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同じ間取りの部屋
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「え、待って豊崎君って私と同じマンションに住んでいたんだ!偶然だけど凄いね」なんて自然に言えばいいのかもしれないけど、いいのかそんなこと言って?
だって私は先輩だし、アラサーだし、相手の豊崎君はちょっとかっこいいし、それってもうセクハラだよな。
そうだよな同じマンションに住んでるなんて知って、いくら気のいい豊崎君だって引いちゃうだろうな。
間違いなく私の方が長く住んでいると思うから違うんだけど、まるで年下君を追いかけるアラサーストーカーみたいじゃんか。
うん、黙っておこう。同じマンションに住んでいるなんて言わない方がいい。豊崎君が会社に入る頃にここに引っ越してきたとして既に一年以上顔を合わせることもなかったんだし、黙っていればわかるまい。
「へ~、ここなんだ。よさそうなところだね」
「駅から少し離れているので家賃も安めですし、スーパーも近いので気に入ってます」
わかる。家賃安いのは助かるし、スーパー近いからお酒買って帰るのも距離が近いから楽!
前に住んでいたところはスーパーが駅の近くにしかないから、重い荷物を持って帰るのが大変で大変で。なんでお酒ってこんなに重いのかと恨んだくらいだった。
今日は豊崎君が持ってくれるから一週間分を多めに買えたけど、あの頃は本当に大変で一週間分をまとめ買いなんてとても出来なかったし。
それにしても、やっぱり男の子がいると買い物って楽だなぁ。
「ここです」
そういうと彼はガチャっと鍵を開けた。
「お邪魔します」
部屋に上がる時、ブーツの季節じゃなくてよかったと思うくらいには酔いは醒めていた。
彼の部屋は恐らく私の部屋の真下。彼は二階で私はその上の三階。ということは、やはりそうだ。間取りは私の部屋とまったく一緒。
間取りだけじゃなくてベッドとテレビを置く位置も一緒。間取りがこうだと、ここに置くよねってのはある。
同じ間取りに同じ配置のせいだろう、違和感がなくて少しだけ自分の部屋みたいな気分になる。
ただ一つ、私の部屋との大きな違いがある。
突然私を誘い入れるだけあり、よく片付けられている。
私の部屋なんかよりずっと片付いている。玄関を入ってすぐの台所だって鍋や調理器具が整頓されちょっとした撮影セットのようにすら見える。
整理したら私の部屋だってこうなるんだよな。
豊崎君の部屋は物が少なくて簡素だけど、台所にならぶ鍋やお皿などはこだわりがありそう。それがなんとなく豊崎君らしく感じる。
「飲みながら少し待っていてください」
そう言って出してくれたコップは形は普通だけどガラスがやけに薄い。
缶ビールを注ぐと薄いせいか泡が綺麗に見える。軽いし唇に触れた感触が違う。
ビールがすっと口に吸い込まれるようだ。
「そのグラス、薄いんで直接飲んでいるみたいな感覚になりますよね。お気に入りなんです。簡単に割れちゃいそうですが、案外割れないんで不思議なんですよね」
キッチンに体を向けたまま顔だけ振り返り言った。
豊崎君なら割らずに扱えそうだけど、私にはどうだろ。すぐに割っちゃいそうだけど。でも部屋に一つ欲しいなぁ。晩酌用に。
これで飲んだら日本酒もワインも、いつもとはちょっと味が違うんだろうな。
「セロリの浅漬けです。浅漬けっていっても昨日作ったものなので、ちょっと漬かりすぎかもしれませんがよかったら味見してください。エビもすぐ出来るんで」
ほお、いいじゃないか。こういうのでいいんだよ。大学生の宅飲みだとスナックやら揚げ物やらお菓子だけど、今はそういうのじゃ飲めないんだよねえ。
漬物とかおお浸しとか、まずはそういうのから始めたい。
酢と昆布だしに塩だろうか。輪切りの鷹の爪が入っていて少し辛味もある。セロリの食感が爽やかな浅漬によくあう。
私も漬物くらい自分で作ったら、こういう晩酌出来るんだよな。今度からやってみようか。
「ねえ豊崎君、お漬物ってどのくらい日持ちするの?」
「すみません!傷んでいましたか!?」
私の声を聞いて彼は慌てて振り返った。仕事中、部下がやらかした時にわざとらしく追い詰めるような言い方はしないようにしているけど、もしかしたら嫌味っぽく言っちゃってることがあるのかもしれない。
それで勘違いさせたとしたら、これから気をつけないといけないな。
「ごめんごめん。そうじゃなくて漬物って作らないから一週間くらい持つなら自分でも作ってみようかなと思って。平日は帰ってから料理するのって大変でしょ」
「そうでしたか、よかった」
ホッという声が聞こえてきそうなほどに心底よかったという安堵の表情を見せた。よほど普段の私が怖いと見える。
「浅漬けならものにもよりますが、二日か三日くらいが目安です。出来れば、その日のうちに食べてしまいたいんですがそうなると帰ってから作り始めては遅すぎるし、浅漬けを作るなんていくら簡単だと言っても朝作る時間があるのかっていうとなかなか。だから俺は浅漬けは週に二回作って、三日で食べきることにしています」
「二三日かぁ」
となると、毎日の晩酌に浅漬けを用意するにも週に三回は包丁を握ることになるのか。こりゃ大変だ。
私の相手をしながらも豊崎君は手を動かし続けている。もう一度ビールを注いだ頃、エビを炒める音が聞こえた。
だって私は先輩だし、アラサーだし、相手の豊崎君はちょっとかっこいいし、それってもうセクハラだよな。
そうだよな同じマンションに住んでるなんて知って、いくら気のいい豊崎君だって引いちゃうだろうな。
間違いなく私の方が長く住んでいると思うから違うんだけど、まるで年下君を追いかけるアラサーストーカーみたいじゃんか。
うん、黙っておこう。同じマンションに住んでいるなんて言わない方がいい。豊崎君が会社に入る頃にここに引っ越してきたとして既に一年以上顔を合わせることもなかったんだし、黙っていればわかるまい。
「へ~、ここなんだ。よさそうなところだね」
「駅から少し離れているので家賃も安めですし、スーパーも近いので気に入ってます」
わかる。家賃安いのは助かるし、スーパー近いからお酒買って帰るのも距離が近いから楽!
