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最終章 永遠の愛編
第82話 覚えてる?/亮二
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10月になった。加奈子ちゃんは前に言っていた通り、高校で『ボランティア部』を立ち上げ、中学時代からの友人の協力も得て十数名の部員でスタートしたそうだ。
早速、今度の日曜日に高校近くのコミュニティーセンターでボランティア活動をするそうで、俺にも手伝って欲しいというラインがきている。
俺は今まで加奈子ちゃん程、有言実行の子は見た事がない。ほんと頭が下がる思いだよ。それと同時にこれからもボランティアを通じて勉強以外でも加奈子ちゃんと接する機会が増えたことに俺は喜びを感じていた。
そんな俺も加奈子ちゃんの行動力に刺激を受け、隆おじさん、いや、社長に10月から定時まで働かせて欲しいとお願いし、快く了承を得た。俺だっていつまでも職場の人達に気を遣わせている場合じゃないからな。一日も早く正常な身体に戻してみんなと同じような仕事がやりたいんだ。
そして10月になった今日、うちの会社に女性の派遣社員が1名入社した。
「皆さん、初めまして。私の名前は神谷真理子といいます。年齢は秘密と言いたいところですが29歳のアラサーで独身です。昔から周りには『マリリン』と呼ばれていますので気さくにそう呼んで頂けると嬉しいです。一日も早く皆さんのお役に立てれるように頑張りますのでどうぞご指導宜しくお願い致します」
パチパチパチパチ
彼女の挨拶に対し俺を含めた全従業員が拍手をする。俺の横に立っていた男の先輩達は小声で「神谷さん、めっちゃ美人、俺のタイプだわ~」「早速、マリリンって呼ぼう」などと言っていた。
まぁ、先輩達が言う通り、彼女はとても美人でスタイルも良く大人の女性感が漂っている。まして性格も明るそうだから男から見れば申し分の無い女性だと思う。
「ハハハ、こちらこそよろしく。みんな仲良くしてあげてくれよ」
隆おじさんが笑顔でそう言うと特に男性社員たちは大きな声で返事をしていた。
ふと俺が彼女の顔を見ると目が合ってしまったので慌てて目を逸らしたが、数秒後、再度彼女の方を見るとまた目が合ってしまった。
え? もしかして神谷さんはさっきから俺の顔を見ている? どこかで会った事があるのだろうか? それとも神谷さんの知り合いに俺が似ているとかかな?
俺がそんな事を考えている間に入社の挨拶は終わり神谷さんは隆おじさんに連れられて別室へと向かうのだった。
昼休みになり俺は社員食堂で母さんが作ってくれた弁当を食べていた。すると後ろから女性に声をかけられる。
「あ、あのぉ……」
「え? は、はい?」
振り向くと神谷さんが少し緊張した表情で食堂の定食が乗ったトレイを持ちながら立っていた。
「すみません。お隣よろしいでしょうか?」
「は、はい。別に構わないですけど……」
他にも席は空いているのに何でわざわざ俺の横に座るのだろうと思いながらも拒否る理由もないので了承した。
もしかしたらこの会社で俺が神谷さんの次に新人だと隆おじさんに聞いて一番話しやすいかもしれないって思ったのかもしれないな。
神谷さんは恐縮した表情をしながら俺の隣に座り定職を食べようと箸を持ったが何故か直ぐに箸をトレイの上に置き俺の方を向いて話しかけてきた。
「か、鎌田さんですよね?」
「え? あ、はい、そうですが……でも何で俺の名前を?」
「はい、社長からお聞きしまして……」
やっぱりそうか。だから同じ新人の俺に話しかけようと……
「ハハハ、それじゃぁ俺も今年入社でまだまだ新人って事もご存じなんですよね? まぁ、これから新人同士、頑張っていきましょう」
「はい、頑張りましょうといいますか、そういう事では無くて……」
え? そういう挨拶的なものじゃないのか?
「他に何かあるんですか?」
「はい、そうなんです……」
「何でしょうか?」
「・・・・・・」
神谷さんは黙って何か考えている様だ。
「どうかされましたか?」
「いえ、それでは単刀直入にお聞きしますが、前に私と会った事がありますよね? 覚えていらっしゃいませんか?」
「えっ!?」
「す、すみません。驚かせるような事を言いまして……」
「い、いえ、そんな事は無いんですが……」
えーっ!? 俺は神谷さんと会った事があるのか? だから自己紹介後に俺の顔をじっと見ていたって事なのか? でも他人の空似って事もあるしなぁ……
でも、もしかしたら消えた記憶の数年の間に俺は神谷さんと出会っているという事も考えられるよな?
