メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

文字の大きさ
上 下
92 / 99
変身の朝(あした)

その3

しおりを挟む
 水に満たされた堀の中に屹立する高い土台の上に建つラピータ宮殿の門前に広がる石造りのスペースの上でシュナン少年の横臥した石像の周りに寄り添うように集まっているメデューサら旅の仲間たちはいきなりの神の降臨に驚いて一斉に空を見上げそれぞれの顔に呆然とした表情を浮かべていました。
メデューサも仰向けになったシュナン少年の石像に寄り添いその傍らに座りながら突然の神の出現に驚き一瞬悲しみを忘れて天から降りて来た巨大な光のかたまりの方を見上げています。
雲の合間から出現した空中に浮かぶその巨大な光球はメデューサたちが呆然と見上げる中、天の方から少しずつ降下するとメデューサたちがいるラピータ宮殿の門前に広がる石畳で出来たスペースのちょうど真上にあたる宮殿の尖塔の高い屋根に近い位置でピタリと動きを止めます。
そしてまるで上空から見下ろすように空中で静止したままそこから眼下の石床の上にいるメデューサたちに向かってその光輝に包まれた女神は声を発します。

「ラーナ・メデューサ、わたしははるかな昔にあなたの先祖と今は「アルテミスの森」と呼ばれる場所の領有権をめぐって争った月の女神アルテミスです。そしてあなたの一族を蛇の髪の毛と相手を石に変える魔眼を持つ呪われた存在に変えた張本人でもあります」

上空に浮かぶ光球の中から声を発する女神のその言葉を眼下の石造りの床にシュナン少年の石像に寄り添って座るラーナ・メデューサや彼女の背後に立つレダやボボンゴは口を半開きにして聞いています。

「もちろん、何の理由もなくそんな事をした訳ではなく人類の強力な指導者であったあなたの一族を他の人間から遠ざけて孤立させ二度と神々に反旗を翻す事の無いようにする目的があったのです。でもー」

自らが発する光に包まれてラピータ宮殿の上空に浮かぶ女神アルテミスはそこまで言うと少し声の調子を落とします。

「今ではわたしはあなた方の一族に呪いをかけた事を後悔しています。女神らしからぬ卑劣な行いだったとー。実はわたしはかなり前からある者を通じてあなた方の旅の様子をずっと監視していました。互いをいたわり合って困難な旅を続けるあなた方の姿をー。そしてわたしは知ったのです。自らの愚かさと犯した過ちをー」

そんな風にラピータ宮殿の上空に浮かび自分に話しかける光り輝く女神の姿をその真下に広がる石造りのスペースの上に座るラーナ・メデューサは傍らに横たわるシュナン少年の石像にぴったりと寄り添いながら複雑な思いで見上げており蛇の前髪で隠された顔に戸惑いの表情を浮かべています。
彼女は一族の仇敵である女神が今頃になって自分の前に現れて謝罪ししかも和解を持ちかけて来た事に驚き混乱していました。
そしてー。
そんな蛇娘を眼下に見下ろしながら上空に浮かぶ光に包まれた女神は更に言葉を続けます。

「今更と思うかもしれませんがわたくしはあなたの一族と和解したいと思っています。その証としてまずはあなたの一族にかけた変身の呪いを解いてあなたの姿を人間に戻す事にしましょう」

横臥した少年の石像に寄り添って座るラーナ・メデューサは頭上から響く女神のその言葉を聞くと驚きのあまり蛇の髪の下の魔眼を大きく見開き思わず声を上げます。

「えっ!」

彼女の背後で宮殿前の石造りの床の上に立ち尽くしていたレダとボボンゴも女神の発したその言葉に驚き二人して息を呑みます。
近くの石畳に折れて転がっている師匠の杖もその先端の円板についた大きな目を更に大きく見開き光らせています。
そのように眼下にいる者たちが一斉に驚く中、ラピータ宮殿の上空に浮かぶ女神アルテミスはちょうど真下あたりの石畳で出来た床上にシュナン少年の石像と共にうずくまり自分の方を見上げているメデューサに向かって手を振りかざすと何やら口の中でモゴモゴと呪文を唱えました。
するとー。
それはメデューサの背後に立っているレダやボボンゴが驚きの声を上げる間もないほど一瞬の出来事でした。
呪われた少女ラーナ・メデューサについに変身の刻(とき)が訪れたのです。
シュナン少年の石像に寄り添い石床の上に座っていたメデューサの身体がまぶしい光に包まれると彼女の蛇の髪が一斉に抜け落ちその頭から抜け落ちた生きた蛇たちは身体をうねりながら一斉に四方へと散って行きます。
そして蛇の髪が抜けるとほぼ同時にメデューサの頭からは波打つ美しい金色の髪が弾けるように生えてきて彼女の頭部をすっぽりと覆いました。
更に彼女の真紅の魔眼は目まぐるしくその色を変え赤黄緑と移り変わった後に結局は紺碧の海のようなエメラルド・ブルーに落ち着きます。
周囲にいる仲間たちが驚きの目で見守る中、横臥したシュナン少年の石像の傍らで石床に座っているメデューサの外観は見る見るうちに変わって行き蛇の髪と真紅の瞳を持つ異形の少女は流れるように波打つ金髪とエメラルド色の瞳を持つ美しい少女へとその姿を変えていました。
メデューサの背後に立っているレダとボボンゴはメデューサの突然の変身に驚き変身後の彼女のあまりに美しいその姿に思わず目を見張ります。
側の石畳の上に二つに折れて転がっている師匠の杖も先端の円板についた大きな目を明滅させて驚いています。

