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第六章 帝都奪還

107 貴族院会議

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「まずは、エージ卿が捕縛したヘンナマリについてですが」


 魔法使いっぽいドリルが言った。


「当然、死刑よ。いちいち聞くこと?」


 ヴェルが言う。

 まあ当然だろう。

 しかも今回は魔王軍を引き入れての外患誘致だ。

 現代日本だって死刑しかありえない。


「あのー……」


 おそるおそる、といった感じで小さな声を出したのは。

 …………皇帝ミーシアだった。


「あのね、殺しちゃうの?」

「当たり前でしょ……あのね、これはあんた……おっと失礼、陛下お一人のことではございませんので、ヘンナマリを死刑にするのは国家としての当然の責務です」


 というヴェルの言葉を継いで、青髪ツインテールのラータ将軍が、


「陛下の優しいお気持ちはわかりますが、ここはそうするしかないでしょう。減刑するにはあまりにも罪が大きすぎます。一歩間違えてたら、この部屋でヘンナマリが陛下の処刑を決定しているところです」

「そ、そうだよね……」


 そこに、皇族のヨキが黒髪を掻きあげて言った。


「陛下。そのような弱いお気持ちでは困ります。むしろヘンナマリの何親等の親族まで処刑するかの話し合いをせねばなりません。前例に従えば、八親等以内の親族はすべて処刑すべきだと思います」

「それ、百年も前の例じゃない……」


 ミーシアがぼそっと呟く。そのミーシアをヨキが冷たい目で見る。

 うーん。

 なんかいろいろどろどろしている人間関係が見え隠れするなあ。

 しかし、八親等全部処刑とか、やってもいいけどそのあといろいろもめそうな気がするなあ。

 俺、口を出していいものか……。

 ちょっとだけ出してみようか。


「お待ち下さい。私は処刑はヘンナマリ一人でよいと思います」


 俺がそう言うと、


「それ、甘すぎじゃない?」


 とヴェルが返す。


「いえ、いまだアウッティ家の勢力は東にあり、皇帝陛下への敵意を隠していません。あまりに厳しい処断をすると、徹底抗戦してくる可能性もあります。しかしながら我々は東に東方共和国、西には獣の民と魔王軍……あまりに敵が多すぎるのです。今は第三軍をさらに東に進めるようなことはしないほうがよいと考えます」

「じゃあ、どうしたらいいってのよ」


 ヨキが食って掛かるようにいう。

 うーん、なかなか気の強そうなおばちゃんだな、このヨキって人。

 情報ではヘンナマリの反乱を事前に知っていたんじゃないかって話もある腹黒らしいし……。


「ヘンナマリには子供がいますか?」

「たしか七歳だか八歳の娘がいるわ」

「ならば、その者にアウッティ家を継がせ、どこか僻地に転封しましょう」

「転封……」


 転封とは地方領主の領地を変えさせることだ。

 はっきりいって今の状況でヘンナマリの親族皆殺しとかやったら、東にまだいるはずの騎士たちがヘンナマリ派として抗戦してくる可能性が高い。

 もし他に敵がいないってのなら、大坂の陣の家康が豊臣派を根絶やしにしたように、ヘンナマリ派を全て潰すっていう手もある。

 が、今はそんなこといっていられないほど帝国は外に敵が多いのだ。


「良い手かと思います」


 財相――財務担当大臣であるヒウッカが言った。


「その条件……アウッティ家存続という条件ならば降伏してくる可能性も高いでしょう」


 俺はさらに続けて言う。


「私の元いた世界で最も有名な兵法家の言葉があります。『兵は勝つを貴び、久しきを貴ばず』、『百戦百勝は、善の善なる者に非ず。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり』」


 軍事で勝つのは素晴らしいが、戦争が長引くのはよくない。百戦百勝は最も良いことじゃない、戦わないで屈服させることこそがもっともよい。

 いわずとしれた孫子の兵法だ。

 俺はなるべくはっきりした声で、結論づけるように言う。


「献策いたします。ヘンナマリは死刑。アウッティ家は存続。娘に家督を相続させ、アルゼリオン号は維持。ただし、現在の領地は召し上げ、帝都から遠い僻地に押し込める。これでいかがですか」

「んじゃそれでいいよ」


 間髪入れずミーシアが言う。

 ミーシアとしては、というよりも、十二歳の女の子としてはあまりに人の死を見すぎた。そして自らを殺そうと言う人間を見すぎた。

 戦いそのものがいやになっているのかもしれない。


「いいよね、みんな?」


 皇帝たるミーシアの確認に、その場にいるものたちの多くが、


「……まあいいでしょう」

「ただしアウッティ家がその条件を飲まなかった場合、アウッティ領に侵攻するというなら、その条件でいいと思います」


 概ね賛成の意見を述べ、不満そうなヨキは黙りこんで横を向く。

 これで決定だ。

 魔法使いみたいな杖を持ち替え、コホンと咳払いをして宮廷法術士長ドリルが、


「では次の議題。えー……セラフィ殿下が皇帝位を僭称した点についてですが」


 おっと危ない。

 ここはうまくやらないとまずい。


「失礼ながらドリル様、今のお言葉には間違いがあります。セラフィ殿下は何もご存知ありませんでした。セラフィ殿下が皇帝位を僭称したわけではなく、ヘンナマリがセラフィ殿下が皇帝であると宣言したにすぎません」

「はあ?」


 ヨキがあからさまに不機嫌な声を出した。


「私は宮廷内にあって見てたから知ってるけど、帝位継承の宣言のとき、セラフィはその場にいたわよ。形式でいえばセラフィこそが反乱の首謀者で死刑にすべきなのよ!」


 ヨキにとって自分以外の皇族は政敵なのだ。

 この機会をもってセラフィを抹殺したいのだろう。

 俺も反論する。


「すると、帝位簒奪のその場にいながらヨキ殿下はなにもしなかったということですね? なるほど、ヨキ殿下も一味でしたか。ならば献策いたします。帝位簒奪に与したセラフィ殿下とヨキ殿下を死刑」
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