「すみません神谷さん。俺と会ったというのはいつくらいなんでしょうか?」
「そうですね……約4年前ですかねぇ……私が派遣の仕事をする前の仕事で会ったのですが……鎌田さんは全然、覚えていらっしゃらないのですか?」
4年前かぁ……その頃の記憶は全く残っていないし、そりゃぁ仮に会っていたとしても俺が覚えているはずが無いって事かぁ……
「すみません。実は俺、数年前に事故にあいまして、その事故の影響で13歳から最近までの記憶が無いんですよ」
「はい、知っています。先程、社長から事故の事もお聞きしました。でも、もしかしたら鎌田さんは断片的に記憶が残っていて20歳前後の頃の事は覚えていらっしゃるかもと思ってつい確認してしまいました。でも、やっぱり数年間の記憶は全て消えてしまっているんですね……」
20歳前後? 俺が20歳前後の頃に神谷さんと出会っているという事なのか?
「そうですね。覚えていなくて申し訳ありません」
「いえ、謝らないでください。鎌田さんは何も悪く無いですから。鎌田さんは被害者ですし……私も逃走犯が起こした事故の事は当時のニュースを観て知っていましたが、まさかその時の被害者が鎌田さんだと社長からお聞きして凄く驚きました」
「でしょうね。ただ俺は事故の内容も覚えていないので何とも言えませんが……でも、こうして俺は生きていて仕事もできるまで身体も回復し、そして記憶は無くても神谷さんと再会できましたし、それに俺はその事故で『大切な人』を助ける事ができましたし……こんな幸せな事は無いですねぇ。ハハハ……」
「大切な人……ほんと、あの時と同じで良い子のままだなぁ……」
「え?」
「いえ、こちらの話です。でも私の事を覚えていないのはよく分かりました。それでは今日から改めて私の事を記憶に残してくださいね? フフフ……」
「ハハ、そうですね。そうさせて頂きます。あ、それと俺と話す時は敬語じゃなくて構いませんから。俺は年下ですし、同じ今年入社で同期みたいなものですし」
「で、でも……」
「お願いします。その方が俺も『マリリン』と気さくに話がしやすいですから。ハハハ……」
「フフ……わ、分かったわ。それじゃぁお言葉に甘えてそうさせてもらうわ。でも鎌田君も私に敬語は止めてよね? 同期なんだし。って事でこれからよろしくね、鎌田君?」
「うん、こちらこそよろしく……マリリン」
こうして俺は社会人になって初めて同期風の後輩ができたのだった。
俺は彼女と談笑をしながら弁当を食べ、そして食べ終わったので席を立とうとするとマリリンが最後にこう言った。
「鎌田君? もし記憶が戻って私と出会った時の事を思い出しても当時の話はしなくてもいいからね?」
「え、なんで?」
「なんでもよ。思い出せば私の言っている意味が分かるわ。だからもし思い出したとしても、その時は私に向かって笑顔でピースサインだけしてくれればいいから」
マリリンは何でそんな事を言うのだろうと不思議な気持ちになりながらも俺は笑顔で「分かったよ」とだけ言って席を離れるのだった。
――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
早速、今度の日曜日に高校近くのコミュニティーセンターでボランティア活動をするそうで、俺にも手伝って欲しいというラインがきている。
俺は今まで加奈子ちゃん程、有言実行の子は見た事がない。ほんと頭が下がる思いだよ。それと同時にこれからもボランティアを通じて勉強以外でも加奈子ちゃんと接する機会が増えたことに俺は喜びを感じていた。
そんな俺も加奈子ちゃんの行動力に刺激を受け、隆おじさん、いや、社長に10月から定時まで働かせて欲しいとお願いし、快く了承を得た。俺だっていつまでも職場の人達に気を遣わせている場合じゃないからな。一日も早く正常な身体に戻してみんなと同じような仕事がやりたいんだ。
そして10月になった今日、うちの会社に女性の派遣社員が1名入社した。
「皆さん、初めまして。私の名前は神谷真理子といいます。年齢は秘密と言いたいところですが29歳のアラサーで独身です。昔から周りには『マリリン』と呼ばれていますので気さくにそう呼んで頂けると嬉しいです。一日も早く皆さんのお役に立てれるように頑張りますのでどうぞご指導宜しくお願い致します」
パチパチパチパチ
彼女の挨拶に対し俺を含めた全従業員が拍手をする。俺の横に立っていた男の先輩達は小声で「神谷さん、めっちゃ美人、俺のタイプだわ~」「早速、マリリンって呼ぼう」などと言っていた。
まぁ、先輩達が言う通り、彼女はとても美人でスタイルも良く大人の女性感が漂っている。まして性格も明るそうだから男から見れば申し分の無い女性だと思う。
「ハハハ、こちらこそよろしく。みんな仲良くしてあげてくれよ」
隆おじさんが笑顔でそう言うと特に男性社員たちは大きな声で返事をしていた。
ふと俺が彼女の顔を見ると目が合ってしまったので慌てて目を逸らしたが、数秒後、再度彼女の方を見るとまた目が合ってしまった。
え? もしかして神谷さんはさっきから俺の顔を見ている? どこかで会った事があるのだろうか? それとも神谷さんの知り合いに俺が似ているとかかな?
