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第29話 ここはヤリ部屋じゃない
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この学校では去年、新しく体育館が建てられた。
とはいえ、今まで使っていた体育館はとりこわしたわけではなく、そちらもそのまま利用されることになった。
それが旧体育館と呼ばれている。
部室なども新体育館の方に移され、部員の少ない、あまり活発でない部活動だけが旧体育館を使っているのだ。
実際は幽霊部員だらけのバレー部とかが旧体育館を使うことになっているんだけど、実際はほとんど使われていないのが現状だ。
陰鬱な雰囲気のある体育館で生徒はあまり立ち寄らない。
その裏となるとさらに人通りは少ない。
女子が一人で呼び出されるとなるとかなりの恐怖感があるだろう。
そんなわけで、小南江が待ち合わせ場所に行くのに、武士郎と舞亜瑠はただの通行人のフリをしてこっそりと体育館の中から見張ることにした。
「っていうか舞亜瑠、なんでお前そんなにくっついてくるんだよ」
「笠原!」
「……その設定、いつまで続けるんだよ?」
「笠原!」
「はいはい、笠原、腕からみつけてくんな」
「ほらカップルのフリした方が怪しまれないでしょ」
「そうかあ?」
しかしまあ、体育館の裏手が見える場所、体育準備室の窓からこっそりのぞいておく。
すると小南江がひとりで歩いてきた。
きょろきょろしている、こっちに気が付くとほっとしたような笑顔になる。
さて、どんな男子がくるのか。
小南江はかなりかわいいから、告白したいと思うのも仕方がないよな。でも知り合ってだんだん仲良くなって、っていう段階を踏まずにいきなり呼び出して告白ってのも、かなりなイケメンでもないと勝機が少ないと思うが。
そもそも自宅にまで手紙を投函してしまうストーカー気質のやつだしなあ。
などと思いながら現れるのを待つ。
しかし、しばらく待っていても、誰も来ない。
というか、一時間も待っていたのに、結局だれもこなかった。
そのあいだ、舞亜瑠はずっと武士郎と腕を組んだまま。
というか、いつのまにか武士郎の手を握ってきている。
こいつの手ってこんなにちっちゃいのか。
こうしてみると、女の子の小ささってのにすごくドキッとしちゃうよな。
なんかこうやわらかいし、いい匂いするし、すべすべしているし。
いやいや、妹相手だぞ、なに考えてるんだ俺は。
武士郎は舞亜瑠のことを今でも妹だと思い込もうとしていた。
なんだかここしばらく、っていうかあの事件以降はさらに、舞亜瑠の距離の詰め方がおかしいし、おかしなことになったら父さんと母さんにどう説明したらいいかもわからんし。
とにかく、舞亜瑠は妹なんだ!
その妹はぴったり身体を武士郎にくっつけながら、
「……こないねえ。結局びびってこないのかな? 男らしくないなあ。それとも、私たちに気が付いたかな?」
ふとももまでぴったりと武士郎にくっつけてきている、女の子の柔らかさと体温が伝わってきて、いや待てでもこいつは妹だから。家族としてのスキンシップだから。
「どうだろうな、とりあえず今日はもうこなそうだな」
そして武士郎は窓から小南江に声をかける。
「今日はもう帰ろうぜ、送っていくから」
「あ、はいっす」
まあでもしばらくは小南江をなるべく一人きりにしない方がよさそうだ、ストーカーかどうかはわからんけど、危ない奴に狙われてると悪いからな。
そして体育準備室から二人で出ていこうとしたとき。
ちょうど出入口で一人の女子生徒とかちあった。
すらりとしたプロポーションの、黒髪ロングストレートの正統派和風美人。
セーラー服のリボンは白。
左腕には生徒会の腕章。
彼女のことを顔だけは武士郎も知っていた。舞亜瑠も知っているのか、彼女に対してペコリと頭を下げる。
「副会長……」
そう、生徒会の副会長をしている三年生だ。
名前までは知らない。
その副会長は「ん?」と眉をひそめ、武士郎と舞亜瑠の顔を見、視線を下げて二人が手をつないでいるのを見てさらに眉をひそめた。
思わずぱっと手を離す。
ってか、よく考えたらずっと手をつないでいたな、妹となにやってるんだ、と武士郎は思った。
いぶかし気な表情で、
「ここでなにしていた?」
ハスキーな声で聞いてくる副会長。
「い、いや別に……ちょっとおしゃべりを……」
「…………おしゃべり、ねえ……」
そして副会長は鼻を鳴らしてふんふんと準備室の匂いを嗅ぐ。
「あ、あの、なにを……?」
「うーん、まあいやらしいことはしていなかったっぽいね、私鼻がきくから」
いやらしいことをしていたとしたら、匂いでわかるもんなのか?
「あのー、なにもしてません」
「まあ、いい。私も見回りしていただけだけど、ここはあまり人がこないとはいえ、ヤリ部屋にしてもらっては困る。最近、サッカー部の件もあったしな。一応、名前を聞いておこうか。君は二年生?」
「あ、はい、二年二組の山本武士郎です」
「ああ、なるほどね。で、君は前にも話したことあるね、なんだっけ名前。マルだかシカクだか」
ん? 舞亜瑠と副会長は知り合いなのか。
「一年二組の笠原舞亜瑠です……」
副会長はふところから取り出した生徒手帳にふたりの名前をメモると、
「ふん、いっとくがここはヤリ部屋じゃない。おしゃべりだけならいいが、おしゃぶりまでしたら許さんからな」
武士郎は言われた意味が一瞬わからなくて、
「は、はあ……?」
舞亜瑠はすぐにわかったようで、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「そんなことはしません!」
「ふん、まあいいさ。じゃ、下校時間だ。部活動以外の生徒は帰りなさい」
とはいえ、今まで使っていた体育館はとりこわしたわけではなく、そちらもそのまま利用されることになった。
それが旧体育館と呼ばれている。
部室なども新体育館の方に移され、部員の少ない、あまり活発でない部活動だけが旧体育館を使っているのだ。
実際は幽霊部員だらけのバレー部とかが旧体育館を使うことになっているんだけど、実際はほとんど使われていないのが現状だ。
陰鬱な雰囲気のある体育館で生徒はあまり立ち寄らない。
その裏となるとさらに人通りは少ない。
女子が一人で呼び出されるとなるとかなりの恐怖感があるだろう。
そんなわけで、小南江が待ち合わせ場所に行くのに、武士郎と舞亜瑠はただの通行人のフリをしてこっそりと体育館の中から見張ることにした。
「っていうか舞亜瑠、なんでお前そんなにくっついてくるんだよ」
「笠原!」
「……その設定、いつまで続けるんだよ?」
「笠原!」
「はいはい、笠原、腕からみつけてくんな」
「ほらカップルのフリした方が怪しまれないでしょ」
「そうかあ?」
しかしまあ、体育館の裏手が見える場所、体育準備室の窓からこっそりのぞいておく。
すると小南江がひとりで歩いてきた。
きょろきょろしている、こっちに気が付くとほっとしたような笑顔になる。
さて、どんな男子がくるのか。
小南江はかなりかわいいから、告白したいと思うのも仕方がないよな。でも知り合ってだんだん仲良くなって、っていう段階を踏まずにいきなり呼び出して告白ってのも、かなりなイケメンでもないと勝機が少ないと思うが。
そもそも自宅にまで手紙を投函してしまうストーカー気質のやつだしなあ。
などと思いながら現れるのを待つ。
しかし、しばらく待っていても、誰も来ない。
というか、一時間も待っていたのに、結局だれもこなかった。
そのあいだ、舞亜瑠はずっと武士郎と腕を組んだまま。
というか、いつのまにか武士郎の手を握ってきている。
こいつの手ってこんなにちっちゃいのか。
こうしてみると、女の子の小ささってのにすごくドキッとしちゃうよな。
なんかこうやわらかいし、いい匂いするし、すべすべしているし。
いやいや、妹相手だぞ、なに考えてるんだ俺は。
武士郎は舞亜瑠のことを今でも妹だと思い込もうとしていた。
なんだかここしばらく、っていうかあの事件以降はさらに、舞亜瑠の距離の詰め方がおかしいし、おかしなことになったら父さんと母さんにどう説明したらいいかもわからんし。
とにかく、舞亜瑠は妹なんだ!
その妹はぴったり身体を武士郎にくっつけながら、
「……こないねえ。結局びびってこないのかな? 男らしくないなあ。それとも、私たちに気が付いたかな?」
ふとももまでぴったりと武士郎にくっつけてきている、女の子の柔らかさと体温が伝わってきて、いや待てでもこいつは妹だから。家族としてのスキンシップだから。
「どうだろうな、とりあえず今日はもうこなそうだな」
そして武士郎は窓から小南江に声をかける。
「今日はもう帰ろうぜ、送っていくから」
「あ、はいっす」
まあでもしばらくは小南江をなるべく一人きりにしない方がよさそうだ、ストーカーかどうかはわからんけど、危ない奴に狙われてると悪いからな。
そして体育準備室から二人で出ていこうとしたとき。
ちょうど出入口で一人の女子生徒とかちあった。
すらりとしたプロポーションの、黒髪ロングストレートの正統派和風美人。
セーラー服のリボンは白。
左腕には生徒会の腕章。
彼女のことを顔だけは武士郎も知っていた。舞亜瑠も知っているのか、彼女に対してペコリと頭を下げる。
「副会長……」
そう、生徒会の副会長をしている三年生だ。
名前までは知らない。
その副会長は「ん?」と眉をひそめ、武士郎と舞亜瑠の顔を見、視線を下げて二人が手をつないでいるのを見てさらに眉をひそめた。
思わずぱっと手を離す。
ってか、よく考えたらずっと手をつないでいたな、妹となにやってるんだ、と武士郎は思った。
いぶかし気な表情で、
「ここでなにしていた?」
ハスキーな声で聞いてくる副会長。
「い、いや別に……ちょっとおしゃべりを……」
「…………おしゃべり、ねえ……」
そして副会長は鼻を鳴らしてふんふんと準備室の匂いを嗅ぐ。
「あ、あの、なにを……?」
「うーん、まあいやらしいことはしていなかったっぽいね、私鼻がきくから」
いやらしいことをしていたとしたら、匂いでわかるもんなのか?
「あのー、なにもしてません」
「まあ、いい。私も見回りしていただけだけど、ここはあまり人がこないとはいえ、ヤリ部屋にしてもらっては困る。最近、サッカー部の件もあったしな。一応、名前を聞いておこうか。君は二年生?」
「あ、はい、二年二組の山本武士郎です」
「ああ、なるほどね。で、君は前にも話したことあるね、なんだっけ名前。マルだかシカクだか」
ん? 舞亜瑠と副会長は知り合いなのか。
「一年二組の笠原舞亜瑠です……」
副会長はふところから取り出した生徒手帳にふたりの名前をメモると、
「ふん、いっとくがここはヤリ部屋じゃない。おしゃべりだけならいいが、おしゃぶりまでしたら許さんからな」
武士郎は言われた意味が一瞬わからなくて、
「は、はあ……?」
舞亜瑠はすぐにわかったようで、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「そんなことはしません!」
「ふん、まあいいさ。じゃ、下校時間だ。部活動以外の生徒は帰りなさい」
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