呂色高校対ゾン部!

益巣ハリ

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6. 跳躍、そして

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考えるより先に体が動くのは、ヒーローの特権だ。

 ずっと片想いしていた女の子に、謎の化け物たちが群がるのを間近で見ているのに。助けるのは自分しかいないとわかっていながら、あまりの恐ろしさで足が全く動かない。

 心では助けるべきだとわかっていても、頭が邪魔をする。あいつらはなぜかこちらには興味がないみたいだ。それなら、自分だけ逃げられるんじゃないか?

 絹人は下半身に生暖かく不愉快な感触が広がっていることに気づいた。まさか、僕は漏らしたのか?好きな女の子を助けることもできず、ただ怯えて漏らすなんて!情けない。情けなさすぎる自分が、とても憎い。

 絹人は自分の右足を拳で思いっきり殴った。ほんのわずか、足は半歩ほどの距離分だけずれる。

「ぐうッ……!」

 彼はそのまま左足、右足と殴り続ける。本当に少しずつ、少しずつだが、足は前にずれていき、その勢いに任せて絹人は立ち上がった。かくかくと笑う膝を押さえつけ、一歩踏み出す。と、先程自分が漏らした液体を踏んづけ、派手な音を出して思いっきりすっ転んだ。

 音に反応した化け物たちが、一斉にこちらを振り向く。絹人の喉は恐怖でヒュウ、と音を立てたが、掠れる声で思いっきり叫んだ。

「逃げて、梔倉さん!!!」

 これでいい。これでいいんだ。

 彼女を助けるヒーローにはなれなくても、情けない自分を犠牲にすることくらいはできる。

 恐怖に濡れた目をした彼女と一瞬、目が合った。寄ってきた化け物たちに髪の毛を掴まれた絹人は力無く笑って、最後にこの綺麗な顔が見れてよかったな、と思っていた。

 その瞬間だった。

 梔倉の怯えた瞳に、光が入った。長い足を前に出して、ダン、と跳躍する。

 悪魔の羽のようにスカートが舞い上がる。彼女は絹人の髪の毛を掴んでいた化け物の近くに着地するとそのまま、化け物の目玉にシャーペンを突き刺した。

『『ぎぃやああああ!!!!』』

 耳をつんざく不愉快な叫びがわんわんと響く。すると、目を刺された化け物だけではなく、他の化け物も顔を押さえて苦しみ始めた。血があらゆる方角から噴き出し、教室が真っ赤に染まる。化け物の力が緩んで体が自由になった絹人は、しかしそれでも、その場から動くことができなかった。

「さ、行くわよ!」

 呆然と尻もちをついている絹人に向かって手を差し出すと、梔倉は教室を飛び出した。

 彼女の手は白くすべすべだった。絹人より小さい、柔らかい手。そして流れる黒髪が絹人の鼻先をくすぐる。甘くさわやかな彼女の香り。すべてがスローモーションになったかのようだ。

 化け物たちのうめき声と、手のひらが血でぬるついて手がほどけそうになることを無視すれば、完璧に青春なシチュエーションだった。
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