上 下
49 / 83
第8章 別れ編

第49話 まさかのお別れ

しおりを挟む
 三月、卒業式の日が近づく中、今日は『演劇部』で六年生達の『お別れ会』をすることになっている。

 私は『お別れ会』の準備をしていたけど、途中でお手洗いに行った。
 するとお手洗いの前で高田さんと大浜さんが話をしている。

 そして私は二人の会話の内容を聞き、衝撃を受けてしまった。

 私はお手洗いに行くのを忘れて慌てて『お別れ会』の会場の教室に戻り彼の前で息を切らしながら話す。

「五十鈴君!! 大変、大変よ!!」

「い、石田どうしたんだよ? めちゃくちゃ息を切らしているけど……」

「お、驚かないでよ!? た、立花部長が東京に引っ越すらしいのよ!!」

「えーっ!?」

 私の話に彼や一緒にいた高山君も同時に驚きの声をあげた。

「う、嘘だろ!? ま、まさか……そんな……石田、それってホントは悪い冗談なんだろ!?」

「じょっ、冗談なんて言うわけ無いじゃない!! 本当の話よ!! さっき高田さんと大浜さんが話しているところを聞いたんだから!!」

「…………」

 彼はあまりに突然のことで固まっている様に見える。
 私も同じように固まっているけど……

 ただ私が驚いたのは『前の世界』の立花部長は私達が先で通う『青葉第三中学校』に通うのではなく、地元の『私立の中学』に通うということだった。

 それで疎遠にはなってしまったんだけど、『この世界』の私は中学生になっても立花部長に会おうと思っていたのに……東京はあまりにも遠すぎるじゃない……

 何故こうなってしまったんだろう……?

 まさか『この世界』の立花部長が東京に引っ越してしまうだなんて……

 固まっている彼に高山君がこう言った。

「隆、今日は久しぶりに全員集まって『お別れ会』をやるんだから、その時に立花部長に直接聞いてみようぜ!?」

「あ、あぁ、そ、そうだな……」

 彼は元気のない声で返事をする。
 きっと彼は聞けないんじゃないかな?
 ここは中身が十五歳の私が聞かないといけないかもしれないわ。

 そして『お別れ会会場』に久しぶりに演劇部員三十名全員が揃った。

 みんなワイワイと話をして騒がしくしているが、私と彼、そして高山君の三名は一言も話さずうつむいている。
 
 そしてそんな中、山口先生が全員に話を始める。

「皆さん、今日は久しぶりに全員が集まり先生とても嬉しいです。ただ今日で六年生の人達とはお別れと言うのはとても寂しいという気持ちもあります。でも六年生の人達はこれから中学生になってあなた達、後輩の前を歩き色々な事に挑戦しながら成長していき後輩達の手本となって歩んで行ってくれます。だから皆さんも寂しいでしょうけど今日は笑顔で六年生達を見送りましょうね?」

「 「 「 はーい 」 」 」

「それでは五年生代表の佐藤さんから一言挨拶をしてもらいます。佐藤さんよろしくね?」

「は、はいっ!!」

 いつもは何事にも恐れない佐藤さんだけど、今日に限ってはかなり緊張した表情をしている。そんな佐藤さんの姿を見て福田さんは笑いをこらえている。

「ろ、六年生の皆さん、長い間お世話になりました。そ、そして本当に有難うございました。わ、私達は六年生の皆さんをとても憧れていました。そしてこれからも皆さんを目標に頑張っていきたいと思って……います。中学生になっても引き続き……わ、私達の目標でいてください。ほ、本当に……あ、有難うございまし……ウェ―――――――ンッ!!」

