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第57話 魔法で焼け!
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俺は地面を無様に転がる。
なんだ、なにが起こった!?
ああそうか、尻尾か。
バジリスクの尻尾が俺の死角から襲ってきたのだ。
間違っても目が合わないように、うつむき加減で戦っていたから気づけなかったのだ。
くそ、敵をまともに見ながら戦うことができない、っていうこのハンデはきついな。
SSS級モンスター相手にはあまりにもきつすぎる。
俺は立ち上がって刀を握りなおした。
「グハァァァァ……」
バジリスクが咆哮をあげる。
ちくしょう、なにがSSS級だ。
それがどうした。
俺の身体にはいまや数百万円分のパワーが注入されている。
地獄の沙汰も金次第、ダンジョンの攻略も金次第だ。
俺は刀を振りかぶり、ダッシュしようとした。
うつむき加減でだ。
地面を見ながらならば、バジリスクと目を合わせなくてすむからな。
だってそうだろ、バジリスクなんて巨大なモンスターなんだから、顔さえあげなきゃいい。
そう思っていたのだ。
バジリスクが口を大きく開け、“何か”を吐き出した。
その“何か“が俺が見つめている地面に転がってくる。
なんだこれ、野球ボールか?
いや違う、こんなところにはボールなんてない、これは……。
全人類、今70億人か、80億人か。
その中で選ばれたごく少数の人間だけがたちうちできる存在、それがSSS級のモンスター。
そんなモンスターの生態を人類がどれだけ知っているのか?
答えは、誰も何も知らない、だ。
バジリスクはコカトリスとつがい?
コカトリスは卵を産み、それを抱卵して温める?
本当に?
卵を温める方法はそれだけ?
たとえば、雄が卵を温めたり守ったりする生物というのはいくらでも存在する。
雄が卵を温めるのはペンギンとか有名だし、雄が卵を背中に背負って守る昆虫なんかもいる。
さらにいえば。
シクリッドという東アフリカの魚は口の中で卵を孵化・保育する習性を持つ。
そして、バジリスク。
このモンスターもそういった習性をもつ一種だった。
バジリスクは、自らの口の中に卵を入れて守っていたのだ。
それも、孵化直前まで。
そしてそれを、俺の目の前に吐き出したのだった。
野球ボールと同じくらいの大きさ。
固い殻のそれは、ころころと俺の目の前の地面を転がってきて、バリン! と割れた。
やばいやばい、心ではやばいとわかっているのに、ついついそれを目で追ってしまう。
殻を中から破って生まれてきたそれは、全長十センチほどの小さな、しかし間違いなくSSS級モンスターであるバジリスク。
生まれたばかりの赤ちゃんバジリスクはそのつぶらなかわいらしい瞳で、俺を見上げた。
ああ、やばい。
これは、やばい。
俺は、そのモンスターの赤ちゃんと目が合――。
何かが、俺の身体をまたも吹っ飛ばした。
何が何だかわからない、さっきよりも強い衝撃。
俺は壁まで吹っ飛ばされて全身を打ち付けた。
「ぐはぁっ」
口から血が噴き出る、俺を吹っ飛ばしたのは、小さな人影。
アニエスさんだった。
「いつものお返しだ、優しくふっとばしてやった」
背中でそう語るアニエスさん。
マントに覆われたちっちゃな背中がすごく頼もしく見えた。
なるほどね、すっげえ優しかったぜ、血を吐く程な。
しかしおかげで助かった、あやうくバジリスクと目が合うところだったぜ、アニエスさんが赤ちゃんバジリスクをやっつけている間に俺も親の方へと駆けだそうとして――。
一つだけなわけがなかった。
なにがって?
卵が、だ。
巨大な親のバジリスクはアニエスさんに向かって、その口から数十個もの卵を吐き出したのだ。
一流のニンジャとしての当然の反応、反射的に短刀を振るって卵を割っていくアニエスさん、だが中から生まれてくるのは目が合っただけでその相手を石化してしまうバジリスク。
割られなかった卵も空中で次々と孵化していく。
小さなバジリスクがシャワーのようにアニエスさんの身体にふりそそぐ。
この時アニエスさんは瞬時に目を閉じればよかったのかもしれない。
だけど。
とっさの出来事に一流探索者として反射的に行う行動。
『敵の動きをよく見る』
探索者としての基礎の基礎。
数十匹の卵が孵化しながら自分にふりそそいでくる、なんてあまりにも予想外の出来事を前に。
考えずに行う、当然な反応。
アニエスさんはただそれを行っただけだ。
だけど、それが致命的な結果を引き起こす。
全長十数センチの小さなバジリスク、そいつと目があった瞬間に、
「sh*t」
アニエスさんは舌打ちして言った。
人類最良にして最強のニンジャと呼ばれた小柄な女性は、短刀を振るう体勢のまま動きが止まった。
真っ白だった肌は無機質な灰色へと変化していく。
そのしなやかな筋肉を持つ身体が足元からものの2,3秒で石と化していき、俺はそれを眺める以上のなにもできなかった。
アニエスさんの最後の言葉はこうだった。
「私ごと魔法で焼け!」
そして完全に石化したアニエスさんの身体が、ゴトンと床に倒れた。
なんだ、なにが起こった!?