「メデューサ・・・。な、なんて綺麗なの・・・」

「う、うむ、驚いた。目鼻立ちが、美しいのは、知ってたが・・・」

「ま、まぁ、祖先は大神ゼウスの娘である女神アテナと美しさを争ったくらいだからな・・・」

一方、当のメデューサといえば自分の身に突如として起こった変化に戸惑いシュナン少年の横臥した石像の傍らで石床の上に座り込みながら自分の顔を両手でペタペタと触っていました。
彼女がふと横を振り向くと側の石畳の上に彼女の頭から抜け落ちた数十匹の蛇が鎌首をもたげてずらりと整列しています。
メデューサが戸惑いながらもその蛇たちに向かってうなずくと蛇たちの先頭に並んでいた一匹がペコリと挨拶を返しました。
それと同時に石畳の上に居並んでいた蛇たちは側の石床に座り込むメデューサの前からバラバラに去って行きある者はラピータ宮殿の方に向かいまたある者は宮殿を支える土台についた階段を滑り降りて周囲に広がる水面に飛び込みメデューサの視界からあっという間に消えて行きました。
そうしてしばしの間、自分の頭に生まれた時からくっついていた蛇たちが去って行く様子をシュナン少年の石像の側に座り込みながら呆然と見守っていたメデューサですがそんな彼女に対して真上付近の上空に浮かぶアルテミス神が頭上から声をかけてきます。

「あなたにかかっていた呪いはこれで解かれました。それでメデューサ、他に何か望みはありませんか?こんな事でわたしの犯した罪があがなわれるとはもちろん思いませんがせめてもの償いがしたいのです」

ラピータ宮殿の門前に広がる石畳が敷きつめられたスペースの上で横臥したシュナン少年の石像の側に寄り添うように座っているラーナ・メデューサは急に人間の姿に戻されてその心はひどく混乱していました。
しかし上空に浮かんでいる女神が発した自分の願いをかなえるというその申し出の言葉を耳にした彼女は人間に戻ったばかりの美しい顔にハッとした表情を浮かべます。
そして目の前の石畳の上に仰向けの状態で横たわっているシュナン少年の石像に目をやると何を思ったのか上空に浮かぶ女神の方に石畳に座ったままの姿勢で自分の身体を正対させるとまるで土下座をする直前のような格好で石畳に手をつきます。
上空に浮かぶ女神の前で石床の上に膝まずき四つん這いの姿勢となったラーナ・メデューサは顔だけを上げると光に包まれた女神のシルエットを真っ直ぐに見つめ真剣な面持ちで言いました。

「もしも、わたしの願いをかなえてくれるとおっしゃるのならー。どうか、お願いします、女神さま。シュナンをー。シュナンを生き返らせて下さい」

メデューサのその言葉を聞いて彼女の後ろで呆然と立ち尽くしていたレダとボボンゴは二人して息を呑みます。
側の石畳の上に転がっている二つに折れた師匠の杖もその先端の円板についた大きな目をキラリと光らせます。
確かに森羅万象を司る神であったなら石像と化して絶命したシュナンを再び生き返らせる事が出来るかもしれません。
ラピータ宮殿の高い屋根のあたりに浮かんでいる女神アルテミスの前にひざまずいたラーナ・メデューサは宮殿前に広がる石畳が敷きつめられた床の上に手をついて四つん這いとなり何度も頭を下げて上空にいる女神に懇願します。

「どうか、どうか、お願いします。もしもメデューサ族の存在が危険だと言うなら、わたしは醜い怪物の姿のままでかまいません。その代わりシュナンをー。シュナンを生き返らせて下さい。お願いします、女神さまー」

ラピータ宮殿の門前に広がる石造りの床の上に土下座の姿勢でひざまずき上空に浮かぶ女神に何度も頭を下げて懇願するメデューサ王の裔たるラーナ・メデューサ。
シュナン少年を蘇らせて貰うためにメデューサは必死でした。
石造りの床に何度も額を擦りつけて頭を下げ続けたために彼女の美しい顔は埃で黒く汚れ青い瞳からは真珠のような涙がポロポロとこぼれ落ちます。

「お願いします、お願いします、お願いしますーっ」

まるで土下座をするみたいにラピータ宮殿の門前に広がる石造りの床の上に這いつくばり何度も額を石床にこすりつけて自分に向かって頭を下げ懇願し続けるメデューサのなりふり構わぬその姿をはるか高所である宮殿の高い屋根に近い宙空に浮遊する光球の中から見下ろす女神アルテミスは光の中心で静かに佇んでいます。
はるか上空から眼下にひざまずくメデューサを無言で見下ろす光に包まれた神はどこか困惑しているようにも見えます。
メデューサの背後に立っているレダやボボンゴも彼女の必死な姿に圧倒され石床にへばりつくようにして上空にいる女神に向かって涙を流しながら頭を下げ続ける仲間の姿をただ後ろから見守る事しか出来ませんでした。
側の石畳の上に転がっている二つに折れた師匠の杖も先端の円板についた大きな目をギョロリと動かして床上で土下座するメデューサの方をじっと見つめています。
やがて水に満たされた堀の中に屹立する高い土台の上に建てられたラピータ宮殿の上空に浮かぶ光に包まれた女神アルテミスは眼下に広がる石造りの床に這いつくばるメデューサやその周りにいるシュナンの仲間たちをはるかな高所から見下ろしながらどこか突き放した様な口調で言いました。
メデューサたちの一縷(いちる)の望みを断ち切る言葉をー。

「それは出来ませんー。死者を蘇らせる権限は残念ですがわたくしには無いのです。それが出来る者はオリンポス12神の中でもわたしの叔父にあたる死者の国である冥界を統べる大神、冥皇神ハーデスだけなのです」

[続く]
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

処理中です...