1 / 8
旅は道連れ世は情け
しおりを挟む
は??転移じゃん。
趣味で手品を嗜んでいるものなんですけれどもね、いやはや、駅前で手品をお披露目中に知らない場所にいました、とのことです。
メーデー案件ですね。こちら、身体にモヤ?オーラ?が見えており大変気持ちが悪いです。あと、なんとなくなのですが、これは、ずっと出し続けてたら死ぬやつです、多分ですが。チュートリアルなしの転移はきつい。
おさまれおさまれ、中には入れ…ほら、お母さんはここだよ、ここに収まるんだ。と必死にかき集め、死ぬ気でやり遂げました。死ぬかと思いました、半分くらい死んでいたんじゃ…?汗だくだし、時間の感覚はないけどだいぶ時間が経っているようだ。気持ち悪い。ナニハトモアレ、現状把握を。
ここは、知らない場所。
安全かは分からないけど、モヤをおさめてる間は何もなかった事実あり。日が傾いてきているが、夜になったら何かあるとかは、考えたくないな。
目の前は川、林?森?のような場所。ただ、拓けているし見通しも悪くはない。いや、悪いか。こちとらそこそこ都会人だったもんで判別はつかないが、キャンプ場みたいな感じか。ふむ、分からないな。
次は持ち物確認。服は手品やってたときの衣装のまま。ハットにジャケット、マジシャンローブとかだな。着替えなどの荷物はロッカーにいれていたからかないが、足元においていた看板やチラシや小道具一式、スマホや最低限の貴重品が入ってたポシェットはここにある、と。このままだと餓死一直線だ。
スマホはもちろん圏外。電池はなくなると困るから省エネにしておこう。ポータブルは荷物の中だ。
ふうむ、ここはどこだか考える必要があるみたいだな。ああ、子どもたちは元気だろうか。お母さんがこんなんですまん、冷蔵庫にあるもの、食べてくれ。何かあったら、夫、じじばば頼んだぞ。
色々なものを嗜んでいたから分かるが、これは異世界転移というやつではなかろうか。お母さんはこの手の話にとても詳しいのですが、間違いない、はず。鏡がないからわからないが、年齢も性別もそのままな感じがするし、特に美形になったというわけではないな。シワもそのままだし肌の乾燥具合もいつも通りだ。
この世界がどういったものかが謎ではあるが、さっきのモヤはなんなんだ?ファンタジーの世界にのは確実だな。モヤ?オーラ?をおさめるときに某少年漫画の念能力だと想定しておさめたら成功した、成功しているのか?まあ、一応落ち着いたけど、多分これだとまだまずそうだな。これから瞑想とかしていったらいいんだっけ。おさまったからには多分似たようなものなんだろう。魔法みたいなのも使えるのか?
昔に読んだから忘れてしまっているが、連載してないから読み返しもできてないよ、作者さん、頼む、連載開始を…っていやいや現実逃避してる場合ではない。
いや、というか元の世界に返してほしいのだけど、なんでいきなりこんなことに。夢ではないな、この感覚、現実だ。
ギャルギャルルール
バサッバサッ
えっ、怖い。なんの音?荷物を持って出来るだけ影を薄く気配を薄く私は空気、空気―…。
「ギャッギャッキャッ」
「ルルルールルルー!ギャッ」
上からなんか降ってきた…思わず目を閉じていたけど薄目を開けてみる。
!!!
化け物だ。でっかい。勝てない。逃げられない。
「おかしいねえ、ここにニンゲンの匂いがしてるよ」
「初めて嗅ぐニンゲンの匂いだ」
「そう、すぐそこに」
耳の後ろから声がしたと思ったら肩に手を置かれた。私はもう駄目だ―…
・・・・・
目を開けると洞窟の中だった。荷物は無事、服も無事。一緒に持ってきてくれたのか。
「目が覚めたかい」
あっ、そうだった。化け物が日本語を喋っていて肩に手を置かれて気を失って、それから…あら、人間?
「あ、はい。あの、助けていただいたようでありがとうございます。えっと、私はどこで?何をしていたんでしょうか」
「そりゃこっちが聞きたいよ。こんな場所にニンゲンがいるなんて聞いてない」
人間?あ、この声、さっきの?ということは化け物は人間になれるということ?ここで生活している感じがするし親切な魔物ってことか。異世界ファンタジーか?魔物がしゃべる知能の高いもの?ニンゲンってことは人間が他にもいるってことだし。
「気づいたら先程の近くにいまして、その前の記憶があやふやで…すみません。ここってどこですか」
「ここはそうさな、岩火山だな」
「ドラゴン…?」
「あまり見慣れない服を着ているじゃないか。あんなところにいたら他の奴らに殺られちまうよ。今日はここに泊まっていきな。明日街に送ってやろう」
「ご親切にありがとうございます。今って何年の何月何日か分かりますか?あとここらへんに文字の書いてある読み物ってありますか?図々しくてすみません」
「10800年の5月えーっと今日は何日だっけ「4日よ」そう、4日だ。で、文字の書いてあるやつか?ほれ、新聞だ。これでいいか」
「あ、ありがとうございます。あ、助けていただいて名乗らずすみません。私はマコトと申します。しがないマジシャンやってます。どうやってここに来たのかはわからないのですが「みたところ、使いの者だろ」…使いの者?」
「使いの者だろ?異能が使えるはずさ。ニンゲンがきたから異能試しかと思ったが随分と時期が早いと思ってね。たまに使いの者がここにやってくることもあるのさ。マジシャンといったかい?その格好と関係が?」
「あ、はい。では、助けていただいたお礼に…はい、こちらをどうぞ」
基本である花を手から出す。もちろんこれは仕込んである造花だけど。細い目が少し丸くなっているから成功かな。
「おや、驚いた。他にもできるのかい。…ああ、私はリコだ。友人のニンゲンが名付けた名前というやつだ」
リコさんが人間からドラゴンに戻る。リコさんの後ろにもチラホラと他の人の顔もみえる。様子を窺っているようだ。
「他にもできますよ。ではこちらを見ていてください」
ずっと寝かされていた場所で座っていたので立ち上がり、隣に置いてあった帽子をかぶって一礼。
「さてさて、助けていただき大変恐縮。私しがないマジシャンをやっております。こちらは種も仕掛けもございません。中には何も入っていない帽子になります。どうですか?中に入っていませんね?きちんと見てください。はい、逆さにしても、振っても何も出ませんよ。では、ここで呪文をかけますね。ワン・ツー・スリー!…リコさん、手を出してくださいね。この魔法をかけた帽子を逆さにしますと、こちら、リコさんにプレゼント。私の好きなクッキーになります。是非ご賞味を。ありがとうございました」
一礼をしてまた座る。いつの間にか他のリコさんと同じ顔の人?が増えている。リコさんの親族かな。
「へえ、面白いもんだね。まだ他にもできそうだね。またみたいものだ。…もう遅いからおやすみ。明日起きたら街に連れていくからね」
「ありがとうございます。こちら、お借りしますね。おやすみなさい」
・・・・・
うう、なんか声が聞こえる。うるさいな、子どもたちもう起きたのか。にしては声が低いような。今何時だろう、まだ眠いけど、朝なのか。アラーム鳴ったかな。手探りで枕元のスマホを探すが、見当たらない。
「起きたのか。おはよう」
「!!!おはようございます」
夢じゃなかった!忘れてた!危機感仕事して!!!
「ぐっすり眠れたようだね、良かった」
笑われている。ああ、昨日このまま寝ちゃったから衣装に皺が…。これしかないから仕方ないけど少し悲しい。
「じゃ、荷物を持って。…マコト、また遊びにおいで。また不思議なのを見せておくれ。私たちはここに住んでいるからね」
「…はい、ありがとうございます。必ず、必ずまた来ます」
リコさんに送ってもらい、街でお別れをする。
さて、身ぐるみ一つで街で何をしようかな。ここは海も近そうね、冷凍されていないお魚が売ってる。戸籍がないのに雇ってくれるところなんてあるかな。この世界ってどのくらい厳しいだろう。異世界ファンタジーあるある冒険者になる?でも今まで荒事なんてしたことないからな。ドラゴンがいるからそれなりに何かあるんだろうけど。
んー、そこそこ栄えている街だから、カフェ店員とかもあり?いや、履歴書もかけないし、だめだ。
噴水があるからそこの前で大道芸でもするか。幸い今は気候もいいし数日ならそこら辺で過ごせるか。
んー、天気もいいし、いっちょやるか。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい。ここで見なきゃ損ですよ。あ、そこの可愛らしいお嬢さん、これどうぞ。さあさ、種も仕掛けもございません」
適当に花を手から出しつつ人集めをしてっと。鳩とかいたら良かったけど、仕込みができていないので、カラフルなハンカチを繋げて出したり、ボールをたくさん出してみたり、お子様向けのをやってみた。マジシャンする前はピエロもやってたことあるからそっち関係もしてもいいかもしれない。ああ、家にある荷物が懐かしい。というより地球が恋しい。
「…以上になります。ありがとうございました」
帽子をとって、空中に浮かせて一緒にお辞儀をさせたら大歓声。このままお客さんのところに帽子をすすませてっと。うん、なかなかの収穫だ。お金ゲット。デザインが円と似てる!銀貨とか金貨なのね、紙幣は高額なのかな。物価はどんな感じなんだろ。
さてと、今日はここまで、うん、とっても死にたくないな。裏路地あたりから視線が飛んでくる気がする。ここにいたら襲われる感じがしますね、はい。
「あーあ、どうしようかな」
日が暮れるまではもう少しあるし、ここにいても大丈夫だろう、多分。異能があって私が使えるとしたら一般人よりかは強くなっているはずだけど修行というかそういった武道的なものは何もしていないし、一般人の強い人よりかは弱いくらいかな…。痛いのは嫌だし、人と衝突するのも嫌だし。はてはて、困る。
「この世界はどんなところか分からないけど、向いてなさすぎる」
「…ねえ、さっきのもう一回やって」
マントを引っ張られたので、引っ張った先をみると男の子がいる。身なりがいい。それなりのお坊ちゃんかな。ああ、日本にいる子どもたち元気かな。
「いいよ、さっきのってどれかな」
「帽子が動くやつ」
「おっけー。じゃ、そこを動かないでね。そおれ!」
演出として帽子を高く上げてそこから少年の周りをくるくる回らせてみた。ふふふ、すごいでしょう。種も仕掛けもあるにはあるけど、上手でしょ。練習かなり、しました。うちの子たちもこれ、好きなんだよ。
「すげー「こら、何やってるの」…うお、姉ちゃん」
キラキラした目で帽子を見ていた少年が気まずそうな顔に変わった。お姉さんとお買い物だったのか、少年。帽子を元の位置に戻しつつ少年に声をかける。
「もうすぐ日が暮れるからおうちに帰りなさい。お迎えがきてよかったね」
「えー、まだ見てたいよー。姉ちゃん、母さんにも見せたくねえ?」
「…見せたいけど」
お、これはもしかしておうちにお呼ばれな感じ?そんな幸運なことある?神様ありがとう!そのまま私もおうちに返せ。
私は黙って様子をみている。いいぞいいぞ、このまま少年、押し切るんだ。生きるためなら年下にだって媚売れるぞ。異世界ファンタジーと思わしき世界についてから2日、幸運にも怪我せずに生きているなんてだいぶ運がいいじゃないか。
「だよなあ。じゃ、おばさん、またな」
「ありがとうございました」
そう、そういう結論になったのね、名も知らぬ少年少女。その選択は正しい。
「ええ、また見に来てくださいね。お待ちしています」
…はあ、どうするか。
・・・・・
色々あってなんやかんやあってこちらの生活も半年ほど経ちました。
拠点は変えてないけど、裏路地生活している不良グループに懐かれてそこの保母さん的存在になりました。裏路地生活、衛生面を考えなければ快適よ。まだまだ帰れなそうなんだけど。どうなってるの。
異能もどうにかこうにかしようとしているけど、こちらはどうにもならない。オーラ?モヤ?を器用に巡らせることができたくらいかな。指先から模様を書いたり、モヤモヤで遊ぶくらいならなんとか。このモヤ?オーラ?がみえない人には神の見えざる手となっているでしょう。物もつかめます。便利ね?筋トレのようなストレッチのようなことを毎日続けているけど、効果は謎。元の世界に戻れるのか。
「マコト、今日はどうするんだ?」
この子はここのリーダー役のリン。腕っぷしと頭の回転がいい。
「昨日はマジックやったから今日は違うのやるの?」
こっちはサブリーダー役のミコ。すばしっこさとお金稼ぎが得意。万引きやスリもしてたけど、私が来てからはやめさせてます。犯罪はいかんよ、犯罪は。
「あー、今日はどうしようか。なんかお金になるようなのない?家がほしい」
「まだそれ言ってんのか?文字も読めねえ、金もねえ、力もねえのにそんなのあるわけないだろ。マコトが来てからそりゃここも随分過ごしやすくなったけど、それでも金がねえのには変わりないんだから」
