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第1章 片思い編

第4話 想い人/加奈子

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 私の名前は三田加奈子みたかなこ、今年で11歳になる小学5年生の女の子。
 家族や友達からはカナちゃんって呼ばれている。

 性格は両親に似て明るい方だと思う。周りの友達からは少しマセた子って言われているけどね。

 どこがマセているのかと言えば、幼稚園の頃から好きな人がいるって友達に言い続けていたから……

 私が幼稚園の頃から好きな人……それは私が遊園地で迷子になった時に助けてくれたお兄ちゃん、名前はかまたりょうじ君……

 あの時からずっとりょう君の事を忘れた事は無い。

 あれから毎年、家族や友達と年に2回程、あの遊園地に行っているけどりょう君には未だ会えていない。まぁ、普通に考えればそう簡単に会えるはずもないのだけど……

 でも私はりょう君にいつかきっと会えると信じている。
 いえ、信じたかった。

 小さい頃からお母さんに「奇跡ってあるんだよ」って聞かされていたので、それが信じている原因になっているんだと思う。

 諦めずにりょう君の事をずっと思っていれば、いつかきっと会えるはず。

 それに今の私は小学生だからりょう君を探し出す方法なんて何も浮かばないけど、中学生になれば今よりも頭も良くなっているだろうし、行動範囲だって広がる。

 りょう君に会えるのを待つだけではなく自分からも色々と動いてりょう君を探しだす事も出来るかもしれない……だから私は絶対に諦めない。



 先ほど触れたお母さんが言っていた「奇跡ってあるんだよ」の話……

 お母さんが高校生の頃の初恋の話はいつ聞いても私の胸をドキドキさせてくれる。
 でも私からすればその話はドキドキはするけど奇跡だとは思えない。どちらかと言えば切ない話だと思う。

 でもお母さんからすれば奇跡らしい。

 そんなお母さんは旧姓、佐々木真由子ささきまゆこといいい、お父さんと結婚して三田真由子になった。

 仕事は幼稚園の先生をやっていて、園児達からは「マーコ先生」って呼ばれている。たしか今は主任らしいけど、それって幼稚園の中でも偉い先生なんだよね?

 前にお母さんに聞いたら「偉いはエライでも身体がえらいだけよ」って笑いながら言っていたけど、そうなの?

 そんなお母さんは高校1年生の時に行われた「ホームルーム合宿」という行事で飯盒炊飯の担当をしていた時に軽い火傷をした。

 すると近くにいた男の子が直ぐに駆け寄って来て手当をしてくれたらしい。そしてお母さんは手際よく手当をしてくれている男の子の姿がとてもカッコよく見えて好きになったそうだ。

 それがお母さんの初恋だったって言っているけど本当かなぁ? それって遅く無い? 私なんて幼稚園の時に初恋をしているのに……

 まぁ、それはそれとして……

 私も遊園地でりょう君に助けてもらった時の姿を見て好きになったので、そういうところはお母さんによく似ている。

 そのお母さんが好きになった人もお母さんに対しての態度や言動の感じからするとまんざらでも無いように思えたらしいけど、どうしても二人が結ばれる事は無かったみたい。それは何故か……

 それはその人には小さい頃から心に決めている人がいて、ある日、お母さんはその女性に初めて会ったらしくて、その時の印象でこの人には絶対に勝てないと思ったからだそうだ。

 お母さんの初恋の人が好きだった人は幼稚園の時の先生……実はお母さんもその人と交流していくうちに人柄が好きになり、こんな女性になりたいと思う様になり、自分も将来、幼稚園の先生になろうと決意したくらいの人だったらしい。

 私はそれを初めて聞いた時、自分の耳を疑った。何を疑ったのかというと、お母さんの初恋の人は17歳も年上の幼稚園の先生の事をずっと想っていたということだ。

 普通なら考えられない話だと思う。

 お母さんも最初の頃はそんなおばさんに若い自分が負けるはずが無いと思っていたけど、結局、初恋の人の想いが強いだけではなく、実はその先生も彼の事をずっと想っていて二人が強い絆で結ばれている事が分かり、結局、お母さんは二人の邪魔をするのはよくない、好きな人に幸せになってもらいたいという思いから自ら身を引いたそうだ。それも福岡県の高校に転校という形で……

 その後、二人は本当に結婚したっていうのが私にはとても衝撃過ぎる話だった。

 ここまでの話だと初恋が失恋で終わったお母さんが可哀想なだけで、どこが奇跡なの?って思うかもしれないけど、私が感動したのは17歳もの歳の差を跳ねのけて幼稚園の頃からの夢を叶えて結婚したという二人に奇跡を感じちゃったの。

 もしかしたら私だってりょう君と……二人みたいに17歳も歳は離れていないし、私の方がその二人よりも条件は良いと思ってしまう。

 それを考えるといつも身体中が熱くなってしまう私がいる。

 ちなみにお母さんは、その頃、初恋の人と付き合える様にいつも陰から応援してくれていたバイト先の先輩がいたそうだ。その先輩こそ私のお父さん、三田司みたつかさだった。

 数年後、お母さんはこの青葉市にある『青葉大学』に入学する為に戻って来た。そして数年ぶりに街を散歩していた時にお父さんと偶然再会して、昔話で盛り上がり、そのまま自然と付き合う様になりそして結婚する事に。

 あっ、一つ言い忘れていたけど、実はお母さん、お父さん、そしてお母さんの初恋の人は同じところでアルバイトをしていたの。そのバイト先が何を隠そう、私が迷子になったあの遊園地、『エキサイトランド』なの。これって何か凄くない?

 ある意味、これが奇跡みたいな気がするわ。

 話しを戻すけど、ただお母さんなりに奇跡はあったみたい。

 お母さんが初めて幼稚園の先生になって受け持ったクラスの園児の中に初恋の人の娘さんがいたそうだ。私だったら凄く複雑な気持ちになっちゃうけど、お母さんはそれを奇跡だと感じたみたい。

 大好きだった人の娘さんの担任をできるだけでも自分は幸せだったと……

 そしてその娘さんは卒園後、頻繁にお母さんに会いに来ていたそうで、執拗にお父さん、私のお母さんからすれば初恋の人の高校時代の話を聞いていたみたい。

 何でその娘さんは自分の父親の高校時代の話を聞きたがったのだろう?
 私は全然、お父さんの学生時代の話なんて興味ないけどなぁ……

 私は全然覚えていないけど、その娘さんは私が三歳くらいまでは家に遊びに来ていたらしいけど、その後、学校の部活が忙しくなったということで来なくなってしまったそうだ。

 でも年賀状のやり取りはしているし、たまに電話はかかっているみたい。何度かお母さんが楽しそうに携帯で電話をしている姿を見たけど、電話の相手はきっとその娘さんだろう。

 トゥウルルル トゥウルルル トゥウルルル

 ピッ

「もしもし~あら、久しぶりだねぇ? 元気だったぁ? うんうん、そっかぁ……そうなんだぁ……」

 ほら、噂をすれば……恐らくその娘さんからの電話だわ。

「へぇ、広美ちゃんも高校3年生になったんだぁ。それで大学には進学するのかなぁ? え、東京に行っちゃうの? うんうん、なるほどねぇ……今も小さい頃からの夢を叶えるために頑張ってるんだぁ」

 小さい頃からの夢って何だろう? 

「広美ちゃんなら大丈夫よ。これまで必死に頑張ってきたんだし、きっと素敵な女優さんになれると思うわ」

 えっ!? じょ、女優ですって!?




――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
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