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第95話 虹は真円
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両開きの大きなドアをゆっくりと開ける。
そこはバカでかい玄室となっていた。
広さで言ったら200メートル×200メートルはあるだろうか。
天井の高さは十メートルくらいか。
床も壁も天井も、大理石のように白くて光沢のある石材で作られている。
どういう仕組みなのか、その石材はみずからほのかに光を放っている。
荘厳な雰囲気を感じた。
SSS級ダンジョン。
亀貝ダンジョン。
前人未到の最深部だ。
俺たちはついに、ここまでたどり着いたのだ。
そして。
そこには、巨大なドラゴンがいた。
全長二十メートルはあるだろうか。
まさにダイヤモンドのようにきらめく身体、青い瞳は静かに俺たちを見つめている。
見つめている、のだろうか?
だってダイヤモンドドラゴンの身体は真っ二つに割れて、もはやどう見ても生きてはいないように見えるからだ。
ダイヤモンドドラゴンの目には命の輝きはない。
……死んでいる。
俺たちが『エンカウントするだけで満足』と言っていたダイヤモンドドラゴンが、目の前で死体となって横たわっているのだ。
そしてずっと向こうには、青く光って渦巻く直径二メートルほどの光の塊が見えた。
「あれが、テレポーターポータルだ」
アニエスさんが言った。
「あれに触れれば、このダンジョンの上層階にテレポートする」
そう、このダンジョンのラスボス、ダイヤモンドドラゴンが死んでいる以上、テレポーターポータルが開くのは当然といえば当然だった。
それがこの世のダンジョンというものの仕組みだからだ。
さきほどアンジェラ・ナルディに依頼されたことなど忘れてあれに飛び込んでしまえばいい。
俺たちの目的はダンジョンを潰すことでもましてや救うことでもない。
ただこのダンジョンから脱出することだからだ。
「まーでも正直、ダイヤモンドドラゴンが死んでるってさー、私たちにとってはバッドニュースなんだよねー」
ローラがのんびりと言う。
「どゆこと? ラッキーじゃん、あのポータルに飛び込んで帰ろうよ!」
紗哩の言葉に、みっしーが答える。
「うん、そうしたいよね。でも、あのダイヤモンドドラゴンは明らかに殺されている。ってことは、ここにはダイヤモンドドラゴンより強いなにかがいるってことなんだよね」
その通りで、そしてそれは俺たちはさきほどアンジェラナルディに聞いて知っていたことだ。
いやまじでなんだっけ、elastic force? エラスチックフォースかな? そいつに出会わずにあのポータルにたどり着ければ俺たちはそれでいいんだけど。
アンジェラにもらったヤスツナとかいう刀は返してもいいからさ。
しかしまあ、そういうわけにもいかんよな。
扉を開ける前に、さらに三千万円ずつのマネーインジェクションをパーティ全員に打っている。
俺たちはお互いに適切な距離を保ちながらゆっくりと前進していく。
大理石の床を歩く俺たちの足音が響く。
ちなみにアニエスさんとローラはまったく音を出さずに歩いている。
アニエスさんははだしだからというのもあるけど、やはり熟練の探索者というのはすごいな。
念のため、ダイヤモンドドラゴンの死骸は大きく迂回していくことにする。
突然死体が動きだしたりすることもありえるからなあ。
すでに俺たちはドラゴンゾンビとも戦っているから、慎重にならざるを得ない。
テレポーターポータルまであと数十メートル、というところで。
俺たちの目の前がまばゆい光で包まれた。
思わず目を細める。
めちゃくちゃ明るいのに熱を感じない光。
俺たちの後ろに長く影が伸びる。
そしてついに、そいつは現れた。
青く短い髪の、少年だった。
十二歳くらいの男の子に見える。
顔立ちはぞくっとするほど整っていて、白い。
彼は古代ギリシアの彫刻のように右肩を出した布を身に着けている。
そして。
彼は中に浮いていた。
その背中から、あまりにも、あまりにも白すぎて目にまぶしく感じるほどの美しい翼が四枚、生えていてゆっくりとはばたいていた。
その翼は少年の身体の大きさからするとあまりに巨大に思えた。
翼を伸ばせば端から端までで5~6メートルはありそうだ。
さらに、その真っ白な翼の羽の間からは、無数の目玉がある。
集合体恐怖症の人がみたらそれだけで失神しそうな数の目玉が、白い羽に隠れるようにしてこちらをギョロギョロと見ているのだ。
「やあ、こんにちは」
少年が言った。
彼の瞳は淵が赤く、真ん中が青い。いくつにも重なる円が赤から青へと至る段階的なグラデーションが描く、神秘的な瞳をしていた。
飛行機から見た虹は真円をしているというが、それに似ていると思った。
「せっかくだから、名乗ろうか。ボクの名前はアウラという。いや、違うな、モンスターにはelastic forceと呼ばれ、人類にはアウラと呼ばれることが多かった。だから、アウラでいいよ」
そこはバカでかい玄室となっていた。
広さで言ったら200メートル×200メートルはあるだろうか。
天井の高さは十メートルくらいか。
床も壁も天井も、大理石のように白くて光沢のある石材で作られている。
どういう仕組みなのか、その石材はみずからほのかに光を放っている。
荘厳な雰囲気を感じた。
SSS級ダンジョン。
亀貝ダンジョン。
前人未到の最深部だ。
俺たちはついに、ここまでたどり着いたのだ。
そして。
そこには、巨大なドラゴンがいた。
全長二十メートルはあるだろうか。
まさにダイヤモンドのようにきらめく身体、青い瞳は静かに俺たちを見つめている。
見つめている、のだろうか?
