上 下
95 / 109

第95話 虹は真円

しおりを挟む
 両開きの大きなドアをゆっくりと開ける。
 そこはバカでかい玄室となっていた。
 広さで言ったら200メートル×200メートルはあるだろうか。
 天井の高さは十メートルくらいか。
 床も壁も天井も、大理石のように白くて光沢のある石材で作られている。
 どういう仕組みなのか、その石材はみずからほのかに光を放っている。

 荘厳な雰囲気を感じた。
 SSS級ダンジョン。
 亀貝ダンジョン。
 前人未到の最深部だ。
 俺たちはついに、ここまでたどり着いたのだ。

 そして。

 そこには、巨大なドラゴンがいた。
 全長二十メートルはあるだろうか。
 まさにダイヤモンドのようにきらめく身体、青い瞳は静かに俺たちを見つめている。
 見つめている、のだろうか?
 だってダイヤモンドドラゴンの身体は真っ二つに割れて、もはやどう見ても生きてはいないように見えるからだ。
 ダイヤモンドドラゴンの目には命の輝きはない。
 ……死んでいる。
 俺たちが『エンカウントするだけで満足』と言っていたダイヤモンドドラゴンが、目の前で死体となって横たわっているのだ。
 そしてずっと向こうには、青く光って渦巻く直径二メートルほどの光の塊が見えた。

「あれが、テレポーターポータルだ」

 アニエスさんが言った。

「あれに触れれば、このダンジョンの上層階にテレポートする」

 そう、このダンジョンのラスボス、ダイヤモンドドラゴンが死んでいる以上、テレポーターポータルが開くのは当然といえば当然だった。
 それがこの世のダンジョンというものの仕組みだからだ。
 
 さきほどアンジェラ・ナルディに依頼されたことなど忘れてあれに飛び込んでしまえばいい。
 俺たちの目的はダンジョンを潰すことでもましてや救うことでもない。
 ただこのダンジョンから脱出することだからだ。

「まーでも正直、ダイヤモンドドラゴンが死んでるってさー、私たちにとってはバッドニュースなんだよねー」

 ローラがのんびりと言う。

「どゆこと? ラッキーじゃん、あのポータルに飛び込んで帰ろうよ!」

 紗哩シャーリーの言葉に、みっしーが答える。

「うん、そうしたいよね。でも、あのダイヤモンドドラゴンは明らかに殺されている。ってことは、ここにはダイヤモンドドラゴンより強いなにかがいるってことなんだよね」

 その通りで、そしてそれは俺たちはさきほどアンジェラナルディに聞いて知っていたことだ。
 いやまじでなんだっけ、elastic force? エラスチックフォースかな? そいつに出会わずにあのポータルにたどり着ければ俺たちはそれでいいんだけど。
 アンジェラにもらったヤスツナとかいう刀は返してもいいからさ。
 しかしまあ、そういうわけにもいかんよな。
 扉を開ける前に、さらに三千万円ずつのマネーインジェクションをパーティ全員に打っている。

 俺たちはお互いに適切な距離を保ちながらゆっくりと前進していく。
 大理石の床を歩く俺たちの足音が響く。
 ちなみにアニエスさんとローラはまったく音を出さずに歩いている。 
 アニエスさんははだしだからというのもあるけど、やはり熟練の探索者というのはすごいな。
 念のため、ダイヤモンドドラゴンの死骸は大きく迂回していくことにする。
 突然死体が動きだしたりすることもありえるからなあ。
 すでに俺たちはドラゴンゾンビとも戦っているから、慎重にならざるを得ない。
 
 テレポーターポータルまであと数十メートル、というところで。

 俺たちの目の前がまばゆい光で包まれた。
 思わず目を細める。
 めちゃくちゃ明るいのに熱を感じない光。
 俺たちの後ろに長く影が伸びる。
 そしてついに、そいつは現れた。

