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第1章 片思い編
第3話 片思い/亮二
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俺の名前は鎌田亮二
今は平成19年4月後半、俺は4月生まれなので最近、18歳になったばかりだ。
月日が経つのは早いもので、あっという間に高校3年生になってしまった気がする。
俺が通っている高校は自転車で通える距離だが校舎が高台にある為、最後の上り坂、通称『地獄坂』を毎日クリアしないといけないので授業が始まる前から疲れて切ってしまう様な公立高校だ。
本来、高3といえば受験生と呼ばれるのだが、昔から勉強嫌いだった俺は高校生になれただけで十分に満足をしていて、元から大学に進学する気は全く無く、卒業したら就職するつもりでいる。
だから日々、留年しない程度には勉強をやっているけど、日頃はバイトに明け暮れている俺であった。
という事で今通っている高校、『青葉東高等学校』は進学校なので、本来俺みたいに大学に進学する気の無い人間が来るような高校ではないということだ。
それなのに何故、俺みたいな奴がこの高校を受験したのかと言えば、その理由は簡単だ。俺が小さい頃から片思いをしている幼馴染の五十鈴広美がこの高校を受験すると言ったから……
その為に俺は中学時代に嫌々、塾に通ってなんとか青葉東高校に合格したって感じだ。俺としてはあの頃が勉強のピークだったのかもしれない。目標を果たした俺はマジで勉強を頑張る気が起こらなかった。
「ねぇ、亮君は本当に大学には行かないの?」
広美が時折、同じ質問をしてくるけど、今日も聞いてきた。
「ああ、行かないよ。毎回言っているだろ、俺は卒業したら就職するって……」
「でもさ、こんな仕事をやりたいっていうのも無いんでしょ? それだったら四年間、大学に通ってみたらどうなの? もしかしたら将来、何かやりたい事が見つかるかもしれないじゃない?」
広美の言っていることも正しいとは思うけど、今の俺にはもう必死に勉強するパワーなんて残っていないんだよ。それに……
「ひ、広美だって大学に行かないじゃないか!? それなのに何で大学に行かない広美が俺にいちいちそんな事を言うんだよ? 広美にそんな事を言う権利は無いと思うんだけどな」
俺は少し怒り口調で言い返す。でも広美は俺みたいな奴の返しくらいでは怯まない強い女性なのも知っている。
「私は亮君と違って目標があるからね。卒業したら東京に行く予定だしさ。それに青葉東を受験したのは大好きなお父さんの母校って事もあったしねぇ」
「ほんと、広美は相変わらず超が付く程のファザコンだよな!? いつになったらそのファザコンを卒業するんだよ!?」
「フンッ、私はファザコンで構わないし、卒業する気も無いわ」
「はぁ……何だかなぁ……」
そう、広美は昔から超ファザコンである。だから他の男子達の告白も受け付けないのは安心できるところだけど、そんな広美に俺まで躊躇してしまい、この歳まで告白できないでいたのだ。
お陰で俺は彼女いない歴、自分の年齢、勿論、言いたくは無いが童貞だ。
今までに何度か告白された事はあるんだけどな!! いやマジで。
でも広美が好きな自分の気持ちを裏切る事ができなかったんだ。
それに広美は高校を卒業したら上京して芸能の専門学校に入学し本気で女優を目指すと言っていたのも俺が一歩、踏み出せない理由にもなっていた。
まぁ、小学生の頃から常に聞かされていた広美の夢だったので一番、理解していると思っている俺が広美の夢の邪魔をしたくないという思いもあったからってこともある。
女優になる夢を叶える為に広美は小学生の頃から演劇部に入り、必死に頑張っている姿を一番近くで俺は見ていたから広美が本気だってことはよく知っている。
一番近くでっていうのは、俺も広美の傍にいたくて入りたくもない演劇部に所属していたからだ。中学生の頃も流れで俺は演劇部に入部してしまい、不覚にも部長にまでなってしまった。