俺がそんな事を考えている間に入社の挨拶は終わり神谷さんは隆おじさんに連れられて別室へと向かうのだった。
昼休みになり俺は社員食堂で母さんが作ってくれた弁当を食べていた。すると後ろから女性に声をかけられる。
「あ、あのぉ……」
「え? は、はい?」
振り向くと神谷さんが少し緊張した表情で食堂の定食が乗ったトレイを持ちながら立っていた。
「すみません。お隣よろしいでしょうか?」
「は、はい。別に構わないですけど……」
他にも席は空いているのに何でわざわざ俺の横に座るのだろうと思いながらも拒否る理由もないので了承した。
もしかしたらこの会社で俺が神谷さんの次に新人だと隆おじさんに聞いて一番話しやすいかもしれないって思ったのかもしれないな。
神谷さんは恐縮した表情をしながら俺の隣に座り定職を食べようと箸を持ったが何故か直ぐに箸をトレイの上に置き俺の方を向いて話しかけてきた。
「か、鎌田さんですよね?」
「え? あ、はい、そうですが……でも何で俺の名前を?」
「はい、社長からお聞きしまして……」
やっぱりそうか。だから同じ新人の俺に話しかけようと……
「ハハハ、それじゃぁ俺も今年入社でまだまだ新人って事もご存じなんですよね? まぁ、これから新人同士、頑張っていきましょう」
「はい、頑張りましょうといいますか、そういう事では無くて……」
え? そういう挨拶的なものじゃないのか?
「他に何かあるんですか?」
「はい、そうなんです……」
「何でしょうか?」
「・・・・・・」
神谷さんは黙って何か考えている様だ。
「どうかされましたか?」
「いえ、それでは単刀直入にお聞きしますが、前に私と会った事がありますよね? 覚えていらっしゃいませんか?」
「えっ!?」
「す、すみません。驚かせるような事を言いまして……」
「い、いえ、そんな事は無いんですが……」
えーっ!? 俺は神谷さんと会った事があるのか? だから自己紹介後に俺の顔をじっと見ていたって事なのか? でも他人の空似って事もあるしなぁ……
でも、もしかしたら消えた記憶の数年の間に俺は神谷さんと出会っているという事も考えられるよな?
「すみません神谷さん。俺と会ったというのはいつくらいなんでしょうか?」
「そうですね……約4年前ですかねぇ……私が派遣の仕事をする前の仕事で会ったのですが……鎌田さんは全然、覚えていらっしゃらないのですか?」
4年前かぁ……その頃の記憶は全く残っていないし、そりゃぁ仮に会っていたとしても俺が覚えているはずが無いって事かぁ……
「すみません。実は俺、数年前に事故にあいまして、その事故の影響で13歳から最近までの記憶が無いんですよ」
「はい、知っています。先程、社長から事故の事もお聞きしました。でも、もしかしたら鎌田さんは断片的に記憶が残っていて20歳前後の頃の事は覚えていらっしゃるかもと思ってつい確認してしまいました。でも、やっぱり数年間の記憶は全て消えてしまっているんですね……」
20歳前後? 俺が20歳前後の頃に神谷さんと出会っているという事なのか?
「そうですね。覚えていなくて申し訳ありません」
「いえ、謝らないでください。鎌田さんは何も悪く無いですから。鎌田さんは被害者ですし……私も逃走犯が起こした事故の事は当時のニュースを観て知っていましたが、まさかその時の被害者が鎌田さんだと社長からお聞きして凄く驚きました」
「でしょうね。ただ俺は事故の内容も覚えていないので何とも言えませんが……でも、こうして俺は生きていて仕事もできるまで身体も回復し、そして記憶は無くても神谷さんと再会できましたし、それに俺はその事故で『大切な人』を助ける事ができましたし……こんな幸せな事は無いですねぇ。ハハハ……」
「大切な人……ほんと、あの時と同じで良い子のままだなぁ……」
「え?」
「いえ、こちらの話です。でも私の事を覚えていないのはよく分かりました。それでは今日から改めて私の事を記憶に残してくださいね? フフフ……」
「ハハ、そうですね。そうさせて頂きます。あ、それと俺と話す時は敬語じゃなくて構いませんから。俺は年下ですし、同じ今年入社で同期みたいなものですし」
「で、でも……」
「お願いします。その方が俺も『マリリン』と気さくに話がしやすいですから。ハハハ……」
「フフ……わ、分かったわ。それじゃぁお言葉に甘えてそうさせてもらうわ。でも鎌田君も私に敬語は止めてよね? 同期なんだし。って事でこれからよろしくね、鎌田君?」
「うん、こちらこそよろしく……マリリン」
こうして俺は社会人になって初めて同期風の後輩ができたのだった。
俺は彼女と談笑をしながら弁当を食べ、そして食べ終わったので席を立とうとするとマリリンが最後にこう言った。
「鎌田君? もし記憶が戻って私と出会った時の事を思い出しても当時の話はしなくてもいいからね?」
「え、なんで?」
「なんでもよ。思い出せば私の言っている意味が分かるわ。だからもし思い出したとしても、その時は私に向かって笑顔でピースサインだけしてくれればいいから」
マリリンは何でそんな事を言うのだろうと不思議な気持ちになりながらも俺は笑顔で「分かったよ」とだけ言って席を離れるのだった。
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