 泣くのを我慢していた佐藤さんだったけど、ついに耐え切れなくなり泣き出してしまった。

 そしてそれにつられて同じ五年生の堤さんと後藤さんも泣きながら佐藤さんを抱きしめ、顔をくしゃくしゃにして三人同時にこう言った。

「 「 「本当に有難うございましたっ!!」 」 」


 泣きじゃくる後輩達を見ていつもは気の強い影の副部長高田さんや常に冷静な大浜さんもクスンクスンと泣き出した。

 その横では安達さんや轟さん、他の女子達も涙ぐんでいる。

 そんな中、一人冷静な表情をしている立花部長のことを私と、彼と高山君はじっと見つめていた。

 すると順子が私にソッと小声で話しかけてきた。

「浩美どうかしたの? 今日はなんだか様子が変だけど……」

「えっ? だ、大丈夫よ。ごめんね、なんか心配かけちゃって」

「ううん。別に心配とかじゃないんだけどさ。なんだか浩美もだけど五十鈴君や高山君の様子もおかしいような気がしたから……」

 順子が私にまだ話そうとしたけど、立花部長が挨拶を始めようとしたので順子はそれ以上、話すのをやめた。

 そして立花部長が私達後輩に話し出す。

「みんな今日は有難う。そして今まで有難うございました。本当に楽しい演劇部でした。ここにいる六年生は四年生の時から一緒の人達がほとんどだから、なんか家族みたいな感じだったし、四年生や五年生の人達は新しい家族が増えたような気がしてとてもアットホームな居心地の良い場所でした。そんな家族とお別れするのはとても寂しいけど……でもまたいつか……いつか会えると……会えると思うから……」

 ここで立花部長が言葉に詰まると、

「立花部長!! 来年、中学で直ぐに会えますよ!!」

 佐藤次期部長が立花部長にそう言うと、その言葉に立花部長の涙腺スイッチが入ってしまい瞳から涙が溢れ出してきた。

 それを見た高田さんと大浜さんが立花部長の傍に寄り三人でシクシクと泣き出した。

 その姿を見た私は遂に我慢の限界がきてしまい泣きながら立花部長に問いかけた。

「た、立花部長!! 東京に引っ越すって言うのは本当何ですか!?」


 私の問いかけにその場にいた、事情の知らない人達は悲鳴にも近い驚きの声をあげる。

 そして立花部長が指で涙をさっとふき取るようなしぐさをしながら私に少し微笑みながら答える。

「石田さんは知っていたのね? そう、そうなの……。私、お父さんの仕事の都合で東京に引っ越さなくちゃならなくなったの……だから佐藤さん? 私は卒業してもみんなとは会えない……ご、ごめんね……ううっ……」

 そう言うと立花部長はしゃがみ込み泣いている。高田さんや大浜さんもしゃがみ込み、立花部長の肩に手を添え一緒に泣いている。

 その時、佐藤さんが大きな声でこう言った。

「わ、私、手紙書きます!! 立花部長、私と文通してください!! だから引っ越し先の住所を後で教えてください!?」と、目に涙をためながら話す。

 私はこの時の佐藤さんが凄く素敵に思えた。

「佐藤さん、ありがとう。そう言ってくれて嬉しいわ。私も手紙書くわね……」

 立花部長が少し落ち着きを取り戻し微笑みながら佐藤さんに言うと、その場にいた女子全員が「私も書く!!」「私も書きます!!」と立花部長に駆け寄りみんな抱き合い泣きじゃくるのだった。

 勿論、私もその中にいる。

 その様子を彼や高山君、他の男子達は少し離れて見つめている。
 
 彼の目にも涙が流れていた……




――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。

『お別れ会』当日
まさか、立花部長が東京に引っ越すだなんて……
衝撃を受ける浩美達……

次回、長かった四年生編も最終話です。
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

死を願われた薄幸ハリボテ令嬢は逆行して溺愛される

葵 遥菜
恋愛
「死んでくれればいいのに」  十七歳になる年。リリアーヌ・ジェセニアは大好きだった婚約者クラウス・ベリサリオ公爵令息にそう言われて見捨てられた。そうしてたぶん一度目の人生を終えた。  だから、二度目のチャンスを与えられたと気づいた時、リリアーヌが真っ先に考えたのはクラウスのことだった。  今度こそ必ず、彼のことは好きにならない。  そして必ず病気に打ち勝つ方法を見つけ、愛し愛される存在を見つけて幸せに寿命をまっとうするのだ。二度と『死んでくれればいいのに』なんて言われない人生を歩むために。  突如として始まったやり直しの人生は、何もかもが順調だった。しかし、予定よりも早く死に向かう兆候が現れ始めてーー。  リリアーヌは死の運命から逃れることができるのか? そして愛し愛される人と結ばれることはできるのか?  そもそも、一体なぜ彼女は時を遡り、人生をやり直すことができたのだろうかーー?  わけあって薄幸のハリボテ令嬢となったリリアーヌが、逆行して幸せになるまでの物語です。

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

【完結】夫もメイドも嘘ばかり

横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。 サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。 そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。 夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

処理中です...