ちなみに中3の夏休みに一緒に遊園地へ遊びに行っていたのは広美や演劇部の仲間達だった。
そう言えば高校生になってから広美と一度も遊園地に行っていないよなぁ……
「亮君だって高校でも演劇部に入っていたら私と一緒に俳優を目指すようになっていたかもしれないのに。お芝居上手だったのになんか勿体ないよなぁ……」
「ハハハ、俺は広美と違ってそんな芝居の才能なんて無いよ。それに努力家でも無いから救いようが無いしさ……」
そうなんだ。俺だって演劇をやりだした頃はもしかしたら俺にも演技の才能があるんじゃないのかと思った事もあったけど、直ぐにそんな甘いものでは無いと痛感したんだ。
少しは努力したけど、直ぐに嫌気がさしてしまって……それなのに演劇に対しての熱が冷めていた中学生になっても広美を追いかける為に広美に俺という男を常に認識してもらう為だけに演劇部に入部したズルい男なんだよ……
それなのにいつも広美は……
「もう、亮君は何でいつも自分の事を卑下するのよ? 私は亮君のお芝居はとても上手だと本当に思っていたし、部長として部員達の事も良くまとめてくれていたし……それになんてったって亮君は誰にでも優しいし、正義感も強いしさぁ……たくさん良いところがあるんだから、もっと自分に自信を持ちなさいよ!?」
「はぁ……ハイハイ、ありがとさん。俺の事をそこまで褒めてくれるのは広美だけだよ……」
ほんと、広美の言葉にはいつも励まされるし癒されるよなぁ……
そういったところを好きになってしまったんだけど……
俺の方が半年も先に生まれているのに、俺がリードしなくちゃいけないのに、しっかり者の広美の事をたまに『お姉ちゃん』の様に感じてしまう時がある。
「いずれにしてもまだ三年生になったばかりだし、まだ時間はあるんだから自分の将来の事をもう少し考えた方がいいと思うよ」
「わ、分かったよ……バイトしながら考えてみるよ……」
「はぁ? 何でバイト中に考えるのよ? バイトはちゃんと集中してやりなさい!!」
前言撤回……俺は広美がたまに『母親』に思える時がある。
「ただいま……」
「お帰り、亮二。今日はアルバイトの日だったかな? 夕飯はどうする?」
「ああ、夕飯はいいよ。バイト先でまかないが出るから」
「そう言えば亮二は本当に大学に行く気は無いの? まぁ、今の成績で亮二が行ける大学なんて無いと思うけどさ」
この遠慮なしにハッキリとモノを言う女性は俺の母親で名前は鎌田志保という。こう見えても数年前までは幼稚園の先生だったんだ。でも身体を壊してしまい、仕方なく退職し、今は専業主婦をやっている。
母さんは広美の母親の大学時代の後輩でもあり、幼稚園の先生としても先輩後輩の間柄である。また父さんの鎌田三郎も母さんと同じ大学の同級生ということで母さん同様に広美の母親の後輩でも有る。ちなみに父さんは婿養子だ。
そして広美の父親はうちの母さんの小学生からの後輩という事で何とも複雑な関係なんだが、もっと驚くのは広美の父親は広美の母親が初めて幼稚園の先生になった時の園児だという事だ。
単純に計算しても17歳の歳の差婚……どうりで昔から広美の父親は俺の父さんを含め、他の父親よりも若いなって思っていたんだ。
それにイケメンだし……そりゃぁ、広美がファザコンになっても仕方がないかもなぁって思ってしまう事もある。
ちなみに広美の両親の仲人は先に結婚していたうちの両親という事で更にややこしい関係だ。
俺はこの関係を理解できたのは最近になっての事だった。
そして同じ年に俺と広美が生れてそこから幼馴染の関係が始まったのだけど……
「ちょっと亮二、お母さんの話を聞いているの? もう少し将来の事を真剣に考えたらどうなのよ?」
「分かってるって!! ほんと、母さんはいつもガミガミうるさいなぁ!?」
「何ですって!?」
俺は母さんの雷が落ちる前に急いで自分の部屋に避難した。
そしてベッドの上に打つむせで飛び込む。
「はぁ……学校から疲れて帰って来たのに、更に疲れるなんてたまらないよなぁ……」
俺はため息をつきながら顔を横に向けタンスの上に飾っているぬいぐるみに目をやった。
「ただいま、カナちゃん……お前だけだよ、俺に何も文句を言わないのは……」
