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第6章 衝撃の事実編

第59話 存在しない二人/亮二

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 俺は隆おじさんから香織おばさんと結婚するまでの経緯を詳しく聞いていた。

 聞けば聞く程、驚きの連続だったが、それと同時に何かワクワクしている自分もいた。

 中身は大人だが見た目は子供……どこかで聞いた事のある様な話だが、それが現実に起こっているのだ。

 隆おじさんはマスターの奥さんとは小1の頃から交流があり、中学の頃まで好意を持たれていたそうだ。でも隆おじさんは中身が大人だった為、奥さんのことを子供としてしか見れなかったらしい。これについては広美も同じような事を言っていたよな。

 そして現在、大女優と言われている岸本ひろみ、本名は岸本順子さんというらしいが、彼女に女優になる事を勧めたのは隆おじさんだそうだ。

 隆おじさんは15歳という若さで亡くなった石田浩美さんが女優になりたかった夢を親友である岸本さんに託したかったらしい。
 
 それを本当に実現してしまった岸本さんは凄い人だと思う。

 その成功した姿を五十鈴広美として転生した広美も陰ながら喜び、そして今は岸本さんの指導のもと女優を目指して頑張っている。本当に不思議な話だよなぁ……

「あれだけ『お父さんお父さん』と言っていた子が全然、連絡をしてこないから少し寂しいけどねぇ……ハハハ……遂に広美もお父さん離れができたのかもな……」

 ただ、隆おじさんは石田浩美さんも同じタイムリープ者という事は亡くなる一ヶ月前に本人から聞いて知っていたが、娘の広美が転生した石田浩美さんだって事は知らないみたいだ。この事に関しては広美は思うところがあって今までずっと隆おじさんに隠してきたんだから他人の俺が余計な事を言うつもりは無い。

 ちなみに隆おじさんは『前の世界』で香織おばさんの死を知るまではずっと石田浩美さんが初恋の人だと思っていたらしい。でも香織おばさんの死をきっかけに幼稚園時代の記憶が一気に甦り本当の初恋の人は香織おばさんだと思い出したそうだ。

 今思えば、その後に隆おじさんが好きになった女性は全てどことなく雰囲気が香織おばさんに似ていたらしく、香織おばさんは隆おじさんの心の中で知らず知らずに理想の女性として大きな存在になっていたのだろう。

 その香織おばさんに似た雰囲気を持っている代表格が石田浩美さんともう一人いた。そのもう一人がカナちゃんのお母さんの三田真由子さん……旧姓、佐々木真由子さんだった。隆おじさんは『マーコ』と呼んでいる。

 石田さんの死を引きずりながら高校生になった隆おじさんの心の傷を癒してくれたのがカナちゃんのお母さんだったそうだ。バイトも同じで二人は周りから付き合っているのかと思われるくらいに仲が良かった。

 でも『前の世界』のおじさんは告白する勇気を持てずにいた。そしてカナちゃんのお母さんはその後、バイトの先輩であった今のご主人の三田司さんと付き合う様になったらしい。

「ほんと、前の世界の俺は今考えても根性無しの冴えない男だったと思うよ。ハハハ……結局、石田にもマーコにも告白できなかったんだからね……」

「でも、『この世界』のおじさんは『前の世界』とは違う人生を歩んで来たんですよね? 現に香織おばさんと結婚されていますし……」

「そうだね。子供からやり直すチャンスをもらえた俺はその目標を達成する為に必死で『この世界』で頑張ってきたからねぇ……だから、その頑張りの影響だと思うけど『前の世界』とは違う未来に少しずつ変化していったのは間違いないと思う」

 隆おじさんの言う『前の世界とは違う未来』……

 それは『前の世界』ではろくに会話もした事が無い高嶺の花だったマスターの奥さんに一方的に好かれ告白までされたり、『前の世界』の小学生の頃は顔を会わすたびに口喧嘩ばかりしていた石田さんと小学生の頃からとても仲良くなって、小6の時と中3で亡くなる数日前に石田さんから二度も告白されている。

 これは前に広美が話していた通り、同じタイムリープ者の石田さんも隆おじさんに好きだという想いを伝える為、飛行機事故での死を回避する為に人生を必死でやり直しをしていたのも大きかったという事も理解できる。

