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風王都
19 光の子は微笑む
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「ある程度絞れてきたな。玉髄、まとめるとどういう事だ?」
光の子に話しかける花の男神の邪魔をしない様に視線を琥珀達に向け直した中の子が、突然玉髄に問うた。全員の視線を受けた玉髄は、驚いて瞳を見開いたが軽く咳払いをして緊張気味に口を開いた。
「神々の御前にて失礼いたしま――あくまでも推測に過ぎませんが、『聖なるモノ』は光の国に対して行動を起こしたいが、何か理由があり出来ないのかと。その為、光の国に近い風の国の村で『魔獣の卵が効果的に、沢山の量を一斉に孵化出来るか』、試しているのではないかと……」
少ない情報の中、玉髄は今想像できる限りの返答をした。風の国を狙っているなら、風王都を狙うだろう。しかし、態々光の国に近い風の国で行動しているのは、「成功するまで、風王都にも光の王都にも」知られぬように。
今回、藍玉の能力が高かった為か、三体もの魔獣の卵が孵化した。これは、予想しなかったのかもしれない。その為風王都では騒ぎになってしまったが、一見関係ないと思われる筈だった光王都には、まだ知られていないだろう。そうして成功を確信した「聖なるモノ」は、今度は狙いを悟られぬ内に光の国を襲う算段だったのだろう。
つまり、光の国に隣接する風の国の村が狙われたのは、環境が似た場所で試すためだった。今手に入った情報ではそう考えるのが、一番筋が通っている。
「そうだな、あたしもそう思う。しかし、風の国で孵化の様子を確認するなんて面倒な事を、わざわざ考える理由が分からん。なぜ、一斉に成獣で光の国を襲わないんだ?」
口元に手を当て、中の子は表情を陰らせた。
「姉神から、もっと情報を引き出せればよかったのだが……」
「俺、嫌です!」
突然、琥珀が大きな声でそう言った。会話が終わったらしい花の男神を含めた全員が、琥珀に視線を向けた。
「中の子様にあんなに辛く当たる神様に、頭を下げて教えて貰いたくありません!!」
琥珀のその言葉に、全員がしばし動きを止めた。
「あっははははは! 随分 豪胆な人の子だな!」
花の神が、吹き出して楽しげに笑った。それを聞いて素早く隣にいた翠玉が、慌てて琥珀の頭を地面に向けてに押して、彼と同じように頭を下げた。そうして「申し訳ありません」と何度も頭を下げる。「何するんだよ」と、琥珀は自分の頭を押さえる翠玉の手をどけようと、小さくもがく。
驚いた表情を浮かべていた中の子だったが、ゆっくりと唇に笑みを浮かべて優し気な表情になると、僅かに瞳を細めた。中の子の緊張した気配が無くなったのを感じた花の聖獣たちは、ようやくまた楽し気に中の子にすり寄る。
「有難う、琥珀。しかしアンタの加護の神だから、そう邪険にするな」
「でも、あんなに中の子様に怒鳴りつけるなんて、俺嫌です!」
彼女の背後の二号一の肩が、小さく震えている。きっと後で長い小言が待っている、と玉髄は乾いた笑みを浮かべる。そうして、彼には藍玉が琥珀の面倒をずっと見ていた理由が、少し分かったような気がした。琥珀は純粋で素直で、だから憎めないのだ。そんな白童子の時のようなあどけなさが、愛おしく思える。
「随分楽しそうですね」
和やかな雰囲気の中、突然聞き慣れない青年の声が響いた。それを聞いた花の神が、何処か拗ねたような表情になる。
白い椿の花がはらりと落ち、その動きに合わせて空間が輝きながら裂ける。その光り輝く空間の向こうから、金糸雀色の髪と瞳の中性的で線の細い美しい青年が姿を現す。何処か、中の子や闇の子に似た面立ちだ。
「兄様!」
光り輝く青年は、美しい笑みを浮かべると真っ直ぐ中の子に向かい歩いて来る。彼女以外は目に入らないかのように、座っている彼女の頭をそっと自分の胸元に抱き寄せた。
「私の可愛い華よ。何百年ぶりだ? お前の美しい姿に焦がれて、私は寂しく一人待っていたよ」
「光の子よ、我も居るのだが」
「ああ、これは花の神。変わらず息災の様で安心いたしました」
光の子は、中の子を抱いたまましれっと花の男神に愛想笑いを向ける。中の子を取り合う様子の二神に、琥珀達は花の神が光の子を呼ぶのを嫌がった意味が分かった。
「花の父上も兄様も、今は大切な話があるのです。まずは、あたしの話を聞いて下さい」
光の子の腕の中で、中の子はジタバタと身を捩る。数百年会わなかった二人には、この件が片付いてから再会の挨拶をゆっくりするつもりだった。
「おや? 人の子もいるのだね? これは失礼」
中の子の言葉にようやく光の子が彼女を離すと、驚いたように自分を見つめている琥珀達を眺める。自分たちの存在に気が付いた光の子に、琥珀達は慌てて深々と頭を下げた。
「闇の子も来ていたようだね。相変わらず中の子を虐めていたんじゃないか? 後で、私が慰めてあげようね」
闇の子が蹴倒した椅子に気が付き、それを元に戻して光の子はにこやかにその椅子に腰を落とした。優雅でのんびりした雰囲気だが、全員がすっかり彼に振り回されている。
神様って、個性的過ぎる……。
玉髄は、三人の神の存在にもう疲れていた。
「実は、光の国の輝華で、何か起こるようなのです」
ようやく中の子は自由になると、座り直して兄神を真っ直ぐ見る。中の子のその言葉に、光の子は僅かに眉を寄せる。
「それは……反乱か他国と戦が起こるという事だろうか?」
基本、神は人間の行動を規制しないし干渉しない。興味がないのだ。事実、今内乱が起こっている闇の国と火の国も、神は王家や反乱分子に関与していない。
「いえ、そうではないのです」
中の子は、簡潔に風の国で起こった魔獣の卵の大量孵化や、闇の子の話を光の子に伝えた。光の子も、時折頷きながらその話を真剣に聞いているようだった。
「輝華にも勿論魔獣は現れるが、村を一度に沢山襲うほど用意されては困るね。全く困った子だ」
軽く首を振り、妹神の行動に光の子は溜息を零す。彼も、妹神の気まぐれには、手を焼いている様子だった。
「聖なるモノ……か。確かに抽象的だ、私にも分からないよ」
光の子は、足元に咲いている花々を暫く見つめてから、そう口を開いた。
「成功した、とあの子は言ったんだね。では、間違いなく今度は輝華を狙うだろう。あの子は、何故かずっと光に対して怒っている。中の子は国を持っていないから、嫌がらせをするなら私にだろうね」
「兄上もそう思われますか?」
「あの子が何をしたいか分からないけど、ここまでの話を聞く限りそう思う。どうする? 私が王家の者に伝えて、この件を捜査さて片付けさせようか?」
「光の子様!!」
中の子が口を開こうとするのを、琥珀が遮った。瞳を丸くした光の子が、琥珀に視線を向ける。まさか、王家の者でないらしい人間が自分に話しかけるなど、思わなかったのだろう――中の子も、何処か楽しげに黙ったままの花の男神も。
「その『聖なるモノ』の退治は、俺達にさせてください!! お願いします!」
平伏したまま、琥珀は声を張り上げた。神様が相手でも、これだけは譲れなかった。藍玉の敵を討つと、約束したのだから。翠玉も玉髄も、琥珀と同じ意志だと表すようにより頭を深く下げる。
「多分、人の子が相手じゃないと思うよ? 君たち人の子の手には、負えないかもしれないよ? それでもいいのかい?」
諭すよりは確認する様に、ゆっくりと光の子は琥珀に話しかけた。光の子にも、分かっているはずだ。琥珀は、強くはない。なのに、闇の子と結託するような得体の知れない「モノ」に立ち向かえるのか。
「はい! 絶対に俺達は負けません!!」
琥珀の言葉に、光の子は視線を中の子に移した。中の子は、黙ったまま彼に頷く。再び、光の子の視線は琥珀に向けられた。
「そうか。分かったよ、君たちに任せよう」
にっこりと、光の子は琥珀に微笑んだ。
光の子に話しかける花の男神の邪魔をしない様に視線を琥珀達に向け直した中の子が、突然玉髄に問うた。全員の視線を受けた玉髄は、驚いて瞳を見開いたが軽く咳払いをして緊張気味に口を開いた。
「神々の御前にて失礼いたしま――あくまでも推測に過ぎませんが、『聖なるモノ』は光の国に対して行動を起こしたいが、何か理由があり出来ないのかと。その為、光の国に近い風の国の村で『魔獣の卵が効果的に、沢山の量を一斉に孵化出来るか』、試しているのではないかと……」
少ない情報の中、玉髄は今想像できる限りの返答をした。風の国を狙っているなら、風王都を狙うだろう。しかし、態々光の国に近い風の国で行動しているのは、「成功するまで、風王都にも光の王都にも」知られぬように。
今回、藍玉の能力が高かった為か、三体もの魔獣の卵が孵化した。これは、予想しなかったのかもしれない。その為風王都では騒ぎになってしまったが、一見関係ないと思われる筈だった光王都には、まだ知られていないだろう。そうして成功を確信した「聖なるモノ」は、今度は狙いを悟られぬ内に光の国を襲う算段だったのだろう。
つまり、光の国に隣接する風の国の村が狙われたのは、環境が似た場所で試すためだった。今手に入った情報ではそう考えるのが、一番筋が通っている。
「そうだな、あたしもそう思う。しかし、風の国で孵化の様子を確認するなんて面倒な事を、わざわざ考える理由が分からん。なぜ、一斉に成獣で光の国を襲わないんだ?」
口元に手を当て、中の子は表情を陰らせた。
「姉神から、もっと情報を引き出せればよかったのだが……」
「俺、嫌です!」
突然、琥珀が大きな声でそう言った。会話が終わったらしい花の男神を含めた全員が、琥珀に視線を向けた。
「中の子様にあんなに辛く当たる神様に、頭を下げて教えて貰いたくありません!!」
琥珀のその言葉に、全員がしばし動きを止めた。
「あっははははは! 随分 豪胆な人の子だな!」
花の神が、吹き出して楽しげに笑った。それを聞いて素早く隣にいた翠玉が、慌てて琥珀の頭を地面に向けてに押して、彼と同じように頭を下げた。そうして「申し訳ありません」と何度も頭を下げる。「何するんだよ」と、琥珀は自分の頭を押さえる翠玉の手をどけようと、小さくもがく。
驚いた表情を浮かべていた中の子だったが、ゆっくりと唇に笑みを浮かべて優し気な表情になると、僅かに瞳を細めた。中の子の緊張した気配が無くなったのを感じた花の聖獣たちは、ようやくまた楽し気に中の子にすり寄る。
「有難う、琥珀。しかしアンタの加護の神だから、そう邪険にするな」
「でも、あんなに中の子様に怒鳴りつけるなんて、俺嫌です!」
彼女の背後の二号一の肩が、小さく震えている。きっと後で長い小言が待っている、と玉髄は乾いた笑みを浮かべる。そうして、彼には藍玉が琥珀の面倒をずっと見ていた理由が、少し分かったような気がした。琥珀は純粋で素直で、だから憎めないのだ。そんな白童子の時のようなあどけなさが、愛おしく思える。
「随分楽しそうですね」
和やかな雰囲気の中、突然聞き慣れない青年の声が響いた。それを聞いた花の神が、何処か拗ねたような表情になる。
白い椿の花がはらりと落ち、その動きに合わせて空間が輝きながら裂ける。その光り輝く空間の向こうから、金糸雀色の髪と瞳の中性的で線の細い美しい青年が姿を現す。何処か、中の子や闇の子に似た面立ちだ。
「兄様!」
光り輝く青年は、美しい笑みを浮かべると真っ直ぐ中の子に向かい歩いて来る。彼女以外は目に入らないかのように、座っている彼女の頭をそっと自分の胸元に抱き寄せた。
「私の可愛い華よ。何百年ぶりだ? お前の美しい姿に焦がれて、私は寂しく一人待っていたよ」
「光の子よ、我も居るのだが」
「ああ、これは花の神。変わらず息災の様で安心いたしました」
光の子は、中の子を抱いたまましれっと花の男神に愛想笑いを向ける。中の子を取り合う様子の二神に、琥珀達は花の神が光の子を呼ぶのを嫌がった意味が分かった。
「花の父上も兄様も、今は大切な話があるのです。まずは、あたしの話を聞いて下さい」
光の子の腕の中で、中の子はジタバタと身を捩る。数百年会わなかった二人には、この件が片付いてから再会の挨拶をゆっくりするつもりだった。
「おや? 人の子もいるのだね? これは失礼」
中の子の言葉にようやく光の子が彼女を離すと、驚いたように自分を見つめている琥珀達を眺める。自分たちの存在に気が付いた光の子に、琥珀達は慌てて深々と頭を下げた。
「闇の子も来ていたようだね。相変わらず中の子を虐めていたんじゃないか? 後で、私が慰めてあげようね」
闇の子が蹴倒した椅子に気が付き、それを元に戻して光の子はにこやかにその椅子に腰を落とした。優雅でのんびりした雰囲気だが、全員がすっかり彼に振り回されている。
神様って、個性的過ぎる……。
玉髄は、三人の神の存在にもう疲れていた。
「実は、光の国の輝華で、何か起こるようなのです」
ようやく中の子は自由になると、座り直して兄神を真っ直ぐ見る。中の子のその言葉に、光の子は僅かに眉を寄せる。
「それは……反乱か他国と戦が起こるという事だろうか?」
基本、神は人間の行動を規制しないし干渉しない。興味がないのだ。事実、今内乱が起こっている闇の国と火の国も、神は王家や反乱分子に関与していない。
「いえ、そうではないのです」
中の子は、簡潔に風の国で起こった魔獣の卵の大量孵化や、闇の子の話を光の子に伝えた。光の子も、時折頷きながらその話を真剣に聞いているようだった。
「輝華にも勿論魔獣は現れるが、村を一度に沢山襲うほど用意されては困るね。全く困った子だ」
軽く首を振り、妹神の行動に光の子は溜息を零す。彼も、妹神の気まぐれには、手を焼いている様子だった。
「聖なるモノ……か。確かに抽象的だ、私にも分からないよ」
光の子は、足元に咲いている花々を暫く見つめてから、そう口を開いた。
「成功した、とあの子は言ったんだね。では、間違いなく今度は輝華を狙うだろう。あの子は、何故かずっと光に対して怒っている。中の子は国を持っていないから、嫌がらせをするなら私にだろうね」
「兄上もそう思われますか?」
「あの子が何をしたいか分からないけど、ここまでの話を聞く限りそう思う。どうする? 私が王家の者に伝えて、この件を捜査さて片付けさせようか?」
「光の子様!!」
中の子が口を開こうとするのを、琥珀が遮った。瞳を丸くした光の子が、琥珀に視線を向ける。まさか、王家の者でないらしい人間が自分に話しかけるなど、思わなかったのだろう――中の子も、何処か楽しげに黙ったままの花の男神も。
「その『聖なるモノ』の退治は、俺達にさせてください!! お願いします!」
平伏したまま、琥珀は声を張り上げた。神様が相手でも、これだけは譲れなかった。藍玉の敵を討つと、約束したのだから。翠玉も玉髄も、琥珀と同じ意志だと表すようにより頭を深く下げる。
「多分、人の子が相手じゃないと思うよ? 君たち人の子の手には、負えないかもしれないよ? それでもいいのかい?」
諭すよりは確認する様に、ゆっくりと光の子は琥珀に話しかけた。光の子にも、分かっているはずだ。琥珀は、強くはない。なのに、闇の子と結託するような得体の知れない「モノ」に立ち向かえるのか。
「はい! 絶対に俺達は負けません!!」
琥珀の言葉に、光の子は視線を中の子に移した。中の子は、黙ったまま彼に頷く。再び、光の子の視線は琥珀に向けられた。
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