上 下
6 / 34
1.始まりの地

ろく、名付け親

しおりを挟む
拠点に戻るとちらほらと光る綿毛がハンカチのそばでふよふよ行ったり来たり。

「あなた達、お仲間が心配なの?この子たちは大丈夫なの?」

返事はなくても行動がなんだか心配してる様子なので、ついつい話しかけてしまう。
もちろん返事はないので、光る綿毛を眺めるだけ。

「不思議な場所ね。ここで物語の主人公だったらこの綿毛ちゃんたちと言語は通じて、そして魔法も使えるようになっちゃって、あー、あとスローライフとかもあるわよね。何にせよ私には無縁の世界だけど、スローライフも文明あってこそやりたいものよ。あーあ、これからどうなっちゃうのかしら。ほーんとあの神もどき、気が利かないんだから。転生じゃなくて転移だし、そもそも勝手に人を転移させるなんてありえないわ。神隠しにしたって確率高くないわよ。交通事故のほうがよっぽど気をつけなきゃならないことだわ」

ぶつぶつと文句を言っているとハンカチの上にいた綿毛ちゃんたちが少し動いた。

「あ、気がついたかしら。おはよう。君たち大丈夫かな?お腹減ってる?これ食べてみる?」

職場で食べてるドライフルーツをハンカチの上に置いてみると様子を伺っていた綿毛ちゃんたちまでおりてきた。

「餌付けみたい。ふふ、面白いわ。でも食べるのかしら。様子見かな、かわいい」

綿毛たちの様子をみていると触ってはいるものの食べてるという感じではなさそうね。あれ、ほんの少しだけれども減っていっているような。

「えっ、君たちどこから食べてるの。触れてるだけで、減っているということは溶かしてるのかな。やだ、消化液がどこからかでてるのかしら。私も溶かさせる可能性があるってことよね。結構凶悪ね!?私を食べても美味しくないわよ、というよりハンカチは溶かさないでね、食べ物じゃないわよ。その実みたいなものだけよ、食べていいものは」

通じないとは思いつつも一応牽制をしておく。そして、距離を少しとっておく。

「食べたらまた戻っていいからね、私は溶かさないでね」

時間をかけつつも全部綺麗になくなった。
途中で食べなくなった綿毛ちゃんは私のそばまでやってきて、ふわふわ挨拶をしてからどこかに飛んでいったりしている。

「案外通じているのかしら。挨拶してくれるなんて律儀ね」

溶かされる危険があるものの沢山の光る綿毛に囲まれたら助かることはなさそうなので考えないことにした。

「考えても仕方ないことは考えなーい、だって女の子だもん♪ふふ、女の子って歳でもないけどね」

そろそろ全部なくなりそうなのでまた近くまでよってみる。

「綺麗に食べるものね、君たち。お口に合うといいのだけれども。ハンカチ、溶かさずにいてくれてありがとうね」

迂闊に触らないようにしつつも、ふわふわ揺れる光をみて和むこと数十分。
ようやく全部食べ終わったようだ。

「お粗末様でした。みんなまたね」

拾ってきた2つ、いや、2匹の綿毛ちゃんたちを残してみんな去っていた。

「君たちは残っているのね、どうしたのかしら」

ふわふわと私の周りをうろうろとしている。何かを話しかけてるようだけど、全くわからない。

「んー、こういうときのセオリーは、なんだっけ。あ、契約?契約をするのよね!名前をつけてあげて、あとは血やその人の血肉が必要だったりするのかしら。そうすると物語がはじまるのよね、相棒ができるの!よくそういうのを読んだわあ」

一人で考えに耽っていると目の前に綿毛ちゃんたちがきて視界の邪魔をしてくる。

「なあに、綿毛ちゃんたち。本当に契約みたいなことしたいってこと?そんな方法があるの?お話ができたりするのかな」

光が強くなったり弱くなったりして綿毛ちゃんがチカチカしていて何かを主張している。

「ま、いいわ。とりあえずやってみましょう。血と名前でいいのかな、これで何もなかったらただの痛い人よね。もう厨二病は卒業してるのよ、これでも」

ブツブツ言いながら鞄からソーイングセットの中にある針をだしておく。

「綿毛ちゃんたち、性別とかあるのかな。安直なんだけど、ケサランとパサランはどうかしら。私には見分けがつかないけれど、こっちにいる子がケサランでこっちにいる子がパサランね!忘れないようにメモしておこ。さ、血をどうぞ」

針で自分の人差し指を指して、綿毛ちゃんに差し出してみる。

「いったいわね。針で指をさすとこんなにも痛かったんだっけ。絆創膏あったかしら」

血が出ている指を差し出してもなかなか綿毛ちゃんたちは近寄ってこない。

「あれ、もしかしてそういうことではない?恥ずかしすぎない、私。えー、せっかく痛い思いしてドキドキしてたのに違ったのね!恥ずかしいわ!!」

思わず早口になってしまう。なんて、恥ずかしいの。血が他につかないように急いでティッシュに吸い取らせ、、、え、止まらない。深く指しすぎたようね、通りで痛いはずだわ。

「えーっと、絆創膏は…って何よ」

絆創膏を探そうとしている目の前に綿毛ちゃんたちがチカチカしながら邪魔してくる。

「もー、一体何なのよ。違ったのでしょ。邪魔しないで頂戴、汚れちゃうわ」

振り払おうとしても目の前に寄ってきて何かを訴えているようだ。

「んー、もう、なんなの。ケサランとパサラン!名前つけたけど、姿が一緒に見えてどっちだか分からなくなっちゃったわよ。あ、自己紹介がまだだったわね、私はるみよ。よろしくね。まあ、契約できなかったみたいだけどね?ふふ」

恥ずかしいので契約できなかったのを誤魔化すように笑いながら喋っているといきなり血が出ている指先に2人がおりてきた。

「ちょっと血で汚れるわよ、いきなりどうしたのよ。もう」

構わずに鞄から絆創膏を探して、出しておく。

「先に出しておけばよかったわね、失敗したわ」

絆創膏を取り出して、指先を見てみると綿毛が人の形になっていた。どうしてこうなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

処理中です...