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アロイス編
キスの雨
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夕食の後、ビルギットとカリーナは二人にお茶を入れて部屋を出て行った。チャッツではなく、バルシュミーデ皇国から持ってきたお茶だ。しかし、ラズナーの粉がお茶に混ぜられているようだ。大好きなお菓子のガヌレットを思い出して、それを懐かしく思いながらお茶を飲んだ。ガヌレは暑い国では育ちにくいが、ある程度なら保存が出来る。運が良ければ、北からの貿易品で買えるらしい。宮殿の使用人からそう聞いたビルギットは、「市場にある時、買ってくれるように頼みました」と言っていた。
「ほら、ヴェンデルおいで」
バーチュ王国は、南の国らしく昼間は暑いが朝晩は冷える。そのためこの国ではチャッツを飲み、ビルギットは先ほどのお茶にラズナーを入れたのだろう。ラズナーは、体を温める効果がある。
先にベッドに横になったアロイスが、ヴェンデルガルトを呼んだ。今まで異性を特別意識したことがないヴェンデルガルトだったが、今は愛おしく思っている彼に誘われると恥ずかしくて胸が高鳴る。空になったカップを机において、アロイスのベットに向かった。そうして彼の隣に横になると、すぐに逞しい腕に抱き締められた。
「――懐かしい、甘い香りだ。ずっとこの香りを思い出そうとしていた。お前が来てくれて、鮮やかに思い出した」
治癒魔法の能力が高いほど、花の蜜のような香りが強いと書物に書かれていた。まだ魔法を使う者が多かった時代の、古い文献だ。しかしその頃でも金の瞳を持つ者はほとんどいなかった。ヴェンデルガルトは、多分この大陸で貴重な存在だろう。そんな彼女を手放したバルシュミーデ皇国に、アロイスは感謝していた。いや、バルシュミーデ皇国は許さなかっただろう。ジークハルトが秘かに許して、ヴェンデルガルトを送り出してくれた。バーチュ王国は、ジークハルトに感謝をしなければならない。
「夢のようです。平和になった国で、再びアロイス様に会えるなんて」
ヴェンデルガルトの額にキスをすると、アロイスは微笑む。
「俺も、まだ夢にいるようだ。あの戦で――もう、二度とお前に会えないと思っていた。ああ、早く兄上の婚礼が終わって欲しい。俺はお前が欲しくて――ずっと俺だけのものにしたくて、急く心を抑えるので精いっぱいだ」
アロイスは、ツェーザルを敬愛している。しかし、ヴェンデルガルトを思うと自分が先に婚礼して自分だけの妃にしたかった。意外なほど強い独占欲に、アロイスは自分でも驚いていた。こうして胸に抱いているだけで、我慢するのが辛い。その代わりに、アロイスはヴェンデルガルトにキスの雨を降らせた。
「うふふ、くすぐったいです」
頬や瞼に触れるアロイスの唇の柔らかさに、ヴェンデルガルトは小さく笑ってうっとりとアロイスに抱き着く。半年ほどしか会えなかっただけだというのに、ヴェンデルガルトはより女性らしい体になり表情も大人びて見える。アロイスは、ヴェンデルガルトに夢中だった。
「愛している、ヴェンデル……」
アロイスが、ヴェンデルガルトに深く口づけた。ヴェンデルガルトは、その口づけを受けて切ない吐息を零した。
「俺が、お前を世界で一番幸せな花嫁にする。俺の一生を、お前に捧げると誓う」
口づけの後、祈るようにアロイスはそう言って再びヴェンデルガルトを抱き締めた。甘い口づけに酔ったようなヴェンデルガルトは、頬を紅潮させてアロイスを抱き返した。
「私も、アロイス様を生涯愛します。あなたのお傍に、ずっと居させてください」
『龍殺しの実』を塗られたナイフで刺された腹の傷は、痕が残ってしまったようだ。引き締まった体に残るその傷跡を、ヴェンデルガルトは優しく撫でた。
「婚礼の夜から――お前を放さない。俺の愛をお前に知ってもらうために、寝かさず愛し続ける――覚悟しておけ」
アロイスの言葉の意味に、ヴェンデルガルトは顔を真っ赤にした。それでも、小さく頷いた。
「私を、アロイス様の愛で満たしてください。私も――アロイス様に、私の愛を受け入れて欲しいです……」
「ああ、くそ。婚礼がまだなのが悔しい」
アロイスは、再びヴェンデルガルトに深い口づけをした。
その夜、二人は何度も口づけを交わした。愛を確かめ合うように、啄むようなキスから深いキスまで。そうして、優しい気持ちで満たされて夜も更けた頃には抱き合ったまま眠りについた。
しかし、朝になるとヴェンデルガルトの首筋や鎖骨辺りにアロイスのキスの跡がたくさん残ってしまい、アロイスはビルギットに説教されてしまった。
「ヴェンデルガルト様は、今日はお部屋から出てはいけませんよ!」
そうヴェンデルガルトも怒られた。大人しく部屋でアヤーを編んでいると、ビルギットとカリーナは練習したチャッツを入れてくれて、ヴェンデルガルトはようやくビルギットの怒りが収まったことに安心した。
「ほら、ヴェンデルおいで」
バーチュ王国は、南の国らしく昼間は暑いが朝晩は冷える。そのためこの国ではチャッツを飲み、ビルギットは先ほどのお茶にラズナーを入れたのだろう。ラズナーは、体を温める効果がある。
先にベッドに横になったアロイスが、ヴェンデルガルトを呼んだ。今まで異性を特別意識したことがないヴェンデルガルトだったが、今は愛おしく思っている彼に誘われると恥ずかしくて胸が高鳴る。空になったカップを机において、アロイスのベットに向かった。そうして彼の隣に横になると、すぐに逞しい腕に抱き締められた。
「――懐かしい、甘い香りだ。ずっとこの香りを思い出そうとしていた。お前が来てくれて、鮮やかに思い出した」
治癒魔法の能力が高いほど、花の蜜のような香りが強いと書物に書かれていた。まだ魔法を使う者が多かった時代の、古い文献だ。しかしその頃でも金の瞳を持つ者はほとんどいなかった。ヴェンデルガルトは、多分この大陸で貴重な存在だろう。そんな彼女を手放したバルシュミーデ皇国に、アロイスは感謝していた。いや、バルシュミーデ皇国は許さなかっただろう。ジークハルトが秘かに許して、ヴェンデルガルトを送り出してくれた。バーチュ王国は、ジークハルトに感謝をしなければならない。
「夢のようです。平和になった国で、再びアロイス様に会えるなんて」
ヴェンデルガルトの額にキスをすると、アロイスは微笑む。
「俺も、まだ夢にいるようだ。あの戦で――もう、二度とお前に会えないと思っていた。ああ、早く兄上の婚礼が終わって欲しい。俺はお前が欲しくて――ずっと俺だけのものにしたくて、急く心を抑えるので精いっぱいだ」
アロイスは、ツェーザルを敬愛している。しかし、ヴェンデルガルトを思うと自分が先に婚礼して自分だけの妃にしたかった。意外なほど強い独占欲に、アロイスは自分でも驚いていた。こうして胸に抱いているだけで、我慢するのが辛い。その代わりに、アロイスはヴェンデルガルトにキスの雨を降らせた。
「うふふ、くすぐったいです」
頬や瞼に触れるアロイスの唇の柔らかさに、ヴェンデルガルトは小さく笑ってうっとりとアロイスに抱き着く。半年ほどしか会えなかっただけだというのに、ヴェンデルガルトはより女性らしい体になり表情も大人びて見える。アロイスは、ヴェンデルガルトに夢中だった。
「愛している、ヴェンデル……」
アロイスが、ヴェンデルガルトに深く口づけた。ヴェンデルガルトは、その口づけを受けて切ない吐息を零した。
「俺が、お前を世界で一番幸せな花嫁にする。俺の一生を、お前に捧げると誓う」
口づけの後、祈るようにアロイスはそう言って再びヴェンデルガルトを抱き締めた。甘い口づけに酔ったようなヴェンデルガルトは、頬を紅潮させてアロイスを抱き返した。
「私も、アロイス様を生涯愛します。あなたのお傍に、ずっと居させてください」
『龍殺しの実』を塗られたナイフで刺された腹の傷は、痕が残ってしまったようだ。引き締まった体に残るその傷跡を、ヴェンデルガルトは優しく撫でた。
「婚礼の夜から――お前を放さない。俺の愛をお前に知ってもらうために、寝かさず愛し続ける――覚悟しておけ」
アロイスの言葉の意味に、ヴェンデルガルトは顔を真っ赤にした。それでも、小さく頷いた。
「私を、アロイス様の愛で満たしてください。私も――アロイス様に、私の愛を受け入れて欲しいです……」
「ああ、くそ。婚礼がまだなのが悔しい」
アロイスは、再びヴェンデルガルトに深い口づけをした。
その夜、二人は何度も口づけを交わした。愛を確かめ合うように、啄むようなキスから深いキスまで。そうして、優しい気持ちで満たされて夜も更けた頃には抱き合ったまま眠りについた。
しかし、朝になるとヴェンデルガルトの首筋や鎖骨辺りにアロイスのキスの跡がたくさん残ってしまい、アロイスはビルギットに説教されてしまった。
「ヴェンデルガルト様は、今日はお部屋から出てはいけませんよ!」
そうヴェンデルガルトも怒られた。大人しく部屋でアヤーを編んでいると、ビルギットとカリーナは練習したチャッツを入れてくれて、ヴェンデルガルトはようやくビルギットの怒りが収まったことに安心した。
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