職業通りの世界

ヒロ

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第2章 勇者活動という名の雑用

第28話 任務開始

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「まず、勇者悠さんは岩石族の集落がある《ケランガ山》に向かってもらい、そこで起きている謎の《ロックゴーレム》の大量発生の原因調査と解決、殲滅を任務とします」

 まず、悠たちに与えられた任務は魔物関係らしいな。昨日の今日でいきなりチャンスが来たな。悠は少しソワソワしながら、装備している剣の柄頭を軽く撫でている。梶木は右手の拳を左手の手のひらに当ててやる気充分といった顔で、巧はワクワクした様子で足踏みをしている。間宮はくるみと一緒に何か話しているな。

 そんな様子を見ていると、お姫様が咳払いをした。慌てて視線をお姫様に向けると、俺が他所を見ていたのに少し頰を膨らませている。お嬢様に至っては少し笑っているが。
 
「……次に陸人さんと朱音さんには植人族と方々と近々行われる森鎮祭の手伝いに《カタハの森》へ行ってもらいます。これは初めての依頼なので、くれぐれも今後の植人族との交流が良くなるようにお願いします」

 俺たちの任務はどうやら、他種間の橋渡しらしい。まあ、戦闘はほとんど無いだろうが、難易度は高いだろうな。
 そもそも交流を良くするのは勇者の仕事じゃなくて、外交官という感じの人が国にも居るだろうし、その人の仕事じゃないかと俺は思う。

「案外戦闘系じゃなくて、良かったね」
「逆に相手のご機嫌取りをしないといけなくなりましたが」

 俺は傍に置かれた二頭の馬とその馬一頭ずつが引くであろう木の馬車を見る。天井は木で丸く骨組みを形作ったものに布のようなものを被せるだけという簡素なもの。
 馬車は乗り込むのは後ろからで、扉の前に板があり、そこだけ高さが低くなっている。扉を開けて乗り込むと、大きさは4.5畳くらいで何も無い空間。

「うわ~、馬車初めて~!!」

 そんな何も無いのに、お嬢様は馬車内を走り回り、とても嬉しそう。
 その奥にはカーテンのように布が被されていて、そこを上にめくると馬とその近くに座り込むところがある、馬を操縦するスペースが現れた。

「私馬操縦出来ないんだけど、陸人出来る?」
「はい、もちろんです」

 俺は軽く嘘をつきながら、馬操縦適正というスキルを創り、嘘を嘘にして取り敢えずその場から離れて、馬車から降りる。

「馬を操縦出来る人は居ますか?」
「ええ、自分が出来ます」「こっちには居ないので誰かお願いできますか?」

 お姫様が案の定、馬の操縦の事を聞いて来たので俺は素早く答え、悠のところはもちろん居る訳が無いので誰か追加で連れて行くらしい。お姫様の後ろにいつの間にか集まっていた騎士の人たちから選ぶのか?

「それと、こちらで任務間での諸々の費用をお支払いください」

 お姫様が1人の騎士が悠のところへ行ったのを見て、俺と悠にそれぞれ金貨が入っている袋を手渡しした。若干俺たちの方が多い。人数が多いのは悠のところなんだけど?

「悠さんのところはここから3日で着く場所で、比較的我々人族に優しい方々が居るのでこれくらいで済みますが、陸人さんが行くところはここから2週間、様々な村や都市を経由しなければならないので、これくらいかかってしまうんです」

 俺と悠がお互いの袋を見比べていると、苦笑いを浮かべながら俺と悠に地図を渡して説明してくれた。

 確かに、この地図を見ると最低でも5つは経由しないといけないな。馬のエサはそこらの草を食わせるにしても、食料は買おうと思えばたくさん買えるが、無限収納は中での時間経過は今俺がいる空間と変わらないから腐ってしまう。そうなると、適度に経由せざる得ないな。

