メデューサの旅

きーぼー

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邪神モーロックの都

その24

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 モーロック城内の王宮の中央部にある水晶塔ー。
ここはモーロックの都の支配者である大魔法使いムスカル王が住まう場所でした。
今この場所では間近に迫った生贄の儀式の日に備えてムスカル王を中心とした話し合いが行われていました。
ムスカル王(おそらく鏡像)は部屋の床に設置された階段のついたひな壇の上の玉座から部下たちを見下ろしています。
そしてその部下たちは部屋の床にひざまずいて壇上のムスカル王を見上げ王の言葉を待っています。
水晶魔宮の青い床の上で両膝をついて王のいます玉座が据えられた正面の高いひな壇に向かって平伏する彼の三人の幹部たち。
高いひな壇から見下ろす王の目から見ると左手にはまずはこの城の警備隊長であり王国の警視総監にあたるグスタフ隊長。
真ん中にはこのモーロックの都の行政府のトップであるカムラン市長。
ちなみに彼は生贄の儀式を一切とりしきる神官でもありました。
そして右手にはモーロック軍の最高司令官である黄金将軍ジョドー。
王の片腕とも言える三人はそれぞれ水晶魔宮の床にひざまずきひな壇の上から自分たちを見下ろすムスカル王の下知を待っています。
壇上のムスカル王は自分の座る王座の肘掛けを指でコツコツと叩くとまず中央に控えるカムラン市長に声をかけます。

「カムランよ。明後日に迫った生け贄の儀式。準備は怠りないだろうな」

水晶魔宮の青い床に平伏するカムラン市長は卑屈な笑顔を浮かべると壇上の王座に座るムスカル王を見上げ猫撫で声で言いました。

「もちろんです、我が君。生贄の儀式はモーロックの都の要となる行事。万事手抜かりはありませんぞ」

卑屈な態度で王の機嫌をとるカムラン市長の隣で床にひざまずくジョドー将軍は横目でその卑屈な姿を見て軽蔑するみたいに鼻を鳴らします。   
ちなみに今日のジョドーは王に正式に謁見する為、普段のように仮面と兜をつけておらず髪の長い妙齢の女性である素顔を公然とさらしておりその身体にだけいつも通りの黄金の鎧をまとっています。
ちなみに彼女は昔から隣に座るカムランが嫌いでした。
自分の出世の事しか頭にないこの男はかっては役所に勤める小役人でしたが約20年前にこの地にやって来たムスカル王に巧みに取り入り当時青年村長だったオロを追い落として自分が指導者の立場についたのです。
王の座するひな壇の階段下の正面で揃って床にひれ伏す三人の重臣たちは決してその仲が良かった訳ではありませんでした。
壇上の玉座から彼らを見下ろすムスカル王はそんな部下同士のいさかいを知ってか知らずか冷静な声で言います。

「カムランの言う通りこの生贄の儀式こそモーロックの都のこれからの行く末を決める鍵となる。儀式が上手くいけば今までと変わらず子供の命と引き換えに莫大な富がモーロック神から我々にもたらされる。そうすれば市民たちはこれからもいや、これまで以上に豊かに暮らす事が出来るのだ。そうすれば我らの地位も安泰というわけだ。そうだなカムラン」

「ははーっ」

床に額をこすりつける様に平伏するカムラン市長。
一方、彼の隣にいるジュドー将軍はそんなカムランの様子を横目で見て苦り切った表情を浮かべています。
また彼ら二人と共に水晶魔宮の床にひざまずくクズタフ隊長はずっと顔を伏せて沈黙を守っていました。
ひな壇の上の玉座から壇の階段下の床に平伏する三人を見下ろしていたムスカル王は今度は三人の中で両端にいるクズタフ隊長とジョドー将軍に話しかけます。

「それから、もう一つ例の魔法使いの少年だがー」

水晶で造られた王座の間にムスカル王の冷徹な声が響きます。

「残念だが、やはり殺すしかあるまい。明後日、生贄の儀式と合わせあの少年の公開処刑を王宮内の広場において予定通り執り行う。すぐ側の神殿内で行われる生贄の儀式と同日同時刻にな。モーロック神もさぞや喜ばれる事だろう。王宮内の広場に大きな処刑用の舞台を設置してそこで彼の首を刎ねるのだ。王宮の門を開放して市民たちが広場に自由に入れるようにする。そして大勢の市民たちに処刑執行の様子を見物させるとしよう。クズタフそれにジョドーよ。準備と警備は任せたぞ」

しかし王の言葉を聞いたクズタフ隊長は初めて伏せていたその顔を上げました。
水晶の床の上でひれ伏していた彼はその顔を上げると壇上の王座に座るムスカル王を真っ直ぐに見上げて言いました。

