メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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夢見る蛇の都

その11

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 寝袋に入っていたメデューサはその寝袋の中で「黄金の種子」の詰まった麻袋を見つけると思わず大声を上げて横たわっていた床から跳ね起きました。
彼女は下半身を寝袋に入れたままの状態で石造りの床の上で半身になって座ると側で寝ているはずのシュナン少年の姿を探し求めます。
しかし彼女の周りにはレダにボボンゴそれに吟遊詩人のデイスは毛布や寝袋にくるまりながら部屋の中で寝ていましたが肝心のシュナン少年の姿はどこにも見当たりません。

「シュナン!!シュナンはどこっ!?」

メデューサの叫びに気づいたのかすぐ側で寝ていたレダが眠そうに床から身体を起こすと目をこすりながら言いました。

「シュナンならだいぶ前に起きてどっかに行っちゃったわよ。多分昨日探しきれなかった場所を調べてるんじゃない?あたしも手伝おうとしたんだけど何だか一人になりたがってるみたいだったわ」

レダの言葉を聞いたメデューサは手にしている「黄金の種子」の詰まった麻袋を急いで着ている青い服のポケットに突っ込むと寝袋から抜け出てスクッと石の床の上に立ち上がります。
そして未だに周りの床の上で寝ている仲間たちに何も告げずに部屋の中から脱兎の勢いで飛び出して行きます。
シュナン少年を探すためにー。
メデューサは広い部屋の出入り口である大きな観音扉の方に向かって駆け出すと昨夜のように扉をすり抜けれるはずも無く激突する勢いで観音扉を外側に大きく開けると部屋の外に飛び出て行きました。
そして部屋の外側を走る通路に出ると飛び出した勢いのまま通路の奥に向かってすごい勢いで駆け出し彼女の姿はあっという間に見えなくなりました。
メデューサが脱兎の勢いで部屋から飛び出すのを見ていたまだ部屋の床で寝ている仲間たちは寝ぼけ顔で互いに顔を見合わせます。

「どうしたのかしら、あの子?ポケットに何か入れてたみたいだけど」

寝袋に身体を突っ込んだまま床に横たわるレダがそう言うとその隣で大きな身体を毛布にくるんだボボンゴも寝返りをうちながら声を発します。

「メデューサ、ずいぶん、あわててた。なにか、あったか」

ちなみに彼らの隣では寝袋に首まで身体を入れた吟遊詩人デイスが大いびきをかきながら部屋の床の上で気持ちよさそうに寝ていました。

長く延びた通路を走るメデューサはシュナン少年の姿を追い求めて宮殿内のあちこちに移動し彼を捜しました。
彼女は宮殿内を移動しながら、時折、身にまとった質素なワンピース風の服のポケットに入れた「黄金の種子」の詰まった麻袋を服の上から触り、それがそこにちゃんとある事を確認します。
宮殿内をシュナン少年の姿を捜して走り回る彼女はこれで彼の長年の夢がかなうと思うと嬉しくてなりませんでした。
このポケットに入れた麻袋をシュナン少年に見せた時に彼が見せるであろう喜びの表情を想像してその蛇で覆われた顔の口元に笑みを浮かべています。
そんなメデューサでしたがやがて彼女はラピータ宮殿の西側の区域に屹立する高い塔の上に設けられたバルコニーのような場所で一人佇むシュナン少年を見つけ出しました。
そこは高い塔の頂上付近から屋根のない皿状の床がせり出しているバルコニーみたいな造りになった場所でありそこからはパロ・メデューサの街並みが一望する事ができ元々は外敵に対する見張り台として設けられた場所でした。
宮殿内の通路からたまたまその高い塔の中へとつながる出入り口に入ったメデューサは内部に設置された螺旋階段を足早に昇るとやがて塔のてっぺん付近にせり出した展望台みたいな高所で欄干にもたれかかっているシュナン少年その人の姿を発見したのです。
メデューサは昇っていた塔内の螺旋階段から出入り口をくぐるとその塔の外壁から突き出た屋根のないオープンな場所へと足を踏み入れ皿状の床の奥で自分に背中を見せつつ欄干に寄りかかるシュナン少年に向かって歩み寄ろうとします。
シュナン少年は背の高い塔からせり出したバルコニーのような場所でその外縁部に設置された腰より少し上ぐらいまである象牙色の欄干に前のめりになって寄りかかっておりそこから手にした師匠の杖をかざして周囲の遠景をぼんやりと眺めつつ何やら物思いにふけっていました。
杖を片手に欄干にもたれる彼はその手にした杖を通して周囲の風景をぼんやりと眺めており背後から近づくメデューサの存在にはまだ気がついていないみたいです。
そのバルコニーのような場所に足を踏み入れたメデューサは自分に背中を向けて欄干にもたれるシュナンに歩み寄りながら彼の意気消沈した後ろ姿を見て思わず胸を詰まらせます。
しかし今、自分の手元には彼が求める「黄金の種子」がある事を思い起こしその口元に再び笑みを浮かべます。

(大丈夫だよ、シュナン。今すぐ「黄金の種子」を手渡してあげるからね。そうすれば、大手を振って西の都に帰れるわ。きっと、みんながあなたの事を英雄扱いだよ。国を挙げて大歓迎してくれるに決まってる。当然だよね、だってあんなに頑張ったんだからー)

バルコニーの欄干に前向きの姿勢で寄りかかるシュナンの背中に向かって石造りの床を少しずつ踏みしめながら歩み寄るメデューサ。
彼女は身にまとった質素なワンピースのポケットに入れた麻袋を服の上から触り思いを更に巡らせます。

(それに女の子たちだって絶対シュナンの事を放ってはおかないよ。きっとモテモテだよね。だって、いくら目が見えないとはいってもシュナンは元々すごく優しい人なんだし、なんたってみんなを救った大英雄なんだからー。もしかしたらあたしに結婚を申し込んだ事なんかコロッと忘れちゃうかもね。でも、あたしはそれでもいいの。シュナンが幸せならそれでー。そしたらー)

シュナンに声をかけようと歩み寄っていたメデューサの足がピタリと止まります。
その時、バルコニーの欄干にもたれかかって背中を向けていたシュナン少年が背後から歩み寄る人の気配を感じて後ろを振り返りました。
そして背後から近づいていたのがメデューサである事に気づき疲れた様子を見せながらも彼女ににっこりと笑いかけます。

「やぁ、メデューサ。起きたんだね。でも・・・どうしたの?何だか顔色が悪いね」

自分を気遣ってくれるシュナン少年のその優しい言葉を聞いたとたんに彼と少し距離をとってバルコニーの床上に立つメデューサの蛇の前髪で隠された真紅の目から何故かポロリと涙がこぼれます。
そしてそのこぼれ出た一筋の涙はメデューサの顔を覆う蛇の髪の隙間をぬって頬を伝い彼女とシュナン少年が対峙するバルコニーの石床にポトリと流れ落ちました。

(そしたら、わたしはまた、ひとりぼっちー)

[続く]

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