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第2章 勇者活動という名の雑用
第25話 お姫様と騎士団長の企み
しおりを挟む「これで全部です。運んでください」
「はい!」
調理室に所狭しと並べられた料理の数々がメイドの人たちの手によって次々と運ばれているのを見ながら、俺の頭には悠とお嬢様が現在どうなっているか、それだけだった。
お嬢様が俺との会話を切った後、どんな事を話しているのか、どんな事が起きているのか、そればっかりが頭に巡る。
お嬢様のところへ早く行きたい。料理を運ぶのでごたついている出入り口を見ながら、思った。
やっとスッキリした扉から早足で食事室へと向かう。すぐ前にメイドがいるので、もっと早く歩けないのがもどかしい。
そして、やっとメイドたちの後に入れた。だが、食事室には悠も、お嬢様も居なかった。一体どこに……
「あの、ティアラ様」
「あ、陸人さん。今並んでいるこの美味しそうな料理たちを作って頂き、ありがとうございます」
「いえいえ、喜んでいただけて光栄です」と返しながらも、意識を辺りに集中する。………どうやらこの部屋には居ないらしい。隠れていたりしたら気配で分かるが、今はお嬢様の気配を感じない。だが、割と近くにいるような気がする。
スキル
・気配探知 (執事たる者、周りの気配には敏感に)
を獲得しました。
お、今使えそうなスキルを習得出来たな。だが、一応お姫様にも聞いとくか。
「それで、ご用件とは?」
「はい。お嬢様を見ませんでしたか?この部屋には居ないので、どこに行ったのかを知りたいのですが…」
お姫様は少し考え込むように視線を上に向ける。…急いでいる訳じゃないが、なるべく早くしてほしいんだが…
「朱音さんなら、ティアラ様の部屋を見たいと言って、勇者の人と行きましたよ」
割り込んで来たのはカレナさん。しかも、カレナさんはここからそこそこ離れているお姫様の部屋に行ったと言う。そんな筈は無い、気配はそこまで離れてはーー
「……あ、そうでした。朱音さんたちは私の部屋に行ったんでした。私がご案内しますよ」
お姫様はカレナさんと何かしら目でやり取りした後、思い出したように言った。何か企みがあるのか?……断りたいが、ここで断るのもお姫様に悪い印象を与えるだろうし、ここは乗っとくしかないか。
「助かります、お嬢様にお薬をお渡ししなければならなかったので」
俺が鎌をかけてみると、お姫様は困ったようにカレナさんに視線を送る。ここでカレナさんは目を少し細めた。俺が鎌をかけたかもしれないと疑ったのか?
「それは早く行かないといけませんね、さぁ、こちらです」
お姫様が先導して扉を開いて歩く。その後ろに俺が付き、逃がさないという意味かは分からないが、カレナさんも付いて来た。一体何が目的だ?
「さ、こちらです」
お姫様が開けた扉の中に入る。部屋はこの前の盗賊が居た時となんら変わってなかった。変わっているとしたら、ところどころに修復された後があるくらいか。
そして、当然ながらお嬢様は居なかった。
「お嬢様はどちらですか?」
「ここには居ません」
お姫様に聞いたのに、カレナさんが後ろ手で扉を閉めながら答えた。まあ、分かっていたが、ここに連れてきた目的は何だ?
「なら、どうして自分をここに連れてきたんですか?」
俺はカレナさんを若干睨みながら聞く。カレナさんはお姫様に一瞬視線を向け、また俺に視線を戻し、言った。
「単刀直入に言います。ティアラ様の専属執事になって頂けませんか?」
「お断りします」
俺は即答した。当たり前だ、お嬢様以外に仕える気は無い。
それを聞いても、引き下がろうとしないのか、カレナさんは俺に近づきながら言う。
「あなたが朱音さんを気にしているのは知っています。ですが、朱音さんは勇者です。勇者では無いあなたにはいずれ限界が来ます。朱音さんにはまだ発展途上の高野さんが将来性がーー」
ーガギィィン!!