 青く短い髪の、少年だった。
 十二歳くらいの男の子に見える。
 顔立ちはぞくっとするほど整っていて、白い。
 彼は古代ギリシアの彫刻のように右肩を出した布を身に着けている。
 そして。
 彼は中に浮いていた。
 その背中から、あまりにも、あまりにも白すぎて目にまぶしく感じるほどの美しい翼が四枚、生えていてゆっくりとはばたいていた。
 その翼は少年の身体の大きさからするとあまりに巨大に思えた。
 翼を伸ばせば端から端までで5~6メートルはありそうだ。
 さらに、その真っ白な翼の羽の間からは、無数の目玉がある。
 集合体恐怖症の人がみたらそれだけで失神しそうな数の目玉が、白い羽に隠れるようにしてこちらをギョロギョロと見ているのだ。

「やあ、こんにちは」

 少年が言った。
 彼の瞳は淵が赤く、真ん中が青い。いくつにも重なる円が赤から青へと至る段階的なグラデーションが描く、神秘的な瞳をしていた。
 飛行機から見た虹は真円をしているというが、それに似ていると思った。

「せっかくだから、名乗ろうか。ボクの名前はアウラという。いや、違うな、モンスターにはelastic forceと呼ばれ、人類にはアウラと呼ばれることが多かった。だから、アウラでいいよ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ダンジョンの最深部でパーティ追放されてボコられて放置された結果、ダンジョンのラスボスの女の子が俺のご先祖様だったから後継者に指名された件

羽黒 楓
ファンタジー
アンデッドダンジョンの最深部で、パーティメンバーに追放宣言されリンチされ放置された俺は、そのまま死ぬはずだった。だが、そこに現れたダンジョンのラスボスは美少女な上に俺のご先祖様だった! そろそろダンジョンマスターも飽きていたご先祖様は、俺を後継者として指名した。 そんなわけで今や俺がここのダンジョンマスターだ。 おや。またあいつらがこのダンジョンにやってきたようだぞ。 タブレットもあるし、全世界配信もできるな。 クラスメートたちも掲示板で実況盛り上がるだろうなあ。 あいつら俺というタンク役を失って苦戦しているって? いまさら後悔してももう遅い。 今や俺がラスボスだ。 さて、どんな風に料理してやろうか? ※きわめて残酷な描写がありますのでご注意ください

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛
ファンタジー
~キャッチコピー~ クソ憎っくき糞ゴブリンのくそスキル【性欲常態化】! なんとかならん? は? スライムのコレも糞だったかよ!? ってお話……。 ~あらすじ~ 『いいかい? アンタには【スキル】が無いから、五歳で出ていってもらうよ』 生まれてすぐに捨てられた少年は、五歳で孤児院を追い出されて路上で物乞いをせざるをえなかった。 少年は、親からも孤児院からも名前を付けてもらえなかった。 その後、裏組織に引き込まれ粗末な寝床と僅かな食べ物を与えられるが、組織の奴隷のような生活を送ることになる。 そこで出会ったのは、少年よりも年下の男の子マリク。マリクは少年の世界に“色”を付けてくれた。そして、名前も『レオ』と名付けてくれた。 『銅貨やスキル、お恵みください』 レオとマリクはスキルの無いもの同士、兄弟のように助け合って、これまでと同じように道端で物乞いをさせられたり、組織の仕事の後始末もさせられたりの地獄のような生活を耐え抜く。 そんな中、とある出来事によって、マリクの過去と秘密が明らかになる。 レオはそんなマリクのことを何が何でも守ると誓うが、大きな事件が二人を襲うことに。 マリクが組織のボスの手に掛かりそうになったのだ。 なんとしてでもマリクを守りたいレオは、ボスやその手下どもにやられてしまうが、禁忌とされる行為によってその場を切り抜け、ボスを倒してマリクを救った。 魔物のスキルを取り込んだのだった! そして組織を壊滅させたレオは、マリクを連れて町に行き、冒険者になることにする。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】 採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。 ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。 最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。 ――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。 おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ! しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!? モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――! ※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...