ただの世界最強の村人と双子の弟子

ヒロ

文字の大きさ
上 下
114 / 163
第8章 神気

第74話 リルvs戦神

しおりを挟む
===神名無しの弓使い視点========================

「はぁ、はぁ、はぁ、くそっ!!」

 俺はただ全力で山を降りる。後ろを振り返らず、足元も見ず、ただ全力で走る。

「ぐっ!?あぁぁぁ!!」

 この山はあまり足元がしっかりしておらず、全力で走っていた事もあって転んでしまい、山を転げ落ちる。身体中に石やら木の根が当たり、鈍い痛みが走るが、距離を稼げたと思えば安いものだ。

「ちっ!!くそっ!くそっ!くそっ!どうして俺がっ!!」

 俺は見てしまった。『影神』がやられるところを。あの小さな子供に一矢報いる事すら出来ず、無残に死骸となった瞬間を。それだけじゃない!あの子供は合体し、本気を出してはいなかったとはいえ、『戦神』を圧倒した。そして今は本気を出した『戦神』と互角の戦いをしている。あんなの戦いに俺が何か出来る訳がない!!

「そうだ!これは戦略的撤退なんだっ!ここで俺が倒れたら情報がーー。誰だ!?」
「……………いくら気が動転していても、流石は神もどきという事ですか」

 さっきまで全く感じられなかった気配がいきなり現れたと思いきや、普通に現れた背の小さな女。子供かと思ったが、俺の事をと言った時点でただ者では無いだろう。

「お前は何者だ?」
「…………今から死ぬ人に教えても意味はありません」 
「え?」

 一瞬風が吹いたかと思いきや、俺の視界が回転していた……………。


===リル視点========================

「はあぁぁっ!!」
『ぐうぅぅぅ!!』

 『戦神』の振り下ろす剣を『ソウルウェポン』で受け、突き刺してくる槍を刺突で相殺する。先程からどれだけこのやり取りをしたんだろう。私は『戦神』の攻撃を防いでいるだけで全く攻めに転じられない。それもこれも…………

「あ~~はっはっは!!貴様、先程から守ってばかりで一向に攻めてこんではないか!それではつまらん!つまらんぞっ!!」
『うるさい!!なら、その鬱陶しい槍を捨てろっ!!』
「捨てる訳無いだろうっ!この馬鹿者めが!!」
『ぐぅぅっ!!あぁぁっ!!!』
(ドゴォゥン!!)

 集中が途切れてしまったところに蹴りを入れられ、私は山に落ちる。蹴りを入れられた腹の部分には咄嗟に"身体強化"の要素を入れた神気で防いだけど、衝撃までは防ぎきれなかった。
 私は追撃の可能性がある為、受け身を取って着地した後、すぐにその場から離れたが、追撃は来ず、『戦神』はゆっくりと降りてきた。

「はっ、まさかこの槍一つで貴様を追い詰める事が出来るとは……。やはり、優れた武具は盗っておくべきだな」

 『戦神』の言う通り、私はあの細長い赤い槍の対応のせいで攻めに転じられない。というのも、あの槍は受け止めたり、相殺したら普通の槍だが、と相手に有利な状態で時間が巻き戻ってしまう。そうなると受け止めたりするしかないが、それだと攻撃する事が出来ない。背後に回り込もうとしても、それ自体が"躱す"という行為になってしまい、時間を巻き戻される。砕こうとしても硬すぎて出来ない。なら………

「おっ?今度は何をする気だ?」
『あなたを消す!!』

 私は浮かび上がって両手で既に合体済みの『ソウルウェポン』を持ち、掲げ、真っ白な光に包まれた剣を振り下ろした。

『"クラノロスト"!!』

 真っ白な光が『戦神』を包み込もうと迫る。それに対して『戦神』はニヤリと笑みを浮かべ、大して効果が無さそうな長い柄がある剣を光に向かって

『うっ、何が?』

 一瞬、全てが真っ白な光に包まれ、余りの眩しさに目を閉じた。そして、光が消えたのを確認してから目を開けると、『戦神』から少し離れた場所に真っ白な光を纏う長い柄の剣が刺さっていた。

「この剣は"神気を喰らう"まさに『神殺し』に相応しい剣でな。こいつは俺も愛用している。神気を持つ相手とのいくさの時には特にな」

 『戦神』は剣が刺さっている所に歩きながらあの剣の説明をした。本来、戦いの場ではいかに相手の情報を引き出し、相手の特異性や秘密を暴くものだけど、この男はあっちから話した。つまり、私の事をと判断したという事だ。

『……………舐めているの?』
「はっ、舐めてはいねぇが………、格下だとは思っているな。その実力では俺には勝てねぇし、万が一勝ったとしても、トップの二人には絶対勝てねぇよ」

 つまり、『戦神』より遥かに強い神が二人いるって事。…………普通の人なら絶望するだろう。嘆くだろう。戦意を失うだろう。けど私は……………、そんな事に時間を使っているほど暇じゃない。

『…………神気が使えないなら、『魔導』と『殲滅武術』の真髄を身体に教え込んであげる』
「おうおう、やってみな。"特異点"の技には俺も興味があったんでな!!」



 あれから1時間ほど経った。荒れ果てた荒野のような所に立っているのは私。もう一人立っているのは『戦神』。ボロボロなのは私。ボロボロなのは『戦神』。どっちも満身創痍で立っているのがやっと。指一つ動かせそうにない。

「……はは、まさ…か……ここ…ま……で追い詰め…ると…はな………」
『まだ………死んで……ないの?』

 この1時間。あらゆる『魔導』と『殲滅武術』を使い、『戦神』を攻撃しまくった。それに対して『戦神』はあのうざったい槍も"クラノロスト"を吸収して一振りで山が吹き飛んだほどの威力を持った剣も使ってきた。お互い全力でぶつかり、結果、戦いの場となっていた山はとうの昔に消し飛び、周りの大地には大きな穴や切断面、魔法による天変地異と思えるほどの炎や氷、水や雷などが大地を覆っていた。

「………はっ、俺と…お前が戦……うにはこの土地は狭…すぎた……な」
『さっさと………お前が…殺されて……いればこんな事……にはならなかっ…た』
 
 私と『戦神』が本気で戦う前に見せたあの超回復を『戦神』は使わない。それとも使えないのか?どっちにしても、これ以上戦う事にならないから有難い。

『『魔導』"シャドウーー「良くやりました」……え?』

 私が新たに創った『魔導』で留めを刺そうとした時、私の隣を横切った一人の女の子。その女の子は凄まじいスピードで『戦神』に近づき、

「何だ貴様はーー「あなたが知る必要は無い。全力のパンチフルキャノン」」
(ドゴォーーーン!!!)

 凄まじい突風と砂嵐が起こり、身を屈めて衝撃に耐えた。そして、砂嵐を消え、体を起こすと、背の低い女の子が『戦神』が居たであろう所に佇んでいた。その女の子は茶髪でどこか技姫さんに似ている空気を漂わせ、雰囲気はアイに似ている。もしかして………

『………もしかして、貴女がイアさんですか?』
「………ん、初めまして。私はイア。マスターの危機に馳せ参じようとする者」

 振り向いた女の子はとても無表情なんだけど、機械らしさは感じない、とても不思議な子に見えた。

『……………え?イアさん~~~!?』
「………うるさい」

 探し求めていた人と思わぬところで出会いました…………。

===============================

 え?展開が急すぎるって?そんな事はありませんよ!(汗汗)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

処理中です...