144 / 188
罪びとは微笑む
嵐の前・中
しおりを挟む
止血時の景光の血まみれの宮城の身を清める為、竜崎は後から来た車を借りて曽根崎署に戻ってきていた。救急車を増やして、死亡した景光と気を失った櫻子と流星を乗せた。櫻子には篠原が付き添っているので、少し離れていても安心だろうと判断した。宮城には、捜査一課長としてやることが多かった。
「そう言えば、さっきお前のスマホずっと鳴ってなかったか?」
着替えを持ちシャワー室へ向かおうとした宮城は、竜崎がスマホの電源を落としていた事を思い出した。彼が出るまで、何度も鳴らす様な着信だった。
「え?あ、そう言えばそうでしたね。母からの着信で――なんで、あんなに電話してきたんでしょうか」
背広のポケットからスマホを取り出すと、竜崎は電源を入れ直して母にかけ直してみた。しかし、コール音は鳴るが2、3度かけ直しても出る様子がなかった。
「犯行の裏取りで暫くは家に帰るのが遅くなったりするし、今日も多分帰られへんやろ。一度、家に帰ってみろ。俺もシャワー出たら香田に連絡して、景光と流星の話せなあかんし」
「すみません、有難うございます。では、終電までには戻ってきます」
竜崎は篠原と同じ兵庫県だが、乗る電車が違う。篠原は宝塚線に乗れば終点の宝塚駅に着くが、竜崎は伊丹だ。神戸線に乗り塚口駅で伊丹線に乗り換えて、伊丹駅まで向かう。乗り換え分時間がかかるので、竜崎は腕時計で時間を確認した。
「車で行け。もし時間がかかったら、こっちに戻られへんし」
必死に感じたあの呼び出しに、宮城はふと胸騒ぎを覚えてそう勧めた。竜崎の母には、確か持病があった筈だ。
「分かりました。すぐに戻ります」
竜崎はそう言うと宮城に頭を下げて、足早に車を借りに向かった。宮城はその後ろ姿を見送ってから、シャワー室へと足を向けた。
櫻子が眠りに落ちてから、笹部も起きない。篠原は珈琲でも買いに行こうと自動販売機に向かった。勿論、櫻子の部屋の前にいる制服警官に頭を下げて。
自動販売機の電灯が眩しくて、篠原は瞳を細めた。そうして、交番勤務の時によく飲んでいたアイス珈琲のボトルを買うと、それを手に暫く手の中のそれを見つめていた。
春に櫻子の部下になり、今回も併せて桐生という悪魔が用意した事件4件を解決した。しかし、犯人はいずれも死亡――こんな不幸な事が起こっていいのだろうか。しかも、桐生は不幸な犯人ばかりを選び、その周りすら不幸にしている。池波の件に関しては、彼が自分の凶暴性に気付かず、『普通』の日常を送っていれば犯罪を起こさなかった筈だ。
櫻子に、クイズ形式でサイコパスの特徴を教えて貰った。確かに、他人の気持ちを共有できない人が沢山いる。罪悪感のない人も。しかし、『人に罪を犯させて自分が満足したい』人間を、篠原は見た事が無い。いじめで万引きを強要するレベルではない。『人を殺す事』を命じているのだ。
赤穂市の、あの地下に潜む凶悪な罪びと。あの男が見せるような笑みを、死亡した景光は浮かべていた。髪型や、髪の色まで似せて――
本当に自分は、櫻子を護れるのか。
篠原はぎゅっと目を一度瞑ってから、手にしている珈琲のボトルで頭を叩いた。弱気になってはいけない。櫻子を護ると決めたのに、自分が自分を信じなくてどうするのか。
櫻子の病室に戻ると、入り口の警官に頭を下げて中に入った。2人共、起きていないようだった。
微かに雨音が聞こえた。篠原は窓の傍に行くと、カーテンを僅かに開けた。外はもう深い闇に覆われていて、その中で雨が窓を叩いている。そして、遠くでは雷の音が響いていた。
どこか、不気味さに不安になる夜だった。
「そう言えば、さっきお前のスマホずっと鳴ってなかったか?」
着替えを持ちシャワー室へ向かおうとした宮城は、竜崎がスマホの電源を落としていた事を思い出した。彼が出るまで、何度も鳴らす様な着信だった。
「え?あ、そう言えばそうでしたね。母からの着信で――なんで、あんなに電話してきたんでしょうか」
背広のポケットからスマホを取り出すと、竜崎は電源を入れ直して母にかけ直してみた。しかし、コール音は鳴るが2、3度かけ直しても出る様子がなかった。
「犯行の裏取りで暫くは家に帰るのが遅くなったりするし、今日も多分帰られへんやろ。一度、家に帰ってみろ。俺もシャワー出たら香田に連絡して、景光と流星の話せなあかんし」
「すみません、有難うございます。では、終電までには戻ってきます」
竜崎は篠原と同じ兵庫県だが、乗る電車が違う。篠原は宝塚線に乗れば終点の宝塚駅に着くが、竜崎は伊丹だ。神戸線に乗り塚口駅で伊丹線に乗り換えて、伊丹駅まで向かう。乗り換え分時間がかかるので、竜崎は腕時計で時間を確認した。
「車で行け。もし時間がかかったら、こっちに戻られへんし」
必死に感じたあの呼び出しに、宮城はふと胸騒ぎを覚えてそう勧めた。竜崎の母には、確か持病があった筈だ。
