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第39話 死にたいんです

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 戦いも終わり、俺達はいったん装備を整える。
 今はミシェルも由羽愛ゆうあもきちんと服を着ている。
 ツバキはふわふわとそのへんを漂いながら、

「私も裸になった方が良かった? でもカメラ切ってたかー。光希にしかサービスにならないか」

 などと言っている。
 霊体の身で裸になんかなれるんだろうか、と不思議に思いながらも光希は紅茶をすする。
 水分と糖分が同時に補給できるし、おいしいので光希は紅茶が好物だった。

 とそこに、由羽愛ゆうあがやってきた。

「あのぉ……」
「おう、お前も水分補給しておけよ。さっきの浄化の魔法はよかったぞ」
「えへへ、ありがとうございます! あと……あの……あたしも、ああいうの、やったほうがいいですか?」

 ああいうの、とはなんだ? と思ったら、由羽愛ゆうあの指し示す方向には馬鹿がいた。
 正確には馬鹿なメスウサギである。
 今はオンにしたカメラの前で胸を寄せたりして、コメント欄が沸き立つのを喜んでいるようだ。

「いや……あれはやめておけ」
「やっぱり、小学生の裸とかじゃ、みんな喜びませんよね……おっぱいも、まだすごくちっちゃいし……」
「喜ぶやつがいたとしても駄目だ。もっと立派な大人になれよ、あのウサギの反対のことしていれば大丈夫だ」
「立派な大人……」
「そうさ、由羽愛ゆうあだって将来の夢とかあるだろ? 一流の探索者とか、そうだな、お嫁さんとかでもいいし、なんかあるだろ?」
「将来の夢……あるといえば、あります……」
「なんだ?」

 由羽愛ゆうあは少し言い淀んで、光希の顔を下から覗き込むようにして、

「あの、でも言いにくいかなーって」
「言っちゃえよ、ここダンジョンの最深層だぜ。カメラはバカウサギの……ん、あいつほんとバカだな、脇を自分でくすぐってるぞ……しかもそれでコメント欄大喜びじゃないか、本当にバカの集団だな……あれの真似だけはするなよ、ええとなんだっけ、そうそう、将来の夢。俺にしか聞かれてないんだから言っちゃえよ」
「そうですね……」

 由羽愛ゆうあは少し周りを気にするようにして、光希の耳元に口を寄せると、こっそりとさささやいた。

「あたし、死にたいんです。誰かの役にたってから死にたい」
「は?」
「だから、あたし、ほんとは凛音さんに憧れているんです。あたしみたいなどうでもいい人間のために、それでも命を投げうって助けにきてくれた……。あたし、最近いつも凛音さんのこと考えているんです。人のために命を賭けて、死んでしまって、でも助けたかったその子は実際助かっている……。こんな、こんな……」

 由羽愛ゆうあは一度ぶるっと全身を震わせた。その目はうっとりとしてどこか遠くを見ている。

「こんな素敵な死に方って、ないです……あたし、今まで生きてきて楽しいことなんてなにもなかった。死にたいんです。でもどうせ死ぬなら、誰かの役にたって死にたいんです」

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