前に住んでいたところはスーパーが駅の近くにしかないから、重い荷物を持って帰るのが大変で大変で。なんでお酒ってこんなに重いのかと恨んだくらいだった。
今日は豊崎君が持ってくれるから一週間分を多めに買えたけど、あの頃は本当に大変で一週間分をまとめ買いなんてとても出来なかったし。
それにしても、やっぱり男の子がいると買い物って楽だなぁ。
「ここです」
そういうと彼はガチャっと鍵を開けた。
「お邪魔します」
部屋に上がる時、ブーツの季節じゃなくてよかったと思うくらいには酔いは醒めていた。
彼の部屋は恐らく私の部屋の真下。彼は二階で私はその上の三階。ということは、やはりそうだ。間取りは私の部屋とまったく一緒。
間取りだけじゃなくてベッドとテレビを置く位置も一緒。間取りがこうだと、ここに置くよねってのはある。
同じ間取りに同じ配置のせいだろう、違和感がなくて少しだけ自分の部屋みたいな気分になる。
ただ一つ、私の部屋との大きな違いがある。
突然私を誘い入れるだけあり、よく片付けられている。
私の部屋なんかよりずっと片付いている。玄関を入ってすぐの台所だって鍋や調理器具が整頓されちょっとした撮影セットのようにすら見える。
整理したら私の部屋だってこうなるんだよな。
豊崎君の部屋は物が少なくて簡素だけど、台所にならぶ鍋やお皿などはこだわりがありそう。それがなんとなく豊崎君らしく感じる。
「飲みながら少し待っていてください」
そう言って出してくれたコップは形は普通だけどガラスがやけに薄い。
缶ビールを注ぐと薄いせいか泡が綺麗に見える。軽いし唇に触れた感触が違う。
ビールがすっと口に吸い込まれるようだ。
「そのグラス、薄いんで直接飲んでいるみたいな感覚になりますよね。お気に入りなんです。簡単に割れちゃいそうですが、案外割れないんで不思議なんですよね」
キッチンに体を向けたまま顔だけ振り返り言った。
豊崎君なら割らずに扱えそうだけど、私にはどうだろ。すぐに割っちゃいそうだけど。でも部屋に一つ欲しいなぁ。晩酌用に。
これで飲んだら日本酒もワインも、いつもとはちょっと味が違うんだろうな。
「セロリの浅漬けです。浅漬けっていっても昨日作ったものなので、ちょっと漬かりすぎかもしれませんがよかったら味見してください。エビもすぐ出来るんで」
ほお、いいじゃないか。こういうのでいいんだよ。大学生の宅飲みだとスナックやら揚げ物やらお菓子だけど、今はそういうのじゃ飲めないんだよねえ。
漬物とかおお浸しとか、まずはそういうのから始めたい。
酢と昆布だしに塩だろうか。輪切りの鷹の爪が入っていて少し辛味もある。セロリの食感が爽やかな浅漬によくあう。
私も漬物くらい自分で作ったら、こういう晩酌出来るんだよな。今度からやってみようか。
「ねえ豊崎君、お漬物ってどのくらい日持ちするの?」
「すみません!傷んでいましたか!?」
私の声を聞いて彼は慌てて振り返った。仕事中、部下がやらかした時にわざとらしく追い詰めるような言い方はしないようにしているけど、もしかしたら嫌味っぽく言っちゃってることがあるのかもしれない。
それで勘違いさせたとしたら、これから気をつけないといけないな。
「ごめんごめん。そうじゃなくて漬物って作らないから一週間くらい持つなら自分でも作ってみようかなと思って。平日は帰ってから料理するのって大変でしょ」
「そうでしたか、よかった」
ホッという声が聞こえてきそうなほどに心底よかったという安堵の表情を見せた。よほど普段の私が怖いと見える。
「浅漬けならものにもよりますが、二日か三日くらいが目安です。出来れば、その日のうちに食べてしまいたいんですがそうなると帰ってから作り始めては遅すぎるし、浅漬けを作るなんていくら簡単だと言っても朝作る時間があるのかっていうとなかなか。だから俺は浅漬けは週に二回作って、三日で食べきることにしています」
「二三日かぁ」
となると、毎日の晩酌に浅漬けを用意するにも週に三回は包丁を握ることになるのか。こりゃ大変だ。
私の相手をしながらも豊崎君は手を動かし続けている。もう一度ビールを注いだ頃、エビを炒める音が聞こえた。
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