上 下
69 / 93
第7章 試練編

第68話 生と死の狭間/亮二

しおりを挟む
「亮二……亮二……」

 だ、誰だ? 誰が俺を呼んでいるんだ?
 カナちゃんなのか……?

 いや違う。聞いた事のない声だ……

 というか、ここはどこなんだ? 暗くて何も見えない。それに俺の身体は金縛りにあったかのように全然動かす事ができない。

 宙を浮いているのだろうか? そんな感覚もしている。
 俺は車にひかれて死んでしまったんだよな……
 もしかして、ここがあの世っていうところなのか……?

「亮二……亮二……」

 また俺の名前を呼ぶ声がする。
 一体、誰が読んでいるんだ?

 俺は声のする方になんとか目線だけは向ける事ができた。すると目線の先に大きな光の輪があり、その輪の中央部分に光が眩しくて顔はよく分からないが子供と思える様なシルエットが見えた。

 このシルエットの人間が俺を呼んでいたのか?
 俺は恐る恐る、そのシルエットに話しかける。

「き、君は誰だい? っていうか、ここはどこなんだ? やはり、ここがあの世ってところなのかい? 」

「違うよ。あの世ではないよ。ここは『生と死の狭間』で君はまだ死んでいないよ」

「え、そうなのか? あんな酷いはねられ方をしたからてっきり俺は……でも『生と死の狭間』って事はやはり俺は死んでしまうんじゃ……」

「大丈夫だよ、亮二……君は生まれた時から僕に守られている。そして今回も僕が守る。だから君は死なない……でも僕が君を助けられるのはこれで最後になってしまうけど……」

「君が俺を守ってくれる? 生まれた時から守ってくれているっていうのは……それに助けるのはこれで最後って……」

「亮二、僕が誰だか分からないかい? 僕だよ……亮一だよ……」

「えっ!? りょ、亮一兄さんだって!?」

「ああ、そう亮一だよ。初めましてだね……」

「りょ、亮一兄さん……うっ……」

 俺は隆おじさんから聞いた話を思い出す。『違う世界』では俺ではなく亮一兄さんが生きていて幸せに暮らしていたのに『この世界』では亮一兄さんが死に俺が生きている……

「亮二、何故泣いているんだい? せっかくの兄弟再会なのにさぁ……もしかして僕の事を気遣ってくれているのかい?」

「だって本来なら亮一兄さんが……」

「ほんと、亮二は優しい子だねぇ……でも気にする必要は無いよ。こうなる事はずっと前から決まっていたことなんだから……それに僕は『違う世界』ではちゃんと生きているしね。逆に亮二は生まれて直ぐに死んでしまったしさ……だからお互いに気にする事は無いんだよ」

「で、でも……」

「お互いの世界で精一杯頑張って幸せになればいいんだよ。だから『この世界』では亮二が幸せに生きていく為に僕がサポートしてきたんだし……でもサポートも今回で最後になってしまうけど……」

 サポート? それに今回で最後ってどういう事なんだ?

「隆おじさんから話は聞いて理解していると思うけど、『この世界』にはタイムリープ者と呼ばれる『選ばれた』人達が世界中にいるんだよ」

「えっ、世界中に!?」

「うん、お互いに『違う世界』で縁のあった数人が本人達は気付いていないけど一つのグループとして『この世界』にタイムリープしているんだ。そしてその複数あるグループの中でも隆おじさんや石田浩美さんグループの様に『違う世界の未来』から来たことを隠しながら純粋に目標に向かって頑張ったり人助けをする人もいれば、自分の強欲の為に『未来』を無理矢理変えようと理容する人達もいる。まぁ、そういう人達は直ぐに『反動』によって『前の世界』の時よりも酷い目にあってしまうんだけどね」

 は、反動かぁ……隆おじさんはそれを凄く心配していたよなぁ……

「でも隆おじさんのグループは石田浩美さんと、あともう一人いるんだけど、その3名はとても純粋に『この世界』で必死に頑張り生きてきた……だからこれまで彼等自身には大きな反動は起こらなかったけど……それでも『前の世界とは違う未来にする』ということは簡単に言ってしまえば、やはり『自分の欲を叶える』って事になってしまうんだ。だから、多かれ少なかれ『反動』は起こってしまう。本人や家族に反動が無くても親しい人達に反動が起こってしまう事もある……」

「親しい人達……それが俺やカナちゃん、もしくは亮一兄さんって事なのかい?」

「ハハハ、さすがは僕の弟だね。理解が早いなぁ。そういうことなんだ。そしてこれ等の『反動を終わらせる者』として選ばれたのが亮二と三田加奈子さんで、君達二人を『サポートする者』として選ばれたのが僕なんだ」

「お、俺とカナちゃんが『反動を終わらせる者』だって? 何で俺達がそんな役に選ばれなくちゃいけないんだよ? それに世界中にいるタイムリープ者はどういった基準で選ばれるんだい!?」

「さぁ、それは僕にも分からないなぁ。分かる事は一つ、選ばれたからには頑張るしかないって事だねぇ……」

「だとしたら俺はカナちゃんを守れたし、それで俺がこのまま死ねばその『反動』っていうのは終わりだよね?」

「だから亮二は死なせないって言っているじゃないか。亮二が死んでまったら加奈子ちゃんが悲しむし、それに別の人に新たな『反動』が起きてしまうかもしれない……だからこの反動は『君達』で終わらせて欲しい……いや、終わらせないとダメなんだ。だから僕も最後に亮二の命を助けるんだよ……」

