上 下
58 / 109

第58話 星も月も太陽も!

しおりを挟む
 ベビーバジリスクたちは石化したアニエスさんにはもう興味をなくしたらしく、俺の方を一斉に見つめてくる。
 俺はすぐに目を閉じた。

「インジェクターオン! セット、300万円!」

 注射器の針を、なるべく痛くなるように乱暴に自分の腕に刺した。
 ぶっとい注射針が肉をえぐって痛みが走る。
 くそ!
 くそが!
 俺を助けるために!
 アニエスさんが石化してしまった!

 今俺の目の前には十数匹の生まれたばかりのバジリスクが散らばっている。
 もう目を開けることはできない。
 少し先には巨大な親のバジリスク。
 あのポイズン・ブレスの直撃を受けたらどうなるかわからない。
 アニエスさんは自分ごと魔法で焼け、といった。
 たしかに、300万円分も追加でインジェクションした今の俺なら、魔法攻撃でベビーバジリスクたちを一掃できるかもしれない。

 けど。

 石化したアニエスさんの身体がどの程度の魔法に耐えられるだろうか?
 普通の石像程度?
 それなら魔法で焼けこげて崩れてしまうかもしれん。
 間違ってもアニエスさんの身体を損傷させることはできない、もしかしたら石化した身体はめちゃくちゃ丈夫で俺の魔法程度ではびくともしないかも……?

 俺の後方には今、三人の女の子がいる。
 みっしー、紗哩シャーリー、そしてローラさん。
 いまここで攻撃魔法を打てば、もしかしたらアニエスさんの身体は崩れてしまうかもしれない。
 だけど、三人の女の子は助けられる可能性が高くなる。
 ここでなにもしなければ、無数のベビーバジリスク、そしてバジリスクの攻撃で俺すらもやられてしまうかも。

 そしたら全滅だ。

 ……賭けに、出るべきか?
 何かを賭けなければ、全員を救うことはできない。
 だけどさ、そのベットするコインが俺自身だというならいくらでも賭けてやるが、今はそのコインはアニエスさんの命なのだ。
 クソ、判断がつかない。

「雷鳴よとどろけ! いかづちの力を解放せよ! サンダー!」

 みっしーの声が聞こえる、こっちに向けて撃ったのではなさそうだ、なにと闘っている?

「クキャー!」

 聞き覚えのある鳴き声、これはコカトリスか。
 そうか、アニエスさんは俺を救うためにコカトリスとの戦闘を放棄してこっちにきていたってことか。
 なんか感覚麻痺してるけど、コカトリスだってS級のモンスターなんだぞ。
 それをみっしーと紗哩シャーリーだけで倒せるものか?
 まずは向こうに加勢すべきだろうか?
 迷いと逡巡の中で、俺は身体が硬直する。

 脳みそをぶん回せ、考えろ!
 いや考えるな、もうのんびりしている時間はない、すぐに行動をしろ!

 コカトリス。
 S級モンスター。
 アニエスさんなしで?
 いや大丈夫なはず、さっき俺はにマネーインジェクションした。
 だから。
 俺は叫んだ。

紗哩シャーリーぃぃぃ!!! 風呂敷かぶってこっちにダッシュしてこい!」
「うん!」

 俺のいうことを疑いもせずに聞いて、そのまま実行する紗哩シャーリー
 俺のそばにくるまで、多数のベビーバジリスクが紗哩シャーリーにかみついてきているみたいだけど、俺の血を分けた妹は肉を食いちぎられながらも俺のそばまでやってきて、目を閉じている俺の腕をつかんだ。
 偉いぞ、わが妹よ。

「来たよ、お兄ちゃん!」
「よし、セット、200万円!」

 そのまま紗哩シャーリーに風呂敷の上から注射器をぶち込む。
 向こうの方で、

「せいやぁ!!」

 という聞きなれない女性の声が聞こえた。

 コカトリスの、

「ぐぎゃあっっ!」

 という断末魔の声が聞こえる。
 そう、ローラさんだ。
 彼女だってSS級の武闘家といっていた、アニエスさんほどではないにしろ、戦闘力は素で強いはずだった。
 その上、治療のためとはいえ、俺のマネーインジェクションも受けている。
 きっとコカトリスくらいは倒してくれるだろうと予想したのだ、思った通りだ。

「お兄ちゃん、私どうしたらいい?」

 紗哩シャーリーが焦った声で聞いてくる。
 これは前にも言ったが。
 攻撃魔法を使うみっしーは敵の視力を奪うのに閃光の魔法を使うが、治癒魔法を使う紗哩シャーリーは逆に光を遮断する魔法で敵の視力にデバフをかけるのだ。
 そういう魔法体系になっている。

 つまり。

 200万円分のマネーインジェクションを受けた、紗哩シャーリーのデバフ魔法。
 はっきりいってSSS級モンスターに普通はそんなのは効かない。
 だが、今は俺のスキルによって紗哩シャーリーのデバフ魔法はSSS級モンスターの魔法耐性をも貫通する。
 それはアンジェラ戦で証明済みだった。

紗哩シャーリー、暗闇の魔法を使ってくれ! 最大出力で、できる限り広範囲に!」
「うん、わかった! 星も月も太陽も! すべての光はあたしの閉じる暗幕で静かに眠る! 光よ、閉じなさい! 暗黒の黒がお前たちの視界を支配する! 暗闇ダークネス!!!!」

 そう、視線を合わせなければいいのであれば、相手の視力を奪えばいいのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完)お姉様の婚約者をもらいましたーだって、彼の家族が私を選ぶのですものぉ

青空一夏
恋愛
前編・後編のショートショート。こちら、ゆるふわ設定の気分転換作品です。姉妹対決のざまぁで、ありがちな設定です。 妹が姉の彼氏を奪い取る。結果は・・・・・・。

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

え?そちらが有責ですよね?

碧桜 汐香
恋愛
婚約者に浮気をされているはずなのに、声の大きい婚約者たちが真実の愛だともてはやされ、罵倒される日々を送る公爵令嬢。 卒業パーティーで全てを明らかにしてやります!

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

処理中です...