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アルテミスの森の魔女
その14
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「まったく、騒がしいね」
マンスリーは玄関口の居間から響くガラスの割れる音を聴くと舌打ちをしてメデューサたちといた部屋を出て行きました。
そして玄関口近くの部屋に行くとその部屋の窓ガラスが割れた様子を見て悲しげに首を振りました。
どうやらその部屋の窓ガラスは家の外から何者かに投げ込まれた石によって割られてしまったようでした。
メデューサたちもシュナンを寝かせた部屋の出入り口から首を出し玄関近くの部屋で割れた窓の前に立つ背中を向けたマンスリーの淋しげな姿を見ています。
マンスリーはしばらくガラスの破片の散乱した部屋に佇んでいましたが、やがてフゥッと息をついてから片手を頭上に上げ魔法の呪文を詠唱し始めます。
「リカバー」
するとなんと部屋の床に散らかっていたガラスの破片が空中に浮き上がり割れた窓ガラスの方へ次々と戻っていきます。
そして窓に空いていた穴にそれらの破片はパズルのように隙間なくはまりあっという間に元どおりの割れていない状態に復元していきました。
マンスリーは何者かによって割られた窓ガラスが直ったのを確認するとおそらくそれがガラスを割ったのであろう床に転がる石を淋しげに見つめます。
それから彼女は踵を返してその部屋を出るとメデューサたちがベッドに伏せるシュナン少年と共にそこで待つさっきまでいた来客用の寝室に戻るためゆっくりと通路を引き返します。
その来客用の寝室に戻ったマンスリー女史を部屋の出入り口付近に集まっていたシュナンの旅の仲間たちが出迎え心配そうに彼女を見つめます。
その中からメデューサの持つ師匠の杖が珍しく真剣な声で聞きました。
「どうしたのですか、師匠。何かトラブルに巻き込まれているのですか?」
しかし、寝室に戻ったマンスリーは少し肩をおとしながらもかぶりを振って言いました。
「大した事じゃないよ。多分村人の中の誰かの仕業だろう。実は村の連中とはうまくいってなくてね。約一年前からこの辺りに住んでるんだけどー。どうやら村のほうじゃわたしの悪い噂が立ってるらしくてね」
メデューサたちはこの家に入る前に目撃したあたりをうろついていた怪しい男たちの影や家の外壁に放火しようとした形跡があった事を思い出して暗鬱とした気持ちになりました。
また玄関口の居間には大きなテーブルや多数の食器が入った棚が置かれておりかつてはマンスリーは大勢の友人に囲まれて過ごしていたに違いありません。
それが今はー。
メデューサたちは大魔女マンスリーの現状を知って悲しくなり押し黙っていましたがやがてその沈黙を破って正義感の強いレダが声を発します。
「一人暮らしのお年寄りをいじめるなんてひどい。許せないわ」
メデューサもレダに同調して怒りの声を上げます。
「そうよ。どうせ自分たちとは違うってだけで迫害してるんでしょ。あたし・・・人間のそういう所大嫌い」
その呪われた姿と能力ゆえに忌み嫌われてきた一族の出身であるメデューサにとって魔女マンスリーの受けている差別は他人事ではありませんでした。
自分のために怒ってくれている二人の少女の姿を見て魔女マンスリーはその目を細めます。
「ありがとうよ。優しい子たちだね。でも大丈夫だよ。誤解はいつか解けるって信じてるからね」
すると今度はメデューサが持っている師匠の杖が疑問を口にします。
「そもそも、何でこんな事になっているのですか?我が師よ」
「ふむ、それはー」
マンスリーが何か答えようとしたその時でした。
コン、コン、コン!!!
