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第7話 レアスキル【マネーインジェクション】

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「さすが450万円だよね、私でもこいつらをやっつけられたんだよ。足一本持っていかれちゃったけど……。この杖で傷口焼いてさ、そのあと持ってた一本十二万円の不可視化ポーションを飲んだの。ふふふ、飲んだけど助けに来た人にも私の姿見えないじゃん! って気付いてさー、ちょっとあせっちゃったよ」
「まて、まだそんな喋るな、今妹が治癒魔法かけるから」

 とりあえずの応急処置として魔法の回復ポーションを一本飲ませたら、この美しい少女――針山はりやま美詩歌みしかは一気にしゃべり始めた。
 だけど、まだそんな余裕のある状態じゃない。
 片足一本持っていかれた時点で出血多量で死んでいてもおかしくないほどのダメージを負っているのだ。
 生きているの自体がまあまあの奇跡だ。

 だけど、ダンジョン内であれば紗哩シャーリーの治癒魔法で治療が行える。
 紗哩シャーリーはそこまで高位の治癒魔法を使えるわけじゃないから、完治とまではいかないかもしれんけど……。
 しかし、そんな俺たちをこのダンジョンは放っておいてはくれなかった。

「お兄ちゃん!」

 紗哩シャーリーの鋭い声が飛ぶ。
 彼女の指がさす方向を見ると、ダンジョンの暗闇の向こうからなにかがこちらへ近づいてきていた。

紗哩シャーリー、その子に治癒魔法をかけまくってくれ! MP全部使い切っていいから! 俺はこいつをやる!」

 トリケラトプスって知っているだろうか。
 大きな三本の角が特徴的な、カスモサウルス亜科に属する恐竜だ。
 そいつをさらに狂暴な顔つきにして火を吹かせたらこのモンスターの出来上がりだ。
 一般に、カスモフレイムと呼ばれている。
 そのモンスターが一頭、俺たちに向かって近づいてきていたのだ。

〈S級モンスターじゃん!〉
〈カスモフレイムだ〉
〈やべえ、この人C級なんだろ?〉
〈C級がS級モンスター絶対倒せない〉
〈がんばって!〉
〈頼む……なんとかしてくれ〉

 俺は紗哩シャーリーたちを守るように前にでる。
 そして叫んだ。

「セット! 大志銀行! 残高オープン!」

[フツウヨキン:124000円]

 もうこれしかなくなってるのか。
 預金が300万円越えてるときはA級だったんだけどなあ……。
 俺がシコシコダンジョン探索してアイテムゲットしてため込んだお金を!!
 妹の紗哩シャーリーの馬鹿が!
 FXに使い込んで追証くらいやがって!
 残高が30万円切ったらC級に降格してしまったのだ。

〈なんだこのスキル?〉
〈預金残高を公開するスキル?〉
〈いや違う、これ現金をエネルギーに変えるレアスキルだぞ〉

 さすがネット、知っている奴もいる。
 その通り、俺のスキルは“マネーインジェクション”と呼ばれるレアスキル。
 預金の現金残高を消費してマナにできるというものだ。
 さて俺はさらに叫ぶ。

「インジェクター、オン!」

 すると俺の右手の中にでっかい注射器が現れた。

〈おお? なんだこれ初めて見るスキルだぞ〉
〈そりゃそうだよ、これレアスキルだからな。俺も初めて見た〉

 俺は目の前のカスモフレイムを見る。
 S級モンスターか……。
 A級モンスターとかなら一万円でいいんだけど……。
 S級なら二倍はいるかな?

「セット、二万円!」

 すると注射器の中にエネルギーが充填され、同時に、

[フツウヨキン:104000円]

 銀行残高が減る。
 俺はその注射器のぶっとい針を自分の腕にぶっさした。
 そしてプランジャーを思い切り押し込み、俺の中へとエネルギーを注入する。

〈草 絵面がやばいな〉
〈えええ!? 残高をエネルギーに変えるってそういう方法かよ〉

 俺の身体が軽く発光する。
 よし、力がみなぎってきたぜ!

「インジェクターオフ!」

 これで注射器が消える。

 俺は腰に差していた刀をすらりと引き抜いた。

〈あ、こいつサムライ職なのか〉

 攻撃魔法もつかえる戦士、それをいっぱんにサムライと呼ぶ。ちなみに名付けたのは外国人だけど、なぜ魔法戦士がサムライなのかは謎だ。
 そして現代においてはサムライ職の人間は刀を使うのが一般的になっている。刀が先じゃなくて、名前が先だったのだ。サムライって名前だから刀を使おう、っていう。
 俺は刀を両手で持って、こちらをにらんでいるカスモフレイムに斬りかかった。

「おるぁあぁぁ!」

 だが。

「がふふふぅん!」

 俺の刀はカスモフレイムの角《つの》にあたると軽々と跳ね返された。カスモフレイムは、さらにその角で俺に向かって突進してくる。
 なんとかその角の攻撃を刀で受けたが、壁まで突き飛ばされてしまった。

「げふっ」

 生身なら大けがだけど、俺はマネーインジェクションのおかげでほとんど身体的ダメージはなかった。
 でも。

「いっっっっってええ!」

 痛いことは痛いのだった。
 まじかあ……。
 S級モンスターってつええなあ……。
 こりゃ、俺の預金残高でダイヤモンドドラゴンに会うなんて、最初から無理だったかもな。
 まあしょうがない、とりあえずは今、ここを乗り切らねばならない。

「インジェクターオン! セット…………うーん、……十万四千円!」

 もう残り財産全部だ。
 これでだめなら俺たちパーティは全滅だ。
 十万四千円分のエネルギーをさっきと同じく自分の腕に注入していく。
 ちなみに注射器の針はわりとぶっといので痛いんだぞ。
 一気にこんなにたくさん充填したのは初めてのことだ。
 全身に力がみなぎり、五感が研ぎ澄まされる。
 再び刀を握り、そしてカスモフレイムへ突進していく。
 カスモフレイムも頭を下げ、角を俺に向けて迎撃する。

「いっっっっけえええええ!」

 俺は十万円分のパワーでもって、刀をカスモフレイムの角へと振り下ろす。
 すると刀は、まるで常温のバターを切るかのようになめらかに角を切り落とした。
 さらに追撃、カスモフレイムの眉間に向かって刀を突きたてると、またもや常温のバターにそうしたみたいにあっさりと柄まで刀の刃が埋まった。
 すぐに刀をしゅっと引き抜くと、その傷口から血液がビューッ! と飛び出る。
 カスモフレイムは、

「ぐぉぉぉぉ!」

 と断末魔の声をあげ、そしてその場に倒れた。

〈すげええ! C級がS級を倒したぞ!〉
〈このレアスキル強すぎん?〉
〈よくやった、それよりみっしーをなんとかしたげて〉
〈みっしーどうなった?〉

 そうだ、あの子を助けなければならない。
 俺は美詩歌と、その美詩歌に必死に治癒魔法をかけている妹の紗哩シャーリーのところへとかけよった。

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