「え?それが目的地の地図?見せて見せて!」

 地図を見て、今後の予定を立てていると、お嬢様が背後から背伸びをして地図を見たかと思いきや、いきなり地図を奪い取って馬車の中へ入ってしまった。

「……はぁ、まあ大丈夫か」

 俺はお嬢様の気ままな行動にため息が出てしまったが、今更ため息をつく事でも無いと割り切り、袋を無限収納でなおして馬車へと向かう。無限収納を使った時に背後から驚きの声が上がったように聞こえたが、聞こえないふりだ。

「なあ、陸人」
「ん?何だ?」

 馬車に乗り込む前に、巧に呼び止められて板に乗せていた足を降ろして巧を見る。巧も最後らしく、俺と同じようにその場に立ち、俺の方へ体を正面に向けた。

「俺は今回の任務でお前に追いついてやるっ。だから、戦闘が無い任務でも少しは体を動かしておけよ。俺に追い抜かされたくなかったらな」

 巧は巧らしく、意地が悪い訳でも、狂った訳でも、馬鹿にする訳でもなく、ただ嬉しそうに笑った。まるで今から対戦ゲームでもするかのように。

「……ほらっ」

 俺は武器作成で装弾数10発の黒塗りの自動拳銃を巧に投げる。巧はそれを慌ただしくも受け取り、驚いた様子で俺を見てくる。拳銃を持っている手は微かに震えている。

「それは護身用として持っとけ。いくら魔物と言えど、それを至近距離から、もしくは目や喉とかの急所に当てられれば傷つくだろう。ま、相手はゴーレムらしいし要らないと思うけど、他の魔物の乱入して来ない保証も無いからな。弾は10発入ってる、大事に使えよ」

 俺にしてはかなり意外な行動だと思う。今まで、お嬢様周囲の人たちにしか親切だと思う行動を取っていない。だが、何故か巧に死んでほしく無いと思ってしまった。俺を追い抜かすところを見たくなった。

「陸人!」

 無言で馬車に乗り込もうもしたところを、またも巧に止められる。一応振り返ると、右手に両刃の剣、左手に拳銃を持って不敵に笑った。
 笑うだけ笑って、剣を鞘に収め、拳銃を上着の内ポケットに入れて先に馬車に乗り込んだ。

 全く、お前が呼び止めたくせに何でお前が先に入ってんだよ。

 俺は緩んでしまった口元に力を入れ、馬車へと入った。




「開門~!!」

 騎士の人たちが力強く、石で作られた大きな門を左右に引っ張って門を開けた。その先は草を刈った程度の舗装がされた道と青々しい草原が広がっていた。遠くには森の木々と鹿やウサギらしき動物も見える。

「いよいよだねっ!」
「ええ」

 俺の背中にしがみついて、嬉しそうに肩を叩くお嬢様に軽く返しながら、右を見る。そこには御者だけだろうに、鎧ガチガチの騎士の人と、乗り出して外を見ているクラスメイトたちが居た。
 さあ、いよいよ任務がーー

「待てぇ!!」

 凛とした大きな声が聞こえ、一瞬強い風が背後から吹いてきて、目を瞑った間に来たのか目を開いたら息を荒くしたカレナさんが居た。

「……君たちに一つだけ言っておきたい事があるっ」

 カレナさんが言いたい事。その一言で、少しざわついていた騎士の人たちもクラスメイトたちも黙り込む。

「任務とは、決して遊び感覚でこなせるものでは無い。心のちょっとした隙が、盗賊や魔物に遅れを取る原因となる」
「だが、常に気を張り巡らせていたら気が持たない。だから、学んでこい!世の風を!」

 カレナさんが言い終えるのと同時に、強い追い風が吹き荒れ始めた。まるで、俺たちを後押ししているように。

「「「「「「はいっ!!」」」」」」

 俺が馬の手綱を引いた時には、カレナさんの姿は無く、二頭の馬が大きく砂煙を起こして門を出て、少し進んだ先にあった2つの分かれ道で別れた。自分たちの任務先へと進むために………。


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