ああそうか、尻尾か。
バジリスクの尻尾が俺の死角から襲ってきたのだ。
間違っても目が合わないように、うつむき加減で戦っていたから気づけなかったのだ。
くそ、敵をまともに見ながら戦うことができない、っていうこのハンデはきついな。
SSS級モンスター相手にはあまりにもきつすぎる。
俺は立ち上がって刀を握りなおした。
「グハァァァァ……」
バジリスクが咆哮をあげる。
ちくしょう、なにがSSS級だ。
それがどうした。
俺の身体にはいまや数百万円分のパワーが注入されている。
地獄の沙汰も金次第、ダンジョンの攻略も金次第だ。
俺は刀を振りかぶり、ダッシュしようとした。
うつむき加減でだ。
地面を見ながらならば、バジリスクと目を合わせなくてすむからな。
だってそうだろ、バジリスクなんて巨大なモンスターなんだから、顔さえあげなきゃいい。
そう思っていたのだ。
バジリスクが口を大きく開け、“何か”を吐き出した。
その“何か“が俺が見つめている地面に転がってくる。
なんだこれ、野球ボールか?
いや違う、こんなところにはボールなんてない、これは……。
全人類、今70億人か、80億人か。
その中で選ばれたごく少数の人間だけがたちうちできる存在、それがSSS級のモンスター。
そんなモンスターの生態を人類がどれだけ知っているのか?
答えは、誰も何も知らない、だ。
バジリスクはコカトリスとつがい?
コカトリスは卵を産み、それを抱卵して温める?
本当に?
卵を温める方法はそれだけ?
たとえば、雄が卵を温めたり守ったりする生物というのはいくらでも存在する。
雄が卵を温めるのはペンギンとか有名だし、雄が卵を背中に背負って守る昆虫なんかもいる。
さらにいえば。
シクリッドという東アフリカの魚は口の中で卵を孵化・保育する習性を持つ。
そして、バジリスク。
このモンスターもそういった習性をもつ一種だった。
バジリスクは、自らの口の中に卵を入れて守っていたのだ。
それも、孵化直前まで。
そしてそれを、俺の目の前に吐き出したのだった。
野球ボールと同じくらいの大きさ。
固い殻のそれは、ころころと俺の目の前の地面を転がってきて、バリン! と割れた。
やばいやばい、心ではやばいとわかっているのに、ついついそれを目で追ってしまう。
殻を中から破って生まれてきたそれは、全長十センチほどの小さな、しかし間違いなくSSS級モンスターであるバジリスク。
生まれたばかりの赤ちゃんバジリスクはそのつぶらなかわいらしい瞳で、俺を見上げた。
ああ、やばい。
これは、やばい。
俺は、そのモンスターの赤ちゃんと目が合――。
何かが、俺の身体をまたも吹っ飛ばした。
何が何だかわからない、さっきよりも強い衝撃。
俺は壁まで吹っ飛ばされて全身を打ち付けた。
「ぐはぁっ」
口から血が噴き出る、俺を吹っ飛ばしたのは、小さな人影。
アニエスさんだった。
「いつものお返しだ、優しくふっとばしてやった」
背中でそう語るアニエスさん。
マントに覆われたちっちゃな背中がすごく頼もしく見えた。
なるほどね、すっげえ優しかったぜ、血を吐く程な。
しかしおかげで助かった、あやうくバジリスクと目が合うところだったぜ、アニエスさんが赤ちゃんバジリスクをやっつけている間に俺も親の方へと駆けだそうとして――。
一つだけなわけがなかった。
なにがって?
卵が、だ。
巨大な親のバジリスクはアニエスさんに向かって、その口から数十個もの卵を吐き出したのだ。
一流のニンジャとしての当然の反応、反射的に短刀を振るって卵を割っていくアニエスさん、だが中から生まれてくるのは目が合っただけでその相手を石化してしまうバジリスク。
割られなかった卵も空中で次々と孵化していく。
小さなバジリスクがシャワーのようにアニエスさんの身体にふりそそぐ。
この時アニエスさんは瞬時に目を閉じればよかったのかもしれない。
だけど。
とっさの出来事に一流探索者として反射的に行う行動。
『敵の動きをよく見る』
探索者としての基礎の基礎。
数十匹の卵が孵化しながら自分にふりそそいでくる、なんてあまりにも予想外の出来事を前に。
考えずに行う、当然な反応。
アニエスさんはただそれを行っただけだ。
だけど、それが致命的な結果を引き起こす。
全長十数センチの小さなバジリスク、そいつと目があった瞬間に、
「sh*t」
アニエスさんは舌打ちして言った。
人類最良にして最強のニンジャと呼ばれた小柄な女性は、短刀を振るう体勢のまま動きが止まった。
真っ白だった肌は無機質な灰色へと変化していく。
そのしなやかな筋肉を持つ身体が足元からものの2,3秒で石と化していき、俺はそれを眺める以上のなにもできなかった。
アニエスさんの最後の言葉はこうだった。
「私ごと魔法で焼け!」
そして完全に石化したアニエスさんの身体が、ゴトンと床に倒れた。
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