21 / 104
第1章 職業って偉大
第20話 襲撃後
しおりを挟む「あ~、もう魔力が無いよ…。死んじゃう……」
間宮が魔力切れになったようで、顔を青ざめてガクガクと足を震わせている。度重なる負傷者の治療で、もう魔力も精神も尽きかけている。これはもう休ませた方が良いんじゃないか?
「…お嬢様、間宮…さんに休ませるように言ってもらえませんか?」
回復魔法を使うまでも無いが、手当てが必要な人に手当てをしているお嬢様に話しかける。お嬢様は俺を見て、何故か悪戯っ子のようにニヤけた後、俺から怪我人に視線を戻して、手当てを続行しながら言った。
「私はここの人たち手当てに忙しいから、陸人が言ったら?」
「……え?俺が言うよりも、お嬢様が言った方が聞いてくださると思いますが」
「あ、今そっちに行きます!」とお嬢様は勝手に話を切り上げて、少し離れたシートのところへ行ってしまった。チラリと間宮の方を一瞥すると、何やら飲み物を飲まされそうになっている。魔力回復とかそういった類いの飲み物だろうが、精神的に持たないだろ。……仕方ない。
間宮に何やら飲み物を飲ませようとしていたローブを着た魔法使いらしき人を無理やり退かして話しかける。
「……間宮、ちょっとこっちに来てくれるか?」
「…え?……でも、もう治療は……」
「いいからっ」
俺は強引に手を取って城の陰へと連れて行く。間宮は意識もあまり定まって無いのか、引かれるがままついてくる。
治療ベースからそこそこ離れたところまで来たので、道具作成でシングルのマットと薄めの布団を作り出す。
「ほら、そこで休め。もう意識もしっかりしてないんだろ?」
「……え?でも、……怪我人がまだ……」
ここまで来てまだ治療をしようとしている間宮の肩を掴んで、軽くかかとを足で滑らせ、マットにそのまま寝かし、布団を上からかける。これは小さい頃のお嬢様が夜更かしし過ぎて、ベットに入らなくなった時に、紅葉さんがやっていた技だ。覚えていたが、真似をする機会が無くて、今日は真似出来て丁度良かったな。
「……俺がそばで見張っといてやるから寝ろ。もうお前は充分仕事した」
間宮はそれを聞いて、僅かに微笑むとすぐさま眠りについた。回復魔法ってのはよっぽど疲れるみたいだな。試しに習得してみようかなっと思ってたが、やめとこう。
………それにしても、警戒心が無いのか、疲れが溜まり過ぎていたのか、男が近くに居るっていうのに、随分とまあ深い眠りについてるな………。
襲われたティアナ様の自室も、その奥にあったディラス様の自室も、現場の確認と清掃で入れないので、治療ベースに一際大きいテントに入ると御二方が居た。
「………カレナか」
「はい。ディラス様もティアナ様もお怪我が無くて何よりです」
ディラス様は不機嫌そうに鼻息を漏らし、ティアナ様はまだ冷や汗を流しながらも苦笑いを浮かべた。
ディラス様は賊が侵入して来た程度では何ら問題は無い。だが、ティアナ様はまだ幼い。勇者たちはまだ戦意のある、その間はまだ戦える。けど、ティアナ様はそんなものは無い。心が清く、民や国を重んじる女の子。あまり、危険には晒したくは無い。
「……ティアナ様、ご提案があるのですが」
「…何でしょう?」
私の提案を聞いたディラス様は特に問題無いような顔ですが、ティアナ様の顔はとても困ったような顔になってしまった………。
「……チィッ、何だよアイツら……」
隣で左膝を立てて座っている梶木くんは右腕に沢山の包帯を巻かれながら、恨めしく呟く。
左隣で寝転んでいる巧くんは、頭を打ったらしく目を覚まさない。僕は身体中に包帯を巻かれ、回復魔法を使える魔法使い待ちだ。どうやら、限界突破で必要以上に体に負荷を加えてしまい、回復魔法じゃないと治すのに時間がかかるらしい。
「……あのっ、えっと、……ごめんなさい。私が……もっと早く駆けつけていれば……」
オドオドしながら、僕たちに謝るくるみさんに容赦無い睨みをする梶木くん。それを見て、「ヒッ」と怯えた声を出して、テントの隅に縮こまってしまった。
くるみさんの事も何とかしないといけないけど、それよりもーー
「青山くん?どうして後から来なかったんだ?説明してくれる?」
テントの出入り口付近で佇んでいる青山くんに尋ねる。青山くんは、僕たちがペースを上げてくるみさんたちから離れた時には一緒に走ってた。けど、僕が更にペースを上げて部屋に入ってから、一度も青山くんを見ていない。それは一体どういう事なんだ?
