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ストレイシープの鳴き声
乗客・上
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ヴァイキング形式は朝だけで、昼と夜はコースらしい。そのコース以外にも対応しているらしく、サンドウィッチやパスタにハンバーガー、スープやシチューなども用意できるという。主に、小腹が空いたときに頼むように準備されている。
ドリンクはここと、ラウンジで頂ける。ノンアルコールからカクテルや各種のお酒が揃っていた。
席に案内された三人は、まだ暑さも残る九月の日中だったので外のスペースではなく室内にして貰った。効き過ぎない冷房が、夏の日差しに心地よい。
「お魚のコース、お肉のコースどちらにされますか?今日の魚は鯛、お肉は神戸牛です。あと、ヴィーガンコースもご用意できます。こちらは、大豆ペーストのから揚げとなります」
席に案内してくれたウェイターが声をかける。にこやかで丁寧だ。やはり高級を謳うだけあり、サービスは気持ち良いくらいに徹底されている。
「うち、お肉!」
真っ先に紫苑がそう言うと、櫻子と篠原が小さく笑った。
「俺も肉かな」
「私は、お魚で――私と彼にはオレンジジュース、彼女にはジンジャーエールを」
「かしこまりました」
ウェイターは深々と頭を下げて、コースのメニューが書かれた紙を置いて厨房へと向かった。そして、ドリンクをすぐに運んできた。
「あ、女優や」
さっそくストローでジンジャーエールを飲む紫苑は、レストランの入り口を見て呟いた。櫻子達も揃ってそちらに視線を向けると、女優の沖田が入ってくるところだ。豊満な胸元を露にした真っ赤なドレスの上に、黒のカーディガン、つばの広い帽子を被っていた。その彼女も、櫻子に気付いたようだ。櫻子より高いヒールでふらつかないしっかりとした足取りで、テーブルへやってきた。
「あなた、豊島社長の親戚だったわね?」
サングラスを少しずらして、気の強そうな目で櫻子を睨むように見つめる。
「――ええ、一条櫻子と申します」
好戦的に睨まれる理由が分からぬまま、櫻子は名乗ってから小さく頷いた。沖田は見た目二十代後半に見えるが、実際は三十半ばらしい。
「それ、嘘でしょ?」
沖田の言葉に、僅かに櫻子と篠原は息を飲んだ。紫苑は、嘲笑を含んだ顔で、沖田を見ていた。
「あんたなんかより、私の方が社長のお気に入りなのよ。今の奥さん追い出して、結婚するのは私よ」
吐き捨てるようにそう言うと、つんと顔を逸らして櫻子達のテーブルから離れた。そこで、慌てたように付き人の東海林がレストランに入って来た。櫻子達にぺこりと頭を下げてから、沖田の後を追った。あの派手な女優と正反対の、どちらかと言うと地味な女性だった。
「あの女、豊島社長の愛人の一人みたい。そんな後ろ盾ないと、芸能界では目立たん存在みたいやわ。おっぱい大きいのさらけ出すくらいしか脳ないなんて、下品やわぁ。しかもあのおっぱい、整形やし」
篠原が、思わずオレンジジュースを吹きそうになった。紫苑は、テラス席に向かった沖田に舌を出していた。
「びっくりした、警察だとバレたのかと思ったわ……けど、愛人ねぇ……興味ないわ」
櫻子は苦々しく笑い、オレンジジュースを一口飲んだ。篠原はそんな櫻子を見て、女優が嫉妬するほどの美貌の櫻子を自慢に思った。
「あら、皆さん来たようね」
レストランの入り口が賑やかになった。音楽家たちに、評論家、それぞれがやってきたようだ。すぐに店内が賑やかになった。
「前菜です」
その合間に、ウェイターが櫻子達の席に大きな皿を運んできた。
