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第六章 帝都奪還

103 球

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 まさかここでヘンナマリと闘うハメになるとは思ってもいなかったので、ヴェルからヘンナマリの能力についてあまりよく聞いていなかった。

 事前にどんな能力かわかっていたら、それなりの対処ができたかもしれないのに、下手こいた。

 くっそ。

 なにか方法はないか、なにか……。

 ……あ。

 そうか。

 そういうことか。

 ヴェルは言っていたのだ、近づけなきゃなんてことはない、と。

 それはつまり、ヘンナマリの射程は短いということ。

 射程というか、超スピードで動ける範囲はそこまで広くないってこと、または短時間ということだ。

 実際、俺に攻撃するたびに、ヘンナマリは超スピードを解除していったん姿を現す。

 といってもそのヘンナマリに対して俺が攻撃を加えても、すぐのその能力で避けられてしまうんだが。

 だけど、そこに一つのスキがある。


「ほらどうしたガキがぁ!」


 またもやヘンナマリが俺に超スピードで斬りかかる。

 どこからどう攻撃がくるかわからないので、俺は自分の身体をすべて法力で包んでそれをガードし、その直後に叫んだ。


「サクラ! 来い!」

「あ、はい」


 トテトテと俺のそばまでやってくるサクラ。

 急がなきゃいけない。


「いつも悪いな、法力もらうぞ」

「あ、はい、どうぞ」


 くいっと自分の顔を俺に向けるサクラに、俺はくちづけをした。

 溶岩流のようにサクラの法力が俺に流れ込む。

 今回は時間がなさすぎて胸を揉む余裕もないぜくそう。


「ははは、なぁにやってんのぉ? 粘膜直接接触法なんてやったら、副作用で戦えなくなるわよぉ?」


 ヘンナマリの声が聞こえる。

 悪いな、俺は度を越した変態なんで、副作用が起きないんだ。

 ……変態は関係ないか、俺は極めてノーマルな性癖なはずだし……。

 いやどうでもいい、そろそろ次の攻撃がくる。


「はん、あんた私の姿、見えてないでしょお?」

「かまわんさ。最強の攻撃ってのは点でも線でもねえ!」


 体中にみなぎる法力を感じつつ、俺は精神を集中する。

 すべてはヘンナマリが原因だ。

 こいつさえ反乱をおこさなきゃ、ミーシアやヴェルはこんなにも苦労しなくてすんだのだ。

 そして多分俺も。

 感情を爆発させろ。

 大爆発させるんだ。

 俺を中心に。

 そう。

 俺を起爆地点として、半径数十メートル、エントランス全てを俺の射程内に。

 扇じゃない。

 円だ。

 いや、円ですらない。

 球だ。

 俺を中心とした円球、の半径数十メートル。

 扇をつくるのよりも数倍のエネルギーがいるが、サクラのおかげでそれができそうだ。


「これで決着だァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


 俺の法力は面となってエントランス全体に広がり、そこにいた者全てを包み込んだ。

 もちろん、俺の背後から俺を襲おうとしたヘンナマリも、戦いを見守っていたヘンナマリの部下たちもその円に飲み込まれる。

 部下たちは声もなくその場に倒れ、そして、


「ぐあぉ!? ぐがぁぁぁ!」


 ヘンナマリの絶叫が響き渡る。

 攻撃的精神感応。

 俺の能力に触れたものは、俺が敵意を持たない相手じゃ無い限り、脳神経を焼き切られ、精神を破壊される。


「うごぁ……ぐごぁぁぁがぐぐぐぐぐぐ」


 意味不明な呻きとともに、ヘンナマリは床を転げまわる。

 俺はさきほどヘンナマリが打ち倒した近衛兵の死体から剣をとると、それを持ってヘンナマリに近づく。


「やめ……やめろぁぁ……すヴぇてが……あとしゅこしでじぇんぶが……わたしのものになるところだったのに……」

「安心しろ、殺しはしねえよ、…………今はな」


 俺はヘンナマリを足で踏みつける。

 ちらりとアリビーナに目を向ける、切断された足からの出血がひどいがシュシュの懸命の治療でまだなんとかもっているみたいだ、くそ、好き放題やられたぜ。

 俺は足を失ったアリビーナのもとへと駆け寄る。


「大丈夫か!?」

「はぁ、はぁ……さ、さすがエージ卿……ラータ将軍も認めた最強の異世界戦士……あの、あのヘンナマリをこんなにあっさり倒すなんて……」

「……出血が多いな……アリビーナ、もう喋らなくていい、ちょっと待ってろ。……キッサ!」

「はい!」

「法力を俺にくれ。シュシュ、俺の指を噛め」


 ヴェルを治療したときと同じ方法。

 ただしあのときはマゼグロン・クリスタルの力を利用したが、今回はなしだ。


「どうぞ!」


 キッサが俺に抱きつき、ちょっと背伸びをする。

 おれはそのキッサの薄い唇に、貪るようにキスをした。

 もう何度もしてるから慣れたもんだ。

 ピンク色をしたキッサの法力を受け取る。

 キッサのキスはいつでも甘いなあ。キッサって、実は身体がコンデンスミルクかなにかでできてるんじゃないか、なんてアホなことを考えてしまった。

 次にシュシュが俺の指に噛みつき、シュシュの能力を補佐するために、キッサがシュシュの耳に噛みつく。

 その状態で、床に倒れているアリビーナを抱き起こした。