 そう言えばさっきから亮一兄さんは『最後』って言葉を使っているけど……

「その……最後というのはどういうこと?」

「うん、そうだね。『最後』の意味を言えてなかったね。実はこれまで亮二や加奈子ちゃんの事をサポートしてきた僕だけど、それはあくまでも君達二人が巡り合う様に、良い人達に囲まれて幸せに生きていく様にと、お膳立てのような事をしていただけなんだ。でも今回は今までとは違う。亮二の命を救わなければいけない……その為には僕が持っている全ての力を出さなくちゃいけないんだ。まぁ、簡単に言うと亮二の命を救う代わりに僕の魂は完全に消滅すると思ってくれればいいよ。だからこれで『最後』なんだよ。だから最後に亮二と話をしたいというお願いも叶えてもらったって感じかな……」

「そ、そんな俺なんかの為に……」

「亮二の為、可愛い弟の為だからだよ。それに加奈子ちゃんの為でもあるし……僕は『この世界』で二人が幸せになってくれればそれで満足なんだ。だから亮二が気にすることは何も無い。逆に僕の為にも『この世界』で精一杯生きて幸せになって欲しい」

「亮一兄さん……グスンッ」

「亮二に兄さんって言って貰えてとても嬉しいよ。これで僕も思い残すことは何も無い……後は君達が頑張る番だよ……そして『反動』を終わらせてみんな幸せになって欲しい……」

「うん、俺頑張るよ。頑張って絶対にカナちゃんと幸せになってみせる!!」

「ああ、期待しているよ。ただ、亮二の命を救う為には一つだけ『代償』があるんだ。時間はかかるかもしれないけど二人ならきっとその『代償』だって乗り越えれると思うから……」

「え? だ、代償って……」

「代償というのは……実は……」


――――――――――――――――――――――――

「えっ!? そんな代償が!? そ、それじゃぁ俺が目を覚めても……」

「でもこれは仕方の無いことなんだ。死んでもおかしくない亮二を救うんだから……それに加奈子ちゃんにもこれから幸せになる為に何らかの『試練』が必要なんだよ。亮二の事を心の底から愛しているあの子ならきっと大丈夫。絶対に試練を乗り越えれると思うよ。だから亮二は加奈子ちゃんを信じて待てばいい」

 カナちゃんの試練……本当に大丈夫なんだろうか……でも俺がカナちゃんを信じないなんてあり得ないし……

「分かったよ。俺はカナちゃんを信じる。そして『その日』が来るまで待ち続けてみせる……」

「うん、その意気さ。絶対に二人は幸せになれるから……さぁ、そろそろ時間が来たみたいだ。これで亮二とはお別れだよ。最後に一つだけ……真保のことなんだけど、あの子は双子で生まれて自分だけが幸せに生きていることをある時期から罪悪感に感じてしまったみたいでさ、それで亮二達とも遊ばなくなっなり両親にも甘えなくなったみたいなんだ。だから亮二から真保に話せる時期が来たら僕は真保を恨んでいないし、僕の事は気にしなくていいから自分の想いのままに生きて欲しいし家族とも仲良くして欲しいって伝えてくれないかな?」

 そうだったんだ……

 言われてみればそうなんだ。真保姉ちゃんも小さい頃は俺や広美、それに千夏ねぇとも一緒に遊んでいたのにある時期から俺達を避けるかのように一緒に遊ばなくなったし、父さんや母さんに甘えるような素振りも見せなくなった。

 高校も寮生活だったし、大学も地方の大学で一人暮らしをしていてほとんど実家に帰って来ない……

 俺は真保姉ちゃんの事をとてもクールな性格だなぁって思っていたけど、亮一兄さんの事を想ってワザとそんな振舞いをしていたのかぁ……

「分かった。時期が来たら真保姉ちゃんに亮一兄さんの想いを伝えるよ」

 俺がそう返事をすると亮一兄さんは笑みを浮かべながら俺を抱きしめた。そして兄さんの身体が更に光輝いたかと思うと少しずつ消えていく。

「ありがとう。これで僕も心配事が全て無くなり安心だ。それじゃぁこれで本当にお別れだよ。次に生まれ変わっても亮二達と身内になれるといいなぁ……今度は一緒に楽しく生活がしたいなぁ……」

「に、兄さん!!」

 亮一兄さんは俺の前から消えてしまった。俺の目からは大量の涙が流れ落ちている。

「兄さん……亮一兄さん……俺、絶対に亮一兄さんの分まで幸せになってみせるから……」


 俺は目が覚めた。

 どうやら俺はベッドの上で眠っていたようだ。部屋の明りが眩しすぎるのか目から涙が流れている……

 そして涙で目が霞んでいる俺の前に今にも泣きだしそうな真保姉ちゃんが覗き込んでいるのだった。






――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
第7章『試練編』スタートです!!
そして『最終章』へと進んでいきます。
どうぞ完結までお付き合いくださいませm(__)m
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

甘い誘惑

さつらぎ結雛
恋愛
幼馴染だった3人がある日突然イケナイ関係に… どんどん深まっていく。 こんなにも身近に甘い罠があったなんて あの日まで思いもしなかった。 3人の関係にライバルも続出。 どんどん甘い誘惑の罠にハマっていく胡桃。 一体この罠から抜け出せる事は出来るのか。 ※だいぶ性描写、R18、R15要素入ります。 自己責任でお願い致します。

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎ ——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。 ※連載当時のものです。

処理中です...