上 下
23 / 43

23. おとぎ話に出てくるような

しおりを挟む
 そう、おとぎ話に出てくるような、超豪華で超ヒラヒラで、なんだか知らんけどあちこちに光る宝石が装飾されている、マジな感じのドレス。しかも、ティアラ付きだ。

 ティアラ!

 ローマの休日で、オードリーヘップバーンがつけてるような、あのキラキラの冠だ。

 窓から差し込む日の光に反射して、目に眩しい。

 星多も凛々花も言葉を失ってあっけにとられていると、そのお姫様は安っぽい折りたたみ椅子をかかえてズンズンと部屋の中へと入ってくる。

 そして、星多を挟んで凛々花と反対側にそれをドン! と置き、ドスン! と座る。

 お姫様は、ジロリ、と吊り目がちな瞳を星多に向け、


「あたしも勉強」と言った。


「いやいやいやいや! 愛想美、お前……え、なにこれ、なんでそんな格好?」

「なによ、ここはあたしの家で、これはあたしの服よ。あたしが自分の家で好きな格好して、何が悪いの?」

「だってお前さっきまで、寝癖ボサボサのジャージ姿だったじゃないかよ! それに、そのティアラ……宝石、本物?」


 愛想美はよくぞ訊いてくれた! とばかりの得意そうな笑みを浮かべ、


「そうよ、亡くなったママの形見なの。結婚式の時つけてたんだって。あたしも結婚式の時はこれつけてウェディングドレス着るんだ」

「いや、今は結婚式じゃないだろ……」


 もう、何からつっこんだらいいかわからない。

 こいつは産まれた時から金持ちだし、たまに財界人が集まるパーティとかもあるらしいし、こういうドレスとかも持っているのだろうが、しかし、何の変哲もない休日の午後に、これから勉強するっていう服装ではない。


「ま、ほら、凛々花先輩のメイド服、とても似合っていてかわいいし、なんか女として悔しいから対抗してみた」

「なんで昼間っからコスプレ大会が始まっているんだよ……」

「これは本物のドレスなんだから! コスプレだなんて失礼なこといわないでよね!」


 愛想美が口を尖らせて言うと、凛々花も、


「わ、私もこれ、制服ですから、コスプレというわけでは……」と言う。

「さ、いいから勉強しましょ。凛々花先輩、わからないことがあったら教えてね」

「は、はい、お嬢様……」

「お嬢様はやめてって言ってるでしょ!」

「はい、愛想美さん。それに、星多くんも。勉強しましょうか」


 そんなわけで、メイドとお姫様に挟まれ、星多は再び三次関数と向き合うことになった。

 なったのだが、それも十秒ほどで終わった。

 もう一人の闖入者がやってきたからだ。

 そいつは、ノックはしたものの、返事も待たずに部屋へ入ってきた。

 最初、それが誰だかはわからなかった。

 愛想美の場合は変な格好してるとはいえ、身体の小ささと量の多い髪の毛で、あ、愛想美だな、とわかった。

 でも今度はそうはいかない。

 今この家にいる若い女子はほかにはいないはずなので、消去法で、まあツナなんだろうなとは思ったけど。

 しかしまあ、その服装が。

 いや、これ、服装といっていいのか?

 さきほどまで着ていた女給姿ではなかったのだ。

 えーと。


「ト、トロピカル?」


 星多は思わず呟いてしまった。


「お勉強、大変でしょう。お飲物をお持ちいたしましたわ」


 すました表情のツナの格好は、……水着だった。







しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

バレンタインにやらかしてしまった僕は今、目の前が真っ白です…。

青春
昔から女の子が苦手な〈僕〉は、あろうことかクラスで一番圧があって目立つ女子〈須藤さん〉がバレンタインのために手作りしたクッキーを粉々にしてしまった。 謝っても許してもらえない。そう思ったのだが、須藤さんは「それなら、あんたがチョコを作り直して」と言ってきて……。

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

気まぐれの遼 二年A組

hakusuya
青春
他人とかかわることに煩わしさを感じる遼は、ボッチの学園生活を選んだ。趣味は読書と人間観察。しかし学園屈指の美貌をもつ遼を周囲は放っておかない。中には双子の妹に取り入るきっかけにしようとする輩もいて、遼はシスコンムーブを発動させる。これは気まぐれを起こしたときだけ他人とかかわるボッチ美少年の日常を描いた物語。完結するかは未定。

処理中です...