上 下
90 / 163
第6章 協力者

第50話 暗殺者とルル

しおりを挟む
===リリ視点========================

「毒が撒かれた場合はどうすれば?」
「それは私が………"クリーン"」

 ティフィラさんは精霊に生活魔法である"クリーン"をやらせると、どうやら毒が無くなってきたらしく、ティフィラさんは口に当てていた手をどかしました。

「もう大丈夫よ」
「はい」「いや~、流石だね、ティフィラさん♪」
「黙れ、クソ野郎」
「…………はい」

 ティフィラさんとエルガさんのいつものやりとりを聞き流しつつ、手をどかしてみると、息苦しさが無くなっていたので、やっぱり成功したみたいです。でも、どうやって出来たんでしょう?

「ティフィラさん、服に付いた汚れを落とす程度の"クリーン"でどうやって空気中の毒を消毒出来たんですか?」
「ああ、それは"クリーン"をやらせた私の精霊の能力に"空気中に魔法を反映させる"っていうのが付いていたからね」
「なるほど………」

 何気に凄い能力ですね……。ティフィラさんの精霊は300体程はあると言っていましたから、もし、その全てに何らかの能力があれば…………。想像するだけで恐ろしいですね。

「とにかく、どうします?堂々と来るのを待つか、倒れた真似をして油断を誘うか」
「そうね………。それじゃあ、選択肢3のオリナに隠してもらうってのは?」
「……………あっ!そういえばオリナは?」
「そこにいるわよ」
「え?どこですか?」

 なんか今日1日で色んな事があったからオリナの事をさっきまで忘れてしまってました。ティフィラさんは部屋の隅を指差しましたが、そこは何の変哲も無いただの部屋の隅。ホコリひとつない綺麗な隅です。

「オリナ、出てきてらっしゃい」
「む、仕方ないのう」

 ティフィラさんが部屋の隅に呼びかけると、部屋の隅の空間から滲み出るようにオリナが現れました。その顔は不満げで怒っているかのように見えます。

「えーと、どうしたの?なんか怒ってる?」
「怒っておるに決まっておろう!リリ!それに目を背けているルル!お主ら妾の事を完全に忘れておったじゃろう!!」
「ご、ごめんなさい!」「……隠れているオリナが悪い」

 素直に謝る私と責任転嫁するルル。

「妾じゃって好きで隠れていた訳では無いわ!!お主らが帰って来る前に知らない全身黒い服のおっさんが入ってきて、変な魔導具を置いていったんじゃ!気配察知を会得してこのようにしてやり過ごせたが、お主らの前に姿を見せようとしたら誰も妾がいない事に触れない!じゃからお主らを見捨ててここで待機しておったんじゃ!!」
「え!それ酷くない!?」「……仲間にする事?」
「どうせ、お主らじゃ毒ごとき訳ないじゃろう!?」
「え!いくら力をつけても毒に抵抗は……」
「……ご主人は守姫さんに頼んで食事にちょっとずついろんな毒を入れ、抵抗をつけさせていたようじゃぞ」
「え?ほんと?」
「本当じゃ。お主らも『竜殺し』は無理でもそれ以下なら問題無いように思えるがな」

 『竜殺し』以下って………というか『竜殺し』以上が無いんですが?
 師匠は私達が知らないうちにそんな事をしていたみたい。…………再会したら問い詰めよ。

「まあ、それは置いといて「置いとくんじゃないわ!」オリナはどうやって姿を消していたの?」
「ふっふっふっ、妾の『魔素支配』を応用したんじゃよ」

 確か『魔素支配』って魔神だけが使える文字通り魔素を完全支配出来る技って師匠が言っていたような………。

「妾の周囲にある魔素に光を屈折させるという効果を与えて見えなくしたんじゃよ」
「それって凄い事なんじゃ……」
「当然じゃ!なにせ、歴代魔神でもここまで『魔素支配』を扱えた者はおらんからな!」

 多分、地下室に行かず、攻武さんと特訓してたのはこれに関する事をやっていたんだろうね。オリナは私達の中じゃ目立たないけど、実力は確かにあるという事を再認識したけど………やっぱり目立たないのは仕方ないよね!

「とにかくお願いね、オリナ」
「了解じゃ!」

 オリナは両手を上に広げ、手に光を発生させて私達を包み込みました。けど、それはすぐに消え、私達には何の変化もありません。あると言えば………

「少し暗い?」
「当たり前じゃ、妾達に来る光を屈折させておるのじゃ、多少は暗くなって当然じゃ」
「まあ、とにかくここで待ちますか。クソ狸とそれに従うクソ野郎を……」

 その意見には賛同しますが、目をギラギラとさせないでくれません?とっても怖いです……。

===ガイラ視点========================

 俺とガルト、応援として前の暗殺で知り合った2人の男は全員闇夜に紛れるように全身黒装束の格好であの生意気な子供どもが泊まっている宿の向かいにある廃墟となったレストランの2階の窓から奴らの部屋辺りを見る。

「毒は散布したのか?」
「勿論、痺れ毒を散布し、全員動けずに寝転んでいる事だろう」
「それじゃあ、俺とガルトは生意気な子供を、お前ら2人は残りの2人を殺れ」
「「お任せを」」

 準備は万全、人員も十分、武器も最高のやつを持ってきた。抜かりは無い、無いのだが、言い知れぬ不安が抜けない。本能か経験か分からないが、奴らは只者ではないとどこかで気づいている。
 だが、俺をコケにしたツケは何としても払わせてやる!

「日が完全に沈んだ時がお前らの最期だ」



「どこだ!どこに行った!?」

 日が完全に沈み、奴らの両隣の部屋に泊まっていた人らは金を払って違う宿に移動させ、いざ、中に入ってみたら中に誰もいない。だが、もぬけの殻という訳では無い。奴らの荷物は置いてあり、机に置かれた茶菓子の包みが残っていて、机にもお茶が飲み干されずに置いてあった。

「誰が俺らの計画に気づいて逃したのか?」

 宿の管理人や従業員は金で従えてあるから宿の人間ではない。なら、街に知り合いが?いや、奴らは昨日来たばかりだと言っていたし、宿の人間も昨日から泊まっていると言っていたから間違いないだろう。

「トイレ、押入れにもいません」
「宿の風呂場にも確認を取らせましたが、いなかったようです」
「宿の食事場にもいないみたいだ」
「なら!どこに行った!?監視はしてたが出て行ったのは見てないぞ!!」

 この宿の正面からずっと交代で監視していたが、奴らは宿を出ていなかった。因みに宿の隣には宿経営の畑と宿と連携しているお土産屋があり、後ろは街を囲う高めの塀があるから裏口も無い。出るとしたら正面玄関しか無い。

「とにかく出直すぞ!これ以上長居してたら帰ってくるかも知れねぇ」

 扉の近くにいたガルトが扉を開けようとするが、一向に開かない。ガチャガチャとドアノブを強引に回す音が聞こえた後、戸惑った顔で振り返り、

「開かない」
「は?」
「だから、開かないんだよ」
「そんな訳ねぇだろ!貸してみろ!」

 俺は強引にガルトを横に退かし、ドアノブを強引に捻るが、完全に回らない。つまり、開かない。

「は?どうなってやがる!?」
「………それは簡単、重力魔法で完全に回る前に押さえつけているから」

 昼間聞いた声が聞こえる。少し愛想の無い小さな女の子の声だ。この声はあの生意気な子供の1人で、あの場で殺されるかと思ったところを助けてくれた声。奴らの中で少し情が湧きかけた青い髪の女の子。

「…………折角助けてあげたのに」

 青い髪の女の子と元凶でもある金髪の女の子、俺を殺そうとしたエルフ族の女に常識人の男と褐色の肌である事から魔族だと分かった女が何も無い空間から出て来た……。

===============================

 オリナの事!忘れてませんよね!? 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

陛下、貸しひとつですわ

あくび。
ファンタジー
亡き母ビアトリスから引き継いだ二冊のノート。 ひとつには母のアイデアが、もうひとつには陛下の貸しが詰まっている。 ビアトリスの娘、クリスティアがノートをもとに母に恥じぬ生き方をしようと決意した矢先、 顔も知らなかった生物学上の父が家族で公爵邸に乗り込んできた。 無視をするつもりが、陛下からの命により、彼らを別邸に住まわせることに。 陛下、貸しひとつですわよ? ※すみません。完結に変更するのを忘れていました。 完結したのは少し前なので、今更の完結作品で申し訳ないです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

農民レベル99 天候と大地を操り世界最強

九頭七尾
ファンタジー
【農民】という天職を授かり、憧れていた戦士の夢を断念した少年ルイス。 仕方なく故郷の村で農業に従事し、十二年が経ったある日のこと、新しく就任したばかりの代官が訊ねてきて―― 「何だあの巨大な大根は? 一体どうやって収穫するのだ?」 「片手で抜けますけど? こんな感じで」 「200キロはありそうな大根を片手で……?」 「小麦の方も収穫しますね。えい」 「一帯の小麦が一瞬で刈り取られた!? 何をしたのだ!?」 「手刀で真空波を起こしただけですけど?」 その代官の勧めで、ルイスは冒険者になることに。 日々の農作業(?)を通し、最強の戦士に成長していた彼は、最年長ルーキーとして次々と規格外の戦果を挙げていくのだった。 「これは投擲用大根だ」 「「「投擲用大根???」」」

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

前世は大聖女でした。今世では普通の令嬢として泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!

月(ユエ)/久瀬まりか
ファンタジー
伯爵令嬢アイリス・ホールデンには前世の記憶があった。ロラン王国伝説の大聖女、アデリンだった記憶が。三歳の時にそれを思い出して以来、聖女のオーラを消して生きることに全力を注いでいた。だって、聖女だとバレたら恋も出来ない一生を再び送ることになるんだもの! 一目惚れしたエドガーと婚約を取り付け、あとは来年結婚式を挙げるだけ。そんな時、魔物討伐に出発するエドガーに加護を与えたことから聖女だということがバレてしまい、、、。 今度こそキスから先を知りたいアイリスの願いは叶うのだろうか? ※第14回ファンタジー大賞エントリー中。投票、よろしくお願いいたします!!

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

処理中です...