メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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夢見る蛇の都

その16

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 「彼女は僕の妻です。決して誰にも渡しません」

シュナンのその言葉がラピータ宮殿の門前に響いたその瞬間にペルセウス王の軍陣から大きな笑い声が上がります。

「あんな化け物娘と結婚するなんて頭がおかしいんじゅないか?」

「まぁ、お似合いではあるけどな」

「ゲテモノ好きにもほどがあるだろう」

「俺なら絶対にごめんだぜー」

眼下の堀の中にいる兵たちはそこに屹立するラピータ宮殿を下から支える高い土台の足元をぐるりと包囲しておりそこから宮殿前に居並ぶシュナン一行を殺気をみなぎらせながら見上げていました。
そして堀の中でラピータ宮殿を支える土台をぐるりと包囲する彼らは上の方から響くシュナン少年のその言葉を聞くと一斉に下卑た声で笑いだしたのです。
彼らを率いるペルセウス王もまた堀の中で大勢の兵に囲まれながらシュナン少年のその言葉に馬上で身体を大きく揺らし大笑いしていました。

「妻だとー。メデューサとー。あの呪われた化け物とか。これは笑わせてくれる。ガーッハッハッハーッ!!!」

黄金の鎧に包まれた身体を大きく揺らして大笑いする馬上のペルセウス王。
周りにいる兵たちも王につられるように大声で笑っています。
一方、ラピータ宮殿の門前に居並んだシュナン一行は宮殿を足元から支える大きな土台の上に立ちながら眼下の堀の方から地鳴りのように響いてくるペルセウス王の兵たちのあざけりの声を聞いて全員が慄然とした表情を浮かべています。
特にメデューサはシュナン少年の隣でその蛇で覆われた顔を上げる事も出来ずに立ちすくみ「黄金の種子」を胸にかき抱きながら小さな身体を恥辱で震わせています。
メデューサは自分の事でシュナン少年が馬鹿にされているのが悔しくて悲しくてなりませんでした。
自分が馬鹿にされるだけならいくらでも我慢しましたが好きな人が自分の事を妻と呼んだせいで笑われ恥かしめられているのは耐えがたい苦痛でした。
蛇の前髪に覆われた顔を恥ずかしげにうつ向かせわずかにのぞく口元を悔しげに噛みしめるメデューサ。
しかし、そんなメデューサに対して側に立っていた仲間の一人であるペガサスの少女レダが後ろからがっしりと肩をつかみます。
そして叱咤するような口調でメデューサに告げました。

「何を顔を伏せているの、メデューサ!?悪い事をしたわけじゃないのにー。シュナンを見なさい!」

レダの言葉を受けてメデューサが隣に立つシュナン少年を蛇の前髪の隙間から横目で見ると彼はペルセウス軍の罵声にもひるむ事は無く堂々と顔を上げていました。
背後からメデューサの肩をつかむレダの手に力がこもります。

「シュナンがあんなに堂々としているのに肝心のあなたがそんな事でどうするの!?女ならー。いえ、人間なら好きな人に愛されてる事に誇りを持ってー。顔を上げて前を見なさい、メデューサ!!そして胸を張ってシュナンの隣に立つのよ!!!」

レダの言葉を聞いてメデューサはその蛇の前髪で覆われた顔をぶるぶると震わせます。

「レダー」

他の仲間たちも次々とメデューサに声をかけて彼女を励まそうとします。

「人の純粋な気持ち、あざ笑う。最低な奴ら。あんなの、相手に、する事ない」

その顔に怒りの表情を浮かべながら自分たちを包囲する眼下のペルセウス軍を睨みつける巨人ボボンゴ。

「そうですぜ。あんな連中相手にする事無いですせ。メデューサ族の宝が何ですか。どんな宝石もお二人の愛ほど輝きはしませんぜ。自信を持って下さい」

吟遊詩人デイスも懐から取り出した竪琴をポロンポロン弾き鳴らしてメデューサを励まします。
そんな仲間たちの励ましの言葉が功を奏したのかメデューサはうつ向かせていた顔を上げて前を見つめます。
そしてすぐ側にいるシュナン少年の方に更に歩み寄ると彼のすぐ隣に並び立ちます。
メデューサは両手で「黄金の種子」の麻袋を持っておりそれを胸にかき抱くようにしています。
シュナン少年は自分の隣に「黄金の種子」の麻袋を持つメデューサが寄り添うように立った事に気づくと彼女の方に目隠しをしたその顔を向けにっこりと笑いました。
ラピータ宮殿がその上に立つ高い土台をぐるりと包囲している深く広い堀の中にひしめくペルセウス軍の兵士たちはメデューサがシュナン少年と共に襟を正して宮殿前に並び立つのを見て二人をあざ笑うのをやめ一転して水を打ったように静かになります。
それは堂々と立つ二人の若者の姿が兵士たちに対して決して軽んじてはならない大切な何かがある事を思い起こさせたからでした。
しかし彼らを率いるもう一人の王であるペルセウス13世は馬上から宮殿前に並ぶ二人を冷徹な目で見つめラピータ宮殿を支える高い土台の上にメデューサと共に立つシュナン少年に向かって大声で呼びかけます。

「なるほど、お前の気持ちは分かった。まったく、つくづく変わった奴よ。目がくらむような栄誉よりそんな蛇娘を選ぶとはー。だがお前は一人の男である前に朕の臣下である。その義務についてはどう考えるのか。臣下としての義務は人として何よりも優先すべきもの。それともお前はそんな事も知らぬ不忠者なのか」

ペルセウス王の軍勢と共に彼の傍らで深い堀の中から目の前にそびえ立つラピータ宮殿を支える高い土台の上にいるシュナンたちを見上げているロボットに乗った魔術師レプカールもまた弟子であるシュナンを責める言葉を音声装置を通じて発します。

「そうだぞ、シュナン。生まれた村で両親を亡くした孤児のお前を引き取ってここまで育ててやったのは誰なのかー。お前の師であるわしであり主人(あるじ)である陛下ではないか。あのままあの村にいたらお前はとっくの昔に野垂死にしていたわ。メデューサと「黄金の種子」を王にお渡ししてご恩返しするのは当然の事よ」

その時でしたー。
高い土台に支えられたラピータ宮殿の門前に仲間たちと共に立ち眼下の深い堀の中にひしめく軍勢の方から聞こえてくる王と師の声に耳を傾けていたシュナン少年に対しまったく別の方向から声をかける者がいました。
それはシュナンがその手に持つ師匠の杖でした。
なんとシュナンが手に持つ師匠の杖が長い沈黙を破って弟子である彼に声をかけてきたのです。
その杖を遠隔操作しているはずの魔術師レプカールの本体は眼下の堀の中でロボットの内部に鎮座しており今の今まで音声装置を使って高所にいるシュナン少年に話しかけていました。
それなのに何故ー。

「あいつらに恩義を感じる必要など無い。シュナンよ。お前の両親を殺したのは魔術師レプカールだ。魔法の才を持つお前を手に入れるために王の命令でな。お前の視覚を奪ったのもあいつだ。お前を自分に依存させ思うがままに操るためにな」

シュナンたちがその上にいるラピータ宮殿を下支えする階段のついた高い土台が中心に立っている宮殿の周りに広がる深い堀の中で他の兵たちと共に弟子の様子をうかがっていた魔術師レプカールは秘密がバレた事に気づいたのかロボットの操縦席で思わず毒づきます。

「チッ!やはり自立式にしたのが間違いだったかー。わしとした事がしくじったわい」

[続く]





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