――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
今は平成19年4月後半、俺は4月生まれなので最近、18歳になったばかりだ。
月日が経つのは早いもので、あっという間に高校3年生になってしまった気がする。
俺が通っている高校は自転車で通える距離だが校舎が高台にある為、最後の上り坂、通称『地獄坂』を毎日クリアしないといけないので授業が始まる前から疲れて切ってしまう様な公立高校だ。
本来、高3といえば受験生と呼ばれるのだが、昔から勉強嫌いだった俺は高校生になれただけで十分に満足をしていて、元から大学に進学する気は全く無く、卒業したら就職するつもりでいる。
だから日々、留年しない程度には勉強をやっているけど、日頃はバイトに明け暮れている俺であった。
という事で今通っている高校、『青葉東高等学校』は進学校なので、本来俺みたいに大学に進学する気の無い人間が来るような高校ではないということだ。
それなのに何故、俺みたいな奴がこの高校を受験したのかと言えば、その理由は簡単だ。俺が小さい頃から片思いをしている幼馴染の五十鈴広美がこの高校を受験すると言ったから……
その為に俺は中学時代に嫌々、塾に通ってなんとか青葉東高校に合格したって感じだ。俺としてはあの頃が勉強のピークだったのかもしれない。目標を果たした俺はマジで勉強を頑張る気が起こらなかった。
「ねぇ、亮君は本当に大学には行かないの?」
広美が時折、同じ質問をしてくるけど、今日も聞いてきた。
「ああ、行かないよ。毎回言っているだろ、俺は卒業したら就職するって……」
「でもさ、こんな仕事をやりたいっていうのも無いんでしょ? それだったら四年間、大学に通ってみたらどうなの? もしかしたら将来、何かやりたい事が見つかるかもしれないじゃない?」
広美の言っていることも正しいとは思うけど、今の俺にはもう必死に勉強するパワーなんて残っていないんだよ。それに……
「ひ、広美だって大学に行かないじゃないか!? それなのに何で大学に行かない広美が俺にいちいちそんな事を言うんだよ? 広美にそんな事を言う権利は無いと思うんだけどな」
俺は少し怒り口調で言い返す。でも広美は俺みたいな奴の返しくらいでは怯まない強い女性なのも知っている。
「私は亮君と違って目標があるからね。卒業したら東京に行く予定だしさ。それに青葉東を受験したのは大好きなお父さんの母校って事もあったしねぇ」
「ほんと、広美は相変わらず超が付く程のファザコンだよな!? いつになったらそのファザコンを卒業するんだよ!?」
「フンッ、私はファザコンで構わないし、卒業する気も無いわ」
「はぁ……何だかなぁ……」
そう、広美は昔から超ファザコンである。だから他の男子達の告白も受け付けないのは安心できるところだけど、そんな広美に俺まで躊躇してしまい、この歳まで告白できないでいたのだ。
お陰で俺は彼女いない歴、自分の年齢、勿論、言いたくは無いが童貞だ。
今までに何度か告白された事はあるんだけどな!! いやマジで。
でも広美が好きな自分の気持ちを裏切る事ができなかったんだ。
それに広美は高校を卒業したら上京して芸能の専門学校に入学し本気で女優を目指すと言っていたのも俺が一歩、踏み出せない理由にもなっていた。
まぁ、小学生の頃から常に聞かされていた広美の夢だったので一番、理解していると思っている俺が広美の夢の邪魔をしたくないという思いもあったからってこともある。
女優になる夢を叶える為に広美は小学生の頃から演劇部に入り、必死に頑張っている姿を一番近くで俺は見ていたから広美が本気だってことはよく知っている。
一番近くでっていうのは、俺も広美の傍にいたくて入りたくもない演劇部に所属していたからだ。中学生の頃も流れで俺は演劇部に入部してしまい、不覚にも部長にまでなってしまった。
ちなみに中3の夏休みに一緒に遊園地へ遊びに行っていたのは広美や演劇部の仲間達だった。
そう言えば高校生になってから広美と一度も遊園地に行っていないよなぁ……
