48 / 104
第3章 植人族ってハイスペック
第47話 傲慢な種族
しおりを挟む「さて、どうします?」
「どうするも……陸人が気絶させちゃったからね」
お嬢様がわざとらしく困ったような表情で見てくるので、顔を逸らして馬車の下へと向かう。ちょうど馬車の様子が知りたかったしな。
馬車へと着くと、馬はまだ寝ていて、馬車の中も荒らされた様子は無かった。あの女は俺ら全員が目が覚めるまで何もしなかったらしい。
馬車をどう動かすかと考えたが、こんな木の大きな根っこやらでデコボコしたところを馬車で移動出来るはずも無く、仕方なく馬を近くの木に停める。あの女の仲間も馬を殺そうとは思わないだろう。
「お嬢様、馬は使えませんのでこれからは歩いて向かいましょう」
「そう…だね、ここは流石にね」
お嬢様は女をロープでぐるぐる巻きにして、メサに抱え込ませるように言う。メサは少し嫌そうな顔をしたが、すぐに観念して背中に背負ってメイカがさらに上からロープで固定した。
「では、行きましょう。幸いな事に、道は分かりますので」
一部の木々に付けられた傷。ナイフ等で付けられた人工的な傷なので、女の仲間が目印として付けたんだろう。これを遡って行けば集落か村かは知らないが、女の仲間が集まっているところに着けるだろう。
気候的には問題無いのだが、デコボコした道のりなので思った以上にお嬢様たちの体力が持たなかったので、今日中に着けず、野宿になった。
「このロープを解け!くっ、私が人族などに捕まるなんて…!殺せぇ!!」
1時間ほど前からうるさい女とともに。
「そんな事言いながら左腕でロープを少しずつ削りやがって…!さっさとお前らのアジトを教えろよ!さもないと痛い目を見るぞ」
「ふっ、私の心が貴様などの拷問で屈する訳が無いだろう!私を屈服させたかったら、この森でも燃やしてみるがいい!!」
「お嬢様、よろしくお願いします」
「え~、知らないよ?」
「……はっ?ちょっと、待て女。……ちょっと待って君っ!…ちょっと待ってくださいぃ!!やめてぇぇ!!」
強情な女も森を燃やされそうになるのは予想外だったようで、お嬢様の手から発された巨大な炎を見て、すぐに心が折れた。
大粒の涙を流しながら、メソメソと泣いている。ロープで身動きが出来ないので、横に倒れて涙をひたすら流しているのを見ると、凄くいけない事をしている気分になる。
「あんたには選択肢が3つある。
まず一つは素直に情報提供をして、仲間たちが居るところで解放されるか。
二つ目は情報提供をせずに、森が焼かれているのをよく見える場所で眺めるか。
最後に3つ目は情報提供をせずに、森が焼かれる悪夢を永遠と終わりなく見せつけられるか。
どれが良い?」
未だ涙を流す女に笑顔で突きつけると、より一層泣き出した。背後では鬼畜とか聞こえるが、敵にはそれぐらいが妥当だと俺は思う。
「もう陸人!女性を泣かせたらダメでしょ!!」
「すみません…」
お嬢様が女を抱きかかえながら注意して来たので、素直に謝る。
それにしても……見た目は20代なのに、まるで5歳みたいな涙腺の緩さだな。
それほどまでに森が大事な種族なんだろう。だからと言って、入って来た奴を片っ端から大地の養分にしようとするのは良くないと思うが。
「私が彼女から色々聞くから、陸人は夕飯の用意してて!」
「承知しました」
少し機嫌が悪い様子で、女を連れてテントに入って行った。全く、あの女の所為で、お嬢様に少し嫌われたかもしれないじゃないか。
あの女に対して苛立ちが収まらず、少し雑に料理する。
「私たちは空気、良いね?」「分かってる」
メサたちのそんなやり取りすら、俺には聞こえなかった………。
「ほらっ、見えてきた」
「お嬢様、別にその女から聞かなくても、元から目印通りに進む予定でしたよ?」
「良いの、確証が持てたんだからっ」
朝食を終えてからそこそこ歩いていると、木々の中に木の枝で出来た祭り事の時に吊るす本来なら赤白の紐が吊るされている。森鎮祭の会場はそろそろらしい。
実は、入ってすぐの女と戦闘したところが《グノハ》で、《グノハ》は《カタハの森》の隅の地名らしい。
言ってしまえば、あの時にはもう既に《カタハの森》に着いていた事になる。あの地図は植人族が騙したのか、人族が意図して間違ったように書いたのかは知らないが、何にせよ、現地に着いたのだ。これから任務を遂行して、さっさと帰れば良い。
「また襲われませんか?」「それはもう嫌!」
