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第三章 隕石が産まれるの
45 麻袋
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ミーシアは一瞬、キョトンとした顔をした後、すぐに視線をヴェルに戻し、ゆっくりと首を横に振った。耳のマゼグロンクリスタルと一緒に黒々としたおかっぱの髪の毛も揺れる。
少女は自分の気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸をし、
「あなたを蘇生させるのに、五年の歳月を費やしてこのクリスタルに法力をこめました。その力を解放し、あなたはここにいるのです。このクリスタルにもう法力は残っていないでしょう」
ミーシアの声は、泣きすぎたせいなのか少しガラガラしていた。
「しかし、陛下、マゼグロンクリスタルは法力を増幅させるはずです。蘇生と治療では必要な法力の量は違うはずです」
「……確かにそうです。ですが、長い年月をかけて修行を積んだ宮廷法術士がやっとのことでコントロールする国家の秘宝……。それをここにいる誰がどう使うのですか……? 治癒の神、エルプミィの加護を受けているとかいう、そこの妹の方の奴隷? 無理です、絶対に無理です。コントロールを失って絶命するのが目に見えてます。飛竜や我が帝国の将軍、逆賊リューシアを打ち倒したあなたですか? あなたならある程度のコントロールはできるかもしれません、でも、エージ、あなたは治療の法術なんて使えないでしょう? 第一、その前にまずは少しでもこのクリスタルに法力を蓄積させなければなりません。あなたもそこの奴隷も、先ほどの闘いで法力を使い果たしているはずです」
「じゃ、じゃあ……じゃあヘルッタさん、あなたは?」
このおばさんはさっき、法術障壁のようなものを展開していた。つまり法術を使えるはずだ。
だがヘルッタも首を横にふる。
「もともと私はそこまでの法力を持ってないのです。申し訳ございません……」
キッサが補足するように付け加える。
「エージ様、戦闘に使えるほどの法力を持っている人間はそもそもそこまで多くはないのです。ましてやその聖石に法力をこめられるほどの人間なんて、素養を持ち、訓練を積んだ者でないと」
こんなことを話している間にも、ヴェルの呼吸はだんだんと細くなっていく。
ミーシアは震える唇で、
「タナカ・エージ……。あなたのヴェルに対する思いはわかりました……。ありがたいと思います……。私も、ヴェルをファラスイの御使いになんか渡したくない……。でも! もう、こんなの、駄目だよ……やめて……やめて……やめてよっ!! 期待させるようなこと、言わないでっ! やめてよっ! もっとつらくなるだけだよぉっ!!」
最後の方はもはや絶叫だった。
「やだよ、やだよぉ、ヴェルゥ……もうやめて……静かに、静かにヴェルを、送ってあげようよお……ヴェルだっていろいろあったけど今まで頑張ってきたんだからぁ、もうこれ以上頑張らせるのもかわいそうだよぉ……私なんかのためにぃ、馬鹿ぁ、ひっく、ヴェルゥ……ごめん、ヴェル、ありがとおヴェル、……ごめんなさい……ひ、ひ、ひぃ……ごめんなさいぃ……ひっ、ひっ、ひっく……」
慟哭が過ぎてミーシアまで倒れてしまいそうな雰囲気だ。
ヴェルの親友にして主君の皇帝陛下がそう言うのだ。俺もこれ以上は強く言えない。
皆で再び跪き、ヴェルを天界に送るための詠唱を始める。
悪い、ヴェル。
俺のことを生き返らせたのも、戦闘で俺たちの命を救ったのも、みんなヴェルだった。
でも俺にはヴェルに、何もしてやれない。
十代の女の子に命を救われて、その女の子の生命を救えない。
くそ、男になんて生まれてこなければよかった。悔しすぎる。
だが、無理なもんは無理か。
ちくしょう。
まずは法力の供給源がない。俺もキッサも力はほとんど使い果たしてる。
治療の法術を使えるのは九歳のシュシュだけ。でもシュシュではマゼグロンクリスタルをコントロールなんてできない。
俺ならコントロールできるかもしれないが、俺は治療の法術が使えない。
そしてなにより。
ここの場所はリューシアや飛竜にばれていたわけで、あいつらはそれを仲間にも伝えていた可能性が極めて高い。ヴェルが守ったミーシアの命を守り続けるためには、本当はすぐにでも移動を始めるべきなのだ。
俺かキッサの法力が回復するまで待つなんてこともできない。
それまでヴェルのマナがもつとも思えないしな。
打つ手、なしだ。
俺はがくっとうなだれた。
せめて、せめて法力を補給できる術さえあれば。
そして、俺が治療の法術が使えれば。
いや、無理なもんは無理なんだ、あきらめろ。
くそ。
ゲームじゃあるまし、MPを補給する方法なんかない……。
補給……。
……ん?
補給?
どこかで、それもついさっき、聞いたワードのような……。
補給……。
「あっ!!」
俺の突然の大声に、キッサがびくっとして、
「どうしました?」
と訊く。
疲れた表情のキッサ。
唇までカサカサだ。
あのときは潤いに満ちたぬるりとした感触だったのにな。
そう、俺はそれも思い出した。
甘噛み。
この十七歳の美少女に、むにゅむにゅのIカップを押し付けられつつ、俺は耳を甘噛みしてもらったんだった、人生最高の素晴らしい経験だった。
ところでそれはなんのためだった!?
そして、麻袋。
あれだけの力を持つ帝国の将軍の力を補充できるほどの。
まだ三つあって、俺の前でリューシアが二つ刺し貫いて。
もうひとつ、まだ転がってる……?