「エージ卿……なにを……?」


 おそらくかなりの苦痛なのだろう、スラブ系の整った顔を歪めてアリビーナが言う。

 赤い髪が痛みからくる脂汗で額にはりつき、息も荒い。

 ただ、緑色の目で俺を不思議そうな目で見て、


「私はもう駄目です……しかし、エージ卿とともに戦えて光栄でした……あのヘンナマリを倒すとは……私も、少しはお役に立てたでしょうか……?」


 もう出血多量で死んでもおかしくないほど血を失っているアリビーナは、息も絶え絶えだ。

 俺はこう答えた。


「全然役にたってねえな、だからこれからもっと役に立てるようにこきつかってやるぜ」


 そういって、俺は彼女にくちづけをした。

 俺の法力がアリビーナに流れ込む。

 アリビーナの身体は白い光に包まれていった。

 足からの出血が見る間に止まっていく。

 マゼグロンクリスタルの力を使っているならば失った右足も復活したのかもしれないが、今は俺とキッサの法力だけが頼りだ、さすがにそこまでの治療はできないっぽい。

 だけど、傷口はすぐにふさがり、青ざめていたアリビーナの顔に血色が戻ってくる。

 なんとか一命はとりとめたようだ。

 ちくしょう、俺の力がたりなかったばかりに、アリビーナから片足を奪わせてしまった。 いろんな怒りがふつふつと身体の奥から沸いて出てくる。

 俺は床に倒れているヘンナマリに目をやる。

 あいつが、あいつのせいで、全部あいつがっ!

 ヘンナマリに近づいていく。


「あが、あがががぐぐぐ」


 床をのたうち回るヘンナマリ。

 俺はそのヘンナマリの、エメラルドグリーンの胸当てに手をかける。

 そのヒモを剣で切り取り、ビリビリとヘンナマリの服を引き裂いた。


「この国じゃあ……」


 俺は言う。


「戦争捕虜は裸にして辱めるんだったな」

「やめぐごがやめろろろろ」


 なおも抵抗しようとするヘンナマリ。

 瞬間、俺の頭の中でミーシアの顔が浮かんだ。

 あの西の塔。

 ヘンナマリの反乱がわかったとき。

 ミーシアは、自害しようとしたのだ。

 その足にすがりついて泣くヴェルのことも思い出す。

 そのあとのリューシアとの戦闘、俺の手を濡らしたリューシアの血。

 そして命を落としそうになったヴェル、マゼグロンクリスタルの力を使った粘膜直接接触法。

 全部全部、こいつの帝国にたいする裏切りによって巻き起こったことだ。


「くそ、てめえのせいで!」


 思わずヘンナマリの顎を思い切り拳で殴りつける。


「やめろ……やめ……」

「やめるわけねえだろうが!」


 ヘンナマリの青い髪の毛を鷲掴みにする。

 そしてそのはなっつらを殴る。

 鼻血がどぼどと噴き出した。

 俺はさらにヘンナマリの服をひきさきつづける。


「やめて……わだしがわるがっだ……やべて……」

「うるせえ、このカスが!」


 プルン、とヘンナマリのでかいバストが姿を表した。


「やめ……ぐぎぎ……やべてやべてだずげで」


 この期に及んで命乞いかよ。


「ふざけんな!」


 もう一度今度はほっぺたを殴る。


「がぼぉ……」


 その衝撃でヘンナマリの胸がぶるんと揺れる。

 次にその胸を爪を立てて鷲掴みにする。

 でけえなこいつのおっぱい。しかも弾力があって柔らかい。

 くそ、まじ腹立つ。

 こいつのせいで何度死にかけたことか。


「いだいいだいいだいいだいやめでやめでごめんなざい……」


 かまわずぎりぎりとヘンナマリの胸を握りしめる。

 プチっと皮膚の破れる音、にじみ出る血。

 こんなやつでも血の色は赤いんだな、と思ったらよりいっそう腹が立ってくる。

 こんどは下半身の服も引きちぎる。

 アンダーヘアまでも青いのかこいつ。

 胸はでかいくせに腰は細く、むかつくほどにいいスタイルしてやがる。

 ふと、ミーシアの柔らかいお腹を蹴ったことを思い出した。

 あんなことまでしなければならなかったのもこいつのせいだ。

 俺はヘンナマリの青い髪の毛をひっつかみ、無理矢理に立たせる。


「あぐぉだずげでずびばぜんでじだだだ」

「うるせえ、黙れ!」


 そしてその腹部に向けて思い切りキック。


「うぐぼぉぉぉっ」


 ヘンナマリの身体が吹っ飛び、人形のように地面に転がる。

 腹には俺の足跡がくっきりと残っていた。


「あぐぅ、あふぅ、おええええ」


 床を転げ回り、嘔吐し、胃液を吐き出すヘンナマリ。

 その彼女に近づき、俺はその顎に向かって思い切り回し蹴りを入れた。

 ガキョン! という音とともにヘンナマリは完全に気絶する。

 素っ裸に剥かれ、鼻血をだし、胸からも出血し、腹には内出血の痣。

 帝国に対する反乱を起こし――わずか十三歳の皇帝、ミーシアを殺そうとした主犯は今、俺の足元でみじめな裸をさらして転がっていた。

 ふう。

 少しは気がすんだぜ。

 ちょっとやりすぎたかもしれんけど、しかしこいつのせいで、俺もミーシアもヴェルもアリビーナも、みんなみんな死ぬところだったのだ。

 俺はあたりを見回す。

 もう、俺たちに敵対するものはここにはいなくなった。

 闘いは、終わったのだ。

 あとは、ラータの第三軍とヴェルの騎士団の連合軍が、ヘンナマリ派の第二軍とアウッティ騎士団との連合軍との決戦を制していればいいのだけど。


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