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第16話 こんちゃーす!

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「うああああ……ええ……この人だったの……恥ずかしー!」

 小南江さなえは恥ずかしさで紅潮した顔のまま、

「あの! こんちゃーす! 舞亜瑠まあるちゃんのクラスメートで、一年二組の九文字くもんじ小南江さなえす!」

 ぺこっと頭を下げた。
 黒髪でさらさらのショートカット、舞亜瑠まあるより一回り小柄な体格。
 でもかなり短めのスカートから伸びる足は、びっくりするほど白い肌。
 そちらに視線を吸い込まれそうになるけど、そういうことをするとあとで舞亜瑠まあるに何か言われそうと思ったので我慢しておく。
 一見してこりゃモテそうだな、と思った。舞亜瑠と二人で並んでいるところを見ると、なかなかの美少女コンビだ。

「お、おう、さっき会ったな……」
「あのーさっきの記憶は消してもらえませんか? あれは舞亜瑠まあるちゃんが寝坊して遅れたのが悪くて……。ほんとは舞亜瑠まあるちゃんに撮影してもらおうと思ったんすけど……」

「寝坊じゃないよ、ちょっとメイクに時間がかかっただけ! 遅れたのはごめん」

 舞亜瑠まあるが言う。

 小南江さなえはくっきりとした二重の目で武士郎の姿を上から下までじっくりと見ると、

「うわー、これが舞亜瑠まあるちゃんの先輩……。いいじゃんいいじゃん! 噂には聞いてたけどこれが本物!」


 っていうか。
 舞亜瑠まあると二人きりで食事だと思っていた武士郎は困惑していた。

「今日友達と一緒だったんか?」
「うん、そうなの! えっへっへっへー、小南江さなえちゃんはねー、私の一番の友達なの!」
「そうなんすよ。舞亜瑠まあるちゃんがいつも言ってたセンパイってどんな人かなーって思ってたんすけど、今日紹介してくれるっていうから。その前にあの神社で私のダンス撮影してくれるって話だったのになかなか来ないし、連絡もとれないしで一人で踊ってたんです。そしたら急にセンパイが来るから……」
「遅れたのはごめん! でも見られたのがうちのおに……じゃない、あっぶな、えっと先輩でよかったよ、もう知り合いだから恥ずかしくないね!」

 うーん、知り合いでも恥ずかしいもんは恥ずかしいと思うが……?

「で、紹介します! 小南江さなえちゃん、こちらが私の中学からの先輩の、山本武士郎さんです!」

 大仰に手のひらをまっすぐ武士郎に伸ばして元気に言う舞亜瑠まある

「お、おう、よろしくな」
「ちゃっす。舞亜瑠ちゃんの彼氏さんどんな人かなーと思って。彼女にかわいいとかストレートに言う人なんすね、いいすねいいすね。私、舞亜瑠まあるちゃんの恋の応援するって決めてるすからね」

 舞亜瑠まあるの恋、と聞いて武士郎はちょっと新鮮に思って、そうか、舞亜瑠まあるだって恋愛することあるよな、と思って、しかしこの場合その相手が自分だと思われているわけで――。

「いや待て、俺たちは別に彼氏彼女とかじゃないぞ、俺たちは――」

 言いかけて、待てよ、舞亜瑠まあるは俺たちが元兄妹だってことは誰にも言わないとかいっていたな、と思って、

「おい、まあ……笠原」

 舞亜瑠まあるは嬉しそうに、

「はーい」

 と返事する。

「えっと、この九文字くもんじって子、その……」

 武士郎は舞亜瑠まあるに目配せをする。自分たちが兄妹だったってことを知っているんだろうか? と思ったのだ。
 舞亜瑠まあるは目配せに答えるように言った。

「えっへっへー、小南江さなえちゃんも知ってのとおり、山本先輩と私は園城寺中学で一緒の中学だったの! まさか先輩と一緒の高校に入れるなんて、私嬉しくてさ!」

 うーん、なるほど、嘘は言ってないな、嘘は。
 ただし、重要な事実は言ってないぞ、もともと俺たち一緒に暮らしてた兄妹だからなー。
 小南江さなえは、武士郎と舞亜瑠まあるの顔を見比べながら、

「ふーん、なるほどねー。園城寺って結構遠いとこなのに、こっちで一緒の高校に入るとか奇跡じゃん。舞亜瑠ちゃん、中学三年生の時に私と同じ中学に転校してきたんだもんね。そっか、山本センパイかあ。山本だと、じゃあ舞亜瑠ちゃんと同じ……」

 といいかけて、

「あ、ごめん」

 と言った。

「いいのいいの、気にしないで、えへへ」

 舞亜瑠まあるは明るく言う。
 離婚のせいで、舞亜瑠まあるの苗字は山本から笠原に変わったばかりだからな、友人にしてみればまだ慣れないだろう。
 いや武士郎にとっても舞亜瑠まあるの苗字が笠原だなんてまだ全然なれていないんだけど。

 じゃあこいつ、舞亜瑠まある同中おなちゅうの友達か、と武士郎は納得する。
 言われてみれば、”サナエちゃん”って名前はそういや今までも何度か舞亜瑠まあるの会話に出てきてた気がする。
 武士郎と舞亜瑠まあるが父母の仕事の関係でこの土地に引っ越してきたのが武士郎が高校一年生、舞亜瑠まあるが中学三年生になる春。
 通学できるほどの距離ではないし、まさか中学生を一人暮らしさせるわけにもいかないから、舞亜瑠まあるは一年間はこっちの中学に通っている。
 そしてそのあいだ、自分に血のつながりのない兄がいる、ってことは同級生には言ってないようだった。

「そうなの! 山本先輩とこの高校で一緒になれたのは奇跡なんだよ!」

 まったくの他人だったらそりゃすごい確率だけど、入学したときは兄妹だったしなあ。

「じゃあ先輩! 先輩のおごりでごはんですよ!」

 舞亜瑠まあるの言葉に、

「……まあ、いいけど……」
「あ、どもっす。ごちっす」

 おごりと言っても、舞亜瑠まあると食事だと言えば父親がお金をくれたので、別に武士郎のふところが痛むことはない。
 父親としては元妻の動向が気になるらしく、舞亜瑠まあるからいろいろ情報を引き出したいっぽいようだった。
 武士郎は曲がったことが嫌いな性格なのでそれを悪用してこづかい稼ぎにするってことは思いもしないのだったけど。
 店に入ったあと、メニューを眺めながら小南江さなえが言った。
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