「二人とも、ちゃんと乗客の顔と名前を憶えていてね」
櫻子は前菜の「キノコのテリーヌ」をナイフで割りながら、入り口に並ぶ人たちを眺めていた。
櫻子は、この旅で何か事件が起こる――そう、確信していた。
ドリンクはここと、ラウンジで頂ける。ノンアルコールからカクテルや各種のお酒が揃っていた。
席に案内された三人は、まだ暑さも残る九月の日中だったので外のスペースではなく室内にして貰った。効き過ぎない冷房が、夏の日差しに心地よい。
「お魚のコース、お肉のコースどちらにされますか?今日の魚は鯛、お肉は神戸牛です。あと、ヴィーガンコースもご用意できます。こちらは、大豆ペーストのから揚げとなります」
席に案内してくれたウェイターが声をかける。にこやかで丁寧だ。やはり高級を謳うだけあり、サービスは気持ち良いくらいに徹底されている。
「うち、お肉!」
真っ先に紫苑がそう言うと、櫻子と篠原が小さく笑った。
「俺も肉かな」
「私は、お魚で――私と彼にはオレンジジュース、彼女にはジンジャーエールを」
「かしこまりました」
ウェイターは深々と頭を下げて、コースのメニューが書かれた紙を置いて厨房へと向かった。そして、ドリンクをすぐに運んできた。
「あ、女優や」
さっそくストローでジンジャーエールを飲む紫苑は、レストランの入り口を見て呟いた。櫻子達も揃ってそちらに視線を向けると、女優の沖田が入ってくるところだ。豊満な胸元を露にした真っ赤なドレスの上に、黒のカーディガン、つばの広い帽子を被っていた。その彼女も、櫻子に気付いたようだ。櫻子より高いヒールでふらつかないしっかりとした足取りで、テーブルへやってきた。
「あなた、豊島社長の親戚だったわね?」
サングラスを少しずらして、気の強そうな目で櫻子を睨むように見つめる。
「――ええ、一条櫻子と申します」
好戦的に睨まれる理由が分からぬまま、櫻子は名乗ってから小さく頷いた。沖田は見た目二十代後半に見えるが、実際は三十半ばらしい。
「それ、嘘でしょ?」
沖田の言葉に、僅かに櫻子と篠原は息を飲んだ。紫苑は、嘲笑を含んだ顔で、沖田を見ていた。
「あんたなんかより、私の方が社長のお気に入りなのよ。今の奥さん追い出して、結婚するのは私よ」
吐き捨てるようにそう言うと、つんと顔を逸らして櫻子達のテーブルから離れた。そこで、慌てたように付き人の東海林がレストランに入って来た。櫻子達にぺこりと頭を下げてから、沖田の後を追った。あの派手な女優と正反対の、どちらかと言うと地味な女性だった。
「あの女、豊島社長の愛人の一人みたい。そんな後ろ盾ないと、芸能界では目立たん存在みたいやわ。おっぱい大きいのさらけ出すくらいしか脳ないなんて、下品やわぁ。しかもあのおっぱい、整形やし」
篠原が、思わずオレンジジュースを吹きそうになった。紫苑は、テラス席に向かった沖田に舌を出していた。
「びっくりした、警察だとバレたのかと思ったわ……けど、愛人ねぇ……興味ないわ」
櫻子は苦々しく笑い、オレンジジュースを一口飲んだ。篠原はそんな櫻子を見て、女優が嫉妬するほどの美貌の櫻子を自慢に思った。
「あら、皆さん来たようね」
レストランの入り口が賑やかになった。音楽家たちに、評論家、それぞれがやってきたようだ。すぐに店内が賑やかになった。
「前菜です」
その合間に、ウェイターが櫻子達の席に大きな皿を運んできた。
「二人とも、ちゃんと乗客の顔と名前を憶えていてね」
櫻子は前菜の「キノコのテリーヌ」をナイフで割りながら、入り口に並ぶ人たちを眺めていた。
櫻子は、この旅で何か事件が起こる――そう、確信していた。
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