「王宮内に一般市民を入れれば不測の事態が起こるかもしれません。少年の仲間たちが混ざっている可能性もあります。処刑を止める為に暴動を起こしかねません。それに儀式が行われる神殿は王宮の広場とは目と鼻の先にあります。きっと反対派はこの機に乗じ神殿に乱入して儀式の邪魔をしようとするでしょう」

けれど壇上の玉座に座るムスカル王は気だるそうな様子で軽く手を振るとクズタフ隊長に答えます。

「だからお前とジョドー将軍に準備と警備を任せるのではないか。お前たちならたとえ少数派の市民が暴動を起こしたとしてもすぐに鎮圧できるだろう。神殿も入り口をしっかり固めれば誰も中に入る事は出来んさ」

そして今度は王の鎮座するひな壇の足元の床にひざまずく三人のうち、真ん中で平伏するカムラン市長が右隣のクズタフ隊長の方を向いて非難するように声を発します。

「王の言う通りだ。お前がそんな弱気でどうする?市民が暴走しても力でねじ伏せればいいではないか。むしろ、不平分子を一掃し一般市民に我々の力を見せつけるよい機会よ。多少の犠牲は仕方ない。それとも臆したかー」

「な、こいつー」

カムラン市長の隣で床にひざまずくクズタフ隊長は血相を変えて隣にいる男を睨みつけます。

「この腰巾着がー」

しかしカムラン市長も王の威勢をかさに着ているのか負けじとクズタフ隊長をにらみ返します。

「なにか、文句があるのかね。隊長」

王の眼前でありながら部屋の床の上で膝を突き合わせ睨み合うクズタフ隊長とカムラン市長。
その様子を壇上のムスカル王ははるかな高みから眼鏡越しに冷たい目で見下ろしています。
一方、王の前に平伏する三人のうち、壇上の王から見て右側にいるジョドー将軍は他の二人のいさかいを横目で見ながらひな壇の玉座に座る王を見上げ彼に進言します。

「偉大なる王よ。先ほどあなた自ら生贄の儀式にこの国の浮沈がかかっているとおっしゃっていたではないですか。なぜわざわざ危険を冒すような真似をするのですか?王宮の門を固く閉じ生贄の儀式を粛々と行い少年の処刑も後日にずらせば誰も我らの邪魔は出来ますまい。反対派を刺激して奴らにつけいる隙を与える事はありません。不慮の事態が起こって大切な儀式に差し障りが出る可能性もあります」

壇上のムスカル王はそんな女将軍の提案に首を振ります。

「いや、それでは余がまるで市民たちを恐れているみたいに取られかねん。彼らに我が力を見せつけてやらねばな。まぁ、別に余も余計な血が見たいわけではない。お前たちは市民が暴動を起こす事を心配しているようだが恐らくそんな連中はもういないだろうよ。みんな我らがもたらした怠惰で安楽な生活に満足している」

そして何故か眼下の部屋の床に伏せる三人のうち、真ん中にいるカムラン市長の方をチラ見して言います。

「わたしの施策に反対していた街の有力な連中は行方不明のオロ元村長は別にして全員捕まえて牢に放り込んだしな。そこにいるカムランの告発でな」

ムスカル王のその言葉を聞いたカムラン市長は隣にいるクズタフ隊長と王の坐するひな壇の階段下で睨み合っていましたが急に視線を外すと恥じる様に顔を伏せました。
やがてひな壇の上のムスカル王は玉座からスクッと立ち上がって白いマントを翻し眼下の部下たちに最終命令を伝えます。

「それでは生贄の儀式とシュナンドリック・ドール少年の公開処刑は王宮内で予定通り行う。各自、準備を怠るな。特に当日、公開処刑を行う広場の周辺と神殿の出入り口付近はしっかりと兵たちで固めておけ。万が一の為にな」

その頂点に王座を戴く高いひな壇の上に立ちそこから眼下の部下たちに向かって号令を発するムスカル王。

「はっはーっ!!」

水晶塔の最上階の部屋で床に揃ってひざまずき正面にそびえ立つ王がその上にいますひな壇に向かって一斉にひれ伏す三人の司令官たち。
しかし壇上の王から見て右手にいる女将軍ジュドーは平伏しながらもひな壇の階段の上にかいま見えるマントを翻す王の姿をチラリと一べつして思いました。

(王は慢心している・・・いや、この状況を楽しんでいるのか?)

今、高いひな壇の壇上から王座の間の床にひざまずく部下たちと高窓から見える街の全景を同時に見下ろすこの王は長年仕えて来た女将軍にとっても相変わらず謎多き人物でした。

[続く]


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