 他にも隆おじさんの話ではたくさんの未来が変わってしまったそうだ。『前の世界』ではずっと片思いだったカナちゃんのお母さんに告白されてしまったり……

「俺が香織と結婚する為に必死で頑張っていた矢先にマーコから告白された時は凄く焦ったよ。何で『前の世界』ではなく『今の世界』で告白してくるんだよって心の中で叫んだくらいさ。ハハハ……ほんと俺のやり直し人生は試練の連続だったなぁ……」

「でも、数々の試練を乗り越えて香織おばさんと結婚されたのですから、凄いですよね? 『前の世界の未来』を変えたんですから」

「そうだね。自分でもよくぞここまでっていう思いはあるよ。ただこの歳になると色々と不安になってしまう事もあってねぇ……」

「え? とても幸せな状況なのに何を不安になる事があるんですか?」

 今の幸せは隆おじさんの努力の結果じゃないか。なのにどうして不安になるんだろう?

「変わり過ぎたんだよ……」

「え?」

「俺や石田が『この世界』でタイムリープした影響で『前の世界の未来』と変わり過ぎたのが今になって少しずつ不安になってきてねぇ……特に亮二君を見ると……いや、最近は加奈子ちゃんもかなぁ……」

 変わり過ぎた? それに俺やカナちゃんを見てってどういうことなんだ?

「隆おじさん、どういうことですか? 俺に分かるように説明してもらえませんか?」

「ゴメンゴメン、そうだね。今のじゃ理解できないよな。俺と石田が『この世界』で夢を叶えようとすればする程、『前の世界の未来』とは違う結果が増えていったんだ。俺の恋愛に関してはさっき話した通りで、彼女達に告白されるとは思ってもいなかったし……岸本も『前の世界』では女優では無かったし……」

 隆おじさんは少し暗い表情をしながら語り始める。

 おじさんの親友の高山さんという人は『前の世界』ではバツイチだったそうだが、『この世界』では隆おじさんの妹のかなでさんと結婚してしまったり、元々『前の世界』では隆おじさんのお父さんが経営していた会社は弟さんが継いでいたのだが『この世界』では隆おじさんが継ぎ、弟さんはくしくも隆おじさんがリストラにあった会社に現在、課長として勤めているそうだ。

「でも今の話を聞いていると誰もが幸せになっているから良いと思うのですが……」

「そうだね。俺の周りはとても幸せだと思うよ。だからこそ不安もあるんだよ。もしかしたら俺が幸せになった分、その『反動』で誰かが不幸になってしまっているんじゃないかってね……俺の目標達成の為に犠牲になっている人もいるのでは? なんて考えてしまうんだ……」

「そ、それは考え過ぎなのでは……」

「そうだといいんだけどね。ただ現実に『前の世界』と『この世界』では間違いなく違う未来が俺の目の前で結構起こっているのは確かだろ? 亮二君にはとても言いにくい話なんだが、これから加奈子ちゃんと二人で幸せになってもらう為にも知っていて欲しいことがあるんだよ。実は本当に亮二君に伝えたいのはそのことなんだ……」

「え? ど、どういう事ですか?」

「まず一つは……『前の世界』のマーコは三田さんと付き合う事にはなったけど、直ぐに別れているんだよ。その後、三田さんと再び付き合って結婚したという話は聞いていない。つまりそれは……」

 そ、それってまさか!?

「『前の世界』では、あのとても可愛らしい三田加奈子ちゃんという子は存在していないってことなんだよ……」

「えっ!?」

 か、カナちゃんが『前の世界』では存在していないだなんて……
 でも三田さん達が結婚していなければ確かにカナちゃんは生まれていない訳で……

「そして亮二君……」

「は、はい……」

「君は加奈子ちゃんとは違って『前の世界』でもちゃんと存在はしていたんだが……」

 存在していた? え、何か過去形の様な言い方だけど……

「『前の世界』俺が今みたいに親しく亮二君と話をした事は一度も無いんだ。あるのは君のお姉さんの真保ちゃんと……そして君のお兄さんの亮一君だけなんだ」

「えっ!?」

「君は……生まれて直ぐに亡くなってしまったんだよ。そう、『この世界』では亮一君と亮二君の人生が逆になっている。これが俺の中で『前の世界』と『この世界』の大きな違いの一つなんだ……」

 『前の世界』では亮一兄さんが生きていて俺は生まれて直ぐに死んでいた……信じたく無いけど、今までの話を全て信じて自分に関わる話だけは信じないというのはおかしい。

 だから……

 今の俺は亮一兄さんの人生を奪い生きているのか……ウッ……
 
 俺の頬に涙が流れる。
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