メサもメイカも逃げ腰だが、こっちには依頼状は無いが、身分証明書があればすぐに任務で来たと分かるだろう。
「誰だ!?人族?何故ここに!?」
「カミラ様を呼べ!」
俺たちに気付いた植人族は慌ただしく動き始めた。まるで、敵が攻めて来たように。
「おい、お前が説明して来い」
「はい?そんなの出来るわけがないですか」
お嬢様が背負っているロープ姿の女に仲介役をさせようと思ったが、清々しいほどの否定で出来ない事を知った。確かに、こいつも最初は何も訳を聞かずに問答無用で攻撃して来たしな。そういう気の短い種族だと思っておこう。
「……!リーナが囚われているぞ!!」
「この人族めっ!同族を盾にでもする気かっ!!」
「人族に負けたリーナなど放っておけっ!我らの尊き森を守る事の方を優先せよ!!」
リーナとか言う女を連れているせいで余計に反感を買い、俺たちを正面に見据えて横に広がり、もう矢をつがえて構えている。
どの植人族も腕や脚の一部や片方が植物の根のようになっていて、そこを伸ばしたりして根の一部を矢にしている。このスタイルが植人族の基本的な戦闘スタイルらしい。
「待てっ!俺たちは王国にこちらから来た依頼を達成する為に来たっ!俺たちの身分証明書はこちらにあるっ!それを見て判断していただきたい!!」
俺は腹の底から呼びかけた。全て真実で、誰かしらが確かめる為に来ると思ったが、来たのは嘲笑うかのような嘲笑のみ。
「……何笑ってるのっ?」
「よせ、メイカ」
自分が任務を受けた訳ではないが、俺たちを思って怒ってくれているメイカには悪いが、ここで怒ったらそれでこそ相手のつぼだ。ここはこらえろ。
「我ら植人族が人族に依頼ぃ?」
「ありえない、あり得るはずがない!」
「もっとマシな嘘をつきなさいよっ!」
「知能と数ぐらいしか誇れるところの無い人族ではそれが限界ってわけぇ?」
偶然か知らないが、俺たちの目の前にいる植人族は皆、女なので、余計に腹が立って来る。それに、有象無象のゴミどもとお嬢様を一緒にした事も腹が立つ。
お嬢様に視線を向けると、お嬢様は確かな表情で、悪口なんて聞こえてないかのように微笑んだ。何もするなと。
俺は頷いて返した。お嬢様が耐えているのに、執事である俺が耐えないでどうするっ。
そんな腹の立つ嘲笑は一瞬で止んだ。そして、女どもは次々と自分たちの列の中心を向いて跪き始め、最後の中心にいた女が一歩前に出て横にずれて跪いた事によって見えた。
エメラルドグリーンの髪を地面まで伸ばし、茶色のトパーズのような目で俺たちを静かに見る女というより、女の子は俺たちに向かって幼なさが残っている機械的な声で言った。
「よく来たな、猿ども」
たった一言でお嬢様を馬鹿にしたあいつに俺は殺意を抱いた………。
============================================
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
異世界で検索しながら無双する!!
なかの
ファンタジー
異世界に転移した僕がスマホを見つめると、そこには『電波状況最高』の表示!つまり、ちょっと前の表現だと『バリ3』だった。恐る恐る検索してみると、ちゃんと検索できた。ちなみに『異世界』は『人が世界を分類する場合において、自分たちが所属する世界の外側。』のことらしい。うん、間違いなくここ異世界!なぜならさっそくエルフさん達が歩いてる!
しかも、充電の心配はいらなかった。僕は、とある理由で最新式の手回しラジオを持っていたのだ。これはスマホも充電できるスグレモノ!手回し充電5分で待ち受け30分できる!僕は、この手回しラジオを今日もくるくる回し続けて無双する!!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転生少女、運の良さだけで生き抜きます!
足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】
ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。
女神はミナの体を創造して問う。
「要望はありますか?」
ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。
迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる