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第4章 運動会編
第18話 初恋の人の温もり
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一年生のリレーが始まろうとしている最中、俺と『つねちゃん』は誰もいない保健室にいた。
保健室の先生はグランドで運動会中に怪我をした児童達の手当てで大忙しであった。
なので『つねちゃん』は保健室の先生に「隆君の応急手当は自分がする」という事を伝え「助かるわ、お願いね?」と逆に頼まれた形となっていた。
「隆君、そこの椅子に座って痛い方の足の靴下を脱いでくれるかな?」
『つねちゃん』はそう言うと、保険室内にある棚から包帯や湿布薬を取り出している。
『つねちゃん』とまさか二人きりになるなんて……
俺はそう思いながら少し緊張した面持ちで椅子に座りながら靴下を脱ごうとしていた。
そして『つねちゃん』は俺の痛めた足を少しだけ持ち上げ、棚から取り出した湿布薬を貼るのであった。
「つっ、冷たいし、痛っ!!」
「フフ、男の子でしょ、我慢してね……」
『つねちゃん』はニコニコした顔で俺の足に湿布薬をしっかり貼ろうとしていた。
俺は自分の足に湿布薬を貼ってくれている『つねちゃん』の姿を少し顔を赤くしながら見つめていたが、突然『つねちゃん』が話しかけてきた。
「隆君、今日は走れなくなって残念だったけど、先生、隆君のカッコいいところが見れてとても良かったわ……」
「えっ?」
俺は『つねちゃん』の言っている意味が分からなかった。
「な、何で? 俺は『つねちゃん』に何もカッコいいところなんて見せてないよ!! それどころか足を怪我してしまったし、『つねちゃん』に手当までしてもらってるし……」
そう俺が元気の無い声で言うと……
ガシッ……ギュウウッ
「へっ!!??」
『つねちゃん』が突然、俺を抱きしめたのである。
俺は頭の中が真っ白になった。
中身が『大人』である俺であっても、この『つねちゃん』の突然の行動を理解できずに戸惑い、そして何とも言えない恥ずかしさがあった。
そんな俺に『つねちゃん』がとても優しい声で話し出す。
「隆君……『カッコいい』ってのはね、『リレーで活躍』したり、『足が痛いのを我慢して走ったり』するだけじゃないのよ。クラスのみんなの為に『足が痛い事』を正直に言って、他の人に出て貰う様に先生にお願いする……そういうのって、とってもカッコイイ事なのよ……」
俺は『つねちゃん』が自分がとった行動を、まさかカッコイイと言ってくれるとは思っていなかったので非常に驚いた。
「先生ね、隆君がとった行動に凄く感動したの。『普通の小学一年生』ならあり得ない行動だと思うわ。だから隆君……元気を出して。先生は今日、そういう隆君を見れただけでとっても幸せだから……」
俺の頬を冷たいものが流れ落ちる……
五十歳手前の『おっさん』の目から涙が出て俺は恥ずかしかったが、どうしても涙が止まらない。
そして『つねちゃん』はこうも言った。
「そしてゴメンね、隆君……お昼休憩の時に先生を心配してくれて駆け寄った時に足を痛めたのよね? 寿さんとお話していた時に先生、思わず隆君の方を見てしまったから……そして隆君と目が合っちゃって……隆君は気になって先生のところに来ようとしてくれたのよね? 本当にゴメンね……」
『つねちゃん』はそう言うと更に強く隆を抱きしめる。
良かった……
俺が怪我をした理由なんて別にどうでもいい……
それよりも俺の『選択』は間違っていなかったんだ。
『大人の対応』をしてしまった自分に少し嫌気を感じていたが、それを『つねちゃん』はカッコいいと言ってくれた。
俺は報われた。
俺はなんて『幸せ者』なんだ……
コケてしまい、悔しさと怪我の痛みで涙を流した『現実世界』……
出場出来なくてもこうやって自分を認めてくれている人の胸の中でうれし涙を流す事の出来る『この世界』……
俺は『この世界』にずっといたい。
大好きな『つねちゃん』の温もりを感じながら『この世界』で生きて行きたい。
神様、お願いです。どうか俺を『現実世界』に戻さないでください……
俺は『つねちゃん』の温もりを感じながらそう願うのであった。
リレーの結果は俺の『代役』の高山が奮闘し、クラスは二位であった。
一位になれなかった悔しさよりも俺が出場しなくて、よく二位になれたという喜びの方がクラスメイト達にはあったみたいだ。
そして治療を終えてグランドに戻って来た俺を高山やクラスメイト達は笑顔で出迎え、みんな俺の足の心配をしてくれている。
高山は自分の活躍を俺に熱く語っていたが、俺はクラスメイトの優しさに感動し、今度は『心の中』で涙を流していたので、熱く語る高山の声は俺の耳には入っていなかった。
運動会も無事に終わり、今はもう十一月……
そして今日は俺の『誕生日』……
俺は『七歳』になった。
はぁぁ……とうとう『五十歳』になっちまったな……
――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
『運動会編』はこれで終わりとなります。
次回からは一気に『小学六年生』まで飛ぶ予定です。
