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第2章 再会編

第13話 奇跡の再会/加奈子

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 私は妹の静香と手を繋ぎながら歩いている。その私達の後ろでは嬉しそうにしている桜ちゃんとあまり元気の無い翔太が歩いていた。

 そんな翔太を気にしながら歩いている私まで元気が無くなりそうだけど、私の前を歩いているお母さんとお父さんがとても楽しそうに話している姿を見るとなんだか温かい気持ちになる。

「真由子、やっぱり何度来ても懐かしく感じてしまうよな?」

「うん、そうね。私達って年に2回は加奈子達とエキサイトランドに来ているから本当なら毎回、懐かしく感じるはず無いんだけどねぇ……何でかなぁ?」

「うーん、やはりここでのバイト時代が今までの人生の中でめちゃくちゃ濃かったからじゃないかなぁ」

 お父さんがお母さんにそう言っていると更に前を歩いていた桜ちゃんのお母さんが後ろを振り向き二人に話し出す。

「二人共、何を言っているのよ? 私なんて高校3年間、ここでバイトしてたんだからね。私の方がマーコよりも濃いバイト生活だったわ。本当は高2で辞めるつもりだったけど誰かさんが急に辞めちゃったからさ、辞めづらくなって……」

「ゴメン、チーチュ……そうだったよね? 主人と再会した時にそれを聞いてとても申し訳ないと思ったわ」

「フフフ……冗談よ。私もマーコがいた時がバイトしていても楽しかったし、一番の思い出だから……」

「チーチュ……」

 桜ちゃんのお母さんって、とても怖い人なのか優しい人なのか分かりづらい人だなぁ……きっと桜ちゃんの性格はお父さんに似たに違いないわ。

「加奈ちゃん?」

「え?」

 私に声をかけてきたのは翔太のお母さんだった。

「最近、加奈ちゃんが家に遊びに来ないからとても心配してたのよ。今日は一緒に遊園地に来れて本当に良かったわ」

「わ、私も久子おばさん達と一緒に来れて良かったよ」

 本当はとても辛い一日なんだけどね。

「もしかして翔太と何かあったの? あまり翔太と会話をしていないような感じがするのだけど。それとも加奈ちゃんは翔太よりもしっかりしているから、お友達の桜ちゃんに気を遣ってくれているのかな?」

「ハハハ、まぁ、そんなところかも……」

 実際に私は桜ちゃんに気を遣っているのは間違いない。それと事前に桜ちゃんから翔太と二人でいられるように頼まれてもいるしね。

「ただね、最近の翔太あまり元気が無いように見えるのよ。生意気にも小学生のクセしてあんな可愛らしい彼女ができたというのにねぇ……本人は照れながら桜ちゃんの事が好きって言っていたけど本当にそうなのかしら? 加奈ちゃんはどう思う?」

「えっ!?」

 さすがは翔太のお母さんだと思った。
 翔太の態度である程度分かるんだなぁ……
 うちのお母さんもそうだけど、やっぱり親って凄いんだなぁ……

 ただ私が返事に困っていると久子おばさんが慌てた表情をしながら謝ってきた。

「ゴメンなさいね? おばさん、加奈ちゃんを困らせるような事を聞いちゃったみたいだね? 今の質問は忘れてちょうだい。ただね、できれば今まで通り翔太と仲良くしてやってくれないかな?」

「う、うん……分かった……」

 すると先頭を歩いていたおじさんが走って久子おばさんの所まで戻って来たかと思えば興奮した声でおばさんに話し出す。

「久子!! やっぱり、ジェ、ジェットコースターに乗らないか!? まずはジェットコースターから攻めるのが遊園地のセオリーだろ!?」

 おじさんが子供のようにはしゃぎながら久子おばさんに言っている姿はとても可愛く見えた。でもそんなおじさんに対して久子おばさんは呆れた顔をしている。

「はぁぁ……ジェットコースターから攻めるって何よ? あなた絶叫系はダメな人でしょ? それに遊園地にセオリーなんてあるの?」

 私が4歳くらいの頃に近くに引っ越してきた時はどんな人達が引っ越してきたのか不安だったけど、初日にうちへ挨拶をしに来た時にはその不安は直ぐに無くなった。

 おじさんはとても面白い人だし、おばさんはとても美人で優しいし、どことなくうちの両親に雰囲気が似ているから安心したのかもしれない。

 だから私は山田夫妻が大好きだ。

 それに私より一つ上の翔太もあの時は今と違って凄く私に優しかったから直ぐに仲良くなったしどちらかと言えば好きな方だったと思うけど途中から翔太の意地悪が始まり、私は翔太のことが嫌いになってしまった。

 でも、こないだ翔太から初めて私に意地悪をしていた理由を聞いた。

 私が幼稚園児の時にこのエキサイトランドで出会って初めて好きになったりょう君のことばかり翔太に話していたことが凄く嫌だったということを……そしてそれが私に意地悪をするキッカケになったんだということを……

 そう考えると私の方が長い間、翔太に嫌なことをしていたんだなぁって反省してしまうし、逆の立場で考えれば、もし私の前でりょう君が好きな人の話ばかりしていたら……さすがに私はりょう君に意地悪なんてしないけど、その場にずっとはいれないと思う。