孤児なんだよね。孤児院や養護施設まで行かずに捨てられたとかそういう感じなのか。詳しくは聞いてないけど。そもそもそういう施設があるのかも分からないけど。
この街の人たちはそこそこ優しいから売れなくなったものとか着なくなったものとかはくれたり裏路地での生活を悪さをしない限りは見逃している感じ。世知辛い世の中よ。文字はそこそこ読めるようになったけど、まだ穴抜け状態。前途多難ではある。
「使いの者になったらお金持ちになれるよ」
ああ、それね。私も異能あるらしいけど、それって命を賭けてるやつでしょ?死んじゃう。いや、異能があったらいける?私は強くないけど、リンだったら強くなれそうな?いや、異能がどうやってあらわれるのか分からないんだけど。
「お前は使いの者になんかなれるわけないだろ。死んじまう」
リンとミコが喧嘩をし始めた。いいコンビなんだけど、どっちかがいなくなったらここは崩壊するかもしれない。その前に空き家を探してこの子たちをまとめて面倒をみたいし、戸籍がないと銀行もろもろすべてダメだし。詰んでる。
「はいはい、喧嘩はやめ。今日も広場にお金稼ぎにいくよ。休日だからね。新しい手品でもお披露目しようか」
新しい手品っていっても腕が切れた、とかそういう種も仕掛けもあるやつですね。うん、助手がいるって素晴らしい。
「はいはい、皆さまご注目!」
いつもの口上を述べてみる。ここでの変わりない日常。刺激的ではあるけど平和だったあちらの世界が懐かしい。家族は、友人はどうしているだろう。虚しいとはこういうことをいうんだろうな。大切なものたちがあちらにずっとある。異能をきちんと使いこなして、使いの者として冒険しつつ元の世界に帰る道を探すのがいいのかな。
「ねえ、今日のマジック、いつもよりキレがなかったよ」
終わったあとにミコに言われた。確かに物思いにふけりつつ、良くなかった。
「そうだぞ。まあ、俺らとか常連くらいしか分からないもんだったけどな。あー、楽しかった!今日はいい稼ぎだったな」
「んー、そうだね。ちょっと考え事しちゃってた。ちょっといいご飯を買って帰ろっかな。はい、これ、お金。みんなでご飯を買ってきてくれる?ちょっと寄るところあるからさ」
「いーよー!早く帰ってきてね」
リンとミコを見送って、人気のないところまで進む。よし、このへんでいいかな。
「もしもーし、気づいてます。えっと、なにか御用でしょうか」
「…あれ?バレちゃった?久しぶり」
ひょっこりと顔を出した人は、リコさんだ。久しぶりだなあ。
「わあ、お久しぶりです。ご無沙汰していてすみません。なかなか生活が安定してなくて…」
「いいよいいよ、近くにきたから見に来たの。元気そうで何より。マジックっていうのもいいね、すごい人気だ。隣町でも噂になっていたよ」
「ありがとうございます。新技もいくつかあの子たちとやっているんですよ」
「そうみたいだね、見てたよ。はい、これ。前のクッキーのお礼。また遊びにきてね」
リコさんたちから甘味をいただいた。もうストックも切らしていたし、あまりあげられてないから、子どもたち、喜ぶだろうな。いいお土産ができた。その後、リコさんと近況を報告しあった。
そろそろ異能試しが始まるらしい。リコさんたちも結構本気で相手にしなきゃいけないから大変、といいつつもなんだか楽しそう。岩火山が騒がしくなるからあんまり近寄らないように、とのことだった。異能試しにともない良くない輩も集まってくるらしい。
結構長く話し込んでしまったし、急いで帰らなくっちゃ。
幸せが壊れるときはいつも血の匂いがする、ああ、これはどこかの漫画の台詞だったな、そうね、なんで弱いものから死んでいくのか。異世界ファンタジーだとは思っていたけどこの世界、弱肉強食の世界っぽいから、わかっていたけど。
「ちびちゃんたち、みんな、一体…」
裏路地に帰ると血まみれで倒れているみんながいた。ちびちゃんたちは首が曲がっていてひと目で絶命しているのがわかる。
「あーあー、せっかく僕たちが聞いているのに、教えてくれないんだもの。マジックっていうの?僕たちにも教えてくれてもいいんじゃないの~?」
「リン?ミコ?」
まだ音の鳴っている方に足をすすめる。
「ちょっとちょっと~、オタクがそのマジックの親分でしょ~。僕らにも分けてくださいませんかね~」
「ちょっと、リン?ミコ?いるんでしょ?ねえ」
「…おい、聞いてんのかテメエ!!!ふざけんな!!!」
「うるさい。邪魔しないで」
手から大きなバラの花や鈴蘭が飛び出す。
「うわあああなんだこれえええ!やめろ、やめろって」
「リン、ミコ。ねえ、みんな…」
音がやんだほうに足を運ぶと変わり果てた二人がいた。顔はあまり傷はないが、手足が折れているし、下の服は着ていない。ゲス共が。リンの方はナイフが刺さってかなりの血が流れている。ミコも必死に抵抗したんだろう、目を見開いて涙の跡もある。
「ハアハア、手こずらせやがって。オイ、女の方は顔がいいから変態にでも売れそうだ。男もいけるか?」
「なんで?なんでなの?」
「おお、コイツがそうか。…なあ、お前のせいでこうなっているんだ。マジックっていうのをな、仕掛けを教えねえからさ。こいつたちも口がかてえ。何も黄泉の国まで持っていくことはないのにな。なあ、どんな気持ちだ。こいつら最期ま「うるさい。黙って」」
自分が何をしたのか分からないけど、タガが外れている気がする。さっきまで、二人とも笑っていたのに。もっと早く来ていたら?なんで?なんでこうなったの?
「ごめん、ごめんね、みんな」
「…」
リンの指が動いてる。まだ生きてる!?
「ねえ、ねえ、頑張って。ごめんね、痛いよね、苦しいよね。ごめんね」
自分のマントで包んでなんとか止血を試みる。
「お願い。治って、ごめんね、痛いよね。治って、元の世界に戻れなくていい。この傷は私が全部負うのでもいい。リン、頑張って。ねえ、貴方、パティシエになりたいっていってくれたでしょ?まだなってないよ、夢かなえてないよ。ねえ、お願い」
マントがオーラ?モヤ?に包まれたのが分かった。ミコの下の服が見つからないので自分のジャケットを被せて目を閉じさせる。首にどす黒いあとがある。
「ミコもごめんね、遅くなっちゃった。ねえ、お菓子あるんだよ。貰ったの、みんなで食べようって。ごめんね、怖かったよね、痛かったよね。綺麗にするからね。マジックのこと、ありがとうね、でも、君たちの命の方が私には大事だったよ。外にいるちびっこたちも綺麗にするからね。一緒にいたもんね、寂しくないよ」
ミコを綺麗にし終わり、周りの音が聞こえるようになったので、後ろを振り返る。アハハ、お花から足が出てる。
「ねえ、君たちはなんでこんなことをしたのかな。まあ、いいや。失われたものは戻らない。ここは弱肉強食の世界だってことすっかり忘れていたよ。もっと警戒しないといけなかったんだよね、それに危機感も足りてなかった。ここの街の人たちは優しいから、甘えていたよ」
足がじたばたしているから声は聞こえているみたい。
「そのまま聞いてくれる?ああ、大丈夫、お花さんたちには君たちを消化してもらうから大丈夫大丈夫、そのまま聞いててね。うん、私が悪かったの、そうだよね、私だけここでは大人なのに子どもたちに教わってばかりで、もっとちゃんとしないといけなかった。神様は優しくなんかないんだよね。お花さんたち、ありがとうね。そのまま続きをお願いね」
頷いているので意思疎通はできそう。小屋から一歩外にでるとまたお花がいる。こちらはなんかピクピクして麻痺してるのか死にかけ。
「お花さんたちありがとう。あ、ちびちゃんたちをさ、綺麗にできるかな?できる?じゃ、お願い」
お花さんたちが血まみれのちびちゃんを綺麗にしてくれるのでこれからのことを考える。
さて、どうしようかな。
・・・・・
この度、犯罪者を撃退したわけだけれども、この人達は賞金首とかだったりは、しないか。そんな都合のいいことはなさそう。弱かったし。まあ、ちびっこを殺害した罪で警察にきてもらえたり、しないか。
そしたら、私もお尋ね者になるな。それはちょっと避けたい。となるとこのままここに放置するしかない。みんなの遺体はここが家みたいなものだし埋めたいけど、ああ、路地裏まっすぐいったところに花の咲いている丘があるからそこに埋めよう。うん、お花さんたちに手伝ってもらえたらいいよね。あとは、そうだな、この人達は埋めておくか、生きてる?うん、じゃあ、空気吸えるように口と鼻だけだして。よし、思いついたら善は急げだ。
「お花さんたち、ちびちゃんたちやミコを運ぶよ。あとはこの人達はそう、数時間後には目が覚めるのね、ありがと、急いで埋めましょ。よろしくね」
お花を追加でだし、埋める作業とお墓づくりを並行してやる。このお花は私の異能なのかな。一般人にはどう見えているんだろう。これ、あとでしっかり考えないと。
・・・・・
作業を終えて、リンの様子をみる。まだ私のオーラ?モヤ?で包まれているからなんとなくそのままに。命は無事だったけど嬲られた跡があったな、ゲス共が。お花さんにきっちり処理してもらったけど、あー、どうしよ。旅にでるか。ここにはいられないものね。
今ならリンを運ぶのも平気なくらいだし、異能はすごいな。
お世話になった人たちに挨拶をして、みんなで出かける旨を伝える。名残惜しそうにしてくれてありがたい。またこの街に帰ってきたいものね。
「じゃ、リン、行こっか」
私の旅はここからはじまるのであった。
趣味で手品を嗜んでいるものなんですけれどもね、いやはや、駅前で手品をお披露目中に知らない場所にいました、とのことです。
メーデー案件ですね。こちら、身体にモヤ?オーラ?が見えており大変気持ちが悪いです。あと、なんとなくなのですが、これは、ずっと出し続けてたら死ぬやつです、多分ですが。チュートリアルなしの転移はきつい。
おさまれおさまれ、中には入れ…ほら、お母さんはここだよ、ここに収まるんだ。と必死にかき集め、死ぬ気でやり遂げました。死ぬかと思いました、半分くらい死んでいたんじゃ…?汗だくだし、時間の感覚はないけどだいぶ時間が経っているようだ。気持ち悪い。ナニハトモアレ、現状把握を。
ここは、知らない場所。
安全かは分からないけど、モヤをおさめてる間は何もなかった事実あり。日が傾いてきているが、夜になったら何かあるとかは、考えたくないな。
目の前は川、林?森?のような場所。ただ、拓けているし見通しも悪くはない。いや、悪いか。こちとらそこそこ都会人だったもんで判別はつかないが、キャンプ場みたいな感じか。ふむ、分からないな。
次は持ち物確認。服は手品やってたときの衣装のまま。ハットにジャケット、マジシャンローブとかだな。着替えなどの荷物はロッカーにいれていたからかないが、足元においていた看板やチラシや小道具一式、スマホや最低限の貴重品が入ってたポシェットはここにある、と。このままだと餓死一直線だ。
スマホはもちろん圏外。電池はなくなると困るから省エネにしておこう。ポータブルは荷物の中だ。
ふうむ、ここはどこだか考える必要があるみたいだな。ああ、子どもたちは元気だろうか。お母さんがこんなんですまん、冷蔵庫にあるもの、食べてくれ。何かあったら、夫、じじばば頼んだぞ。
色々なものを嗜んでいたから分かるが、これは異世界転移というやつではなかろうか。お母さんはこの手の話にとても詳しいのですが、間違いない、はず。鏡がないからわからないが、年齢も性別もそのままな感じがするし、特に美形になったというわけではないな。シワもそのままだし肌の乾燥具合もいつも通りだ。
この世界がどういったものかが謎ではあるが、さっきのモヤはなんなんだ?ファンタジーの世界にのは確実だな。モヤ?オーラ?をおさめるときに某少年漫画の念能力だと想定しておさめたら成功した、成功しているのか?まあ、一応落ち着いたけど、多分これだとまだまずそうだな。これから瞑想とかしていったらいいんだっけ。おさまったからには多分似たようなものなんだろう。魔法みたいなのも使えるのか?
昔に読んだから忘れてしまっているが、連載してないから読み返しもできてないよ、作者さん、頼む、連載開始を…っていやいや現実逃避してる場合ではない。
いや、というか元の世界に返してほしいのだけど、なんでいきなりこんなことに。夢ではないな、この感覚、現実だ。
ギャルギャルルール
バサッバサッ
えっ、怖い。なんの音?荷物を持って出来るだけ影を薄く気配を薄く私は空気、空気―…。
「ギャッギャッキャッ」
「ルルルールルルー!ギャッ」
上からなんか降ってきた…思わず目を閉じていたけど薄目を開けてみる。
!!!
化け物だ。でっかい。勝てない。逃げられない。
「おかしいねえ、ここにニンゲンの匂いがしてるよ」
「初めて嗅ぐニンゲンの匂いだ」
「そう、すぐそこに」
耳の後ろから声がしたと思ったら肩に手を置かれた。私はもう駄目だ―…
・・・・・
目を開けると洞窟の中だった。荷物は無事、服も無事。一緒に持ってきてくれたのか。
「目が覚めたかい」
あっ、そうだった。化け物が日本語を喋っていて肩に手を置かれて気を失って、それから…あら、人間?
「あ、はい。あの、助けていただいたようでありがとうございます。えっと、私はどこで?何をしていたんでしょうか」
「そりゃこっちが聞きたいよ。こんな場所にニンゲンがいるなんて聞いてない」
人間?あ、この声、さっきの?ということは化け物は人間になれるということ?ここで生活している感じがするし親切な魔物ってことか。異世界ファンタジーか?魔物がしゃべる知能の高いもの?ニンゲンってことは人間が他にもいるってことだし。
「気づいたら先程の近くにいまして、その前の記憶があやふやで…すみません。ここってどこですか」
「ここはそうさな、岩火山だな」
「ドラゴン…?」
「あまり見慣れない服を着ているじゃないか。あんなところにいたら他の奴らに殺られちまうよ。今日はここに泊まっていきな。明日街に送ってやろう」
「ご親切にありがとうございます。今って何年の何月何日か分かりますか?あとここらへんに文字の書いてある読み物ってありますか?図々しくてすみません」
「10800年の5月えーっと今日は何日だっけ「4日よ」そう、4日だ。で、文字の書いてあるやつか?ほれ、新聞だ。これでいいか」
「あ、ありがとうございます。あ、助けていただいて名乗らずすみません。私はマコトと申します。しがないマジシャンやってます。どうやってここに来たのかはわからないのですが「みたところ、使いの者だろ」…使いの者?」
「使いの者だろ?異能が使えるはずさ。ニンゲンがきたから異能試しかと思ったが随分と時期が早いと思ってね。たまに使いの者がここにやってくることもあるのさ。マジシャンといったかい?その格好と関係が?」
「あ、はい。では、助けていただいたお礼に…はい、こちらをどうぞ」
基本である花を手から出す。もちろんこれは仕込んである造花だけど。細い目が少し丸くなっているから成功かな。
「おや、驚いた。他にもできるのかい。…ああ、私はリコだ。友人のニンゲンが名付けた名前というやつだ」
リコさんが人間からドラゴンに戻る。リコさんの後ろにもチラホラと他の人の顔もみえる。様子を窺っているようだ。
「他にもできますよ。ではこちらを見ていてください」
ずっと寝かされていた場所で座っていたので立ち上がり、隣に置いてあった帽子をかぶって一礼。
「さてさて、助けていただき大変恐縮。私しがないマジシャンをやっております。こちらは種も仕掛けもございません。中には何も入っていない帽子になります。どうですか?中に入っていませんね?きちんと見てください。はい、逆さにしても、振っても何も出ませんよ。では、ここで呪文をかけますね。ワン・ツー・スリー!…リコさん、手を出してくださいね。この魔法をかけた帽子を逆さにしますと、こちら、リコさんにプレゼント。私の好きなクッキーになります。是非ご賞味を。ありがとうございました」
一礼をしてまた座る。いつの間にか他のリコさんと同じ顔の人?が増えている。リコさんの親族かな。
「へえ、面白いもんだね。まだ他にもできそうだね。またみたいものだ。…もう遅いからおやすみ。明日起きたら街に連れていくからね」
「ありがとうございます。こちら、お借りしますね。おやすみなさい」
・・・・・
うう、なんか声が聞こえる。うるさいな、子どもたちもう起きたのか。にしては声が低いような。今何時だろう、まだ眠いけど、朝なのか。アラーム鳴ったかな。手探りで枕元のスマホを探すが、見当たらない。
「起きたのか。おはよう」
「!!!おはようございます」
夢じゃなかった!忘れてた!危機感仕事して!!!
「ぐっすり眠れたようだね、良かった」
笑われている。ああ、昨日このまま寝ちゃったから衣装に皺が…。これしかないから仕方ないけど少し悲しい。
「じゃ、荷物を持って。…マコト、また遊びにおいで。また不思議なのを見せておくれ。私たちはここに住んでいるからね」
「…はい、ありがとうございます。必ず、必ずまた来ます」
リコさんに送ってもらい、街でお別れをする。
さて、身ぐるみ一つで街で何をしようかな。ここは海も近そうね、冷凍されていないお魚が売ってる。戸籍がないのに雇ってくれるところなんてあるかな。この世界ってどのくらい厳しいだろう。異世界ファンタジーあるある冒険者になる?でも今まで荒事なんてしたことないからな。ドラゴンがいるからそれなりに何かあるんだろうけど。
んー、そこそこ栄えている街だから、カフェ店員とかもあり?いや、履歴書もかけないし、だめだ。
噴水があるからそこの前で大道芸でもするか。幸い今は気候もいいし数日ならそこら辺で過ごせるか。
んー、天気もいいし、いっちょやるか。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい。ここで見なきゃ損ですよ。あ、そこの可愛らしいお嬢さん、これどうぞ。さあさ、種も仕掛けもございません」
適当に花を手から出しつつ人集めをしてっと。鳩とかいたら良かったけど、仕込みができていないので、カラフルなハンカチを繋げて出したり、ボールをたくさん出してみたり、お子様向けのをやってみた。マジシャンする前はピエロもやってたことあるからそっち関係もしてもいいかもしれない。ああ、家にある荷物が懐かしい。というより地球が恋しい。
「…以上になります。ありがとうございました」
帽子をとって、空中に浮かせて一緒にお辞儀をさせたら大歓声。このままお客さんのところに帽子をすすませてっと。うん、なかなかの収穫だ。お金ゲット。デザインが円と似てる!銀貨とか金貨なのね、紙幣は高額なのかな。物価はどんな感じなんだろ。
さてと、今日はここまで、うん、とっても死にたくないな。裏路地あたりから視線が飛んでくる気がする。ここにいたら襲われる感じがしますね、はい。
「あーあ、どうしようかな」
日が暮れるまではもう少しあるし、ここにいても大丈夫だろう、多分。異能があって私が使えるとしたら一般人よりかは強くなっているはずだけど修行というかそういった武道的なものは何もしていないし、一般人の強い人よりかは弱いくらいかな…。痛いのは嫌だし、人と衝突するのも嫌だし。はてはて、困る。
「この世界はどんなところか分からないけど、向いてなさすぎる」
「…ねえ、さっきのもう一回やって」
マントを引っ張られたので、引っ張った先をみると男の子がいる。身なりがいい。それなりのお坊ちゃんかな。ああ、日本にいる子どもたち元気かな。
「いいよ、さっきのってどれかな」
「帽子が動くやつ」
「おっけー。じゃ、そこを動かないでね。そおれ!」
演出として帽子を高く上げてそこから少年の周りをくるくる回らせてみた。ふふふ、すごいでしょう。種も仕掛けもあるにはあるけど、上手でしょ。練習かなり、しました。うちの子たちもこれ、好きなんだよ。
「すげー「こら、何やってるの」…うお、姉ちゃん」
キラキラした目で帽子を見ていた少年が気まずそうな顔に変わった。お姉さんとお買い物だったのか、少年。帽子を元の位置に戻しつつ少年に声をかける。
「もうすぐ日が暮れるからおうちに帰りなさい。お迎えがきてよかったね」
「えー、まだ見てたいよー。姉ちゃん、母さんにも見せたくねえ?」
「…見せたいけど」
お、これはもしかしておうちにお呼ばれな感じ?そんな幸運なことある?神様ありがとう!そのまま私もおうちに返せ。
私は黙って様子をみている。いいぞいいぞ、このまま少年、押し切るんだ。生きるためなら年下にだって媚売れるぞ。異世界ファンタジーと思わしき世界についてから2日、幸運にも怪我せずに生きているなんてだいぶ運がいいじゃないか。
「だよなあ。じゃ、おばさん、またな」
「ありがとうございました」
そう、そういう結論になったのね、名も知らぬ少年少女。その選択は正しい。
「ええ、また見に来てくださいね。お待ちしています」
…はあ、どうするか。
・・・・・
色々あってなんやかんやあってこちらの生活も半年ほど経ちました。
拠点は変えてないけど、裏路地生活している不良グループに懐かれてそこの保母さん的存在になりました。裏路地生活、衛生面を考えなければ快適よ。まだまだ帰れなそうなんだけど。どうなってるの。
異能もどうにかこうにかしようとしているけど、こちらはどうにもならない。オーラ?モヤ?を器用に巡らせることができたくらいかな。指先から模様を書いたり、モヤモヤで遊ぶくらいならなんとか。このモヤ?オーラ?がみえない人には神の見えざる手となっているでしょう。物もつかめます。便利ね?筋トレのようなストレッチのようなことを毎日続けているけど、効果は謎。元の世界に戻れるのか。
「マコト、今日はどうするんだ?」
この子はここのリーダー役のリン。腕っぷしと頭の回転がいい。
「昨日はマジックやったから今日は違うのやるの?」
こっちはサブリーダー役のミコ。すばしっこさとお金稼ぎが得意。万引きやスリもしてたけど、私が来てからはやめさせてます。犯罪はいかんよ、犯罪は。
「あー、今日はどうしようか。なんかお金になるようなのない?家がほしい」
「まだそれ言ってんのか?文字も読めねえ、金もねえ、力もねえのにそんなのあるわけないだろ。マコトが来てからそりゃここも随分過ごしやすくなったけど、それでも金がねえのには変わりないんだから」
孤児なんだよね。孤児院や養護施設まで行かずに捨てられたとかそういう感じなのか。詳しくは聞いてないけど。そもそもそういう施設があるのかも分からないけど。
この街の人たちはそこそこ優しいから売れなくなったものとか着なくなったものとかはくれたり裏路地での生活を悪さをしない限りは見逃している感じ。世知辛い世の中よ。文字はそこそこ読めるようになったけど、まだ穴抜け状態。前途多難ではある。
「使いの者になったらお金持ちになれるよ」
ああ、それね。私も異能あるらしいけど、それって命を賭けてるやつでしょ?死んじゃう。いや、異能があったらいける?私は強くないけど、リンだったら強くなれそうな?いや、異能がどうやってあらわれるのか分からないんだけど。
「お前は使いの者になんかなれるわけないだろ。死んじまう」
リンとミコが喧嘩をし始めた。いいコンビなんだけど、どっちかがいなくなったらここは崩壊するかもしれない。その前に空き家を探してこの子たちをまとめて面倒をみたいし、戸籍がないと銀行もろもろすべてダメだし。詰んでる。
「はいはい、喧嘩はやめ。今日も広場にお金稼ぎにいくよ。休日だからね。新しい手品でもお披露目しようか」
新しい手品っていっても腕が切れた、とかそういう種も仕掛けもあるやつですね。うん、助手がいるって素晴らしい。
「はいはい、皆さまご注目!」
いつもの口上を述べてみる。ここでの変わりない日常。刺激的ではあるけど平和だったあちらの世界が懐かしい。家族は、友人はどうしているだろう。虚しいとはこういうことをいうんだろうな。大切なものたちがあちらにずっとある。異能をきちんと使いこなして、使いの者として冒険しつつ元の世界に帰る道を探すのがいいのかな。
「ねえ、今日のマジック、いつもよりキレがなかったよ」
終わったあとにミコに言われた。確かに物思いにふけりつつ、良くなかった。
「そうだぞ。まあ、俺らとか常連くらいしか分からないもんだったけどな。あー、楽しかった!今日はいい稼ぎだったな」
「んー、そうだね。ちょっと考え事しちゃってた。ちょっといいご飯を買って帰ろっかな。はい、これ、お金。みんなでご飯を買ってきてくれる?ちょっと寄るところあるからさ」
「いーよー!早く帰ってきてね」
リンとミコを見送って、人気のないところまで進む。よし、このへんでいいかな。
「もしもーし、気づいてます。えっと、なにか御用でしょうか」
「…あれ?バレちゃった?久しぶり」
ひょっこりと顔を出した人は、リコさんだ。久しぶりだなあ。
「わあ、お久しぶりです。ご無沙汰していてすみません。なかなか生活が安定してなくて…」
「いいよいいよ、近くにきたから見に来たの。元気そうで何より。マジックっていうのもいいね、すごい人気だ。隣町でも噂になっていたよ」
「ありがとうございます。新技もいくつかあの子たちとやっているんですよ」
「そうみたいだね、見てたよ。はい、これ。前のクッキーのお礼。また遊びにきてね」
リコさんたちから甘味をいただいた。もうストックも切らしていたし、あまりあげられてないから、子どもたち、喜ぶだろうな。いいお土産ができた。その後、リコさんと近況を報告しあった。
そろそろ異能試しが始まるらしい。リコさんたちも結構本気で相手にしなきゃいけないから大変、といいつつもなんだか楽しそう。岩火山が騒がしくなるからあんまり近寄らないように、とのことだった。異能試しにともない良くない輩も集まってくるらしい。
結構長く話し込んでしまったし、急いで帰らなくっちゃ。
幸せが壊れるときはいつも血の匂いがする、ああ、これはどこかの漫画の台詞だったな、そうね、なんで弱いものから死んでいくのか。異世界ファンタジーだとは思っていたけどこの世界、弱肉強食の世界っぽいから、わかっていたけど。
「ちびちゃんたち、みんな、一体…」
裏路地に帰ると血まみれで倒れているみんながいた。ちびちゃんたちは首が曲がっていてひと目で絶命しているのがわかる。
「あーあー、せっかく僕たちが聞いているのに、教えてくれないんだもの。マジックっていうの?僕たちにも教えてくれてもいいんじゃないの~?」
「リン?ミコ?」
まだ音の鳴っている方に足をすすめる。
「ちょっとちょっと~、オタクがそのマジックの親分でしょ~。僕らにも分けてくださいませんかね~」
「ちょっと、リン?ミコ?いるんでしょ?ねえ」
「…おい、聞いてんのかテメエ!!!ふざけんな!!!」
「うるさい。邪魔しないで」
手から大きなバラの花や鈴蘭が飛び出す。
「うわあああなんだこれえええ!やめろ、やめろって」
「リン、ミコ。ねえ、みんな…」
音がやんだほうに足を運ぶと変わり果てた二人がいた。顔はあまり傷はないが、手足が折れているし、下の服は着ていない。ゲス共が。リンの方はナイフが刺さってかなりの血が流れている。ミコも必死に抵抗したんだろう、目を見開いて涙の跡もある。
「ハアハア、手こずらせやがって。オイ、女の方は顔がいいから変態にでも売れそうだ。男もいけるか?」
「なんで?なんでなの?」
「おお、コイツがそうか。…なあ、お前のせいでこうなっているんだ。マジックっていうのをな、仕掛けを教えねえからさ。こいつたちも口がかてえ。何も黄泉の国まで持っていくことはないのにな。なあ、どんな気持ちだ。こいつら最期ま「うるさい。黙って」」
自分が何をしたのか分からないけど、タガが外れている気がする。さっきまで、二人とも笑っていたのに。もっと早く来ていたら?なんで?なんでこうなったの?
「ごめん、ごめんね、みんな」
「…」
リンの指が動いてる。まだ生きてる!?
「ねえ、ねえ、頑張って。ごめんね、痛いよね、苦しいよね。ごめんね」
自分のマントで包んでなんとか止血を試みる。
「お願い。治って、ごめんね、痛いよね。治って、元の世界に戻れなくていい。この傷は私が全部負うのでもいい。リン、頑張って。ねえ、貴方、パティシエになりたいっていってくれたでしょ?まだなってないよ、夢かなえてないよ。ねえ、お願い」
マントがオーラ?モヤ?に包まれたのが分かった。ミコの下の服が見つからないので自分のジャケットを被せて目を閉じさせる。首にどす黒いあとがある。
「ミコもごめんね、遅くなっちゃった。ねえ、お菓子あるんだよ。貰ったの、みんなで食べようって。ごめんね、怖かったよね、痛かったよね。綺麗にするからね。マジックのこと、ありがとうね、でも、君たちの命の方が私には大事だったよ。外にいるちびっこたちも綺麗にするからね。一緒にいたもんね、寂しくないよ」
ミコを綺麗にし終わり、周りの音が聞こえるようになったので、後ろを振り返る。アハハ、お花から足が出てる。
「ねえ、君たちはなんでこんなことをしたのかな。まあ、いいや。失われたものは戻らない。ここは弱肉強食の世界だってことすっかり忘れていたよ。もっと警戒しないといけなかったんだよね、それに危機感も足りてなかった。ここの街の人たちは優しいから、甘えていたよ」
足がじたばたしているから声は聞こえているみたい。
「そのまま聞いてくれる?ああ、大丈夫、お花さんたちには君たちを消化してもらうから大丈夫大丈夫、そのまま聞いててね。うん、私が悪かったの、そうだよね、私だけここでは大人なのに子どもたちに教わってばかりで、もっとちゃんとしないといけなかった。神様は優しくなんかないんだよね。お花さんたち、ありがとうね。そのまま続きをお願いね」
頷いているので意思疎通はできそう。小屋から一歩外にでるとまたお花がいる。こちらはなんかピクピクして麻痺してるのか死にかけ。
「お花さんたちありがとう。あ、ちびちゃんたちをさ、綺麗にできるかな?できる?じゃ、お願い」
お花さんたちが血まみれのちびちゃんを綺麗にしてくれるのでこれからのことを考える。
さて、どうしようかな。
・・・・・
この度、犯罪者を撃退したわけだけれども、この人達は賞金首とかだったりは、しないか。そんな都合のいいことはなさそう。弱かったし。まあ、ちびっこを殺害した罪で警察にきてもらえたり、しないか。
そしたら、私もお尋ね者になるな。それはちょっと避けたい。となるとこのままここに放置するしかない。みんなの遺体はここが家みたいなものだし埋めたいけど、ああ、路地裏まっすぐいったところに花の咲いている丘があるからそこに埋めよう。うん、お花さんたちに手伝ってもらえたらいいよね。あとは、そうだな、この人達は埋めておくか、生きてる?うん、じゃあ、空気吸えるように口と鼻だけだして。よし、思いついたら善は急げだ。
「お花さんたち、ちびちゃんたちやミコを運ぶよ。あとはこの人達はそう、数時間後には目が覚めるのね、ありがと、急いで埋めましょ。よろしくね」
お花を追加でだし、埋める作業とお墓づくりを並行してやる。このお花は私の異能なのかな。一般人にはどう見えているんだろう。これ、あとでしっかり考えないと。
・・・・・
作業を終えて、リンの様子をみる。まだ私のオーラ?モヤ?で包まれているからなんとなくそのままに。命は無事だったけど嬲られた跡があったな、ゲス共が。お花さんにきっちり処理してもらったけど、あー、どうしよ。旅にでるか。ここにはいられないものね。
今ならリンを運ぶのも平気なくらいだし、異能はすごいな。
お世話になった人たちに挨拶をして、みんなで出かける旨を伝える。名残惜しそうにしてくれてありがたい。またこの街に帰ってきたいものね。
「じゃ、リン、行こっか」
私の旅はここからはじまるのであった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
ファンタジー
旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い
【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】
高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。
満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。
彼女も居ないごく普通の男である。
そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。
繁華街へ繰り出す陸。
まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。
陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。
まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。
魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。
次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
キーナの魔法
小笠原慎二
ファンタジー
落とし穴騒動。
キーナはふと思った。今ならアレが作れるかもしれない。試しに作ってみた。そしたらすんばらしく良くできてしまった。これは是非出来映えを試してみたい!キーナは思った。見回すと、テルがいた。
「テルー! 早く早く! こっち来てー!」
野原で休憩していたテルディアスが目を覚ますと、キーナが仕切りに呼んでいる。
何事かと思い、
「なんだ? どうした…」
急いでキーナの元へ駆けつけようとしたテルディアスの、足元が崩れて消えた。
そのままテルディアスは、キーナが作った深い落とし穴の底に落ちて行った…。
その穴の縁で、キーナがVサインをしていた。
しばらくして、穴の底から這い出てきたテルディアスに、さんざっぱらお説教を食らったのは、言うまでもない。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる