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第12章 想いを伝える為に編

第75話 初恋の人と見上げる夜空の星

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 ヤバイな。そろそろかなでに連絡しないと心配しているだろうなぁ……

 俺は石田との会話を終わらせようと思ったが、石田は俺に問いかけてくる。

「『この世界』での五十鈴君の行動や、『前の世界』の『未来』はどうなっているのかを教えてくれない?」

 石田がとても興味がある気持ちは分かるし、あまり時間が無いという思いがあるから余計に早く聞きたいという気持ちも分かる。でもしかし……

「もうすぐ夕飯の時間じゃない? 俺、そろそろ帰った方がよくないか?」 

「フフ、大丈夫よ。今日は『大事な人』が来るから夕飯はいらないって言ってあるもん」

「えっ、そんな事が通じるのか? それに食事はしっかりとらないとダメだろう?」

 俺はそう言いながらも石田にとって俺が『大事な人』である事に少し照れると共に、また俺がやって来ることを初めから分かっていた石田に頭が下がる思いだ。

「五十鈴君、お願い。私……早く知りたいの。だって……次に会った時に話を聞ける状態の身体かどうか分からないから……」

 そうだな……
 今度、会った時に話が出来る状態かどうかは分からない。
 もし話ができなかったら俺はまた一生後悔する事になってしまう。

「わ……分かったよ……俺の事を話すよ。それと『前の世界の未来』の事も……」


 俺は順を追って石田に説明する。

 その中でも石田が一番驚いていたのは俺の実年齢が五十歳を軽く超えているというところだった。

「うちのお父さんよりも結構、年上だったんだね?」

「ハハ……引いちゃうだろ?」

「うううん、年齢は関係無いよ。五十鈴君は五十鈴君だし……それに私は『前の世界』の五十鈴君も好きだったけど『この世界』の五十鈴君の方がもっと好きだから……」

 五十過ぎの俺が十五歳の少女の言葉に更に照れてしまい、顔が熱くなる。

 俺は続けて話をする。

 『前の世界』の俺は八月になる度に石田の事を思い出していたこと。
 『つねちゃん』の死を知らされるまで石田が初恋の人だと思っていたこと。

 この話を聞いている時の石田の顔は真っ赤になっていた。

 『事故』がトラウマになり未だに飛行機に乗らない様にしていること。
 『この世界』に来るまでの俺は独身で会社もリストラにあってしまい家に引きこもっていたこと。

 そして『つねちゃんの死』がキッカケで、当時の『つねちゃん』の事を思い出すとともに『つねちゃん』が俺の『初恋の人』だという事に気付いたこと。

 俺が『前の世界』で早く『つねちゃん』と再会し、俺が幸せにしたかったと後悔した日の夜に突然『この世界』に来てしまったことなど……

 今まで起こった俺の話を延々としていたが、石田は『うんうん』とうなずきながら真剣に聞いてくれていた。
 
 話の中で『前の世界の未来』には携帯電話やスマホなどの通信手段が充実していてとても便利だという話にもなった。

 すると石田は微笑みながらこう言う。

「その携帯電話が『あの世』でも使えたらもっと便利なのになぁ……」

 俺はその言葉になんとも言えない気持ちになり話をストップさせてしまった。

 そんな俺に気付いた石田は『ゴメンゴメン』と謝りながら引き続き俺の話を聞きたがるのであった。

 あれからもうどれくらい時間が経ったんだろう……
 外は暗くなっていた。

 さすがに俺自身も早く家に帰らないと家族が心配してしまう。
 なので俺は石田にそろそろ帰えらないとと言い出した。

 石田は残念そうな顔をしていたが、直ぐに笑顔に戻り

「今日は有難う。色々な話を聞かせてくれて有難う」

 と、俺にお礼を言ってきた。

「いや、俺もやっと石田と『本当の話』が出来て良かったよ。あとは石田の病気が治ってくれたら最高なんだけどな……」

「でも私の病気が治ったら五十鈴君が大変かもよ」

「えっ、何でだよ!?」