だってダイヤモンドドラゴンの身体は真っ二つに割れて、もはやどう見ても生きてはいないように見えるからだ。
ダイヤモンドドラゴンの目には命の輝きはない。
……死んでいる。
俺たちが『エンカウントするだけで満足』と言っていたダイヤモンドドラゴンが、目の前で死体となって横たわっているのだ。
そしてずっと向こうには、青く光って渦巻く直径二メートルほどの光の塊が見えた。
「あれが、テレポーターポータルだ」
アニエスさんが言った。
「あれに触れれば、このダンジョンの上層階にテレポートする」
そう、このダンジョンのラスボス、ダイヤモンドドラゴンが死んでいる以上、テレポーターポータルが開くのは当然といえば当然だった。
それがこの世のダンジョンというものの仕組みだからだ。
さきほどアンジェラ・ナルディに依頼されたことなど忘れてあれに飛び込んでしまえばいい。
俺たちの目的はダンジョンを潰すことでもましてや救うことでもない。
ただこのダンジョンから脱出することだからだ。
「まーでも正直、ダイヤモンドドラゴンが死んでるってさー、私たちにとってはバッドニュースなんだよねー」
ローラがのんびりと言う。
「どゆこと? ラッキーじゃん、あのポータルに飛び込んで帰ろうよ!」
紗哩の言葉に、みっしーが答える。
「うん、そうしたいよね。でも、あのダイヤモンドドラゴンは明らかに殺されている。ってことは、ここにはダイヤモンドドラゴンより強いなにかがいるってことなんだよね」
その通りで、そしてそれは俺たちはさきほどアンジェラナルディに聞いて知っていたことだ。
いやまじでなんだっけ、elastic force? エラスチックフォースかな? そいつに出会わずにあのポータルにたどり着ければ俺たちはそれでいいんだけど。
アンジェラにもらったヤスツナとかいう刀は返してもいいからさ。
しかしまあ、そういうわけにもいかんよな。
扉を開ける前に、さらに三千万円ずつのマネーインジェクションをパーティ全員に打っている。
俺たちはお互いに適切な距離を保ちながらゆっくりと前進していく。
大理石の床を歩く俺たちの足音が響く。
ちなみにアニエスさんとローラはまったく音を出さずに歩いている。
アニエスさんははだしだからというのもあるけど、やはり熟練の探索者というのはすごいな。
念のため、ダイヤモンドドラゴンの死骸は大きく迂回していくことにする。
突然死体が動きだしたりすることもありえるからなあ。
すでに俺たちはドラゴンゾンビとも戦っているから、慎重にならざるを得ない。
テレポーターポータルまであと数十メートル、というところで。
俺たちの目の前がまばゆい光で包まれた。
思わず目を細める。
めちゃくちゃ明るいのに熱を感じない光。
俺たちの後ろに長く影が伸びる。
そしてついに、そいつは現れた。
青く短い髪の、少年だった。
十二歳くらいの男の子に見える。
顔立ちはぞくっとするほど整っていて、白い。
彼は古代ギリシアの彫刻のように右肩を出した布を身に着けている。
そして。
彼は中に浮いていた。
その背中から、あまりにも、あまりにも白すぎて目にまぶしく感じるほどの美しい翼が四枚、生えていてゆっくりとはばたいていた。
その翼は少年の身体の大きさからするとあまりに巨大に思えた。
翼を伸ばせば端から端までで5~6メートルはありそうだ。
さらに、その真っ白な翼の羽の間からは、無数の目玉がある。
集合体恐怖症の人がみたらそれだけで失神しそうな数の目玉が、白い羽に隠れるようにしてこちらをギョロギョロと見ているのだ。
「やあ、こんにちは」
少年が言った。
彼の瞳は淵が赤く、真ん中が青い。いくつにも重なる円が赤から青へと至る段階的なグラデーションが描く、神秘的な瞳をしていた。
飛行機から見た虹は真円をしているというが、それに似ていると思った。
「せっかくだから、名乗ろうか。ボクの名前はアウラという。いや、違うな、モンスターにはelastic forceと呼ばれ、人類にはアウラと呼ばれることが多かった。だから、アウラでいいよ」
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