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第8話 約束
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地下十五階にて。
『えー、梨本さん、聞こえますか? こちら新潟市消防本部ダンジョン特別高度救助隊の副隊長、消防司令補の柿崎と申します。聞こえますか?』
「はい、聞こえます」
光希が答えると、柿崎消防司令補が言う。
『お久しぶりです。またお世話になっております』
以前にも別件でダンジョン内の救出作戦に参加したことがあったのだ。
特別高度救助隊といってもさすがにダンジョンの最深層までは到達できるほどの人材がいない。
ダンジョン探索、それもSSS級ダンジョンの最深層の探索はそれほどまでにエクストリームな冒険なのだ。
『今回はパーティメンバーの方に犠牲者が出たということで、消防本部としてもまことに残念です』
「探索者としては覚悟の上ですから」
『しかし、人類初のダークドラゴンの討伐、お見事でした。梨本さんほどの探索者はまさに人類の誇りです』
「パーティメンバーに助けられてのことです。それに、柿崎さんにはミシェルを合法的に使役《テイム》するにあたっていろいろ助けてもらいましたから。ミシェルの活躍なしにはダークドラゴンは倒せなかった。柿崎さんのおかげでもあります」
『いえいえ。ミシェル氏のような討伐難易度LV20を超えるモンスターを使役《テイム》すること自体がすさまじいことです。さすが梨本さんの功績、我々消防の中でも認めない者はだれもいません。さすがです』
「いや……それよりも、由羽愛……ちゃんの居場所は?」
『はい、えー、羽原由羽愛さんの身に着けていたスマートウォッチのバッテリーはすでに切れており、細かい場所までは特定できていません。しかし、最終的にはそこから北に二キロ、東に一キロの地点で三日以上とどまっており、今もそこにいる可能性が高いとみております』
「生存の可能性は?」
『……低いですが、ゼロではないと思っております。そこの二ノ町ダンジョン内では水が豊富にあります。食料の調達は難しいかもしれませんが、食用に適しているモンスターも存在しており、モンスターをうまく倒すことができていればあるいは……』
正直、光希は由羽愛の生存の可能性を限りなくゼロだと見積もっていた。
いくら探索者として育成されていたとしても、わずか十歳の小学生が、一流の探索者でも到達すること自体が難しい地下十五階で生き延びているとは考えづらかった。
しかし、つい数日前まで、由羽愛が身に着けていたスマートウォッチは確かに脈拍と血圧の数値を送り続けていたのだ。
奇跡的な『なにか』が起きていれば、生きていないとも限らないし、そしてこのダンジョン内では奇跡的な『なにか』に出くわすことはよくあることであった。
なにより。
凛音が乗り気だったのだ。
『ねえねえ、絶対助けてあげようよ!』
恋人だった凛音の声が光希の脳内で響く。
『まだ十歳なんだよ! あんなちっちゃいころからスパルタで探索者やらされてさー、正直私、かわいそうだと思っていたんだよねー。そしたらこれでしょ、これで死んじゃったらこの子の人生なんだったのってなるじゃん、ね、光希、助けてあげよ?』
そしてその言葉に光希はうなずいたのだ。
将来を誓い合った、そして今はもう死んでしまった凛音。
彼女との約束。
それが羽原由羽愛を助けることだったのだ。
「おう、そうしてやろうぜ、光希」
「俺も助けてやりたいなあ。俺にも十歳くらいの妹がいるんだよ」
三原と田上も賛同の声をあげる。
「あーしはどっちもでいいけどさー、お金、いいんでしょ? 成功報酬、億超えるんでしょ? 一人三千五百万だって! やる以外なくない?」
亜里沙もそう言う。
「ねえ、光希」
凛音がいつもの明るい笑顔で言った。
「私は、正しく生きたいの。正しいことをしたい。困ってる女の子がいて、まだ生きてるかもしれない。自己責任で潜った大人の探索者ならともかく、今回はそうじゃないじゃない。だったら、私は助けに行きたいよ」
うるんだ瞳でまっすぐ光希を見る凛音。
もとより、光希も同じ気持ちだったので、
「まったく、しょうがねえなあ。でも、凛音の言う通りだな、自分から冒険に行ったんじゃない、大人に探索者の真似事させられて事故にあったんだ、だったら俺たち大人が助けてやるべきだ」
「よっしゃ、さすが光希、俺たちのリーダーだぜ」
「光希、ありがとう、そう言ってくれると信じた」
「やるからには、ぜったいあーしらでたすけっからね」
今はもう、彼らは光希のそばにはいない。
だが彼ら彼女たちの声の記憶は、光希をこのダンジョンの最深層で勇気づけるのに十分なものだった。
「よし、ミシェル、行こう。助けに行こう。由羽愛ちゃんはきっと俺たちを待ってる」
『えー、梨本さん、聞こえますか? こちら新潟市消防本部ダンジョン特別高度救助隊の副隊長、消防司令補の柿崎と申します。聞こえますか?』
「はい、聞こえます」
光希が答えると、柿崎消防司令補が言う。
『お久しぶりです。またお世話になっております』
以前にも別件でダンジョン内の救出作戦に参加したことがあったのだ。
特別高度救助隊といってもさすがにダンジョンの最深層までは到達できるほどの人材がいない。
ダンジョン探索、それもSSS級ダンジョンの最深層の探索はそれほどまでにエクストリームな冒険なのだ。
『今回はパーティメンバーの方に犠牲者が出たということで、消防本部としてもまことに残念です』
「探索者としては覚悟の上ですから」
『しかし、人類初のダークドラゴンの討伐、お見事でした。梨本さんほどの探索者はまさに人類の誇りです』
「パーティメンバーに助けられてのことです。それに、柿崎さんにはミシェルを合法的に使役《テイム》するにあたっていろいろ助けてもらいましたから。ミシェルの活躍なしにはダークドラゴンは倒せなかった。柿崎さんのおかげでもあります」
『いえいえ。ミシェル氏のような討伐難易度LV20を超えるモンスターを使役《テイム》すること自体がすさまじいことです。さすが梨本さんの功績、我々消防の中でも認めない者はだれもいません。さすがです』
「いや……それよりも、由羽愛……ちゃんの居場所は?」
『はい、えー、羽原由羽愛さんの身に着けていたスマートウォッチのバッテリーはすでに切れており、細かい場所までは特定できていません。しかし、最終的にはそこから北に二キロ、東に一キロの地点で三日以上とどまっており、今もそこにいる可能性が高いとみております』
「生存の可能性は?」
『……低いですが、ゼロではないと思っております。そこの二ノ町ダンジョン内では水が豊富にあります。食料の調達は難しいかもしれませんが、食用に適しているモンスターも存在しており、モンスターをうまく倒すことができていればあるいは……』
正直、光希は由羽愛の生存の可能性を限りなくゼロだと見積もっていた。
いくら探索者として育成されていたとしても、わずか十歳の小学生が、一流の探索者でも到達すること自体が難しい地下十五階で生き延びているとは考えづらかった。
しかし、つい数日前まで、由羽愛が身に着けていたスマートウォッチは確かに脈拍と血圧の数値を送り続けていたのだ。
奇跡的な『なにか』が起きていれば、生きていないとも限らないし、そしてこのダンジョン内では奇跡的な『なにか』に出くわすことはよくあることであった。
なにより。
凛音が乗り気だったのだ。
『ねえねえ、絶対助けてあげようよ!』
恋人だった凛音の声が光希の脳内で響く。
『まだ十歳なんだよ! あんなちっちゃいころからスパルタで探索者やらされてさー、正直私、かわいそうだと思っていたんだよねー。そしたらこれでしょ、これで死んじゃったらこの子の人生なんだったのってなるじゃん、ね、光希、助けてあげよ?』
そしてその言葉に光希はうなずいたのだ。
将来を誓い合った、そして今はもう死んでしまった凛音。
彼女との約束。
それが羽原由羽愛を助けることだったのだ。
「おう、そうしてやろうぜ、光希」
「俺も助けてやりたいなあ。俺にも十歳くらいの妹がいるんだよ」
三原と田上も賛同の声をあげる。
「あーしはどっちもでいいけどさー、お金、いいんでしょ? 成功報酬、億超えるんでしょ? 一人三千五百万だって! やる以外なくない?」
亜里沙もそう言う。
「ねえ、光希」
凛音がいつもの明るい笑顔で言った。
「私は、正しく生きたいの。正しいことをしたい。困ってる女の子がいて、まだ生きてるかもしれない。自己責任で潜った大人の探索者ならともかく、今回はそうじゃないじゃない。だったら、私は助けに行きたいよ」
うるんだ瞳でまっすぐ光希を見る凛音。
もとより、光希も同じ気持ちだったので、
「まったく、しょうがねえなあ。でも、凛音の言う通りだな、自分から冒険に行ったんじゃない、大人に探索者の真似事させられて事故にあったんだ、だったら俺たち大人が助けてやるべきだ」
「よっしゃ、さすが光希、俺たちのリーダーだぜ」
「光希、ありがとう、そう言ってくれると信じた」
「やるからには、ぜったいあーしらでたすけっからね」
今はもう、彼らは光希のそばにはいない。
だが彼ら彼女たちの声の記憶は、光希をこのダンジョンの最深層で勇気づけるのに十分なものだった。
「よし、ミシェル、行こう。助けに行こう。由羽愛ちゃんはきっと俺たちを待ってる」
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