【完結】パーティ追放されたので自作自演の猫救出動画でバズろうと子猫を池に放り投げたらそいつが自称ダンジョン最強のワーキャット少女だった件。

第41話 絵画的な美しさ

　俺はミャロの肩に手を乗せ、詠唱を始めた。

「サラマンガカ ナ ナグパパビリス サ ダロイ ナグ オラス、 バグヒン イト サ ビリス ナ グスト コ。 ダリン アング ビリス アト オラス ナグ パグコンプレス！」
　
　俺の手のひらが光を帯びる。
　俺はさらに叫んだ。

「速度向上《スピードアップ》！」

　俺の手からミャロの全身に光が移る。
　小柄なミャロの身体をふわっとした光が包んだ。

〈あああ！　光のせいで裸が見えなくなった〉
〈まさか謎の光が邪魔をするとは……〉
〈おいここでその魔法を使うのは卑怯だぞ〉

　コメント欄のバカどもは放っておいて、俺はミャロに声をかけた。

「行くぞ、ミャロ。姉ちゃんを助けるぞ」
「はいにゃですよ！」

　そのあいだに、西村たちもただ黙ってみているわけではなかった。
　多香子が西村に対してバフ魔法をかける。

「イプニン アン イヨン ラカス アット スヌギン アン イヨン エスピリトゥ ウン パキピグラバン. マグパヒンガ サ アキン ナン マイ カパンギリハン！　攻撃力向上《エンチャンスアタック》！」

　今度は西村の剣が光り輝く。
　西村は白猫を顔に貼り付けたまま、爬虫類みたいな目つきで俺をねめつけ、ニヤリと笑った。

「……行くぞ、三崎」

　多香子はすでに攻撃魔法の詠唱を始めている。
　オオカミの空の戦闘員たちがいまだに散発的に俺に向かって射撃を続けていた。

「西村、これで……終わりだ」

　俺は呟いて……そしてミャロに抱きついた。

「にゃにゃ！　行くにゃですよ！」

　俺を背負ったままダッシュするミャロ、その動きに反応して剣を振りかぶる西村、多香子の放った魔法の炎が俺達を襲う。
　勝負は一瞬だった。
　俺の加速の魔法によってそのスピードを増したミャロは、この場にいる誰よりも素早く動いた。
　それも俺を背中にかついだままだ。

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ～～～～～～～っ！」

　西村たちのすべての攻撃をかわし、あっという間に連中の背後をとる。

「ひゃははははっ！　はえーなー、三崎ぃ！　だがなあ、てめえの空刃の魔法なんざ、エンチャントされた俺の剣で完璧に防御できるんだよぉぉ！！」

　俺はそんな西村に向けて、担いでいたリュックの中から取り出したサブマシンガンみたいな形をしたものになにかサブマシンガンのマガジンみたいなものをカチン、とはめると、これまたサブマシンガンみたいな何かの銃口を西村に向けた。
　さっきの戦闘の際、落ちていたのを拾っておいたのだ。

「そうか、じゃあこれはどうかな？　汝平和を欲さば、戦への備えをせよってな」

　そして俺は引き金を引いた。
　ダンジョン内ではすべての火器が無効化される。
　逆に、人間のスキルはダンジョン内だけで使用できる。
　だから、現代兵器vs魔法スキルの対決はいままで行われてこなかった。
　現代兵器の攻撃は、俺の防御魔法で完封できた。
　それは、防御魔法を扱えるヒーラーの俺だからこそできたことだ。
　では、戦士職である西村と、攻撃魔法を扱うスペラ―の多香子が、現代兵器に対してどう対抗できるのか？

　答えはこれだった。

〝防ぎようがない〟

　高速で連続発射される9ミリパラベラム弾が多香子の全身に当たる。
　多香子は弾に当たるたび、まるでその場で踊るようにして身体を震わせ、血を撒き散らしながらその場に倒れた。
　西村が剣をふりかぶってダッシュでこちらに向かってくる。
　熟練の戦士職である西村のスピードはさすがのもので、ミャロほどではないが通常の人類には不可能なレベルの動きで踏み込んでくる。

「にゃにゃー！お姉ちゃんを返せー！！」

　だがミャロのほうが素早い。
　俺のバフ魔法でそのスピートを最大限まで増したミャロは、西村の剣をその爪で受けると、床を蹴って西村の肩に乗る。小柄ですばしっこいミャロらしい動きだ。
　そして、西村の顔に縛り付けられている白猫をひっぺがすと、すぐにジャンプして天井にはりついた。

「くそがっ！」

　西村がそんなミャロに向けて剣を振る。
　剣から放射されたエネルギー波が、ダンジョンの天井を破壊した。
　が、スピードをバフされたミャロは姉の白猫を大事に抱いたままなんなくそれを避ける。
　俺は叫んだ。

「おい、西村！　てめえの相手は俺だ！」

　そして魔法の高速詠唱を始める。

「ガリトナハンギン、マギングイサンマチリスナタリムアットマナハンサアキングカマイ！　 パヒントゥラタンアンタグタボイニカアワイアットパグダダラニカパヤアン‼」
「来いや、三崎ぃ！」
「空斬《ハンギンブレイド》！！」

　俺の放った魔法攻撃が命を刈る刃となって西村を襲う。

「おるぁぁっ！」

　西村がその刃を剣でなんなくさばいた。
　さすがはトップクラスの探索者パーティでリーダーを務めている男だ。

「三崎ぃ！　そんなもんでこの俺を……。…………！？」

　だが。
　西村は自分の足元にある小さなボールのようなものを凝視する。

「西村、そこに転がっているそれは、どうやって防ぐんだ？」

　そう。俺は魔法を放つと同時にそれを、西村の足元に投擲していたのだ。
　爬虫類のような顔をゆがめ、西村が「くそが」と呟いた瞬間、手りゅう弾が爆発して西村の全身を包んだ。

「………………」

　爆発のあとも西村は剣を構えたまましばらく立っていた。全身を火薬の爆発による火傷と傷だらけにしたまま、俺を見つめている。
　だがその目にはもはや光はない。
　そのまま、棒が倒れるようにゆっくりと地面に仰向けに倒れた。
　勝った。
　だが、いまいましいことに、まだ殺してしまうわけにはいかない。
　西村が死ぬと、ミャロの姉も死んでしまうのだから。

「お姉ちゃん……」

　ミャロが、手の平にのせた小さな白猫にほおずりする。
　速度向上のバフ魔法の効果がきれて、ミャロはいまやその裸体をすべて晒している。
　目に涙を浮かべた黒髪の裸の少女が、愛おしそうに猫に頬をよせているその姿は、絵画的な美しさがあった。

〈主が勝った！　つええ〉
〈魔法と兵器の合わせ技はずるい〉
〈っていうかバフの魔法の効果がきれてミャロちゃんの裸がっ！〉
〈ミャロちゃんペロペロ〉
〈ケモナーの俺としては猫の姿の方がぬける〉
〈上級者すぎんだろそれ〉