俺はほぼ無意識に、いや反射的にカレナさんに刀を振り抜いていた。それを防いだカレナさんは若干冷や汗を流している。だが、俺にはそれが見えなかった。
「あんたが俺からお嬢様を離そうとしているのは分かった。俺とお嬢様を離そうとする奴はみんな敵だ、俺はあんた相手でも全力で斬り伏せ、殴り潰し、肉片になるまでやってやるよ」
俺は全身に身体強化魔法をかけ、左手にリボルバー型の拳銃を作り出す。
それを見たカレナさんは俺を払いのけ、真剣な表情で剣を構える。そうだ、構えろ。神経を集中させて俺の動きを逐一確認しろ。それを徹底しても埋められない差を見せてやーー
「やめてくださいっ!!」
俺とカレナさんの間に割り込んだのは、涙目で悲しげな表情になっているお姫様だった。カレナさんは冷静さを取り戻したように剣を収めた。
俺も少しカッとなっていたな。武器を無限収納で納めて息を吐く。
「……陸人さん、カレナがあなたに大変無神経な事を言ってしまった事にはお詫び申し上げます。本当に申し訳ございません」
「……申し訳ありません」
お姫様が王女らしい口調で頭を下げた。その後に少し納得してないような顔で頭を下げるカレナさん。ここで子供みたいに調子に乗ったり、何か要求なんてしてはいけない。ここは大人の対応で…
「……もう良いです。カレナさんの言う通りですから」
よし、これであとは立ち去ればーー
「俺は将来性の無い執事で、子供みたいにお嬢様の傍から離れたく無いただのガキに過ぎないんです」
「そ、そんな事はーー」
「いえ!俺は甘えているんです!」
お姫様の声を上から覆い被さるように、大きな声を出す。
「俺はお嬢様が離れていくのが怖い、俺を忘れて1人で行ってしまうので無いかと常日頃から考えてしまう。だから、お嬢様を離さないように、離れないように俺はお嬢様に固執する、執着する。それがいけない事だと分かっていても、やめられないんです」
最後辺りはか細い声になってしまった。
こんな事を言うつもりは無かったのに、自然と勢いで、出てしまった心のどす黒い一面。それに気づかされて、それを認めた自分がいた。
「…すみません、あなたの闇の部分を盗み取るような真似をして」
「……は?」
お姫様が何を言っているのか分からず、いつの間にか下げていた顔を上げる。正面には片手の甲に手を置いて組んだ状態で手を下げ、ドレスを握りしめているお姫様がいた。
ただ、首から下げたサファイアらしき宝石があるネックレスに知らぬ間に光が灯っていた。
「……今光っているこのネックレスは魔道具でして…、対象の悪意を引き出したり、相手の嘘を看破出来たりします」
お姫様はネックレスを軽く撫でた後、勢い良く頭を下げた。さっきも頭を下げたが、あれは心の底から謝っていたかもしれないが、どうしても王女として、社交的な謝罪に見えなくも無かった。
だが、今頭を下げたのは1人の人間として、相手のプライバシーを侵害してしまったという後悔の念からの謝りに俺は見えた。
「…すみません、これの提案をしたのは私です。あなたのような優秀な執事をティアラ様の専属執事に出来れば、身の安全は勿論、ティアラ様の生活が良くなるかと」
カレナさんもお姫様の隣に並んで頭を下げた。
…俺は許しても良いのか?お嬢様と俺が引き離されるところだったのに、この2人をーー
ーピコン
『陸人!お願い助けてぇ!!』
意思疎通のスキルの発動と共に聞こえてきたのは、お嬢様の助けを求める声。俺はすぐさま特定転移を使った………。
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テスト期間で更新出来ず、申し訳ありません。あと少しで終わりますので、終わってからは更新ペースが戻ると思います。
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