 そんな事ばかり考えて歩いていると手を引いている妹の静香が私に不満そうな顔をしながら質問をしてきた。

「ねぇ、お姉ちゃん? どうしてさっきから何もしゃべってくれないのぉ?」

「えっ? ああ、ゴメンゴメン、静香。ほんとだねぇ……お姉ちゃんさっきから何もしゃべらずに歩いていたねぇ? それじゃぁねぇ、静香はどの乗り物に乗りたいかしら?」

「うーん、えっとねぇ……あたしはぁ、メリーゴーランドに乗りたい」

「そっかぁ、それじゃあ後でお姉ちゃんと一緒にメリーゴーランドに行こうね?」

「うん!!」

 静香とそんなやり取りをしているとお母さんが皆に聞こえるくらいの大きな声で話し出す。

「皆さん、申し訳無いけど今日は最初に『ハリケーン・エキスプレス』に行くのでよろしくです。そこで私の元教え子がアルバイトをしているから早く会いたいので……」

「ん? そういえば彼のバイト先のアトラクション名を聞いていなかったなぁ……どこなんだろう? 聞いておけばよかったなぁ……ブツブツ……」

 翔太のお父さんが何かブツブツ言っていたけど私にはあまり聞こえなかった。逆にお母さんの言葉に久子おばさんがニコニコした顔でお母さんに話しかける。

「教え子っていう響きていいわねぇ……凄く憧れちゃうわ」

 続いて桜ちゃんのお母さんも話し出す。

「ほんと、いいわねぇ……しかしマーコが幼稚園の先生って未だに信じられないわ」

「ハハハ、そこは信じてちょうだいよ。こう見えても私、園児達に人気あるんだからねぇ」

 お母さんは苦笑いをしている。しかし久子おばさんが今からする質問を皮切りに一緒に来ている大人全員が奇跡を感じることになる。

「ところで三田さん? 教え子っていうのは女の子なの?」

「ええ、そうよ。幼稚園の頃からとても可愛らしい子でね、将来、女優になる為に演劇部で頑張っている子なの。名前を聞いたらチーチュも驚くと思うわ」

「え、そうなの? もったいぶらずに早く名前を教えてよ?」

「実はその子の名前はねぇ……五十鈴広美ちゃんっていうのよ」

「 「いっ、五十鈴広美ですって!!??」 」

 突然、桜ちゃんのお母さんと久子おばさんが大きな声を出しながら驚いたので私は二人の声に驚いて心臓がドキドキしてしまった。でもお母さんは何故か不思議そうな顔をしている。

「あれぇ? チーチュが驚くのは分かるわよ。あなたも広美ちゃんのお父さんと高校の同級生だしね。でも何で山田さんの奥さんが広美ちゃんの名前を聞いて驚くのかしら……?」

「そ、それは……広美ちゃんのお父さんと私は小中校と同じ学校に通っていた同級生だから……それに私も小さい頃の広美ちゃんとは何度か会っているし……しかし本当に驚いたわ。まさか思いがけない形で広美ちゃんと再会できるだなんて……」

 そうだったんだぁ……広美さんって久子おばさんとも知り合いだったんだぁ……
 これって凄い奇跡じゃないの? いいなぁ……私にも早く奇跡が起こらないかなぁ……


 そして私達はこんなところで興奮している場合じゃないという事で急いで広美さんがアルバイトをしている『ハリケーン・エキスプレス』へと向かった。

 さすがに今日は日曜日ということで、たくさんのお客さんの列ができている。

 私達は最後尾へと並び順番が来るのを待っていた。

「そういえば4歳の静香はハリケーン・エキスプレスに乗れるのかい?」

「うーん、どうだったかな? もし無理だったらあなたは加奈ちゃんと二人で乗ってちょうだい」

 そんな会話をしながら待つこと30分、ようやく私達の順番がきた。
 そして搭乗口付近には大人の女性と若い女性が受付をしている。

 あの若い方の女の人、とても綺麗だなぁと私が思っているとお母さんが突然、大きな声を出した。

「広美ちゃん-ん、久しぶり~!! しばらく見ないうちにすっかり大人の顔になっちゃって~!! ほんとお母さんにソックリだわ!!」

 私達の列の先頭にいたお母さんは搭乗口に着くなり綺麗な女の人に凄いテンションで話しかけていった。

 やっぱりこの人が広美さんなんだぁ……近くで見ると更に綺麗な人だなぁ……でも、この人、どこかで会ったことがあるような……


 広美さんのことをジッと見ていた私だったけどふと操縦室の前に立っている男の人が視界に入った。

 きっと仕事中にお母さんが広美さんに話しかけているから困っているんじゃ……

 そう思いながらその人の顔を遠目で見た途端、私の身体に衝撃が走った。

「ウソ……」

 そして身体が勝手に震えだし、自然と大量の涙が流れ落ちてきた。

 ま、まさか……こ、こんなことってあるの……

 私にも奇跡が起こったというの……

 操縦室の前にいる人は間違いなく私の初恋の人……

「りょう君……」






――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
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