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七海美桜

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今宵彼女の夢を見る

花束・上

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 話している間に、『セシリア』の開店時間になった。その頃には、他の女の子達も揃ったようだ。店を開けていいのか、カズヤを始め黒服たちが困惑した表情を浮かべている。

「店を開けても構わないわ。私たちは邪魔になるし、道頓堀交番に移動するわね。申し訳ないけど、サキさんだけ付いてきてくれないかしら? エマさんと一番仲良さそうだったし、他にも確認したいことがあるかもしれないわ。交番の方に寄って欲しいと、オーナーには伝えてもらえる?」

 それに気が付いたような櫻子はそうカズヤ達に伝えると、店のシャッターを開けさせた。そこからさっさと店を出て、エレベーターに向かう。黒服は厨房に入り指定の予約があるだろう女の子たちは待機部屋に向かい、それ以外は店の外に出て客引きを始める。篠原は二本目の煙草を灰皿に押し付けて消したサキの前に向かう。
「すみません、なるべく早く終わらせますので」
 小さくため息をついて、サキは立ち上がった。思っていたより背が高い。篠原は一八六センチだが、ローファー姿のサキは一七五センチ以上はある様だった。

 エレベーターで待っていた櫻子と合流して、三人で再び道頓堀交番に向かう。交番の中にいた安井が驚いたように、サキを連れた二人に話しかける。
「サキが何かしましたか?」
「いいえ、ちょっと話が聞きたくて任意で来てくれました。あと、『セシリア』のオーナーと、キタの刑事が何人か来ます」
 櫻子の返事に安井は少し安堵したように溜息を零した。もう交代の時間らしく、私服姿だった。
「今から当番の人達には、一条警視の話はしてます。奥の部屋は大きいんで、好きに使ってください」
「有難うございます」
 安井はぺこりと頭を下げると、心配そうにサキを見てから家に帰るのか交番を後にした。安井に変わって、違う制服警官が桜子に奥の部屋やトイレの場所などを説明する。今この交番には、六人の制服警官がいる。そのうちの二人は、繁華街のパトロールに出ているらしい。道頓堀交番は、繁華街にあるので夜当番が多い。繁華街の夜は、トラブルが多く警察にとっても忙しいからだ。

「一条さんは?」
 そこへ、高級そうなスーツをすっきり着こなした四十代半ばの男が声をかけた。サングラスの下の顔は、なかなかの男前だ。
「私です、あなたは『セシリア』のオーナーさんかしら? どうぞこちらへ」
「はい、香田こうだと申します。まどかとエマについて話があると、店の従業員から連絡を受け来ました」
 香田の後ろには、二人の男がいた。どちらも二十代後半らしく、秘書かボディーガード的な存在なのだろう。
「お前らはここで待っとれ」
「サキさんもどうぞ」
 その男二人に交番前に残る様に言うと、彼は案内する櫻子の後に続いて奥の部屋へ向かった。サキも気怠そうに続く。その様子に、慌てて篠原も続いた。交番勤務の制服警官が仮眠をしたりする部屋なのだろう。机とソファが置かれていて、集めてきたらしい椅子が何客か置かれていた。
「どうぞお掛け下さい。篠原君、お茶を」
 香田とサキをソファに座らせて、櫻子はその前のソファに腰を落とす。篠原は制服警官に教えて貰い、人数分のお茶の用意をする。
「失礼します、曽根崎警察署の宮城です」
 ノックと共に、次は曽根崎警察捜査一課の宮城と二人の刑事が入ってきた。櫻子に気が付くと軽く頭を下げて、置かれていた椅子を引き寄せて近くに座った。
「香田やないか、何でお前がおるんや!」
 櫻子の前にいる人物が誰なのか気が付くと、宮城が声を上げた。香田は唇の端を上げて笑うと、背凭れに背中を預けた。最初に櫻子に話しかけた紳士的な風情から、貫禄のあるヤクザの様な態度に変わっている。
「そう言う宮城さんは、キタ管轄やないんですか? アンタこそ、何でここに? 俺は、この美人の刑事さんに呼ばれて来たんやけど?」
 説明を求めるように櫻子に視線を送ると、櫻子は宮城と部下達に話しだした。
「お知り合いなのかしら? こちら、宗右衛門町のガールズバー『セシリア』のオーナーの香田さんと従業員のサキさんよ」
 サキはぺこりと頭を下げ、香田は鼻先で笑った。
「先日のお初天神商店街で起きた事件の被害者は、香田さんの店『セシリア』の従業員の可能性が浮上しました」
「身元分かったんか!?」
 思わず宮城が声を上げた。笹部からの報告によると、スマホの基盤は何度も叩き壊され復元が絶望的だったらしい。
「確認を」
 櫻子がタブレットの遺体の写真を香田に見せると、彼は眉を顰めながらも頷いた。
「ああ――エマや」
 写真をじっくり確認して、タブレットを櫻子に返しながら香田は間違いないと付け加えた。
「エマは、キタで死んだんか? ほんで、担当してる宮城さんがわざわざお出まししたって訳か」
 篠原は、嚙み合う二人の邪魔にならないように、静かにお茶を配りだした。香田と宮城は、睨み合っていた。しかしそれは憎み合っているというよりも、じゃれ合いのように櫻子には思えた。
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