少しずつ『大人の階段』を上って行く隆
隆の成長を見守る『つねちゃん』
果たして二人の運命は……
次回もどうぞお楽しみに(^_-)-☆
保健室の先生はグランドで運動会中に怪我をした児童達の手当てで大忙しであった。
なので『つねちゃん』は保健室の先生に「隆君の応急手当は自分がする」という事を伝え「助かるわ、お願いね?」と逆に頼まれた形となっていた。
「隆君、そこの椅子に座って痛い方の足の靴下を脱いでくれるかな?」
『つねちゃん』はそう言うと、保険室内にある棚から包帯や湿布薬を取り出している。
『つねちゃん』とまさか二人きりになるなんて……
俺はそう思いながら少し緊張した面持ちで椅子に座りながら靴下を脱ごうとしていた。
そして『つねちゃん』は俺の痛めた足を少しだけ持ち上げ、棚から取り出した湿布薬を貼るのであった。
「つっ、冷たいし、痛っ!!」
「フフ、男の子でしょ、我慢してね……」
『つねちゃん』はニコニコした顔で俺の足に湿布薬をしっかり貼ろうとしていた。
俺は自分の足に湿布薬を貼ってくれている『つねちゃん』の姿を少し顔を赤くしながら見つめていたが、突然『つねちゃん』が話しかけてきた。
「隆君、今日は走れなくなって残念だったけど、先生、隆君のカッコいいところが見れてとても良かったわ……」
「えっ?」
俺は『つねちゃん』の言っている意味が分からなかった。
「な、何で? 俺は『つねちゃん』に何もカッコいいところなんて見せてないよ!! それどころか足を怪我してしまったし、『つねちゃん』に手当までしてもらってるし……」
そう俺が元気の無い声で言うと……
ガシッ……ギュウウッ
「へっ!!??」
『つねちゃん』が突然、俺を抱きしめたのである。
俺は頭の中が真っ白になった。
中身が『大人』である俺であっても、この『つねちゃん』の突然の行動を理解できずに戸惑い、そして何とも言えない恥ずかしさがあった。
そんな俺に『つねちゃん』がとても優しい声で話し出す。
「隆君……『カッコいい』ってのはね、『リレーで活躍』したり、『足が痛いのを我慢して走ったり』するだけじゃないのよ。クラスのみんなの為に『足が痛い事』を正直に言って、他の人に出て貰う様に先生にお願いする……そういうのって、とってもカッコイイ事なのよ……」
俺は『つねちゃん』が自分がとった行動を、まさかカッコイイと言ってくれるとは思っていなかったので非常に驚いた。
「先生ね、隆君がとった行動に凄く感動したの。『普通の小学一年生』ならあり得ない行動だと思うわ。だから隆君……元気を出して。先生は今日、そういう隆君を見れただけでとっても幸せだから……」
俺の頬を冷たいものが流れ落ちる……
五十歳手前の『おっさん』の目から涙が出て俺は恥ずかしかったが、どうしても涙が止まらない。
そして『つねちゃん』はこうも言った。
「そしてゴメンね、隆君……お昼休憩の時に先生を心配してくれて駆け寄った時に足を痛めたのよね? 寿さんとお話していた時に先生、思わず隆君の方を見てしまったから……そして隆君と目が合っちゃって……隆君は気になって先生のところに来ようとしてくれたのよね? 本当にゴメンね……」
『つねちゃん』はそう言うと更に強く隆を抱きしめる。
良かった……
俺が怪我をした理由なんて別にどうでもいい……
それよりも俺の『選択』は間違っていなかったんだ。
『大人の対応』をしてしまった自分に少し嫌気を感じていたが、それを『つねちゃん』はカッコいいと言ってくれた。
俺は報われた。
俺はなんて『幸せ者』なんだ……
コケてしまい、悔しさと怪我の痛みで涙を流した『現実世界』……
出場出来なくてもこうやって自分を認めてくれている人の胸の中でうれし涙を流す事の出来る『この世界』……
俺は『この世界』にずっといたい。
大好きな『つねちゃん』の温もりを感じながら『この世界』で生きて行きたい。
神様、お願いです。どうか俺を『現実世界』に戻さないでください……
俺は『つねちゃん』の温もりを感じながらそう願うのであった。
リレーの結果は俺の『代役』の高山が奮闘し、クラスは二位であった。
一位になれなかった悔しさよりも俺が出場しなくて、よく二位になれたという喜びの方がクラスメイト達にはあったみたいだ。
そして治療を終えてグランドに戻って来た俺を高山やクラスメイト達は笑顔で出迎え、みんな俺の足の心配をしてくれている。
高山は自分の活躍を俺に熱く語っていたが、俺はクラスメイトの優しさに感動し、今度は『心の中』で涙を流していたので、熱く語る高山の声は俺の耳には入っていなかった。
運動会も無事に終わり、今はもう十一月……
そして今日は俺の『誕生日』……
俺は『七歳』になった。
はぁぁ……とうとう『五十歳』になっちまったな……
――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
『運動会編』はこれで終わりとなります。
次回からは一気に『小学六年生』まで飛ぶ予定です。
少しずつ『大人の階段』を上って行く隆
隆の成長を見守る『つねちゃん』
果たして二人の運命は……
次回もどうぞお楽しみに(^_-)-☆
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