「亮君だって高校でも演劇部に入っていたら私と一緒に俳優を目指すようになっていたかもしれないのに。お芝居上手だったのになんか勿体ないよなぁ……」
「ハハハ、俺は広美と違ってそんな芝居の才能なんて無いよ。それに努力家でも無いから救いようが無いしさ……」
そうなんだ。俺だって演劇をやりだした頃はもしかしたら俺にも演技の才能があるんじゃないのかと思った事もあったけど、直ぐにそんな甘いものでは無いと痛感したんだ。
少しは努力したけど、直ぐに嫌気がさしてしまって……それなのに演劇に対しての熱が冷めていた中学生になっても広美を追いかける為に広美に俺という男を常に認識してもらう為だけに演劇部に入部したズルい男なんだよ……
それなのにいつも広美は……
「もう、亮君は何でいつも自分の事を卑下するのよ? 私は亮君のお芝居はとても上手だと本当に思っていたし、部長として部員達の事も良くまとめてくれていたし……それになんてったって亮君は誰にでも優しいし、正義感も強いしさぁ……たくさん良いところがあるんだから、もっと自分に自信を持ちなさいよ!?」
「はぁ……ハイハイ、ありがとさん。俺の事をそこまで褒めてくれるのは広美だけだよ……」
ほんと、広美の言葉にはいつも励まされるし癒されるよなぁ……
そういったところを好きになってしまったんだけど……
俺の方が半年も先に生まれているのに、俺がリードしなくちゃいけないのに、しっかり者の広美の事をたまに『お姉ちゃん』の様に感じてしまう時がある。
「いずれにしてもまだ三年生になったばかりだし、まだ時間はあるんだから自分の将来の事をもう少し考えた方がいいと思うよ」
「わ、分かったよ……バイトしながら考えてみるよ……」
「はぁ? 何でバイト中に考えるのよ? バイトはちゃんと集中してやりなさい!!」
前言撤回……俺は広美がたまに『母親』に思える時がある。
「ただいま……」
「お帰り、亮二。今日はアルバイトの日だったかな? 夕飯はどうする?」
「ああ、夕飯はいいよ。バイト先でまかないが出るから」
「そう言えば亮二は本当に大学に行く気は無いの? まぁ、今の成績で亮二が行ける大学なんて無いと思うけどさ」
この遠慮なしにハッキリとモノを言う女性は俺の母親で名前は鎌田志保という。こう見えても数年前までは幼稚園の先生だったんだ。でも身体を壊してしまい、仕方なく退職し、今は専業主婦をやっている。
母さんは広美の母親の大学時代の後輩でもあり、幼稚園の先生としても先輩後輩の間柄である。また父さんの鎌田三郎も母さんと同じ大学の同級生ということで母さん同様に広美の母親の後輩でも有る。ちなみに父さんは婿養子だ。
そして広美の父親はうちの母さんの小学生からの後輩という事で何とも複雑な関係なんだが、もっと驚くのは広美の父親は広美の母親が初めて幼稚園の先生になった時の園児だという事だ。
単純に計算しても17歳の歳の差婚……どうりで昔から広美の父親は俺の父さんを含め、他の父親よりも若いなって思っていたんだ。
それにイケメンだし……そりゃぁ、広美がファザコンになっても仕方がないかもなぁって思ってしまう事もある。
ちなみに広美の両親の仲人は先に結婚していたうちの両親という事で更にややこしい関係だ。
俺はこの関係を理解できたのは最近になっての事だった。
そして同じ年に俺と広美が生れてそこから幼馴染の関係が始まったのだけど……
「ちょっと亮二、お母さんの話を聞いているの? もう少し将来の事を真剣に考えたらどうなのよ?」
「分かってるって!! ほんと、母さんはいつもガミガミうるさいなぁ!?」
「何ですって!?」
俺は母さんの雷が落ちる前に急いで自分の部屋に避難した。
そしてベッドの上に打つむせで飛び込む。
「はぁ……学校から疲れて帰って来たのに、更に疲れるなんてたまらないよなぁ……」
俺はため息をつきながら顔を横に向けタンスの上に飾っているぬいぐるみに目をやった。
「ただいま、カナちゃん……お前だけだよ、俺に何も文句を言わないのは……」
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