「だって私、つねちゃんに負けないくらい美人になって魅力的な女性になって『毎日』五十鈴君に告白しちゃうから……そうなったら五十鈴君困るでしょ? フフフ……」

 俺は石田の言葉にどう返事して良いのか分からず黙ってしまう。

「でも心配しないで。私は死ぬから……」

「いっ、いや、それは……」

「心配しないで。私はこれでも十分に幸せだったから。だってそうでしょ? 本当なら私は今日、事故で死んでいたのよ。それが私の想いが叶って……私は五十鈴君に想いを告げる事が出来た……それにお母さんの命を救う事も出来たのよ。これ以上求めるのは贅沢過ぎると思う……それに……今日は五百人以上の人達が亡くなったんだよ。私だけが生き残るのは不公平じゃない? 亡くなった人達に申し訳が無い……」

「でも、石田がその事を気にする必要は無いんじゃ……」

「ある!! 絶対にある。もし私が生きないとダメならきっと『この世界』で私は白血病にはなっていないわ。これは『宿命』なんだと思う。でも神様が私の願いを叶える為に少しだけ私の『宿命』を『寿命』を遅らせてくれだけなんだと思ってる……」


 俺は石田の言っている事に理解はしているし、おそらくそうなのかもしれない。
 でもあまりにも無情じゃないのか?
 こんな良い子がたった十五年という短い人生で終わらないといけないなんて……

 この世は無情過ぎる……

 俺が病室を出る際に石田が最後に一言だけ言う。

「私、今は五十鈴君とつねちゃんが結ばれることを願っているから……そして空から二人を見守るからね……」

「そ、空から見守るって……でも……あ、ありがとう……」

 俺の目からは涙が溢れ出し、こんな顔を石田に見せたくなかったので、振り向かずに背中を向けたまま病室を出るのだった。



 俺が病院の外に出るともう辺りは真っ暗になっている。

 すると駅に向かおうとする俺に女性が声をかけてきた。

「たっ、隆君!!」

「えっ!? つ、つねちゃん……」


 ガバッ

「えっ?」

 『つねちゃんが』突然、俺に抱きついてきた。

 そして『つねちゃん』は俺に抱きついたままこう言った。

「隆君、とっても心配したわよ!! 浩美ちゃんの事で家に電話をしたら奏ちゃんが出て来て、隆君が病院に行ったまま帰ってこないし、連絡も無いからとても心配だと言ってたの。先生もニュースを見て事故の事を知って、その搭乗者の中に浩美ちゃんと同じ名前があったから心配になって隆君の家に電話をしたんだけど……」

「ご、ごめん、つねちゃん……それに奏にも悪い事をしたなぁ……でも石田は大丈夫、ちゃんと病室にいるから……それでさっきまでずっと二人で話をしてたんだ。ほんと心配をかけてごめんね……」

「良かった……本当に良かった……『二人共』無事で本当に良かった……」


 俺は駅に直ぐ行かずに駅前のベンチに『つねちゃん』と一緒に座り夜空を眺めている。

「今夜は星がたくさん見えるわねぇ……」

「そうだねぇ……」

「もしかしたら今日亡くなった多くの人達が星になったのかもしれない……」

 俺はとても切ない気持ちになった。

「きっと突然の事で怖かっただろうなぁ……それに誰とも別れの挨拶を出来ないままこの世を去るのはとても辛いだろうね……」

「そうね。もし先生が同じ立場だったら『大切な人に何も伝える事が出来ない』のがとても悔しくて辛くて悲しいかもしれない……」

 俺は『つねちゃん』も石田と同じなんだと思うと共に、改めて『この世界』で『石田の分も後悔の無い生き方』をしようと心に……夜空の星に誓うのだった。






――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。
『想いを伝える為に編』終了です。

石田の為に大会優勝目指して頑張る隆達
それを見守るつねちゃん……
隆達の活躍を心待ちにしている石田……

それぞれの想いは叶うのか!?

次回から『新章』開始です。
そして中学生編最後の章となります。

どうぞ次回もお楽しみに。。。
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