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第8章 別れ編
第45話 特別な二人
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文化祭が終わり、私達は後片付けをしている。そんな中、立花部長が私に近づいてきて肩に手を置きこう言った。
「浩美ちゃん、あの時は私のこと突っ込んでくれてありがとね」
「い、いえ、私の方こそ台本に無いことを言ってしまって……それにタメ口で部長に突っ込んでしまってすみませんでした……」
「ハハハ、浩美ちゃんが謝ることなんてないわ。それにあの突っ込みの場面が一番客席でウケてたしね。ほんと浩美ちゃんのあの本音のアドリブは最高だったわ」
本音? と一瞬考えてしまった私に立花部長は続けて話し出す。
「あの時ね……あの隆君と抱き合う場面だけどね、もうこれで隆君と演劇をするのは最後なんだなぁって思っちゃって……もっとこの時間が続いて欲しいって思ってしまったら、なかなか手を離すことができなかったの……」
立花部長はとても寂しい表情をしている。
「そ、そうなんですか……」
やはり、立花部長は彼のことを……
「でもアレよ。演劇部員全員に対して同じ様にこの時間が続いて欲しいって思っているのよ。でもね、隆君と浩美ちゃんは私にとって『特別な二人』なの……」
「えっ? 私も特別なんですか?」
私はとても驚いてしまう。まさか私が立花部長にとって特別な存在だなんて……
『前の世界』ではそんなこと言われたこと無かったのに。
「ええ、そうよ。浩美ちゃんも私にとっては特別よ。今は詳しい事は言えないけどね……でも隆君に長い時間抱きしめたことで浩美ちゃんをヤキモキさせたことは申し訳無いと思うわ……ゴメンね……ウフ……」
立花部長は私の気持ちを知っていて謝っている感じに見えるのだった。
私は立花部長と別れると彼の様子も気になり辺りを見渡し探していると、彼を見つけたので近くに行こうとする。
でも思わず足が止まってしまう。それは久子が彼と仲良く話をしていたからだ。
今の私は久子の恋の邪魔をしてはいけないから……小学生の間は久子を応援するって決めたから……
すると、そんな私に久子が気付き、彼に手を振りながら別れると私のところにやって来る。
「浩美、お疲れ様。今日の演劇とっても面白かったよ」
久子は満面の笑みで言ってくる。
「あ、ありがとう久子……」
「それに浩美にお礼を言いたくて……」
「えっ、お礼?」
「うん、そうよ。だって浩美があの時、突っ込んでくれなかったら演劇部の部長さん、五十鈴君にずっと抱き着いているところだったもん。私、あの場面だけは見ていてとても嫌だったから……」
そうだよね。私がそうだったんだから久子だってあの場面が嫌だったのは当然だよね。
でも……
「でもね久子、これには色々と……」
「浩美が私の為に部長さんを突っ込んでくれたんだと思ったらとても嬉しくて……ほんとありがとね?」
はぁぁ……久子、それは違うのよ。私は自分の為に……でも……
「ハハハ、そうなのよ。さすが久子ね。よく分かっているわね?」
「当たり前じゃない。私と浩美は親友なんだから」
「そ、そうだね……」
私は久子の言葉に胸が苦しくなったけど久子の可愛らしい笑顔を見るとこれ以上は何も言えず、後片付けがあるからと言ってその場を逃げる様に離れた。
私が体育館から出て荷物を運んでいると誰かが声をかけてきた。
といってもその声には聞き覚えがある。
「浩美ちゃん」
「あっ、つねちゃん!! 今日来てくれてたんだね?」
そう、私が幼稚園の頃の先生、常谷香織先生だ。
「そうなのよ。今日は幼稚園お休みだし、先生は昔から文化祭大好きだから。それに今日は浩美ちゃんや隆君は裏方じゃなくてお芝居をするって聞いたから応援に来たのよ」
ほんと、つねちゃんは良い人だなぁ……
卒園してもう四年近くになる私達のことを気にかけてくれるだなんて……
「つねちゃん、見に来てくれてありがとう」
「お芝居、とても良かったわよ。特に浩美ちゃんが『獣の王』に突っ込む場面なんか最高だったわ。でもアレでしょ? あの浩美ちゃんの突っ込みはアドリブだったんじゃない?」
「えっ? わ、分かるの、つねちゃん!?」
「フフフ、まぁねぇ……私は浩美ちゃんや隆君の『元先生』だからね。口調でなんとなく分かるかなぁ……」
さすがつねちゃんだなぁと私は感心してしまう。
「うん、あのセリフはアドリブなんだぁ。咄嗟に口から出たというか……」
「やっぱりそうなんだ。でも、あのアドリブは本当に良かったよ。浩美ちゃんはもしかすると演技の才能があるかもしれないわね」
「えーっ? そ、そっかなぁ……私にはよくわかんないけど……」
と、言いながら『小学生』を四年近く演技している私がここにいる。
「ところで隆君はまだ体育館の中にいるのかな?」
「えっ? うん、中にいるよ」
「隆君にも挨拶をしないとね。今日の彼も凄かったよね? 四年生なのに『一人二役』をやっていたんだから……」
「えっ? つねちゃん、五十鈴君が二役していたの分かったの?」
「フフフ、勿論分かるわよ。それじゃ先生、体育館の中に行くわね? 浩美ちゃん、また会いましょうね?」
「う、うん……」
そっか……彼が二役していたことをつねちゃんは分かっていた。
ということは他の人達もきっと気付いているよね?