再び玄関口の方から鋭い物音が聞こえてきました。
それは誰かが玄関の扉を激しくノックする音でした。
「やれやれ今晩は本当に千客万来だね。ちょっと待ってておくれ」
マンスリーはメデューサたちとの会話を中断すると再び彼らをおいてシュナン少年を寝かせている寝室を出るとノックの響く玄関扉に接する家の出入り口付近の大きな居間へと向かいます。
またしても寝室の出入り口から首を出してその様子を見守るメデューサたち。
玄関に隣接した部屋に戻ったマンスリーが扉を開けるとなんとそこには家の前に立つまだうら若い少女の姿がありました。
黒っぽい服を着てセミロングの黒髪を赤いリボンで結び片手には魔法使いの杖らしきものを持っています。
「我が名は魔女チキ!!西の大魔女マンスリー・グランドーラ、わたしと勝負しなさいっ!!」
その言葉を聞いた途端、マンスリーはバタンと扉を少女の鼻先で閉めました。
「ちょっ、何よっ!!門前払い!?あ、開けなさいよーっ!!」
少女か鼻先で閉められた扉を外側からガンガン叩きわめき散らすのを無視してマンスリーはくるりと玄関口に背を向けると再びシュナン一行が待つ来客用の寝室へと戻って行きます。
メデューサたちが来客用の寝室の出入り口付近で戻ってきたマンスリーを出迎えると老魔女はため息をつきながら呆れたような口調で言いました。
「最近、田舎から出てきた新米魔女らしくてね。何度も押しかけて来てるんだよ。あたしを倒して名前を売りたいらしいけど付き合ってられないよ」
家の外からはしばらくの間、少女がドアを叩く音が断続的に響いてきましたがやがて彼女はあきらめて帰ったのかそのうち何も聞こえなくなり魔女の家は再び夜の静寂の中に包まれました。
魔女マンスリーはフウッと息を吐くと周囲に立つシュナン一行が心配そうに見守る中、寝室のベッドに横たわるシュナン少年に再び向き合い彼の容態をもっと良く確認しようとその瑠璃色の瞳を大きく見開きます。
その時でしたー。
ガンガンガンーッ!!!
再び玄関口から扉を叩く音が響いて来たのです。
「まったく、今度は何だい!?」
またしてもシュナン少年に対する治療行為を中断されさすがのマンスリーも息を荒げて文句を言います。
まさかさっきの魔法使いの少女が戻ってきたのでしょうか。
マンスリーはベッドに横たわるシュナンを取り囲む彼の仲間たちに少し待っているように言い残すとドレスのスカートを翻しながら来客用の寝室を出て再び玄関口のある居間の方へと向かいます。
ドタドタと怒ったような足取りで玄関先の居間まで戻った彼女は玄関の扉の前に立つと乱暴な手つきでドアをバタンと外側に開けます。
するとー。
マンスリーが玄関の扉を開けると同時に今度は幼い子供を抱えた若い母親がいきなり部屋の中に飛び込んで来ました。
「マンスリー様、子供が病気なんです!!助けて下さいっ!
!」
[続く]
マンスリーは玄関口の居間から響くガラスの割れる音を聴くと舌打ちをしてメデューサたちといた部屋を出て行きました。
そして玄関口近くの部屋に行くとその部屋の窓ガラスが割れた様子を見て悲しげに首を振りました。
どうやらその部屋の窓ガラスは家の外から何者かに投げ込まれた石によって割られてしまったようでした。
メデューサたちもシュナンを寝かせた部屋の出入り口から首を出し玄関近くの部屋で割れた窓の前に立つ背中を向けたマンスリーの淋しげな姿を見ています。
マンスリーはしばらくガラスの破片の散乱した部屋に佇んでいましたが、やがてフゥッと息をついてから片手を頭上に上げ魔法の呪文を詠唱し始めます。
「リカバー」
するとなんと部屋の床に散らかっていたガラスの破片が空中に浮き上がり割れた窓ガラスの方へ次々と戻っていきます。
そして窓に空いていた穴にそれらの破片はパズルのように隙間なくはまりあっという間に元どおりの割れていない状態に復元していきました。
マンスリーは何者かによって割られた窓ガラスが直ったのを確認するとおそらくそれがガラスを割ったのであろう床に転がる石を淋しげに見つめます。
それから彼女は踵を返してその部屋を出るとメデューサたちがベッドに伏せるシュナン少年と共にそこで待つさっきまでいた来客用の寝室に戻るためゆっくりと通路を引き返します。
その来客用の寝室に戻ったマンスリー女史を部屋の出入り口付近に集まっていたシュナンの旅の仲間たちが出迎え心配そうに彼女を見つめます。
その中からメデューサの持つ師匠の杖が珍しく真剣な声で聞きました。
「どうしたのですか、師匠。何かトラブルに巻き込まれているのですか?」
しかし、寝室に戻ったマンスリーは少し肩をおとしながらもかぶりを振って言いました。