「……別に、勝てないと悟っただけだよ。勝てない相手に挑むほど、馬鹿じゃないからね」
「何だと!?」と梶木くんが声を荒げて、メイドの人に包帯を巻かれているのに立ち上がろうとして、メイドの人に抑えられる。だけど、怒っている顔を見て、青山くんが口を開いた。
「僕のスキルに、敵勢視判というスキルがあるんだ。それで相手と自分の強さの差を数値化して見れるんだけど、それで見たら何をどうやっても勝てなかった。館山……の執事の方が居ないと全滅していたからね」
サラッと言われた事実に、言葉が出ない。青山くんにそんなスキルがあったのも驚いたけど、あんな強い4人が居ても、陸人が居たら問題無かったという事にも驚きを隠せなかった。きっと、彼1人であの4人を倒せるという事なんだろう。
「……じゃ、俺はこの城を出るから」
「え!?どうして……!」
流石に青山くんが出て行くのは予想外過ぎて、起き上がろうとしたけど、痛みが全身を走ってそのまま寝転ぶ。けど、顔は青山くんに向けて呼び止める。
「青山くんが居ないと、誰が前で攻撃を受け止めてくれるんだ?僕たちには、君が必要なんだよ!」
思っている事をそのまま伝えたけど、青山くんの顔はもう決意したように揺るぎない表情だった。
そして、あまり聞きたくない事を言った。
「ここに居ても、あまり強くなれない。俺は俺で、自分1人で強くなる。仲良しごっこはしたくない」
青山くんは僕たちを軽く一瞥すると、テントから出て行ってしまつった。それを誰も、止める事は出来なかった………。
「……ふぁ~ぁ」
「ん、起きたか」
私がまだ覚束ない視界で起き上がると、1人の男の人の声が聞こえ、そちらに目を向けるとそこには陸人くんが居て、私をジッと見ていた。
「え…!?どうしてここに!?」
私は布団を抱えて離れようとするけど、壁にぶつかって背中に軽く衝撃が来る。あれ?私の部屋のベッドってこんなにも狭かったけ?
「…お前が疲れている様子だったから、みんなが見ていないところに寝かしてやったんだろ。ほらっ、疲れが取れたんだったら早くベースに行け」
陸人が顎を左方向に向けてさっさと行けと言う。そもそも何で私がここに………あ、そういえば、魔力が切れているのに魔法を使わせようとする人から私を引っ張ってくれたのは…陸人くんだった。
「あ、ごめん。陸人くんが私を休ませてくれたのに、警戒なんてして…」
「別に良い。男に警戒するのは普通だからな」
陸人くんは警戒したくなかったのに……って言っても仕方ないよね。もう遅いし…。
私は布団から出て、陸人くんにお礼を言ってベースへと走った。お礼を言われた陸人くんは特に何かをしたという訳でもない顔をして、私を見送ってくれた………。
============================================
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる
シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。
※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。
※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。
俺の名はグレイズ。
鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。
ジョブは商人だ。
そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。
だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。
そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。
理由は『巷で流行している』かららしい。
そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。
まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。
まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。
表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。
そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。
一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。
俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。
その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。
本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる