春の洗礼を受けて僕は

さつま

文字の大きさ
上 下
47 / 62
親愛なるあなたへ

1話 夏の家

しおりを挟む
 最初はただ真面目に勉強を教える人だった。
 小学生の頃は、理科と算数が好きだったと言う。
 そのうちに雑談もするようになって、そして歳の離れた姉のように慕った。
 四年生の夏。
 先生は突然来なくなった。次の予定日も、その後も、ずっと来なかった。
 そして家の誰かが、あの行為に気づいたのだと理解した。
 なぜ何も言ってくれなかったの。
 なぜ何も言ってくれないの。

 それをわたしが見ている。
 あの子が泣いているの。誰か助けて。
 なのにみんな何も見ていないよねって言うの。
 あの子はずっと泣いているのに。


 香月こうづき夏伊かいは、あの日の翌週の月曜は病欠を取り、火曜から学校に通い出した。
 相手が相手だったのもあって、クラスメイトともあまりギクシャクすることなく、一年の残りの日々を過ごした。
 夏伊は文系に進むので、理系に進む木之内きのうち睦月むつきと同じクラスになることはもうない。
 あの日の言葉は願った以上に効いたようで、夏伊はすっかり、俗に言う友達という括りの付き合い方をするようになった。
 そしてこれからは、別のクラスの友達として過ごしていくことになる。


 二年生の春。
「オレたち同じクラスだったよ!」
 山東さんとう弘揮ひろきからのメッセージを見て、睦月は少しほっとした。
 バスが高校前に着いたので、他の生徒と一緒に降りる。
 ヒロからC組と聞いていたので、クラスの提示からそこをなぞっていく。
 自分の名前を見つけてから、すぐ下に、あるはずのない名字が目に入った。
「ん? …あれ…? これ誤植…?」


「夏伊さ、黙ってるのはどうかと思うんだけど」
 ヒロは夏伊に説教をすべく、わざわざ文系の棟に足を運んでいた。
 夏伊はふんぞり返って尊大な態度を取っている。
「でも知ってたろ」
「知ってたけどさあ、言ってくれてもよくない? いつ言うかと思ってたら、今日になってもダンマリな訳?」
「いいだろ、あいつの動向なんてわざわざ言わなくても」
「冷たっ。性格優しくなったなと思ってたのに、ぶり返して前より冷たくなったね」
「三寒四温かな」
「もーいーです、じゃあまた後でね」
 もういいと言いつつも約束をするのが、ヒロのヒロたるところだ。


 新しいクラスで、最初の点呼が取られる。
 睦月はずっと、教卓の近くに座る、自分の次の人を注視していた。自分の名を呼ばれて、返事をする。
「ハイ次。香月こうづき夏弥かや
 女生徒が、よく通る声で返事をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

BL機械姦短編小説集

アルティクライン
BL
機械に無理矢理犯される男子たちを描いた短編小説集です ぜひお楽しみください

娘の競泳コーチを相手にメス堕ちしたイクメンパパ

藤咲レン
BL
【毎日朝7:00に更新します】 既婚ゲイの佐藤ダイゴは娘をスイミングスクールに通わせた。そこにいたインストラクターの山田ケンタに心を奪われ、妻との結婚で封印していたゲイとしての感覚を徐々に思い出し・・・。 キャラ設定 ・佐藤ダイゴ。28歳。既婚ゲイ。妻と娘の3人暮らしで愛妻家のイクメンパパ。過去はドMのウケだった。 ・山田ケンタ。24歳。体育大学出身で水泳教室インストラクター。子供たちの前では可愛さを出しているが、本当は体育会系キャラでドS。

処理中です...