私はそう思いながら荷物を教室まで運ぶのだった。
【文化祭から二日後】
「みんな、先日の演劇お疲れ様~!! そしてカンパーーーイ!!」
「 「 「 「カンパーーーイ!!!!」 」 」 」
演劇部が使用している教室にて山口先生のおごりのジュースとお菓子で立花部長の乾杯の音頭により文化祭の打ち上げが始まった。
「いや~良かった~っ!! 大成功だったねっ!?」
陰の副部長高田さんが立花部長に言っている。
「そうだね。本当に良かったわ。これで悔いなく引退できるわっ!!」
立花部長がそう言うと一瞬教室中が静まり返える。
「えっ?」
立花部長は少し戸惑ったが、そのまま気にせず話し続けた。
「私達六年生は今回の文化祭での演劇が最後となります。なので来年二月に市民会館で行われるイベントでの演劇は四、五年生で行ってもらう予定なので副部長の隆君と次期部長の佐藤さん中心で頑張ってちょうだいね?」
「えっ、俺がですか?」
彼が驚いた表情でそう言った瞬間、佐藤さんは逆に満面の笑顔で彼に対し「はい、わかりました!! 隆君、一緒に頑張りましょうね!?」と元気よく言っている。
「えっ!? あ、は……はい……頑張りましょう……」
彼は元気の無い声で佐藤さんに返事をした。
その元気の無い彼の様子を立花部長がじっと見つめている。
勿論、私も……
立花部長を含む六年生が今日で事実上の引退になることも彼が元気の無い理由の一つなんだけど、実はもう一つ理由があることを私は知っている。
それは文化祭終了後、全員が各教室に戻ってからのことなんだけど……
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
ここから新章です。そして四年生編は最後となります。
無事に文化祭も終わり後片付けをしている中、浩美は立花部長からお詫びをされ、久子からはお礼を言われ、つねちゃんからは演技を絶賛される。
そして二日後の演劇部での打ち上げの中、何故か彼は元気が無い。
しかし浩美はその理由を知っていた。
果たして!?
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
「浩美ちゃん、あの時は私のこと突っ込んでくれてありがとね」
「い、いえ、私の方こそ台本に無いことを言ってしまって……それにタメ口で部長に突っ込んでしまってすみませんでした……」
「ハハハ、浩美ちゃんが謝ることなんてないわ。それにあの突っ込みの場面が一番客席でウケてたしね。ほんと浩美ちゃんのあの本音のアドリブは最高だったわ」
本音? と一瞬考えてしまった私に立花部長は続けて話し出す。
「あの時ね……あの隆君と抱き合う場面だけどね、もうこれで隆君と演劇をするのは最後なんだなぁって思っちゃって……もっとこの時間が続いて欲しいって思ってしまったら、なかなか手を離すことができなかったの……」
立花部長はとても寂しい表情をしている。
「そ、そうなんですか……」
やはり、立花部長は彼のことを……
「でもアレよ。演劇部員全員に対して同じ様にこの時間が続いて欲しいって思っているのよ。でもね、隆君と浩美ちゃんは私にとって『特別な二人』なの……」
「えっ? 私も特別なんですか?」
私はとても驚いてしまう。まさか私が立花部長にとって特別な存在だなんて……
『前の世界』ではそんなこと言われたこと無かったのに。
「ええ、そうよ。浩美ちゃんも私にとっては特別よ。今は詳しい事は言えないけどね……でも隆君に長い時間抱きしめたことで浩美ちゃんをヤキモキさせたことは申し訳無いと思うわ……ゴメンね……ウフ……」
立花部長は私の気持ちを知っていて謝っている感じに見えるのだった。
私は立花部長と別れると彼の様子も気になり辺りを見渡し探していると、彼を見つけたので近くに行こうとする。
でも思わず足が止まってしまう。それは久子が彼と仲良く話をしていたからだ。
今の私は久子の恋の邪魔をしてはいけないから……小学生の間は久子を応援するって決めたから……
すると、そんな私に久子が気付き、彼に手を振りながら別れると私のところにやって来る。
「浩美、お疲れ様。今日の演劇とっても面白かったよ」
久子は満面の笑みで言ってくる。
「あ、ありがとう久子……」
「それに浩美にお礼を言いたくて……」
「えっ、お礼?」
「うん、そうよ。だって浩美があの時、突っ込んでくれなかったら演劇部の部長さん、五十鈴君にずっと抱き着いているところだったもん。私、あの場面だけは見ていてとても嫌だったから……」
そうだよね。私がそうだったんだから久子だってあの場面が嫌だったのは当然だよね。
でも……
「でもね久子、これには色々と……」
「浩美が私の為に部長さんを突っ込んでくれたんだと思ったらとても嬉しくて……ほんとありがとね?」
はぁぁ……久子、それは違うのよ。私は自分の為に……でも……
「ハハハ、そうなのよ。さすが久子ね。よく分かっているわね?」
「当たり前じゃない。私と浩美は親友なんだから」
「そ、そうだね……」
私は久子の言葉に胸が苦しくなったけど久子の可愛らしい笑顔を見るとこれ以上は何も言えず、後片付けがあるからと言ってその場を逃げる様に離れた。
私が体育館から出て荷物を運んでいると誰かが声をかけてきた。
といってもその声には聞き覚えがある。
「浩美ちゃん」
「あっ、つねちゃん!! 今日来てくれてたんだね?」
そう、私が幼稚園の頃の先生、常谷香織先生だ。
「そうなのよ。今日は幼稚園お休みだし、先生は昔から文化祭大好きだから。それに今日は浩美ちゃんや隆君は裏方じゃなくてお芝居をするって聞いたから応援に来たのよ」
ほんと、つねちゃんは良い人だなぁ……
卒園してもう四年近くになる私達のことを気にかけてくれるだなんて……
「つねちゃん、見に来てくれてありがとう」
「お芝居、とても良かったわよ。特に浩美ちゃんが『獣の王』に突っ込む場面なんか最高だったわ。でもアレでしょ? あの浩美ちゃんの突っ込みはアドリブだったんじゃない?」
「えっ? わ、分かるの、つねちゃん!?」
「フフフ、まぁねぇ……私は浩美ちゃんや隆君の『元先生』だからね。口調でなんとなく分かるかなぁ……」
さすがつねちゃんだなぁと私は感心してしまう。
「うん、あのセリフはアドリブなんだぁ。咄嗟に口から出たというか……」
「やっぱりそうなんだ。でも、あのアドリブは本当に良かったよ。浩美ちゃんはもしかすると演技の才能があるかもしれないわね」
「えーっ? そ、そっかなぁ……私にはよくわかんないけど……」
と、言いながら『小学生』を四年近く演技している私がここにいる。
「ところで隆君はまだ体育館の中にいるのかな?」
「えっ? うん、中にいるよ」
「隆君にも挨拶をしないとね。今日の彼も凄かったよね? 四年生なのに『一人二役』をやっていたんだから……」
「えっ? つねちゃん、五十鈴君が二役していたの分かったの?」
「フフフ、勿論分かるわよ。それじゃ先生、体育館の中に行くわね? 浩美ちゃん、また会いましょうね?」
「う、うん……」
そっか……彼が二役していたことをつねちゃんは分かっていた。
ということは他の人達もきっと気付いているよね?
私はそう思いながら荷物を教室まで運ぶのだった。
【文化祭から二日後】
「みんな、先日の演劇お疲れ様~!! そしてカンパーーーイ!!」
「 「 「 「カンパーーーイ!!!!」 」 」 」
演劇部が使用している教室にて山口先生のおごりのジュースとお菓子で立花部長の乾杯の音頭により文化祭の打ち上げが始まった。
「いや~良かった~っ!! 大成功だったねっ!?」
陰の副部長高田さんが立花部長に言っている。
「そうだね。本当に良かったわ。これで悔いなく引退できるわっ!!」
立花部長がそう言うと一瞬教室中が静まり返える。
「えっ?」
立花部長は少し戸惑ったが、そのまま気にせず話し続けた。
「私達六年生は今回の文化祭での演劇が最後となります。なので来年二月に市民会館で行われるイベントでの演劇は四、五年生で行ってもらう予定なので副部長の隆君と次期部長の佐藤さん中心で頑張ってちょうだいね?」
「えっ、俺がですか?」
彼が驚いた表情でそう言った瞬間、佐藤さんは逆に満面の笑顔で彼に対し「はい、わかりました!! 隆君、一緒に頑張りましょうね!?」と元気よく言っている。
「えっ!? あ、は……はい……頑張りましょう……」
彼は元気の無い声で佐藤さんに返事をした。
その元気の無い彼の様子を立花部長がじっと見つめている。
勿論、私も……
立花部長を含む六年生が今日で事実上の引退になることも彼が元気の無い理由の一つなんだけど、実はもう一つ理由があることを私は知っている。
それは文化祭終了後、全員が各教室に戻ってからのことなんだけど……
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
ここから新章です。そして四年生編は最後となります。
無事に文化祭も終わり後片付けをしている中、浩美は立花部長からお詫びをされ、久子からはお礼を言われ、つねちゃんからは演技を絶賛される。
そして二日後の演劇部での打ち上げの中、何故か彼は元気が無い。
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