気がついたら俺は、ドアを蹴破るほどの勢いで寝室から駆け出していた。
少女は自分の気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸をし、
「あなたを蘇生させるのに、五年の歳月を費やしてこのクリスタルに法力をこめました。その力を解放し、あなたはここにいるのです。このクリスタルにもう法力は残っていないでしょう」
ミーシアの声は、泣きすぎたせいなのか少しガラガラしていた。
「しかし、陛下、マゼグロンクリスタルは法力を増幅させるはずです。蘇生と治療では必要な法力の量は違うはずです」
「……確かにそうです。ですが、長い年月をかけて修行を積んだ宮廷法術士がやっとのことでコントロールする国家の秘宝……。それをここにいる誰がどう使うのですか……? 治癒の神、エルプミィの加護を受けているとかいう、そこの妹の方の奴隷? 無理です、絶対に無理です。コントロールを失って絶命するのが目に見えてます。飛竜や我が帝国の将軍、逆賊リューシアを打ち倒したあなたですか? あなたならある程度のコントロールはできるかもしれません、でも、エージ、あなたは治療の法術なんて使えないでしょう? 第一、その前にまずは少しでもこのクリスタルに法力を蓄積させなければなりません。あなたもそこの奴隷も、先ほどの闘いで法力を使い果たしているはずです」
「じゃ、じゃあ……じゃあヘルッタさん、あなたは?」
このおばさんはさっき、法術障壁のようなものを展開していた。つまり法術を使えるはずだ。
だがヘルッタも首を横にふる。
「もともと私はそこまでの法力を持ってないのです。申し訳ございません……」
キッサが補足するように付け加える。
「エージ様、戦闘に使えるほどの法力を持っている人間はそもそもそこまで多くはないのです。ましてやその聖石に法力をこめられるほどの人間なんて、素養を持ち、訓練を積んだ者でないと」
こんなことを話している間にも、ヴェルの呼吸はだんだんと細くなっていく。
ミーシアは震える唇で、
「タナカ・エージ……。あなたのヴェルに対する思いはわかりました……。ありがたいと思います……。私も、ヴェルをファラスイの御使いになんか渡したくない……。でも! もう、こんなの、駄目だよ……やめて……やめて……やめてよっ!! 期待させるようなこと、言わないでっ! やめてよっ! もっとつらくなるだけだよぉっ!!」
最後の方はもはや絶叫だった。
「やだよ、やだよぉ、ヴェルゥ……もうやめて……静かに、静かにヴェルを、送ってあげようよお……ヴェルだっていろいろあったけど今まで頑張ってきたんだからぁ、もうこれ以上頑張らせるのもかわいそうだよぉ……私なんかのためにぃ、馬鹿ぁ、ひっく、ヴェルゥ……ごめん、ヴェル、ありがとおヴェル、……ごめんなさい……ひ、ひ、ひぃ……ごめんなさいぃ……ひっ、ひっ、ひっく……」
慟哭が過ぎてミーシアまで倒れてしまいそうな雰囲気だ。
ヴェルの親友にして主君の皇帝陛下がそう言うのだ。俺もこれ以上は強く言えない。
皆で再び跪き、ヴェルを天界に送るための詠唱を始める。
悪い、ヴェル。
俺のことを生き返らせたのも、戦闘で俺たちの命を救ったのも、みんなヴェルだった。
でも俺にはヴェルに、何もしてやれない。
十代の女の子に命を救われて、その女の子の生命を救えない。
くそ、男になんて生まれてこなければよかった。悔しすぎる。
だが、無理なもんは無理か。
ちくしょう。
まずは法力の供給源がない。俺もキッサも力はほとんど使い果たしてる。
治療の法術を使えるのは九歳のシュシュだけ。でもシュシュではマゼグロンクリスタルをコントロールなんてできない。
俺ならコントロールできるかもしれないが、俺は治療の法術が使えない。
そしてなにより。
ここの場所はリューシアや飛竜にばれていたわけで、あいつらはそれを仲間にも伝えていた可能性が極めて高い。ヴェルが守ったミーシアの命を守り続けるためには、本当はすぐにでも移動を始めるべきなのだ。
俺かキッサの法力が回復するまで待つなんてこともできない。
それまでヴェルのマナがもつとも思えないしな。
打つ手、なしだ。
俺はがくっとうなだれた。
せめて、せめて法力を補給できる術さえあれば。
そして、俺が治療の法術が使えれば。
いや、無理なもんは無理なんだ、あきらめろ。
くそ。
ゲームじゃあるまし、MPを補給する方法なんかない……。
補給……。
……ん?
補給?
どこかで、それもついさっき、聞いたワードのような……。
補給……。
「あっ!!」
俺の突然の大声に、キッサがびくっとして、
「どうしました?」
と訊く。
疲れた表情のキッサ。
唇までカサカサだ。
あのときは潤いに満ちたぬるりとした感触だったのにな。
そう、俺はそれも思い出した。
甘噛み。
この十七歳の美少女に、むにゅむにゅのIカップを押し付けられつつ、俺は耳を甘噛みしてもらったんだった、人生最高の素晴らしい経験だった。
ところでそれはなんのためだった!?
そして、麻袋。
あれだけの力を持つ帝国の将軍の力を補充できるほどの。
まだ三つあって、俺の前でリューシアが二つ刺し貫いて。
もうひとつ、まだ転がってる……?
気がついたら俺は、ドアを蹴破るほどの勢いで寝室から駆け出していた。
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