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記念・特別章 【大英雄の過去編】

第0話の15 きざし

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===ユウキ視点========================

「よしっ、じゃあいただきます」
「…え?えぇと、いただきます…?」

 俺は守姫に教えてもらいながら作ったオムライスを口に頬張る。ティフィラも、"いただきます"をしっかりと言った後に、オムライスを口に入れた。

 うん、やっぱり守姫のレシピで作る飯は美味いな!
(えへへ~、そ、そうですか~?褒めても何も出ませんよ~?)

 守姫はそう言ってるが、頬が緩みまくっているのは見なくても分かる。

「……あ、美味しい。これ何て言う料理なの?」
「オムライスだ」
「おむ…らいす。聞いた事の無い料理だけど、とっても美味しい…!」

 だってよ。
(ふんっ!あなたに褒められても嬉しくはーー)
 守姫の料理、マジ最高!
(…………、ありがとうございます…)

 俺は凄いスピードでオムライスを食べているティフィラを見ながら、蕩けきった守姫の声を聞きつつ、オムライスを口に頬張る。

(…あんまりからかってやんなよ?)
 別にからかっているつもりは無いけどな。

 酷く疲れた声になっている攻武と話しつつ、ティフィラを見つめる。

 ティフィラのスプーン使いやこの世界での一般常識がある事から、幼い頃から実験をされた訳では無さそうだ。
 となると、ここ数年か数ヶ月の間に実験をされた可能性が高いな。

(まあ、王も似たようなもんだろ)
 まあな。

 攻武にはそう言ったが、きっと、ティフィラの方が苦しかっただろう。辛かっただろう。痛かっただろう。

 俺には守姫たちが居たし、心の中に逃げ込む事で痛みをあまり受けていない。
 だが、ティフィラはそうはいかなかっただろう。だから、ティフィラには楽しい事をさせてやりたい。

 俺はオムライスをかきこみ、空になった皿を軽く叩きつけ、ティフィラの視線を俺に向けさせる。

「よしっ、明日は村を回るぞ」

 ティフィラは表情が暗くなった。恐らく、この間暴れた事で負い目を感じてるらしい。
 結局、被害は何も無かったから、あまり気にしなくても良いと思う。だからこそ、村を回って、早く馴染んだ方が良い。

「俺は今から風呂に入るから、食器は水に浸けとけよ」

 俺はそれだけ言い放ち、流し台に食器を置いて、水に浸けて風呂場のドアを開けた………。






「……ふぅ」

 自室のベットに腰をかけ、未だ水分が残っている髪を、"アイテムボックス"から出したタオルで拭いつつ、ティフィラの事を考える。

 明日、しっかりと家から出れるかな?
(さあ?知りません)(興味無いです)

 辛辣な2人の答えとは違い、攻武はしっかりと答えてくれた。

(それは本人次第じゃね?)

 ………ごもっともです。

 軽く溜息をつき、ベットに寝転ぶ。もう少し考え事をしようと思ったが、思ってた以上に改装で疲れていたようで、部屋の側面に付けてあったランタンの火を消す事も無く、意識を手放してしまった………。


===ティフィラ視点========================

「……はぁ、どうしよ」

 私は用意された自分の部屋で、"ウィンド"で髪を乾かしつつ、ユウキに言われた事を考える。

『明日は村を回るぞ』

 ユウキは軽い感じで私に言った。それこそ、"近くに新しく出来た店に行くか?"というような感じで。

 私はこの村の人たちに被害を与えて無いとはいえ、恐怖を与えてしまったのは紛れも無い事実。
 言うなれば、殺人犯と思われる人が村に仲良くしに来たと同じようなもの。……いや、思われるじゃなくて、私は殺人犯。

 逃れられないそれは、一生背負っていくつもりだし、別に後悔もしていない。
 けど、もっと別の方法があったと思う。
 …そんな事を思ったところで、過去を変えられないし、過去の自分はそれを聞いても変わらなかったと思う。

 私を変えたのはユウキ。それは間違いない。

 暗くて、黒くて、赤くて、血生臭くて、焦げ臭くて、痛くて、苦しくて、阿鼻叫喚が聞こえる、そこに飛び込んで狂うしか無かった私に手を差し伸ばしてくれた。
 
 私のあの地獄のような世界を、まるで邪魔な積み木を蹴り飛ばすように消し去ってくれた。

 だから、私はユウキに淡い恋心を抱いているのかもしれない。

 ユウキが村を回ろうと言ったのも、きっと私の為に言ってくれたんだと思う。
 なら、私がそれを拒絶したらダメだと思う。

「……絶対、村の人たちにユウキのお嫁さんとして見てもらうっ」

 私のこんな考えも、きっと恋の所為なのかな?

 ユウキの事を考えると出るこのドキドキはとても心地いい………。


===ユウキ視点========================

「ぶえっクション!!」

 突然襲って来た寒気で、俺は目を覚ます。
 まだ日も昇っていないが、ランタンの火は消えていた。

(風邪引きますよ?)

 守姫が心配そうに聞いてくる。
 俺は「守姫が治してくれるから平気、平気」と軽口をたたきながら、俺の下敷きになっていた布団を被り、大きく欠伸をする。

(まあ、治しますけど……、ならないのが一番です)
 そうだな。今度から気をつけるわ。じゃ、おやすみ……。
(はい、おやすみなさい)

 守姫の甘やかすような、甘い声を聞いた途端、とてつもない眠気が襲って来たので、そのまま、眠気に身を任せた………。






 ーーて

 ……誰だ?まだ眠いんだから、起こさないでくれ。

 ーーきて

 だから、眠いって言ってるだろ。

 ………早く思い出して。じゃないと…来ても知らないよ?




「あぁぁぁっ!」「きゃぁぁぁっ!!」

 俺は堪らず起き上がる。……身体中に汗が出ていて、服がへばり付いて気持ち悪い。息も乱れに乱れて、全力ダッシュを限界までやったみたいだ。
 それに、俺以外の声がーー

「……もう、急に起き上がらないでよ」

 ベットの隣で立ち上がったティフィラは、尻を手で払いながらこっちを見ている。どうやら、派手に尻もちをついたようだ。

「……あ、悪りぃ。ちょっと悪い夢を見てな」
「え?どんな夢?」

 ティフィラが興味津々に聞いてくるが、俺は何も思い出せなかった。

「……何だっけ?」
「…まあ、別に良いけど。用意してね?」

 ティフィラはそう言うと、俺の部屋から出て行った。

 夢の事は不思議だが、そんな事より、ティフィラと一緒に村を回る事の方が大事だ。
 俺は部屋を出て、風呂場へ行き、服を脱ぎ捨て、体を洗う。

 いつもなら何か話しかけてくるはずの守姫たちは、一向に話しかけて来なかった………。


===============================


 

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