11 / 56
第11話 滅殺鋼球
しおりを挟むツバキはその派手なワンピースを揺らめかせながら、宙に一メートルほど浮いた。
「わが魔力よ、敵を屠る槌となってすべてを破壊せよ」
ミシェルがレイピアを突き出して突っ込んでいく。
それをなんなくかわしてツバキが魔法を発動させた。
「滅殺鋼球!」
突如、空中に直径一メートルほどの巨大な球体が現れた。
ツヤのある金属製の球体だ。
そいつはほんの一秒間ほど宙に浮いていたかと思うと、次の瞬間、ドンッ! という衝撃音とともに光希に向かって一直線に吹っ飛んできた。
同時に、光希の剣の刀身が表れ出る。
それは、ライムグリーンに光るムチのように長くしなやかな刀身だった。
:コロッケ台風〈外れだ!〉
:闇の執行者〈ウィップソードか、これは弱い奴〉
:エージ〈あ、ここでそれ引くのか〉
:リャンペコちゃん〈たいしたことない敵ならこれでいいけど推定討伐難易度LV30以上の相手が敵となると……〉
:ペケポンポン〈たのむ由羽愛ちゃんを助けてやってくれ!〉
:カレンダー〈負けるなァァァっ〉
単純だがかなり強力な物理的な魔法攻撃であった。
なみのドラゴン程度ならこの球体で木っ端微塵にできるだろう。
この刀身ではこの物理的な魔法攻撃を防げないと思った光希は避けることを選択し、横っ飛びに飛んだ。
球体は光希の足元をかすめ、ダンジョンの通路の奥、はるか向こうまで飛んでいった。
だが。
「ふんっ」
ツバキが気合を入れると、球体はその場でピタリと止まり、再び光希に向かって飛んでくる。
「おるぁっ!」
光希はムチを振るい、その球体を打ち付けるが、まったくびくともせず、再び避けることを余儀なくされた。
「くそ、物理的な砲撃ってやつが一番効くな」
光希が言うと、ツバキは笑っていう。
「その通り。結局物理でぶっぱなすのが一番楽に相手を殺せるのさ」
「魔女の言葉とは思えねえな!」
光希はさらに気合を入れると、刀身となっているムチがさらにその全長を伸ばす。
いまや5メートルにも達しようかという長さだ。
「あはは、すごいすごい、それが君のスキルか、所詮魔力でできたムチだ、物理的な重量の衝撃力とどう戦うか見せてもらうよ!」
球体が三度光希に向かってくる。
光希の【鼓動の剣】は一度発動させるとおおよそ五分はその刀身で戦わなくてはならない。
正確にいうと、カプレラ数である297秒にあたる、4分57秒間。
今回のようにあまり強くない刀身を引けばその時間耐えなければならないし、運良く強力な刀身を引けたらその時間内に敵を倒すのを目指すことになる。
ひとことで五分、といっても個別戦闘の時間としてはかなり長い。
例えば柔道の国際試合は一試合4分間であり、格闘技の試合も一ラウンド3分間が多い。
徒手格闘ですらそうなのだから、お互いに命を刈りあう真剣勝負であれば、たいてい数十秒から数分もあれば決着がつくものであった。
それなのに、元〝魔女〟という強敵を前にして、このムチの刀身では勝てそうになかった。
少なくとも5分間、なんとか敵の猛攻を食い止める必要がある。
仲間たちが揃っていた頃はどんな強敵相手でもそれが可能であったが、今は光希とミシェルの二人の前衛職しかいないのだ。
そのミシェルは2本のレイピアと自らの刃と化したウサギ耳でツバキに襲いかかっているが、ツバキは余裕の表情でそれをかわしている。
「ははは、濡れ濡れウサギちゃん、これはどうかな? すべて醜き肉を、すべて美しき彫刻に。『凍結石化』!!!!」
バシュッ! とツバキの指先から何かが発射される。
「くっ!」
ミシェルはそれを避けるが、完全にはよけきれず、その長いウサギ耳に攻撃が命中した。
その瞬間、キシキシキシッ! という不快な音とともに、ミシェルの耳は霜に覆われて凍結した。その上、耳はそのまま石化している。
「……なんだこれは?」
「あはは、どうだい、私オリジナルの魔法だ。凍結させ、石化させる2つの魔法を複雑な計算式を使って一つの魔法として作り直した。これを食らうと、凍って脆い、冷たい石になるってわけさ」
そして持っている禍々しい杖を振り回す。
ミシェルはよけようとするがツバキの体術は相当のもので、杖の先がミシェルの耳にあたる。
凍って石化したミシェルの左のウサギ耳はあっさりと細かく砕け散って宙に舞った。
「こーんなにも脆くさせることができる。そして、この魔法のいいところは、凍結解除の魔法と石化解除の魔法は別々にしか存在しないから、状態異常解除の方法がないところさ。2つの術式が複雑に絡み合ってるから、解除の魔法を2つ同時にかければいいってことにはなってないしね」
「くっ、よく喋るな」
「本気出していないしね。ちなみに気をつけなよ、この魔法は凍結や石化の単体魔法とは違う。食らって固まっても意識はそのまま残る……破壊されるまでね。永遠に意識だけを保った氷像になれるけど、なりたいかい?」
「ふ、悪趣味だな」
と、そこに。
巨大な球体がツバキに向かって飛んできた。
光希が自分に飛んでくる球体をムチで巻き付け、コントロールしてハンマー投げの要領でそのままツバキに向かって投擲したのだ。
「おっと、凍結石化!」
ツバキの魔法によって石化した球体は、そのままの勢いでツバキを襲うが、ツバキが杖で軽く振り払うように球体を叩くと、金属製であったはずの球体はあっさり細かい粒子となって砕け散った。
「さて、まだやるかい? 私はあの子が私のものになればそれでいいんだから、君たちを殺したいという動機は特にない。引き下がってくれればそれでいいよ」
10
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました
平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。
しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。
だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。
まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる