3 / 133
第1章 前の世界編
第3話 初恋の人の人生
しおりを挟む
あくる日、俺は慌てて志保さんの自宅に行った。
勿論、『つねちゃん』の事を聞く為だ。
突然、訪問して来た俺に志保さんは驚いた様子だったが、亡くなったのが当時俺の担任だった『つねちゃん』だという事を知り、快く昔の『つねちゃん』の話をしてくれた。
『つねちゃん』は俺が卒園後、俺の最寄りの駅から三つ目の駅が最寄り駅になる、近くの幼稚園に転任したそうだ。
今、考えれば自転車でも……いや、今の俺なら歩いてでも余裕で行ける距離にある。
そして『つねちゃん』は、その幼稚園に六年近く勤めた後、数年置きに市内の幼稚園を転々としていたという事だが、志保さんとはその間に同じ幼稚園で先輩、後輩の関係になったらしい。
志保さん曰く、昔からとても優しい先輩で後輩からも慕われていたそうだ。
「ところで、常谷先生は何歳くらいで結婚したの……?」
俺は一番聞きたい、でもなかなか聞き辛い質問を志保さんにした。
「それがねぇ、あれだけ美人で優しい人だったのに結婚は遅かったのよ。三十半ばだったかな? お付き合いしていた人は数名いたみたいだけど、どれも長続きしなかったみたい。でもようやくアラフォーって呼ばれる手前で年下の男性と結婚したのよ。それもアレよ。お見合い結婚なのよ」
「そ、そうなんだ……」
俺は志保さんの話を複雑な気持ちで聞いていた。何が複雑かと言えば『つねちゃん』の結婚相手は年下で、それもお見合い結婚という所に俺は複雑な心境になってしまったのだ。
もしかしたら俺にも『つねちゃん』と結婚出来るチャンスがあったんじゃないのか!?
思わず俺はそんな気持ちになってしまった。
でもまぁ、実際問題、あり得ないよな……
俺は『臆病』な性格で、今まで何度かチャンスがあったのに『プロポーズ』が出来なかった『チキン野郎』だ。
そんな俺がもし昔、『つねちゃん』に告白出来るチャンスがあったとしても、きっと俺は告白は出来なかっただろう……
ほんと、情けない男だ……
俺は起こってもいない事を想像しながら自分に対して呆れてしまっていた。
それから俺は志保さんから晩年の『つねちゃん』について色々と教えてもらった。
保母さんとしての『つねちゃん』は『主任』『教頭先生』『園長先生』と順調に出世したそうだ。
俺は最後まで『保母さん』として人生を全うした『つねちゃん』に『尊敬の念』が湧いて来た。まぁ、俺も同じ様に全うするつもりで仕事を頑張ってきたが、夢半ばで『リストラ』にあっちまったから余計にそう思うんだろう。
でもここからの志保さんの話は俺にとって衝撃で有り、とても辛い話だった。
『つねちゃん』の年下の御主人は数年前に病気で亡くなった事……
二人の間には子供がいなかった事……
そして『つねちゃん』は誰にも看取られぬまま、自宅で亡くなってしまった事……
数日後に近所の人が不振に思い、警察を呼び自宅の寝室で眠る様に亡くなっている『つねちゃん』を発見した事……
『つねちゃん』の晩年の話を聞いている途中で俺はいつもの頭痛が起こったが、何とか我慢しながら最後まで話を聞いた。
でも、内容が内容だったので俺は頭痛だけでなく胃痛まで起こってしまい、死にそうなくらい、痛いし苦しかったが何とか我慢して作り笑いをしながら志保さんにお礼を言って帰宅したのだった。
帰宅して俺は直ぐにベットに飛び込む。
そして目からは涙が……
頭が痛いから、胃が痛いから涙が出てきたのではない……
あんなに綺麗で優しかった『つねちゃん』がご主人に先立たれ、そして誰にも気づかれずに一人寂しく死んでしまったなんて……
『つねちゃん』……今までの人生、どうでしたかか?
幸せでしたか?
本当に幸せでしたか?
お、俺が……
今はこんな情けない俺だけど……
俺が、『つねちゃん』を幸せにしたかった……
今更後悔しても遅いけど……人生をやり直せるなら……
絶対に『つねちゃん』の事を一生、俺が……
俺は顔を枕に埋め泣いている。そして『つねちゃん』の事を思いながら少しずつ意識が薄れていくのだった。
勿論、『つねちゃん』の事を聞く為だ。
突然、訪問して来た俺に志保さんは驚いた様子だったが、亡くなったのが当時俺の担任だった『つねちゃん』だという事を知り、快く昔の『つねちゃん』の話をしてくれた。
『つねちゃん』は俺が卒園後、俺の最寄りの駅から三つ目の駅が最寄り駅になる、近くの幼稚園に転任したそうだ。
今、考えれば自転車でも……いや、今の俺なら歩いてでも余裕で行ける距離にある。
そして『つねちゃん』は、その幼稚園に六年近く勤めた後、数年置きに市内の幼稚園を転々としていたという事だが、志保さんとはその間に同じ幼稚園で先輩、後輩の関係になったらしい。
志保さん曰く、昔からとても優しい先輩で後輩からも慕われていたそうだ。
「ところで、常谷先生は何歳くらいで結婚したの……?」
俺は一番聞きたい、でもなかなか聞き辛い質問を志保さんにした。
「それがねぇ、あれだけ美人で優しい人だったのに結婚は遅かったのよ。三十半ばだったかな? お付き合いしていた人は数名いたみたいだけど、どれも長続きしなかったみたい。でもようやくアラフォーって呼ばれる手前で年下の男性と結婚したのよ。それもアレよ。お見合い結婚なのよ」
「そ、そうなんだ……」
俺は志保さんの話を複雑な気持ちで聞いていた。何が複雑かと言えば『つねちゃん』の結婚相手は年下で、それもお見合い結婚という所に俺は複雑な心境になってしまったのだ。
もしかしたら俺にも『つねちゃん』と結婚出来るチャンスがあったんじゃないのか!?
思わず俺はそんな気持ちになってしまった。
でもまぁ、実際問題、あり得ないよな……
俺は『臆病』な性格で、今まで何度かチャンスがあったのに『プロポーズ』が出来なかった『チキン野郎』だ。
そんな俺がもし昔、『つねちゃん』に告白出来るチャンスがあったとしても、きっと俺は告白は出来なかっただろう……
ほんと、情けない男だ……
俺は起こってもいない事を想像しながら自分に対して呆れてしまっていた。
それから俺は志保さんから晩年の『つねちゃん』について色々と教えてもらった。
保母さんとしての『つねちゃん』は『主任』『教頭先生』『園長先生』と順調に出世したそうだ。
俺は最後まで『保母さん』として人生を全うした『つねちゃん』に『尊敬の念』が湧いて来た。まぁ、俺も同じ様に全うするつもりで仕事を頑張ってきたが、夢半ばで『リストラ』にあっちまったから余計にそう思うんだろう。
でもここからの志保さんの話は俺にとって衝撃で有り、とても辛い話だった。
『つねちゃん』の年下の御主人は数年前に病気で亡くなった事……
二人の間には子供がいなかった事……
そして『つねちゃん』は誰にも看取られぬまま、自宅で亡くなってしまった事……
数日後に近所の人が不振に思い、警察を呼び自宅の寝室で眠る様に亡くなっている『つねちゃん』を発見した事……
『つねちゃん』の晩年の話を聞いている途中で俺はいつもの頭痛が起こったが、何とか我慢しながら最後まで話を聞いた。
でも、内容が内容だったので俺は頭痛だけでなく胃痛まで起こってしまい、死にそうなくらい、痛いし苦しかったが何とか我慢して作り笑いをしながら志保さんにお礼を言って帰宅したのだった。
帰宅して俺は直ぐにベットに飛び込む。
そして目からは涙が……
頭が痛いから、胃が痛いから涙が出てきたのではない……
あんなに綺麗で優しかった『つねちゃん』がご主人に先立たれ、そして誰にも気づかれずに一人寂しく死んでしまったなんて……
『つねちゃん』……今までの人生、どうでしたかか?
幸せでしたか?
本当に幸せでしたか?
お、俺が……
今はこんな情けない俺だけど……
俺が、『つねちゃん』を幸せにしたかった……
今更後悔しても遅いけど……人生をやり直せるなら……
絶対に『つねちゃん』の事を一生、俺が……
俺は顔を枕に埋め泣いている。そして『つねちゃん』の事を思いながら少しずつ意識が薄れていくのだった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる