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第6章 正しい歪み
第85話 初めの活動
しおりを挟む雲一つ無い満天な青空、風も弱く心地良いぐらいの良い日。俺はお嬢様たちと共にそこそこテンション低めで街中を歩いている。もちろん、テンションが低いのは俺だけだ。
「あ~嫌だ、何でこんな事をしなくてはいけないんだ……とか思ってるだろ?」
「……思ってねぇよ」
巧に思っていたような事を当てられて意地になって認めなかったが、それすらも見透かされているのかニヤニヤと笑っている。本当にこいつは人をからかうのが好きだな。
「大丈夫ですよ、リクトさんの芸はこの世界で一番です」
昨日大変な事があったばかりだと言うのに、何故か余裕があるメサが励ましの言葉をかけてくれる。隣でメイカもうんうんと頷いているのも自信がつくようなつかないような…。
「陸人は何でも出来る凄い執事なんだから、自信持って?」
お嬢様は俺の前に回り込んで笑顔で言う。こういう事を平然と言えるのはお嬢様らしいし、誰の言葉より元気が出る。
「ええ、分かりました。お嬢様のご期待に応えてみせますとも」
その場に跪いて柄にも無く微笑んで言うと、お嬢様は少しキョトンとした後、飛びっきりの笑顔を見せてくれた……。
「聞いたか?あの曲芸師はこの街で初めて芸をするみたいだぞ」
「大丈夫か?下手したら殺されるかもしれないぞ。昔偉かった奴とかにさ」
「何でも門番の1人が期待しているらしいぞ。勇者様のような芸をするんだと」
「へぇー!そいつは期待出来るな!」
芸を行う広場にはもう既に多くの人が集まっていて、集まっている人の話し声が聞こえてくる。そんな中、俺は道具作成で生み出したテントを広場から少し離れたところに置いて外を伺っていた。
「そろそろ時間じゃねぇのか?」
「分かってるよ、もう少し待ってくれよ。タイミングがよく分からないんだよ」
ニヤニヤしている巧には後で鉄拳制裁をするとして、本当にタイミングが分からない。集まっている人たちは待つのはそこまで苦では無いのか、思った以上に会話が弾んでいるように見える。
「そこまで気になるなら魔法で演出をしようか?」
「……お願いします」
お嬢様が察してくれたのか、助け船を出してくれたので有り難く乗る事にした。…さあ、もう腹をくくれ!お嬢様が後押ししてくれたんだからな!
俺は普段の執事の服装をベースに金と赤のキラキラが散りばめられた衣装をなびかせ、俺は高らかに宣言した。
「レディースアーンドジェントルメン!本日はよーこそおいでなさいました!此度の芸はまだ世に出ていない珍しいものばかり!決して!皆様を退屈させないことを宣言しましょう!!」
ードドォーンッ!
俺が両手を上げて言い終えたのと同時に背後から花火のようなものが飛び、大きな音を立てて派手に光る。
光がゆっくりと消え、完全に消えたのと同時に頭を下げて腰を折り、礼をすると大きな歓声が巻き起こった。出だしは文句なしの良いものに違いない。
だが、これからが重要だ。出だしは良くても中身がしょぼいものだったら帰ってしまう。それはこの街で曲芸師としてやっていく上で何としても避けなくてはいけない。
「まず皆様にお見せしたいのはこちらっー!」
俺は地面に片手をつけ、仕込んであった小型爆弾のスイッチを地面についてない方で押して爆弾を起爆させる。
小さな起爆音とともに辺りに薄く砂煙が舞う。砂煙によって姿が見えなくなっている間に無限収納から様々な道具を出す。
湾曲になった台に油が塗られたフラフープ、高い棒の頭に小さな輪っかのある鉄棒、そして一輪車。
それらを台、鉄棒の順に2m間隔に並べ、右手にはフラフープを持ち、左手で一輪車をすぐ近くに寄せた。
準備が完了したタイミングで砂煙が晴れ、観客の驚いたような声が聞こえて来た事からそこそこ驚いて貰えたらしい。
「これから私はこちらの乗り物で高くジャンプをし!こちらの大きめの輪っかを投げて、あの小さな輪っかと連続してくぐり抜けてご覧に見せましょう!!」
深く礼をして一輪車へ乗ろうとするが、観客の視線はそんな事が出来る筈も無いと馬鹿にしたようなもので、一気に落胆したような雰囲気がある。だが、これを成功させれば大きく印象を変えられるだろう。
俺はスキル無限収納を発動しつつ、フラフープを持つ。これによって火を付けても熱くならない。これは野営などで検証して知った事実だ。
それを知らない観客は火の付いたフラフープを平然と持っている俺に驚いたのか、先程とは違った雰囲気が漂い始める。
「それでは参ります!まばたき厳禁ですよ!!」
一輪車に乗り、少し位置を調整してから思いっきりこいで台へ移り、すぐさま体が宙を舞った。台が見事に滑らかに飛ぶジャンプ台のような役目を果たしたのだ。
そして、火の付いたフラフープを投げるのと同時に風属性の魔法で調整し、フラフープと輪っかが中心から直線上に重なるタイミングで一輪車を離さないようにしっかりと足を締めて、両手で"ブレスト"を使い、身をよじって一気に通り抜ける。
その後、"ブレスト"を使って勢いを殺して着地し、一輪車に乗ったまま移動して落ちてくるフラフープをキャッチした。
「いかがだったでしょうか!?ヒヤリとした緊張感の後に訪れているであろう高揚感は!?」
フラフープの火を水属性の魔法で消しながら言うと、大きな歓声が巻き起こった。この場に居る全員が声を上げて賞賛の言葉を投げて来る。
このバランス感覚も、この芸を成り立たせる為の身体能力も、全て紅葉さんの地獄のような訓練によって得たものだ。まさかそれでこんなにも人々に褒められるとは思ってもみなかった。
……こんな気持ちは初めてだ。これが、周りに認められるって事なのか。お嬢様や紅葉さんたちに認めてもらうものとは少し違ったこの充実感は一体何だろうか……。
「ありがとうございます!この度はこの街での初めての活動という事もあり、ここらでお開きにさせていただきます!よろしければ、少々の褒美を頂けると幸いです!では、これにて!!」
スキル特定転移でお嬢様の居るテントへ転移した後も、会場には大きな歓声が巻き起こり、金貨を投げる者が大勢居たという……。
「大成功だね!」
テントに転移した俺に始めに声をかけたのはお嬢様だった。とっても嬉しそうで少し興奮し過ぎているような気がする。
「はい、お嬢様が背中を押してくださったおかげです。それに、お嬢様の前で情けない姿は見せられませんから」
執事たる者、常に主人からの命令を聞けるよう、あるいは貰えるようにしなくてはならないと教わった。それを守ってきたのにこんな所で破る訳にはいかない。
「お見事でした!」「前に見せてもらったものより凄かった!」
次に声をかけて来たのはメサとメイカで、興奮が全く抑え切れていない。前のめりでこっちに迫って、やれここが良かっただの、あれは驚いただの言って来て、正直少し恥ずかしいのでやめてほしい。
観客が帰るまでテントから出れないので、テントで待機していたのだが、お嬢様とメサにメイカが次はどういったものをするのかをしつこく聞いて来て、全然休めない。
本番の緊張から疲れがある俺はこの時、巧が全く話しかけてこない事に気が回らなかった………。
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とても久しぶりな投稿ですね。学校生活に進路の問題とやる事が多過ぎて、この話も合間に少しずつ考えて書いたのでこんなにも遅くなりました。
まだ落ち着く気配はありませんので次の話も遅くなると思います。そこら辺はご了承ください。
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