「分かりました。すぐに戻ります」
竜崎はそう言うと宮城に頭を下げて、足早に車を借りに向かった。宮城はその後ろ姿を見送ってから、シャワー室へと足を向けた。
櫻子が眠りに落ちてから、笹部も起きない。篠原は珈琲でも買いに行こうと自動販売機に向かった。勿論、櫻子の部屋の前にいる制服警官に頭を下げて。
自動販売機の電灯が眩しくて、篠原は瞳を細めた。そうして、交番勤務の時によく飲んでいたアイス珈琲のボトルを買うと、それを手に暫く手の中のそれを見つめていた。
春に櫻子の部下になり、今回も併せて桐生という悪魔が用意した事件4件を解決した。しかし、犯人はいずれも死亡――こんな不幸な事が起こっていいのだろうか。しかも、桐生は不幸な犯人ばかりを選び、その周りすら不幸にしている。池波の件に関しては、彼が自分の凶暴性に気付かず、『普通』の日常を送っていれば犯罪を起こさなかった筈だ。
櫻子に、クイズ形式でサイコパスの特徴を教えて貰った。確かに、他人の気持ちを共有できない人が沢山いる。罪悪感のない人も。しかし、『人に罪を犯させて自分が満足したい』人間を、篠原は見た事が無い。いじめで万引きを強要するレベルではない。『人を殺す事』を命じているのだ。
赤穂市の、あの地下に潜む凶悪な罪びと。あの男が見せるような笑みを、死亡した景光は浮かべていた。髪型や、髪の色まで似せて――
本当に自分は、櫻子を護れるのか。
篠原はぎゅっと目を一度瞑ってから、手にしている珈琲のボトルで頭を叩いた。弱気になってはいけない。櫻子を護ると決めたのに、自分が自分を信じなくてどうするのか。
櫻子の病室に戻ると、入り口の警官に頭を下げて中に入った。2人共、起きていないようだった。
微かに雨音が聞こえた。篠原は窓の傍に行くと、カーテンを僅かに開けた。外はもう深い闇に覆われていて、その中で雨が窓を叩いている。そして、遠くでは雷の音が響いていた。
どこか、不気味さに不安になる夜だった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
警狼ゲーム
如月いさみ
ミステリー
東大路将はIT業界に憧れながらも警察官の道へ入ることになり、警察学校へいくことになった。しかし、現在の警察はある組織からの人間に密かに浸食されており、その歯止めとして警察学校でその組織からの人間を更迭するために人狼ゲームを通してその人物を炙り出す計画が持ち上がっており、その実行に巻き込まれる。
警察と組織からの狼とが繰り広げる人狼ゲーム。それに翻弄されながら東大路将は狼を見抜くが……。
後宮生活困窮中
真魚
ミステリー
一、二年前に「祥雪華」名義でこちらのサイトに投降したものの、完結後に削除した『後宮生活絶賛困窮中 ―めざせ媽祖大祭』のリライト版です。ちなみに前回はジャンル「キャラ文芸」で投稿していました。
このリライト版は、「真魚」名義で「小説家になろう」にもすでに投稿してあります。
以下あらすじ
19世紀江南~ベトナムあたりをイメージした架空の王国「双樹下国」の後宮に、あるとき突然金髪の「法狼機人」の正后ジュヌヴィエーヴが嫁いできます。
一夫一妻制の文化圏からきたジュヌヴィエーヴは一夫多妻制の後宮になじめず、結局、後宮を出て新宮殿に映ってしまいます。
結果、困窮した旧後宮は、年末の祭の費用の捻出のため、経理を担う高位女官である主計判官の趙雪衣と、護衛の女性武官、武芸妓官の蕎月牙を、海辺の交易都市、海都へと派遣します。しかし、その最中に、新宮殿で正后ジュヌヴィエーヴが毒殺されかけ、月牙と雪衣に、身に覚えのない冤罪が着せられてしまいます。
逃亡女官コンビが冤罪を晴らすべく身を隠して奔走します。
消された過去と消えた宝石
志波 連
ミステリー
大富豪斎藤雅也のコレクション、ピンクダイヤモンドのペンダント『女神の涙』が消えた。
刑事伊藤大吉と藤田建造は、現場検証を行うが手掛かりは出てこなかった。
後妻の小夜子は、心臓病により車椅子生活となった当主をよく支え、二人の仲は良い。
宝石コレクションの隠し場所は使用人たちも知らず、知っているのは当主と妻の小夜子だけ。
しかし夫の体を慮った妻は、この一年一度も外出をしていない事は確認できている。
しかも事件当日の朝、日課だったコレクションの確認を行った雅也によって、宝石はあったと証言されている。
最後の確認から盗難までの間に人の出入りは無く、使用人たちも徹底的に調べられたが何も出てこない。
消えた宝石はどこに?
手掛かりを掴めないまま街を彷徨っていた伊藤刑事は、偶然立ち寄った画廊で衝撃的な事実を発見し、斬新な仮説を立てる。
他サイトにも掲載しています。
R15は保険です。
表紙は写真ACの作品を使用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる