ナロー姫の大冒険

きーぼー

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その3

カクヨーミ王子の陰謀

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 ナロー王女が城から旅立つ数刻前の事です。
お城の奥まった一室に数人の男たちが集まっていました。
そして彼等の中心にいるのはー。
カクヨーミ王子でした。
カクヨーミ王子は普段とは打って変わって狡猾な表情を浮かべています。
彼の隣にいる男が声を低くして王子に話しかけます。
その男は国王に仕える重臣エプリスタ卿でした。

「カクヨーミ様これはナロー姫を亡き者にするチャンスですぞ。泊まっている宿に刺客を潜り込ませれば簡単に姫を殺す事が出来ます。王族が大した警備もせずに城の外に出るなど滅多にない事ですからな」

もう一人の男がその言葉に応えるように口を挟みます。
彼は城の警備隊長を務める男でした。

「そうです。そうなればこの国の王座は確実に貴方様のもの」

しかしカクヨーミは邪悪な笑みを浮かべながらも彼らの提案に首を振りました。

「いや、うかつな事をして我々の計画が露見すれば元も子もない。それに彼女の側にはあの男、シールズがついている。そう簡単にはいくまい。それにー」

カクヨーミはさらに邪悪な笑みを浮かべます。

「あの女すぐに殺すのはもったいない。生かしておけば色々と楽しめるというものよ。ククククーッ」 

自分自身の言葉に興奮したのかカクヨーミ王子のテンションはどんどん上がっていきます。

「王が譲位するまで待っていられるか!すぐにでも俺が王になってやる!!そうすればこの国の女のおパンツは全て俺のものっ!!お前たちにも一人2~3枚くらいなら分けてやろう!クークッククーッ!!!」

周りの男たちは王子のあまりの邪悪さに身を震わせます。
カクヨーミはそんな彼らを舐めるような視線で見た後、命令口調で言いました。

「とにかく出過ぎた真似はするなよ。今はクーデターに備えて同志を一人でも増やさねば。いいか、現国王に不満を持つ者がいたらすぐに俺に知らせろ。俺が直々に説得して仲間に引き込んでやる」

そうです、彼らは国王陛下から王位をクーデターを起こして強引に奪取する為、カクヨーミ王子を中心にエプリスタ卿など現国王に不満を持つ有力者たちで結成された「水玉おパンツ党」と名付けられた秘密のグループだったのです。
もちろん王位継承の候補者であるナロー姫も彼らの標的の一人でした。
彼らは水面下で同志を集め武力クーデターを起こす準備を着々と進めていました。
その為、党のメンバーたちはこうして密室で定期的に集まり陰謀を成就するために会合を開いていたのでした。
ちなみに「水玉おパンツ党」という名称はカクヨーミ王子が考えたものです。
彼は常日頃から自分は水玉模様の柄パンツが大好きで国中の女性にそれを穿かせるのが夢だと公言していました。
水玉パンツを見ると自分は異様に興奮するのだと。

「グワーッハハハッー!!!水玉おパンツに栄光あれーっ!!!」

王子のその宣言を聞いて周りにいる男達はおのおの忠誠やおもねりの言葉を発します.

「御意ーっ」

「カクヨーミ様、万歳っ!!」

「ふふふっ、パンツ良いですな。パンツ」

しかし何故か最後の男の言葉にカクヨーミ王子は反応します。

「違う」

「えっ?」

王子に自分の言葉を否定されて戸惑う男。
ちなみに彼はこの国で文部大臣を務める人物でした。

「パンツではなくおパンツだ。おパンツと言え」

「はっ?」

カクヨーミが何を言っているのか解らず素っ頓狂な声を上げる文部大臣の男。
男の戸惑った様子を見てカクヨーミ王子は怒りを爆発させました。

「パンツを呼び捨てにするなっ!!敬意を払えといっておるのだっ!!パンツはーっ。おパンツは何よりも尊い存在なのだ!侮辱する事は許さんっ!!おパンツに比べればその中身などまったく取るに足らんわ!!」 

さすがにそんな訳はないだろうと思いながらも周りの男たちは彼に逆らう事は出来ず追従する言葉を次々と発します。

「い、いや、さすがは殿下。素晴らしい」

「我らの盟主にふさわしい」

「お、おパンツ最高です」

彼らのへりくだった言葉を聞いてカクヨーミ王子は満足そうに頷き高らかな声で言いました。

「皆の者!新しき時代が来る日は近いっ!我ら水玉おパンツ党の時代が!!水玉おパンツに栄光あれーっ!!!グワーッハッハッハッハーッ!!!!」

王子の下卑た笑い声が薄暗い部屋に響き渡りました。
そんな彼の姿を周りにいる同志の男たちは恐れと疑念の入り混じった瞳で見つめていました。


さてお城でそんな陰謀が進行しているとはつゆ知らずナロー姫は騎士シールズと共に冒険の旅をスタートさせていました。
ナロー姫の乗る仔馬とシールズの乗る大きな軍馬、二つの馬影はお城の近くに広がる田園地帯の小道をくつわを並べて進んでいきます。
今から二人は国境付近にある大きな町まで行ってそこを拠点として冒険者としての活動を開始するのです。
なんだかんだ言って箱入り娘であるナロー姫にとって馬上から見える広々とした景色はとても新鮮でした。
隣を見るとお供のシールズがその鎧で覆われた全身をゆったりとくつろがせて軍馬にまたがっています。
シールズはその顔まで銀製のフェイスガードに覆われている為その表情をうかがい知る事はできません。
それに基本的に無口で必要の無い事はあまり口にしません。
シールズは幼少時代からナロー姫に仕えているのですが彼は初対面の子供の頃から全身にフルアーマーを着ておりナロー姫は実は一度もまともにシールズの素顔を見た事がありませんでした。
鎧のサイズだけは年ごとに大きくなっていましたが。
シールズに理由を聞くとどうやら家の掟との事でした。
本当に親しい家族か友人にしか素顔を見せないのだと。
自分は親しい友人ではないのかと思いナロー姫はちょっとだけ落ち込みました。
ともあれナロー姫はシールズに対して深い信頼を寄せており、こうして未知の旅をしていても不安が無いのはシールズがいるからだと思っていました。
そんな彼女の心を知ってか知らずかシールズ は黙ったまま悠然と馬上でその長身の身体を揺らしていました。
ナロー姫はそんな彼の姿を横目で見ながらその隠された素顔を想像してちょっと頬を赤らめます。
馬上のシールズはナロー姫の視線に気付くとフェイスガード越しにくぐもった声で彼女に尋ねました。

「どうしました?我が君」

「な、何でもありませんわー」

ナロー姫は誤魔化す様に首をぶんぶんと振ると照れを隠す為に鼻歌混じりの歌を歌い始めました。

なろー

なろー

明日はなろー

なろー

なろー

何になろー

なろー

なろー

きっとなろー

なろー

なろー

わたしはナロー

フンフンフンーッ♪

田園風景の上に広がる青い空にナロー姫の調子外れの歌声が響き渡ります。
仔馬に乗って身体を揺らしながら歌うナロー姫を見ながら横で軍馬に乗るシールズは肩をすくめながら言いました。

「とりあえず歌手になるのはやめた方がいいですよ」

[続く]
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