裏方』の『照明係』だけど……
私は久子と一緒に体育館の二階端にある東側の照明を担当している。
彼は高山君と一緒に西側の照明を担当だ。
体育館の中は暗くて彼は勿論のこと近くにいる久子の表情さえうかがえない。
だから余計に私は不安になり、さっきの出来事が頭をよぎる。
「浩美? 最初の照明の色は青色よ。浩美が照らそうとしているのは赤じゃない?」
久子が小声だが慌てた感じで私に言ってきた。
「あっ、ほんとだ!! あ、危ないところだったわ。気付いてくれて助かったわ。久子ありがとう……」
色々考え過ぎて集中力が欠けていた事を私は反省した。
よし、今は『裏方』に集中しなくちゃ……
私は無理矢理だけど気持ちを切り替える事にした。
私達のクラスが行う演劇は『七夕』にちなみ『織姫と彦星』
愛する二人が一年に一度しか会えなくなる悲しい話……
元々、『織姫』は久子が演じる方向で進んでいたけど、彼が『裏方』をやるって決まった途端に『織姫役』を断り、私と一緒に『裏方』をやる事になった。
きっと久子は彼に『彦星』を演じて欲しかったんだろうなぁ……
そして演劇は順調に進んでいる。
ようやく平静を取り戻した私も順調に『照明係』をしている。
いよいよ、シーンはクライマックス……
会場は静まり返っている。
織姫と彦星の夫婦があまりに仲が良すぎて、二人で遊び惚けたあげく、二人共全然、働かなくなり、それが民達に迷惑をかける事となり、そして最後には神の怒りを買ってしまう。罰として二人は『天の川』を挟んで離れ離れに暮らす事に……そして神様の情けで年に一度の七月七日だけ会う事を許された二人……
私だったら『愛する人』と一生幸せに過ごす為にも必死で働くけどなぁぁ……と、さっき間接的に失恋をした彼の顔を思い浮かべていた。
無事に六年一組の演劇が終わり、会場は割れんばかりの拍手の音が鳴り響いている。
「ふぅぅ……なんとか終わった……」
私は大きく息を吐き、体育館の窓から校庭に立っている何本もの大きな笹を眺めていた。そして、ようやく私の頬を涙が流れる。
七夕の今日、短冊に書いた私のお願い事がいきなり叶わないかもしれないな……
私が短冊に書いたお願い事……
『大切な人に想いを伝えられますように……』
グスン……
つねちゃんのことが大好きな彼は短冊に何て書いたのかな……
見ておけばよかったな……
私の心とは裏腹に外は爽やかな風が吹き笹の葉がゆらゆらと揺れていた。
『大切な人と毎日笑顔で過ごせますように……五十鈴隆』
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
彼とつねちゃんの関係を知ってしまった浩美
これから彼女はどうするのか?
どうぞ次回もお楽しみに……
もしかして私は今、夢を見ているの?
だって彼が叫びながらつねちゃんに愛の告白をしたところを目撃してしまったんだから……
でも、その『夢』は覚めてくれない。
つねちゃんは笑顔で彼に近づき、そして彼の頭を優しく撫でている。
「先生、隆君を怒らせちゃったみたいね。ほんとゴメンね……先生、バカだったわ。隆君の気持ちを考えずにそんなこと言ってしまって……これからは隆君にそんなことは言わないようにするから……本当にゴメンね? そして隆君、先生の事をそこまで思ってくれてありがとね……」
つねちゃんはそう言うと、時計を見て時間が無いという事に気付いたみたいで、彼に手を振りながら『また後でね』と言い残し、駆け足で志保さん達のところへと向かう。
その時、柱の前を通り過ぎたけど私には気付いていない様子だった。
彼もまた、急いでみんなの所へ戻ろうと体育館へ向かう途中、柱の前を通り過ぎようとした時に柱の陰にいた私に気付き驚いた表情をしている。
ま、まぁそれは驚くよね?
あんな話をしていたばかりなのに近くに私がいるんだから……
「いっ、石田!? どうしたんだ? みんなと一緒に体育館に行っていたんじゃなかったのか!?」
彼の表情はとてもマズいと思っている感じだった。
ど、どうしよう……どう返事をすればいいの?
正直に二人の会話を聞いていたって言った方が良いの?
それとも……
ついさっきまで気が動転していた私だけど、彼の顔を見ると何故か落ち着きを取り戻している自分がいる。
間接的にフラれた感じの私なのに……家に帰ってから色々と考えようと思っている自分がいた。
「う、うん……体育館に向かっていたんだけど、久子が『裏方』は『演者』よりも早く行って準備をしないといけないから、もし五十鈴君が遅れちゃったら困るから私に呼び戻して欲しいって頼まれて……」
私の返答に対して彼は少し考えた感じがあったけど直ぐに笑顔になり、
「石田、わざわざ呼びに来てくれて有難う……」
「えっ? べ、別にお礼なんて言われる事なんか……そっ、それよりも早く体育館に行こうよ? みんな待っているわ!!」
「そ、そうだな……」
私と彼はこの後、何も会話をしないまま体育館まで走って行った。
本当は涙が溢れてもおかしくない心境の私なのにショックが大き過ぎて涙も出てこない。そして、おそらく彼の心の中は尋常では無いだろうと思う。
もしかしたら彼は私が二人の会話を聞いていて、あえて黙っているのではないかと内心ヒヤヒヤしているかもしれない。
『七夕祭り』が終わってから私に問い詰められるんじゃないのかとビクビクしているかもしれない。
でも未だに信じられない。
まさか彼があんな年上のつねちゃんのことが本気で大好きだっただなんて……
これまでの私の努力は一体何だったの?
私は何の為に『この世界』に来たの?
彼がつねちゃんのことを好きだということを教える為?
ダメダメダメ……今はそのことを考えていてはダメ……
無事に『七夕祭り』が終わるまでは……
体育館の中は大勢の人でひしめき合っていた。
そんな中、私達『六年一組』は舞台の上で芝居をやらなくてはいけない。
といっても今日の私は『裏方』の『照明係』だけど……
私は久子と一緒に体育館の二階端にある東側の照明を担当している。
彼は高山君と一緒に西側の照明を担当だ。
体育館の中は暗くて彼は勿論のこと近くにいる久子の表情さえうかがえない。
だから余計に私は不安になり、さっきの出来事が頭をよぎる。
「浩美? 最初の照明の色は青色よ。浩美が照らそうとしているのは赤じゃない?」
久子が小声だが慌てた感じで私に言ってきた。
「あっ、ほんとだ!! あ、危ないところだったわ。気付いてくれて助かったわ。久子ありがとう……」
色々考え過ぎて集中力が欠けていた事を私は反省した。
よし、今は『裏方』に集中しなくちゃ……
私は無理矢理だけど気持ちを切り替える事にした。
私達のクラスが行う演劇は『七夕』にちなみ『織姫と彦星』
愛する二人が一年に一度しか会えなくなる悲しい話……
元々、『織姫』は久子が演じる方向で進んでいたけど、彼が『裏方』をやるって決まった途端に『織姫役』を断り、私と一緒に『裏方』をやる事になった。
きっと久子は彼に『彦星』を演じて欲しかったんだろうなぁ……
そして演劇は順調に進んでいる。
ようやく平静を取り戻した私も順調に『照明係』をしている。
いよいよ、シーンはクライマックス……
会場は静まり返っている。
織姫と彦星の夫婦があまりに仲が良すぎて、二人で遊び惚けたあげく、二人共全然、働かなくなり、それが民達に迷惑をかける事となり、そして最後には神の怒りを買ってしまう。罰として二人は『天の川』を挟んで離れ離れに暮らす事に……そして神様の情けで年に一度の七月七日だけ会う事を許された二人……
私だったら『愛する人』と一生幸せに過ごす為にも必死で働くけどなぁぁ……と、さっき間接的に失恋をした彼の顔を思い浮かべていた。
無事に六年一組の演劇が終わり、会場は割れんばかりの拍手の音が鳴り響いている。
「ふぅぅ……なんとか終わった……」
私は大きく息を吐き、体育館の窓から校庭に立っている何本もの大きな笹を眺めていた。そして、ようやく私の頬を涙が流れる。
七夕の今日、短冊に書いた私のお願い事がいきなり叶わないかもしれないな……
私が短冊に書いたお願い事……
『大切な人に想いを伝えられますように……』
グスン……
つねちゃんのことが大好きな彼は短冊に何て書いたのかな……
見ておけばよかったな……
私の心とは裏腹に外は爽やかな風が吹き笹の葉がゆらゆらと揺れていた。
『大切な人と毎日笑顔で過ごせますように……五十鈴隆』
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
彼とつねちゃんの関係を知ってしまった浩美
これから彼女はどうするのか?
どうぞ次回もお楽しみに……
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