「大した事じゃないよ。多分村人の中の誰かの仕業だろう。実は村の連中とはうまくいってなくてね。約一年前からこの辺りに住んでるんだけどー。どうやら村のほうじゃわたしの悪い噂が立ってるらしくてね」
メデューサたちはこの家に入る前に目撃したあたりをうろついていた怪しい男たちの影や家の外壁に放火しようとした形跡があった事を思い出して暗鬱とした気持ちになりました。
また玄関口の居間には大きなテーブルや多数の食器が入った棚が置かれておりかつてはマンスリーは大勢の友人に囲まれて過ごしていたに違いありません。
それが今はー。
メデューサたちは大魔女マンスリーの現状を知って悲しくなり押し黙っていましたがやがてその沈黙を破って正義感の強いレダが声を発します。
「一人暮らしのお年寄りをいじめるなんてひどい。許せないわ」
メデューサもレダに同調して怒りの声を上げます。
「そうよ。どうせ自分たちとは違うってだけで迫害してるんでしょ。あたし・・・人間のそういう所大嫌い」
その呪われた姿と能力ゆえに忌み嫌われてきた一族の出身であるメデューサにとって魔女マンスリーの受けている差別は他人事ではありませんでした。
自分のために怒ってくれている二人の少女の姿を見て魔女マンスリーはその目を細めます。
「ありがとうよ。優しい子たちだね。でも大丈夫だよ。誤解はいつか解けるって信じてるからね」
すると今度はメデューサが持っている師匠の杖が疑問を口にします。
「そもそも、何でこんな事になっているのですか?我が師よ」
「ふむ、それはー」
マンスリーが何か答えようとしたその時でした。
コン、コン、コン!!!
再び玄関口の方から鋭い物音が聞こえてきました。
それは誰かが玄関の扉を激しくノックする音でした。
「やれやれ今晩は本当に千客万来だね。ちょっと待ってておくれ」
マンスリーはメデューサたちとの会話を中断すると再び彼らをおいてシュナン少年を寝かせている寝室を出るとノックの響く玄関扉に接する家の出入り口付近の大きな居間へと向かいます。
またしても寝室の出入り口から首を出してその様子を見守るメデューサたち。
玄関に隣接した部屋に戻ったマンスリーが扉を開けるとなんとそこには家の前に立つまだうら若い少女の姿がありました。
黒っぽい服を着てセミロングの黒髪を赤いリボンで結び片手には魔法使いの杖らしきものを持っています。
「我が名は魔女チキ!!西の大魔女マンスリー・グランドーラ、わたしと勝負しなさいっ!!」
その言葉を聞いた途端、マンスリーはバタンと扉を少女の鼻先で閉めました。
「ちょっ、何よっ!!門前払い!?あ、開けなさいよーっ!!」
少女か鼻先で閉められた扉を外側からガンガン叩きわめき散らすのを無視してマンスリーはくるりと玄関口に背を向けると再びシュナン一行が待つ来客用の寝室へと戻って行きます。
メデューサたちが来客用の寝室の出入り口付近で戻ってきたマンスリーを出迎えると老魔女はため息をつきながら呆れたような口調で言いました。
「最近、田舎から出てきた新米魔女らしくてね。何度も押しかけて来てるんだよ。あたしを倒して名前を売りたいらしいけど付き合ってられないよ」
家の外からはしばらくの間、少女がドアを叩く音が断続的に響いてきましたがやがて彼女はあきらめて帰ったのかそのうち何も聞こえなくなり魔女の家は再び夜の静寂の中に包まれました。
魔女マンスリーはフウッと息を吐くと周囲に立つシュナン一行が心配そうに見守る中、寝室のベッドに横たわるシュナン少年に再び向き合い彼の容態をもっと良く確認しようとその瑠璃色の瞳を大きく見開きます。
その時でしたー。
ガンガンガンーッ!!!
再び玄関口から扉を叩く音が響いて来たのです。
「まったく、今度は何だい!?」
またしてもシュナン少年に対する治療行為を中断されさすがのマンスリーも息を荒げて文句を言います。
まさかさっきの魔法使いの少女が戻ってきたのでしょうか。
マンスリーはベッドに横たわるシュナンを取り囲む彼の仲間たちに少し待っているように言い残すとドレスのスカートを翻しながら来客用の寝室を出て再び玄関口のある居間の方へと向かいます。
ドタドタと怒ったような足取りで玄関先の居間まで戻った彼女は玄関の扉の前に立つと乱暴な手つきでドアをバタンと外側に開けます。
するとー。
マンスリーが玄関の扉を開けると同時に今度は幼い子供を抱えた若い母親がいきなり部屋の中に飛び込んで来ました。
「マンスリー様、子供が病気なんです!!助けて下さいっ!
!」
[続く]
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